営業現場で使える!英文契約書のポイント

第12回 電子データでの契約締結

取引・契約・債権回収
宮田 正樹

外国との契約実務で見られる「電子データでの契約締結」

 ここで取り上げる「電子データでの契約締結」とは、外国との契約実務でときどき見られるサイン(署名)した契約書あるいは署名欄の部分だけをファックスやPDFでやりとりし、契約の締結とする方法のことです。

 たとえば、A社とB社の契約の場合、A社はA社の契約締結権限者がサインをした契約書を、B社へ電子メールに添付したPDF(あるいはファックス)で送り、B社はB社の契約締結権限者がサインをした契約書をA社に電子メールに添付したPDF(あるいはファックス)で送り、これだけで原本のやり取りをすることなく契約締結とする方法です。

 例示の方法では、両社は自社の契約締結権限者がサインをした契約書の原本を手元に保有しますが、相手方が署名した契約書はPDFあるいはファックスで送られたもの(相手方の署名のみで、しかも原本ではない)しか保有しないことになります。

 日本人の感覚からすると、これで有効なのかと感じますが、欧米諸国では、契約書の調印(締結)を急ぐ場合などによく用いられているようです。

電子データでの契約締結

契約書の真正性の確保

 日本企業の場合、国内契約はもちろんのこと、国際契約においても、契約書は原本をやり取りすることが「常識」ですよね。

 これは「契約書の真正性」を確保するためで、日本では民事訴訟法228条4項にて「私文書は、本人またはその代理人の署名または押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と定められていることが大きな理由です。

 また、「私文書の作成名義人の印影が、その名義人の印影によって押印された事実が確定された場合、反証がない限りその印影は本人の意思に基づいて押印されたものと事実上推定され文書全体の真正が推定される」(最高裁昭和39年5月12日判決民集18巻4号597頁)という判例の存在もあり、実印での押印とそれを証明する印鑑証明を徴求したりするのです。なお、民事訴訟法228条による推定と昭和39年の判例による推定とを合わせて確保することを「二段の推定」と呼んでいます。

「サイン(署名)」が契約成立の要件であるのか?

 「ファックスや PDFでの署名のやりとりが有効なのか?」ということを問題にする前に、そもそも「サイン(署名)」が契約の成立要件であるのか、まず考えてみましょう。

 連載第1回「英文契約書の基礎知識」でお話ししたように、英米法においては「約因(consideration)」の存在という要件が加わるものの、契約の成立は「申込に対して承諾があったとき」(=当事者の意思が合致したとき)であって、「書面である必要はなく、口頭でも成立する」というのが原則です。

 契約書を作成して、当事者がそれにサインするという行為は、契約内容を明示すると共に、合意の意思表示を「サイン(署名)」という明示的な方法で示すことにあり、契約が成立したことの証拠を残すことでもあります。肉筆による署名(自署)は、筆跡などにより本人が行ったものであることおよび本人の意思(契約内容に関する承諾の意思)を強く推認させるものであるから、サインは証拠性が高いものだといえるでしょう。

 しかし、サインだけが契約の締結手段ではありません。

 契約書の最後には、サイン欄の直前に次のように記載されています。

IN WITNESS WHEREOF, the parties have caused this Agreement to be executed by their duly authorized representatives as of the date first above written.
本書の内容を証するため、両者はその権限を与えられた代理人をして上記に記す日を以て本契約を締結する。

 “EXECUTE”(契約等の締結、調印)について、定評のある英米法辞典「Black's Law Dictionary」では次のように定義しています。

To finish, accomplish, make complete, fulfill.
To perform; obey the injunctions of.
To make; as to execute a deed, which includes signing, sealing, and delivery.
To perform; carry out according to its terms ; as to execute a contract.
To fulfill the purpose of ; to obey; to perform the commands of; as to execute a writ.
(以下、省略)

 ここで注目して欲しいのは「deed(捺印証書)」(後記4)の場合を除けば、サインは要件とされていないことです。

 “SIGN”については「Black's Law Dictionary」は次のように定義しています。

To affix one's name to a writing or instrument, for the purpose of authenticating it, or to give it effect as one's act.
To "sign" is merely to write one's name on paper, or declare assent or attestation by some sign or mark, and does not, like "subscribe," require that one should write at the bottom of the instrument signed.

 さらに、UCCの定義条項では、UCC§1-201 (37)として「signed」を次のように定義しています。

“Signed” includes using any symbol executed or adopted with present intention to adopt or accept a writing.

