営業現場で使える!英文契約書のポイント

第6回 契約締結における留意点

取引・契約・債権回収
宮田 正樹

 前回「第5回 見積もりの依頼と申し込みの承諾」は、見積書の依頼をする場合や、見積書の依頼を受けた場合の文章例などを紹介し、申し込みの「承諾」についての考え方を解説しました。今回は、契約締結にあたって留意すべきポイントを解説します。

申し込み・承諾に関する留意点

 「申し込み」に対して「承諾」がなされると普通は「契約成立」ということになりますが、留意すべきなのは、果たしてそのやり取りをしている相手(担当者=人間)がその「権限」を持っているのか?ということです。
 これは日本国内での契約においても同じことがいえるわけですが、相手が海外にいる場合には(深く考えると)より不安感がつのります。

 取引を行ううえではそのような「不吉な」懸念は抱くことなく交渉に当たるわけですが、悪くすると契約成立と喜んでいたところ、「担当者の独断で行ったことであり、会社としては責任を負えない(法的に拘束されない)」なんて返事が後日返ってくることが起こりえるのです。

 筆者の大昔の経験ですが、某国の会社の輸出部の部長と契約の最終交渉を行っている時に、1週間前に受け取った価格を反故にされたことがあります。いわく、「あの値段をオファーした担当者はクビにしました!」とのことで、唖然・呆然としたことがあります(まぁ、これは法律論としては成り立たない理由ですけどね)。

 「無権限者による法律行為」として無効を主張されることは、ビジネスの世界では起こり得るリスクの一つとして呑み込んでいるわけですが、日本での法人(株式会社)との「契約」については、次のように考えることになります。

会社との契約の契約締結者について

 会社(株式会社)は法人であり、当たり前のことですが、生身の人間ではありません。ですから、会社が契約書に記名捺印(あるいはサイン)する場合は、実体がある人間(自然人)が行うことになりますが、その人間が誰であるかが重要です。法律上、会社を対外的に代表するのは代表取締役だけです。
 厳格にいうと、会社との契約は、代表取締役に記名捺印してもらうべきだということになります。

 しかしながら、実務上は、次のようなことが日常的に生じています。

  • A社は、取引先B社と契約を締結するにあたり、B社代表取締役ではなく部長Cを契約当事者として指定した契約書をB社から提示された。
  • A社が、取引先B社と取り交わす契約書には、B社の購買部部長Cが記名捺印して返送してくるのが常である。

 このようなケースで、部長Cが実際には当該契約事項に関して代理権を有していない場合には(たとえば、会社に全く報告せず単独で背任行為をしている場合など)、後日、A社とB社間において、当該契約自体がそもそも有効なのか、仮に無効の場合そのような従業員を雇用していたB社に責任はないのか、等の問題が生じてしまいます。

部長Cが実際には当該契約事項に関して代理権を有していない場合

 会社法14条1項では、「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する」と規定されています。多くの会社では、この条文に基づき、代表取締役以外の取締役や部長等へ特定の決裁権を委任することが行われています(株式公開会社等の規模の大きな企業の多くはこのような権限委譲を行っています)。

 また、会社法14条2項に「使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない」と規定されているので、契約締結者(C部長)に加えられた権限の制限をA社が知らない場合には、法的にはその契約は有効とみなされる可能性が高いでしょう。また、C部長の背任行為や越権行為であった場合、B社は従業員(C部長)の不法行為について使用者責任(民法715条)を負うこともあり得ます。

 しかしながら、個別具体的な状況により判断は異なってきますから、必ず上記のように判断されるとは限りません。
 そこで、取引先の稟議規程または職務権限規程等により取引の際に取引先会社の決裁権を確認しておけば、契約書の記名捺印者がその権限内での決裁(契約)を行っている限り、当該契約に関して代理権を有していないなどという紛争になることはありません。

 また、契約の締結者の役職(肩書き)によっては、会社として契約を締結する代理権をもっているとみなされることがあります。下記に挙げた肩書きが、その代表的なものです。

役職(肩書き)と代理権のみなし方

①社長・専務・常務など

 「社長」という肩書きを持ちながら、「代表取締役」ではないという会社もあったりして、肩書きだけでは安心できないところがありますが、会社法には、「表見代表取締役」(会社法354条)という制度があります。代表取締役でない取締役に、社長、副社長、その他の代表権を持つと誤解されるような肩書き(専務や常務なども)を与えた場合、その取締役の行為は、代表権がないことを知らなかった第三者(善意の第三者)に対しては代表権があったものとして扱われ、会社は責任を負うことになるというものです。

