平成30年改正消費者契約法のポイントと企業が求められる対策

第2回 無効となる不当条項の追加とその他の改正事項等

取引・契約・債権回収
古川 昌平弁護士 吉村 幸祐弁護士

 前回に引き続き、平成30年6月8日に成立した「消費者契約法の一部を改正する法律」による改正の要点を、実務に与える影響や当該影響を踏まえた対策等を交え、概説します。

 本稿の凡例は下記のとおりです。

  • 本改正法:「消費者契約の一部を改正する法律」(平成30年法律第54号)
  • 本改正:本改正法による消費者契約法の改正
  • 現行法:本改正前の(平成29年6月3日以降の)消費者契約法 
  • 本改正後法:本改正後の消費者契約法 

 本改正法は、2019年6月15日から施行されます(本改正法附則1条)。

目次
第1回
1 はじめに
2 不利益事実の不告知の要件の緩和
3 取り消し得る困惑類型の追加
第2回
1 無効となる不当条項の追加
2 条項の作成に関する努力義務
3 情報提供に関する努力義務
4 本改正の対象外とされた事項
5 おわりに

無効となる不当条項の追加

事業者が自らの責任を自ら決める条項の無効

 現行法では、消費者の損害賠償請求権を免除する一部の不当条項について例外なく無効とする旨が定められています(現行法8条)。

 また、平成28年改正に際し、債務不履行の規定に基づく解除権または瑕疵担保責任の規定に基づく解除権をあらかじめ放棄させる一部の不当条項について例外なく無効とする旨の規定が新設されました(現行法8条の2。詳細は「平成28年6月公布! 改正消費者契約法のポイントと対策(第2回)」の2をご参照ください)。

 しかし、現行法8条の下では、たとえば、「事業者が債務不履行等によって消費者に対して損害賠償責任を負う場合であっても、事業者が自らに過失があると認めた場合に限り損害賠償責任を負う」旨の条項は、事業者の損害賠償責任を免除するものではないため、当然に無効とはなりません。しかし、当該条項は、損害賠償責任の存否を事業者が決めることを認めるものであり、実質的に、事業者の損害賠償請求責任を免除するのと同じ効果を生じさせることが可能です。

 また、同様に、平成28年改正において追加された現行法8条の2の下では、たとえば、「事業者の債務不履行等により消費者に解除権が生じた場合であっても、事業者が解除権があると認めた場合に限り解除できる」旨の条項は、消費者の解除権をあらかじめ放棄させるものではないため、当然に無効とはなりません。しかし、このような条項は、解除権の存否を事業者が決めることを認めるものであり、実質的に、消費者の解除権をあらかじめ放棄させるのと同じ効果を生じさせることが可能です。

 そこで、本改正後法8条および同条の2において、事業者が自らの責任を自ら決める条項についても無効である旨が明示されました。当該改正後の規定は、本改正法施行日(2019年6月15日)以後に締結される消費者契約について適用されます(本改正法附則2条3項)。
 イメージは下図のとおりです(第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の6頁を基に作成したもの)。

第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の6頁 イメージ図

 具体的な条文は以下のとおりです。

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第8条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

五 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

2 (略)

(消費者の解除権を放棄させる条項等の無効)
第8条の2 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

一 事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させ、又は当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する条項

二 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があること(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があること)により生じた消費者の解除権を放棄させ、又は当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する条項

 本改正に伴い、本改正法施行日以後に締結する契約において、たとえば、次のような条項を定める場合、当該条項は無効となります(平成29年専門調査会報告書・参考資料5)。

【フィットネスクラブの会則における条項】
 本クラブの施設利用に際して本人または第三者に生じた人的・物的事故については、会社の調査により会社に過失があると認めた場合に限り、損害賠償責任を負います。