ファックスやPDFでの署名のやりとりは有効

 要するに、「サイン(sign)」は、承諾の印として付されるものであって、自署であることが求められているわけではなく、また、印(しるし)であれば何でもよい(any symbol)のであって、「名前」が求められているわけでもないのです。われわれ日本人の「判子(はんこ)」もそうですよね。
 オリジナルであろうがコピー(ファックスやPDF)であろうが、承諾の意思表示であれば、特段の問題は無いわけです。

 問題は、当該契約に関する紛争が生じて訴訟になり、そのサインの真正度が問われたときですが、その真正性を証明できるメールなどが残っていれば、署名付き原本をもらっている場合とそれほど大きく違いは無いのではないでしょうか。

電子データでの契約締結時に書き加えられる条項の具体例

 それでは、サイン(署名)した契約書あるいは署名欄の部分のみをファックスやPDFでやりとりするだけで契約の締結とする方法を採る場合に、書き加えられる条項の具体例を3つほどご紹介しましょう。

比較的簡単な文例

This Agreement may be executed in two counterparts and may be transmitted by email including a pdf (portable document format)copy or facsimile, each of which shall be deemed an original and which together shall constitute one instrument.
この契約は2部でもって締結し、PDFコピーを添付した電子メールやファックスで交換することができるものとする。各部はそれぞれ原本とみなされ、2部で一つの証書を構成するものとする。

多当事者間にも使用でき、より詳細に規定している文例

Article ◯. Execution of Agreement; Counterparts; Electronic Signatures.

(a)This Agreement may be executed in several counterparts, each of which shall be deemed an original and all of which shall constitute one and the same instrument, and shall become effective when counterparts have been signed by each of the Parties and delivered to the other Parties; it being understood that all Parties need not sign the same counterparts.


(b)The exchange of copies of this Agreement and of signature pages by facsimile transmission (whether directly from one facsimile device to another by means of a dial-up connection or whether mediated by the worldwide web), by electronic mail in “portable document format” (“.pdf”) form, or by any other electronic means intended to preserve the original graphic and pictorial appearance of a document, or by combination of such means, shall constitute effective execution and delivery of this Agreement as to the Parties and may be used in lieu of the original Agreement for all purposes.


(注:「Parties」という用語は「契約当事者」を指すものとして先に定義されている。)
第◯条 契約締結、副本、電子署名

(a)本契約書は複数部作成され、各副本はそれぞれ原本とみなされ、すべてを合わせて一つの同一の証書を構成するものとする。そして、各副本が各契約当事者によりサインされ、他のすべての契約当事者に交付されたときに契約が成立したものとする。なお、すべての契約当事者が同一の副本にサインしなければならないものではない。


(b)この契約書および署名欄のページのコピーを、ファックスにより(一台のファックス機から他のファックス機に直接ダイアル・アップ接続の方法を採るかあるいはインターネット回線を使用する方法を採るかにかかわらず)、PDFデータとして電子メールにより、または、書面の原状を図形として鮮明に保持するような他の電子的手段、あるいはそれらをミックスした手段により交換することは、本契約の当事者にとっては、この契約の有効な締結と引渡を構成するものとし、それらのもの(コピー)はあらゆる目的に関して原本に代わるものとして使用することができる。

効力について言及している例文

Electronic Signatures.

This Agreement and any signed agreement or instrument entered into in connection with this Agreement, and any amendments hereto or thereto, may be executed in one or more counterparts, all of which shall constitute one and the same instrument. Any such counterpart, to the extent delivered by means of a facsimile machine or by .pdf, .tif, .gif, .peg or similar attachment to electronic mail (any such delivery, an “Electronic Delivery”) shall be treated in all manner and respects as an original executed counterpart and shall be considered to have the same binding legal effect as if it were the original signed version thereof delivered in person. At the request of any Party, each other Party shall re-execute the original form of this Agreement and deliver such form to all other Parties. No Party shall raise the use of Electronic Delivery to deliver a signature or the fact that any signature or agreement or instrument was transmitted or communicated through the use of Electronic Delivery as a defense to the formation of a contract, and each such Party forever waives any such defense, except to the extent such defense relates to lack of authenticity.
電子署名

本契約書および本契約に関連して締結されたいかなる署名入りの合意書や証書、あるいはそれらの修正変更契約も、1部または複数の副本をもって締結することができ、それらは一つの同一の証書とされるものとする。それらの副本は、その交換においてファックス送信あるいはpdf, .tif, .gif, .pegその他のフォーマットにより電子メールに添付して送信(これらすべてを以下「電子的引渡」と総称する。)されたとしても、いかなる意味や用途においても原本として扱われるものとし、手書きでサインされた原本が手渡しされたものと同じ法的効果を有するものとする。契約当事者のいずれかが要求した場合には、各契約当事者は本契約書を再度作成のうえサインした原本を他の契約当事者全員に交付するものとする。 各契約当事者は、サインの交換が電子的引渡で行われたことやサインや合意文書や証書が電子的引渡の手段により交換・交渉されたという事実を契約成立の抗弁(契約不成立あるいは無効の理由として主張すること)としてはならず、そのような抗弁は永久に放棄する。ただし、「契約書の真正性(authenticity)」の欠如に関する抗弁の範囲においては使用できるものとする。

