アメリカのベンチャー投資契約の特徴およびタームシートの機能

ベンチャー
喜多野 恭夫弁護士

 アメリカのベンチャー投資契約の特徴について教えてください。また、タームシートとはどのような位置付けの書面でしょうか。 

 アメリカのベンチャー投資においては、全米ベンチャーキャピタル協会(NVCA, National Venture Capital Association)が公表しているひな形に基づいて交渉・合意された複数の契約書が締結されることが一般的です。

 交渉の初期段階では、主要な条件について合意したタームシート(Term Sheet)が締結され、最終契約として出資契約(Stock Purchase Agreement)、投資家の権利に関する契約(Investors’ Rights Agreement)、先買権および共同売却権に関する契約(Right of First Refusal and Co-Sale Agreement)、議決権行使契約(Voting Agreement)等が締結されます。

 タームシートは、投資家と創業者が投資条件を誠実に交渉し、合意するためのスタートポイントとしての機能を有しており、最終的な投資の全体像を定める重要な書面です。

解説

はじめに

 2017年におけるアメリカのベンチャー企業による資金調達額は約842億ドル(約9兆3000億円)に達し、8千件以上の投資案件が完了しました1。ベンチャー企業に出資する投資家は、基本的に発行会社の優先株式(Preferred Stock)を取得することになりますが、優先株式の内容として規定される条件はいずれも似通っています。

 一方で、多くのベンチャー企業には投資家から投資を受ける際にかかる多額の弁護士費用を負担する余裕はありません。したがって、ドキュメンテーションの手間と費用を省くことを目的として、ベンチャーキャピタリストや弁護士などのベンチャー投資に関わる人々によって契約書のひな形が作成・公表され、実務上広く用いられているという特徴があります

タームシートの機能

 投資家は、投資対象として選定したベンチャー企業に対して、希望する投資条件を記載したタームシートを提示します。タームシートには、出資額やバリュエーション等の募集事項(Offering Terms)、定款(Charter)に記載される優先株式の権利内容並びに出資契約および株主間契約の主要な条項が記載されています。

 タームシートは、秘密保持条項(Confidentiality)等を除き、通常法的拘束力はありません(non-binding)。投資家は、タームシートの提示に至る段階で、すでに投資先についてのスクリーニングや事前の簡便なデューディリジェンスを実施しており、数多くの投資先候補のうち、タームシートの提示にまで至るのはごくわずかです。

 タームシートを提示された創業者(Founder)と投資家がタームシートの条件(場合によっては交渉によって変更されることもあります)に合意すると、最終段階のデューディリジェンスが実施され、タームシートの条項を反映した最終契約書が締結され、クロージングとなります。

タームシートの提示前からクロージングまでの大まかな流れ

タームシートの提示前からクロージングまでの大まかな流れ

 タームシートは、投資家と創業者が投資条件を誠実に交渉し、合意するためのスタートポイントとしての機能を有しています。投資を受ける創業者にとっては、単なる基本合意書(Letter of Intent)ではなく、最終的な投資の全体像を定める重要な書面になるので、投資家との間で注意深く各条項を交渉する必要があります。

出資契約(Stock Purchase Agreement)

 日本のベンチャー投資においては、出資契約書それ自体において、出資にかかる条件だけではなく、投資家の権利や優先株式の内容が詳細に規定されています。

 一方、アメリカのベンチャー投資における出資契約には、株式を投資家に発行するための基本的な条項(表明保証やクロージングの前提条件)のみが規定され、定款および株主間契約等が別個の書面として末尾に添付されます。すなわち、出資契約は投資に関する複数の契約書全体をまとめるマスター契約的な役割を果たしています。

株主間契約

 優先株式の投資家と発行会社、経営株主(Key Holdersと定義される主要な普通株主)との間で締結される株主間契約として3つの契約がひな形として公表されており、タームシートでは以下のような権利や条項が要約して記載されています。

契約名 条項の種類 条項の概要
投資家の権利に関する契約(Investor’s Rights Agreement) (1)登録請求権(Registration Rights) 投資家が所有する株式を自由に譲渡できるように米国証券取引委員会(SEC)への登録を請求することができます。
(2)情報受領権(Information Rights) 投資家は発行会社の一定の事業・財務情報等へのアクセスを求めることができます。
(3)優先引受権(Pre-emptive Rights) 発行会社による株式の新規発行において、投資家は自己の持分の割合にしたがって、優先的に引受をすることができます。
(4)投資家が選任した取締役の合意が必要な事項(Matters Requiring Investor Director Approval) 発行会社による一定の行為(借入、保証、新規事業の開始等)について、投資家が選任した取締役の合意が必要な事項が規定されています。
先買権および共同売却権に関する契約(Right of First Refusal/Co-Sale Agreement) (1)先買権(Right of First Refusal) 経営株主が第三者に株式を売却する際に、まず発行会社が、その次に優先株主が先買権を行使することができます。
(2)共同売却権(Right of Co-sale) 上記(1)の先買権が行使されない場合、優先株主は自己の株式を経営株主の株式と一緒に売却するよう請求できます。
議決権行使に関する契約(Voting Agreement) 取締役会の構成(Board of Directors)等 優先株主による取締役の選任権など、株主の決議を要する事項に関する取り決めが規定されています。

  1. 参照:4Q 2017 Pitchbook - NVCA Venture Monitor ↩︎

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