契約書をリスクマネジメントにどう活用するべきか

第3回 契約書の作成・修正をする際のチェックポイント

取引・契約・債権回収
河村 寛治

 企業の法務担当にとって、契約書のチェックという業務はリスクマネジメントの一環として非常に重要なウエイトを占めています。本連載では契約書をリスクマネジメントにどう活用するか、という点について、すこしでも読者の方に共感をしていただけるよう、第1回では「契約書作成の意義」を、第2回では「契約書をめぐるトラブルのパターン」について解説しました。今回は、「契約書の作成・修正をする際のチェックポイント」を解説します。

契約書作成によるリスクマネジメントとは

 契約書を作成するプロセスの中では、将来発生することが予想されるクレームや紛争などをあらかじめ想定し、その対応策をあらかじめ考えておくことが重要です。紛争の未然防止だけでなく、当事者間でリスクの分析や対応があらかじめ検討され、それぞれが受容するリスクを認識しているかどうか、またそれが契約書に的確に反映されているかどうかがチェックのポイントとなります。

 つまり、法務担当としては、リスクの想定、リスク分析とリスク回避という行為を契約書の作成・修正の過程で意識的に行うことが必要であり、この一連のプロセスを的確に契約書に反映させることが重要です。これが契約書作成によるリスクマネジメントです。以下では、その主要なチェックポイントを解説したいと思います。

契約書の目的は明確か

 契約書を検討し、作成・修正するにあたり、最も重要なことは、契約の目的が明確かどうか確認することです。これは、当然のことではあるのですが、契約書作成のプロセスの中では意識することは難しいのではないでしょうか。

 つまり、「なぜ契約書を交わさなければならないか」、「そのねらいは何か」、など契約の目的を当事者間で誤解のないよう、よく理解しておくことが必要となります。一般的には、契約書を作成する目的は、取引当事者間における取引条件等に関する合意事項を書面化するためだけではなく、合意した事項と合意ができていない事項を両当事者間であらかじめ認識しておくことであり、当事者間での認識合わせを適切に行うことができれば、将来の紛争予防につながります。

法令等に違反していないか

 契約は、強行法規に違反していないかぎり当然に有効となるので、当事者間で契約書を作成する段階で、契約の内容が独占禁止法や消費者保護等に関する強行法規に違反してないかどうか、また強制法規だけでなく、通常の法令や関連業界法等の違反はないかどうか、といったさまざまな観点からチェックをすることが重要です。

 これは契約の有効・無効という点だけでなく、企業におけるコンプライアンス(法令等遵守)の問題としても非常に重要となります。たとえば大手コンビニエンスストアチェーンの本部がプライベートブランド商品を開発する際、商品の製造委託先に値引きを強要したとして公正取引委員会から下請法違反に基づく改善勧告を受けた事例があります。下請法のように、実務を担当しないとあまり目にしないような法律であっても、違反した場合には罰則の対象となる可能性もあるため、注意を払う必要があります。

 例示したケースは、契約書を作成した後の実行段階の問題とは思いますが、このような強行法規の存在を認識し、契約段階から手当てをしておくことはリスクマネジメントの観点でも重要です。
 また、契約条項が公序良俗に違反することはないかどうか、当事者として社会的に反するような取引に関するものではないかどうか(たとえば、暴利行為・法律の網の目をくぐるような行為・取引慣行を著しく逸脱する行為のような反社会的行為など)のチェックも当然必要となります。

社会的責任の観点で問題はないか

 最近は企業の社会的責任が問われることも多く、法令等に違反していなくても、企業として契約を履行することが社会的正義あるいは社会的責任に反するという問題になることが増えています。
 取引そのものに対して、企業としての責任が生じることとなるので、法務担当としては、社会的責任に反する可能性がある取引に対して警告を発し、必要であれば取引の中止を進言する勇気をもつことが重要です。

 企業の社会的責任とは、企業が株主や従業員だけでなく、取引先や消費者および地域住民など企業をとりまく、さまざまな利害関係者に考慮し、従来のように自社の利益だけでなく、企業倫理、雇用対策、環境対策、消費者対策、地域社会貢献や人権などの社会的側面にもバランスよく取組むことが期待されている、企業活動における社会的責務のことです。

【企業の社会的責任のイメージ】

企業の社会的責任のイメージ

 この社会的責務を果たすために、内部通報制度を設けるなど非倫理的な行為についてもコンプライアンス・プログラムを策定し、実行している企業も増えています。
 営業などの現場の最前線に立つ部門が日常の企業活動の中で企業における社会的責任を常に意識し、倫理的な問題を察知することは困難を伴いますが、企業の法務部門は、社会的責任に影響を与えるような危険を察知し、また、その危険を回避するための可能性や方策などを考えるためにも最適な立場にいます。