 この規定によって、当事者が、相手方の取締役である専務や常務を代表権があるものと信じた場合は、彼らと締結した契約は効力を生じます。

②支店長・営業所長・工場長など

 支店長・営業所長・工場長は一般的には代表権を有していません。ですから、支店長や営業所長との契約は、株式会社との間では効力を生じません。

 しかし、「支配人」は、会社に代わってその事業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する(会社法11条)、とされています。そして、実際は支配人ではないのに、支配人であるかのような肩書きを有する者は、下記の「表見支配人」とされており、契約の相手方が支配人ではないことを知らなかった場合には、契約が成立します。

「表見支配人」(会社法13条)
会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該本店又は支店の事業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。

 「支店長」「営業所長」「工場長」などは、表見支配人とされる可能性が高く、その支店・営業所・工場の事業に関する契約を締結した場合には、当該契約は有効とされることがあります。

 なお、表見支配人の規定は「担当役員」「営業部長」などにも適用され、これらの肩書きを持つ人は「本店の営業の主任者たることを示すべき名称を付した使用人」にあたり、契約締結権限があるとみなされる可能性があります。

③担当室長・担当課長

 これらの肩書きの人達は、商法25条に定める「ある種類または特定の事項の委任を受けた使用人」にあたり、その担当業務の範囲内に属する契約に関しては、代表取締役に代わって契約締結権限があるとみなされる可能性があります。

 上記①〜③にあげたような人達が契約書の締結者として会社名・肩書きとともに記名・捺印していれば、その会社としては、「部長のCが勝手に契約したから知らん!」とは、なかなか言い切れません。有効性を争ってもほとんどの場合、負けるでしょう。
 といっても安心は禁物です。やはり、権限を確認しておくことが一番安全です。

海外企業が相手の場合

(1)契約締結までの注意点

①まずは相手方の素性を調査する

 取引を行う場合には相手方の信用状態を確認し、安心して取引できる相手か否かを調査・確認し、(それが売先である場合には)どの程度の金額まで与信を与えることが出来るかを決定するのが基本です。その方法としては、直接面談、財務資料を提供してもらう、同業者の評判、地元銀行の情報、その他さまざまな方法を駆使することになりますが、信用調査会社の情報を得ることもその一つです。

 海外企業の信用調査会社として有名かつ大手の機関に「ダン・レポート(D&Bレポート)」と呼ばれるDun & Bradstreet(D&B)社の調査報告書があります。
 手紙やメールなどでコンタクトのあった段階で、手紙ならレターヘッド、Eメールならアドレスで、相手が法人組織かどうかチェックし、D&B等の調査会社にレポートを依頼し、相手方の素性や信用状態を確認します。

②交渉相手(相手方の交渉担当者)の所属部署・役職・権限の確認

 望ましいのは、直接相手方を訪問し、交渉担当者の所属部署・役職・権限を確認すると共に、その人となりをある程度把握しておくことです。そうすることにより、交渉を重ねる中で信頼関係・人間関係を構築しやすくなります(信用に足りないことを発見することが出来ることもあります)。
 直接に面談することまではできなくとも、所属部署・役職そして権限は確認しましょう。

③契約書を交わすまでは直前の契約解消リスクがありうることに留意

 交信の中で相手方から「承諾」を得られたとしても、それだけを頼りに仕入先に先行発注をかけるなどの行動を起こすことはできるだけ避けるべきです。やはり、契約書を締結するまでは、安心できません。相手方の契約解消に対して争うにあたって、契約は成立していたという立証をすることは苦労が多いのです。そもそも訴訟を起こすこと自体が経済的・時間的に見合うものかどうかという問題もありますしね。

(2)相手方の権限の確認

 外国でも前記2で解説したような法制度が執られているのが普通ですから、相手方がまともな会社であれば、あえてコレスポンデンス(以下「コレポン」と略称します)相手の権限を保証してもらうようなことは行っていないのが通常です。