 最後の一文(下線部分)は、「サインは偽造だった」とか「別の契約書のためにサインしたものだ」というような意思の欠缺による無効事由の主張に関連して、「それが電子的引渡の手段で送られた」という主張を行うことは妨げられないということでしょう。

電子的手段によるサインの交換の実務的な留意点

 前記文例3-1、3-2、3-3からうかがい知れることは次のことです。

  1. ファックスやPDFなど電子的手段で複製交付されたサイン済契約書あるいはサイン欄の交付をもって契約締結や契約締結の証とすることを当事者間で合意しているのであれば、少なくとも当事者間においては、(当たり前ですが)その効力に問題はないのであり、念のためそのことを契約書に記載しておくこと。
  2. 電子的複製交付の手段には様々なものがあるから、そのうちどの手段を(あるいはこれから開発されるであろう新たな手段を含め、すべての手段を)認めるのかを明らかにしておくこと。
  3. 「契約書の真正性(authenticity)」の問題については、手書きのサインであっても生じる問題であり、電子的に複製交付されたものだからといって特別に生じる問題ではないこと(複製が容易であることにより真偽の判断が難しいという問題はあるが)。

 以上より、実務的な留意点として次の点を押さえておけば、電子的手段によるサインの交換をさほど怖れることは無いのではないでしょうか。

  1. 電子メールに添付して送られてくる場合には、そのメールのログをキチンと保管しておくこと。
  2. サイン欄のみを交換する場合には、それがどの契約書のサイン欄であるかを、送り状に明記させること(契約書全体のPDFデータを添付することが望ましいが)。

捺印証書(deed)

捺印(seal)とcompany seal

 捺印証書とは元々、紙や羊皮紙に署名し(signed)、捺印し(sealed)、相手方に交付する(delivered)文書をいいました。
 「捺印(seal)」というのは、英国などの中世のドラマや映画に出てくる蝋(ロウ)を垂らした上に印影を押しつけて封筒をとじる(シールする)という「wax seal」をイメージしてもらうと分かりやすいでしょう。

これが現在の紙のシール(封筒の開封部を押さえるシール)の原型となる典型的なワックス・シール

これが現在の紙のシール(封筒の開封部を押さえるシール)の原型となる典型的なワックス・シール

 現在でもイギリスをはじめとしカナダ、オーストラリアなど英連邦の国の会社はcompany sealを持っている会社が多いようです。

筆者がカナダで使っていたのは、紙に押し型を付けるタイプでした

筆者がカナダで使っていたのは、紙に押し型を付けるタイプでした

 英国法によると“deed”(捺印証書)による契約は、約因(consideration)が無くても有効(法的拘束力がある・・・執行可能)とされたので、贈与や遺言など片務契約については特にこの形式が採られていたのです。

 現在でもイギリスはもちろんのこと、カナダ、オーストラリアなど英連邦の国、そしてアメリカではdeedによることが求められる契約があります。会社の場合はcompany sealを持っていれば、それを押すことが求められます。
 ちなみに、アメリカではsealが使われることが少なくなっており、サインだけであったり、witness(立会人)のサインでこれに代える州が大半のようです。

捺印証書(deed)の要式

(1)Deedが求められる契約(イギリスをベースに)

  • 不動産(土地)の売買、賃貸借・リース、住宅ローン(mortgages)
  • 委任状、遺言
  • (必ずしもではないが)株主間協定、パートナーシップ契約

(出典:Rocket Lawyer「 Execution of deeds」 )

(2)要式

個人の場合

一人以上の承認に立ち会ってもらいサインする。立会人はwitnessとしてサインする。

会社の場合
  1. company sealを押す。
  2. 1人の取締役(Director)が立会人の面前でサインする(立会人はwitnessとしてサインする)、
    または、
    2人の取締役が、あるいは、1人の取締役とcompany secretaryがサインする。
    (「company secretary」とは、いわゆる「秘書」ではなく、日本でいえば「総務担当重役」あるいは「総務担当部長」といったオフィサー)
  3. 引き渡す(delivered)・・・現在では名目化しています。


 筆者は、カナダに駐在時代、小さな会社の「Secretary & Treasurer」でしたので、事務所のリース契約など様々な書類にSecretaryとしてサインし、company sealを押していました。

捺印証書(deed)のサイン欄の見本

 このように要式性が求められるDeedですが、国や州によってその要式が異なりますし、近年とみに簡便化が進んでおり、イギリスでも電子的署名でのDeedが認められるようになってきているようです。


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