 本改正法施行日(2019年6月15日)以前に締結された消費者契約には、本改正後法8条および同条の2ではなく、現行法8条および同条の2が適用されます。その場合、当然に上記のような条項が無効になるわけではありませんが、他方、消費者契約法10条により無効と判断される可能性が相応にあるといえます。

 そのため、今後、本改正法の施行前後を通じ、無効となる可能性のある条項を契約書に含めることはコンプライアンス上の問題があり、消費者に不信感を抱かせかねませんし、適格消費者団体から差止請求を受ける可能性もあります(現行法12条)。そのため、企業の方々には、契約書の雛形等に上記のような条項が入っていないか確認されることをお勧めします。

消費者の後見等を理由とする契約解除条項の無効

 また、本改正後法では、消費者の後見、保佐または補助(以下「後見等」といいます)開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に解除権を付与する条項を、成年後見制度の趣旨に反する不当な条項であり、無効である旨を定めました(本改正後法8条の3)。当該改正後の規定は、本改正法施行日(2019年6月15日)以後に締結される消費者契約について適用されます(本改正法附則2条4項)。

 具体的な条文は以下のとおりです。

(事業者に対し後見開始の審判等による解除権を付与する条項の無効)
第8条の3
 事業者に対し、消費者が後見開始、保佐開始又は補助開始の審判を受けたことのみを理由とする解除権を付与する消費者契約(消費者が事業者に対し物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものを提供することとされているものを除く。)の条項は、無効とする。

 かっこ書で「消費者が事業者に対し物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものを提供することとされているもの」が無効とされる条項から除かれており、消費者が役務を提供する消費者契約には上記規定は適用されません。この点に関し、消費者が役務を提供する消費者契約は、後見等開始の審判を受けることにより、当然に終了するものと考えられています(民法653条3号、同法656条)。

 また、後見等開始の審判を受けたこと「のみ」を理由とする解除権の付与を無効とするものであり、後見等開始の審判を受けたことを機に、個別に消費者契約の事情を考慮し解除することを一律に無効とするものではありません。

 本改正により、たとえば、以下のような条項は無効となります(平成29年専門調査会報告書・参考資料5。太字部分が問題となる部分です)。

【建物賃貸借の契約書において用いられている条項】
乙(賃借人)に、次の各号のいずれかの事由が該当するときは、甲(賃貸人)は、直ちに本契約を解除できる。(中略)
(6)解散、破産、民事再生、会社整理、会社更生、競売、仮差押、仮処分、強制執行、成年被後見人、被保佐人の宣告や申し立てを受けたとき。

 本改正法施行日(2019年6月15日)以前に締結された消費者契約には、本改正後法8条の3は適用されませんので、当然に上記のような条項が無効になるわけではありませんが、他方、消費者契約法10条により無効と判断される可能性が相応にあるといえます。現実に、大阪高裁平成25年10月17日判決・消費者法ニュース98号283頁は、賃借人について①後見・保佐開始の申立てがあったとき、②破産・民事再生、競売・仮差押え・仮処分・強制執行の決定があったときに、賃貸人(事業者)に無催告での賃貸借契約の解除権を認める賃貸借契約の契約条項(無催告解除条項)について、消費者契約法10条により無効であると判断しています。

 そのため、本改正への対策としても、契約書の雛形等に上記のような条項が入っていないかを一度確認されることをお勧めします。

条項の作成に関する努力義務

 本改正では、契約条項の明確化の努力義務を定めた現行法3条1項を、以下のように改正されました(本改正後法3条1項1号)。

現行法 本改正後法
(事業者及び消費者の努力)
第3条
 事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮するとともに、消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない。
(事業者及び消費者の努力)
第3条
 事業者は、次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない。

一 消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すること。

二 (略)

 本改正は、契約の条項について解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残る場合には、条項の使用者に不利な解釈を採用すべきとの考え(いわゆる条項使用者不利の原則)を踏まえ、事業者の努力義務を明確化するものです。