 企業活動において社会的責任が重視されていることを、法務担当は当然認識すべきであり、そのための素養と社会的責任に反する可能性がある取引を抑止する力の育成に努める必要があります。これは法律実務家としての良心が問われる問題でもあり、法務担当には、事業活動を行う部門に対してリスクのある取引を中止するように説得する能力も求められます。

リスク分析とリスクヘッジをどこまで想定しているか

 契約書作成のプロセスにおいて、取引において生じるリスクを分析することは当然重要ですが、リスクを分析したことに基づく相手方との交渉の結果、自社が負担するリスクの内容および範囲や、リスクを負担したことによって生じる可能性がある問題点を明確に把握することまで必要になります。

 2001年に米国で発生した同時多発テロや2011年に発生した東日本大震災等、企業活動に多大な影響を与えた問題によって、企業活動における危機管理の意識がますます高まっています。先にあげた法令違反など企業自身の責任で発生している問題だけでなく、そうではない自然災害、不買運動、製品リコール等、想定が難しいような多種多様のリスクに企業は直面しています。ひとたびリスクが顕在化すると、契約上の義務の履行もできなくなり、また企業経営にも大きな影響を与えかねない状況となります。

 こうした状況を考慮すると、企業が潜在リスクを予測してリスクが顕在化した場合への対策を講じるのはもちろんのこと、想定できないような重大なリスクが顕在化した場合の対応プランを事前に準備しておかなければ、利益の喪失、死傷者の発生、企業イメージ・評判の悪化につながり、最悪の場合には企業そのものが消滅してしまうという事態にもなりかねません。

 これは本来リスクマネジメントの一部として経営上の課題に位置付けられるものですが、契約上も履行不能あるいは不履行といった問題に発展することになります。従来は、法的には不可抗力の問題であり、契約上の義務が免責とされていたケースであっても、最近はリスクマネジメントの不徹底によって責任を追及される傾向も出てきています。特に国際取引では、BCPなど、契約上もリスク回避義務が課されることも多くなってきており、日本でもその影響を受けるようになりつつあります。

 このような契約上の責任やリスクは、可能であれば自社だけでなく第三者への相談も含めて、リスクヘッジする手段がないか検討すべきです。 つまり、契約書の作成・修正をする際にはリスクの圧縮に極力努めるとともに、どうしても残るリスクは、その内容と範囲を社内外の関係者が認識しておく必要があり、それにより、万一の場合の対応も可能となるわけです。

第三者との関係を意識したか

 その契約を締結することが第三者の利益や地位を不当に侵害することにはならないかという点も意識しておくべき重要なことです。これは法的には権利侵害による不法行為責任というものであり、この点の考慮を怠ると第三者との契約上の義務(たとえば競業避止義務や機密保持義務など)に違反してしまい、思いがけないリスクを負担することにもなりかねません。特に大手の企業のように複数の部署で多様な契約を締結している場合には、他の部署がどのような契約を締結しているかまで、すべて把握しておくということはほとんど不可能となります。

 かつて筆者が所属した商社においては、競合品を取り扱わないなどという競業避止義務を負担している契約に関し、全社的なデータベースを作成し、いつでも競業避止義務の有無について検索できるようなシステムを構築して、契約違反の問題が発生しないように管理していましたが、これは競業避止義務のある契約だけでなく、全体的な契約管理を実施することにつながります。

 ここで、競業避止義務とはどのような状況か、売買契約を例として見てみましょう。継続的な取引関係において、買主は売主以外の当事者から製品の供給を受けないという一種の取引制限となるような約束をしているとします。買主としては、市場向けに製品の一手販売権を確保することになるので、権利と義務とのバランスにおいて、このような競業避止義務が成立しています。こういった取引制限条項というものは、極力回避すべきものですが、相手との関係で、このような義務を負担せざるをえないということもあります。ちなみに、当然のことながら、独占禁止法で規制する取引制限に該当する場合、競業避止義務は認められません。

 機密保持義務も第三者との関係においては競業避止義務と同様に留意が必要です。継続的な取引関係にある当事者から得た相手方の営業上または技術上の情報というものは、第三者に対して漏えいすることは許されず、また相手方の承諾を得ないで第三者に開示することもできない義務を負っているので、この点も留意しておくことが重要となります。これは不正競争防止法の問題でもあります。

経理処理と税務上の問題

 契約書に基づく義務の履行によって、どのような経理処理をするかということは、適正な業務処理や税務処理の観点からも重要です。

 通常の商品の売買取引の場合には、商品の納入がなされた場合あるいは納入がなされたとみなされた時点で仕入れ処理をし、また商品の出荷がなされ、相手方あるいは相手先の指定納入先に納入された時に、売上げ計上処理をするなどとされています。