 実務上執られているのは4(1)の①と②ですが、「権限」に言及するには自分の権限も明らかにしなければならず、なかなか難しいところがあります。
 そういう意味では、契約締結権限の話を持ち出すのは、契約成立の段階になるのが一般的でしょう(これについては「契約段階」の中で触れることにします)。

 また、契約書においては、契約締結権限の「表明・保証」条項として次のような文言を加えることがあります。

Representation on Authority of Parties/Signatories.
Each person signing this Agreement represents and warrants that he or she is duly authorized
and has legal capacity to execute and deliver this Agreement.
Each party represents and warrants to the other that the execution and delivery of the Agreement
and the performance of such party’s obligations hereunder have been duly authorized and that
the Agreement is a valid and legal agreement binding on such party and enforceable in accordance
with its terms.
代表権限の表明
本契約に署名する各個人は、本契約を締結するための正当な権限を与えられており、また法的能力を有していることを表明し、保証します。
各当事者は、本契約の締結および当事者の義務の履行が正当に承認されたものであること、および、本契約がその当事者を拘束する有効かつ法的な合意であり、その条項に基づき執行可能なものであることを相手方に対して表明し、保証します。

 筆者が実務で使用したことはありませんが、相手方の交渉担当者(コレポンの相手方)が契約締結権を有していることを保証する書面(委任状)のモデルを「契約締結委任状」にならって作成してみました。日本の輸入者(会社)がシンガポールの輸出者(会社)から交渉担当者をその取引に関する会社を代表する代理人として指名してもらうものです(当然、日本側も同じような書状を相手方に出すことになります)。ご参照下さい。

Date: September 1, 2017


To: Global Business Co., Ltd.

1-4, Roppongi 4-chome, Minato-ku, Tokyo 106-0032 Japan


Letter of Attorney


I, Francis Chan, the president of Asian Business Corporation, a corporation duly organized
and existing under the laws of Singapore, having its principal office at ………………………….., Singapore,
hereby appoint Mr. Mike Chang, Section Manager in Exporting Department of the said company as
its lawful representative and give him full power and authority to negotiate and make with you,
Global Business Co., Ltd., a contract or contracts for a sale of our products manufactured by the company for and on behalf of
the company and to do all such acts as he thinks fit and necessary for that purpose.

The said attorney will contact you by e-mail with his e-mail address m.chang@abc.com at the
our company's domain as well as through telephone or facsimile and face-to-face contact.


In witness whereof, I have duly signed this letter of attorney on the day as above-mentioned.


Asian Business Corporation


by            

Francis Chan -President-

グローバルビジネス株式会社 殿
—住所—

委任状

私、フランシス・チャンは、シンガポール法に基づき設立され、・・・・に本社が所在するアジアン・ビジネス・コーポレーションの社長として、当社の輸出部課長であるマイク・チャン氏を同社の法的代理人として指名し、当社の製造する製品の売買について会社のためにそして会社に成り代わり、貴社・グローバルビジネス株式会社と交渉し契約を締結するための、そしてその目的のために彼が適切かつ必要と考える全ての行為を行うことができる全権を付与します。

同代理人は、当社のドメインにある彼の電子メールアドレス(m.chang@abc.com)により電子メールを使用するほか、電話、ファックス、あるいは面談により貴社と折衝することでしょう。

以上を証するため、私は、上記日付をもって本委任状に署名いたします。

アジアン・ビジネス・コーポレーション


社長:フランシス・チャン

2017年度 国際法務研修基礎セミナー

コースB「国際契約の基礎」講座
-国際法務従事者に必須の法律知識-


【開催期間】2017年10月5日(木)~2018年3月1日(木) 19:00~21:00

毎週木曜日開催。この期間内で、1回でも数回でも自由に選択できます。

【受講料】 1回あたり:10,000 円(資料代含む・消費税込み)

なお、全17回出席する場合については、135,000 円(割引価格)。
企業単位での申込や、毎回違う方が受講することも可能。

【会場】  きゅりあん セミナー会場:東京都品川区東大井5-18-1


くわしくはこちら
コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから
  • facebook
  • Twitter

関連する特集