 努力義務として規定されており、当該義務に違反する場合に直接的に無効や取消しといった効果が生じるものではありませんが、解釈に疑義のある不明瞭な条項を付す場合には消費者との間でトラブルが発生する原因となりますので、当該トラブルを回避する観点から、契約書の雛型等に当該不明瞭な条項が入っていないかを確認されることは望ましいと考えられます。

情報提供に関する努力義務

 本改正では、事業者の情報提供の努力義務を定めた現行法3条1項を、以下のように改正されました(本改正後法3条1項2号)。

現行法 本改正後法
第3条
 事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮するとともに、消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない。
第3条
(略)

一 (略)

二 消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質に応じ、個々の消費者の知識及び経験を考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供すること。

 本改正は、事業者の消費者に対する情報提供について、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質のほか、個々の消費者の知識および経験といった個別の消費者の事情についても考慮したうえで実質的に行われるべきことを明確化するものです。

 ここで事業者が考慮することが求められる個別の消費者の事情とは、専門調査会の議論においては、通常の取引の場で通常の事業者が認識し得た事情を基に考えられるものであり、事業者に特別の調査までを求める趣旨ではないものと考えられていました(第42回専門調査会議事録)。

本改正の対象外とされた事項

「平均的な損害の額」の立証責任の問題

 消費者契約法は、消費者契約の解除の際に消費者が負担する損害賠償額の予定または違約金を定める条項について、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」部分を無効とすることを規定しています(現行法9条1号)。

 最高裁判決(最高裁平成18年11月27日判決・民集60巻9号3437頁)は、事実上の推定が働く余地があるとしても、基本的には、消費者が立証責任を負うものと判断していますが、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」はその事業者に固有の事情ですので、消費者による「平均的な損害の額」の立証は困難な場合があると考えられます。

 そのため、平成29年8月の専門調査会報告書においては、消費者が「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を立証した場合には、その額が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」と推定される旨の規定を設ける、ということが提案されていました。

 もっとも、法律上の推定規定を設けることに関してはさらに精査が必要であるとの理由から、本改正では実現されませんでした(ただし、今後も引き続き検討が行われる予定です)。

「勧誘」要件のあり方

 消費者契約法は、事業者が、「勧誘をするに際し」、重要事項について事実と異なることを告げたこと等の所定の要件を満たす場合、消費者は、その契約の申込みまたは承諾を取り消すことができると定めています(現行法4条1項1号)。

 この「勧誘」にパンフレットや広告が含まれるかという点については争いがありましたが、最高裁判所は、不特定多数の者に向けられた働きかけであるということをもって一律に「勧誘」に含まれないとする見解を否定するに至りました(最高裁平成29年1月24日判決・民集71巻1号1頁)。

 上記最高裁判決は不特定多数に向けた働きかけのうちどういう場合が「勧誘」に含まれるのかについては明らかにしていません。しかし、消費者向けの広告表示において、重要事項につき事実と異なることを記載する場合には、当該広告表示において示した契約の申込みを取り消せると判断される可能性があります(現行法4条1項1号)。

 このような最高裁判決が出されたことを踏まえ、平成29年8月の専門調査会報告書では、当面は、個別の事案における法の解釈・適用に委ねるとされており、本改正の対象からも外れました。

おわりに

 本改正は、平成28年改正時に「検討課題」とされていたもののうち、不利益事実の不告知、困惑類型の追加、不当条項の類型の追加等を内容とするものです。これまでみたとおり、本改正は、普段からコンプライアンス経営を意識されている読者の方々にとっては直接的に実務に大きな影響を与えるとまでは言い難いところはありますが、本改正に伴い、個々の取引や消費者相談、訴訟等において、消費者契約法はより積極的に活用されていくものと思われます。

 各企業の皆様においては、本改正を契機として、改めて、消費者への広告を含む勧誘行為や消費者との契約における条項が、消費者契約法を含む消費者保護法に抵触しないかを見直すことが重要であると考えます。

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