通常の商品の売買取引の場合の経理処理と税務

 しかし、プラント設備などのように工事を伴う納入が行われ、一定の期間をかけて引渡しが行われる場合には、どの段階で相手先に納入が完了したか、売主から買主への引き渡しは何をもって完了したこととなるか、などの点が経理処理の観点やリスクの移転時期の観点でも重要な問題となります。

工事を伴う納入が行われ一定の期間をかけて引渡しが行われる場合の経理処理と税務

 一般的には、滅失毀損リスクの移転時期や条件は契約書に規定されることとなるわけですが、商人間の売買では、ほとんどの場合、商品の引渡しの時、あるいは買主が受領後検査を実施した時、などと規定することが多く見られます。

 また、現物を倉庫に寄託したまま、売主が発行する荷渡し指図書を買主に交付することにより引渡しが行われることもありますが、滅失毀損リスクの移転は、買主が倉庫営業者からいつ出庫したかにかかわらず、原則として寄託者台帳を買主名義に書き換えた時に生ずると実務上解されています。したがって、経理処理上もこのような処理が行われ、また税務上もこのような実務上の処理や経理処理に沿って行われることとなります。ちなみに、平成29年5月に成立し、6月2日に公布された民法(債権関係)の改正では、危険負担に関する規定が削除されましたが、滅失毀損リスクがいつ移転するかという点は、契約書作成プロセスにおいても重要となっています。

 それ以外の特殊な取引については、経理処理上の問題や税務上の問題が発生するかどうかなど、あらかじめ確認しておくことが必要です。一般的には、取引ごとに経理処理基準を変えることは、適正な経理処理とはみなされないこととなりますし、特に決算期をまたがって経理処理を変更することは会計不正などの疑義を生じさせることとなるので注意が必要です。

主務官庁の許認可の有無

 一般的な商取引契約は、当事者間で自由に締結でき、行政官庁の許認可の対象とはなっていません。しかし、保険契約などのように、多数の企業や個人を同種の危険から集団的・計画的に保護する保険制度の趣旨から、当然に保険契約の内容は定型化される必要があります。そのため、保険者が利用する保険約款については、本件事業の認可を内閣総理大臣に対し申請する際に普通保険約款の添付が要求されており、その変更も内閣総理大臣の許可を受けなければならないとされています(保険業法4条、123条)。

 このように、場合によって主務官庁の許認可等が必要となることもありますので、該当契約が行政官庁の許認可の対象となっているかどうか、ならびに許認可が取得できるかどうか、また許認可に条件が付された場合、その条件の履行が可能かどうかなどということを事前に確認することは非常に重要です。

印紙税を忘れないように

 契約書を作成した場合、実務的に重要な問題は、印紙税の問題です。不動産の売買契約書、請負契約書、融資契約書、取引基本契約書などは、印紙税法上で課税文書とされています。印紙税は、契約書などに課税される税金で、契約書の内容や金額によって印紙税額が定められています

 印紙税法上の契約書とは、「契約当事者の間において、契約(その予約を含む。)の成立、更改又は内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証明する目的で作成される文書をいい、契約の消滅の事実を証明する目的で作成される文書は含まない。」とされています(印紙税法基本通達12条)。
 印紙税法では、各種の課税文書が規定されていますが、売買契約書などは「譲渡に関する契約書」とされており、権利または財産等をその同一性を保持させつつ他人に移転させることを内容とする契約書をいい、売買契約書以外には、交換契約書、贈与契約書、代物弁済契約書および法人等に対する現物出資契約書等がこれに該当するとされています。

 印紙税が課税されるのは課税文書に限られていますが、課税文書は印紙税法別表第1に掲げられている文書のうち非課税文書に該当しない文書をいうとされています。非課税文書については、上記別表1の非課税物件の欄に掲げる文書とされており、この非課税文書でなければ、印紙税法別表にしたがって、どの分類にあたるのかが決まることになっています。いずれにしても印紙税については、その契約書の内容に応じて課税文書かどうか、課税文書であれば、どの分類に該当するかどうかを判断する必要がありますので、別表1および印紙税法基本通達をよく確認しておく必要があります。
 ちなみに、文書が課税文書に該当するかどうかは、文書の名称には関係なく、個々の内容を判断したうえで決定されることとなっています。

まとめ

 以上のように、一般的商取引契約であってもチェックする項目は結構多いことがわかりますが、これらの項目のチェックを十分に行ってこなかった結果、後日問題となるケースが少なくありません。ここでは、これら通常の商取引契約において、チェックをしなければならないことの主要なものを説明したつもりですが、チェックしなければならないポイントはこれらだけではないこと、また社会状況や経済状況が変化すれば、法律の改正も含め、契約書作成の過程で、変更などの対応が必要となることを十分に留意願います。

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