債権が消滅しないように時効を中断させるにはどうしたらよいか

取引・契約・債権回収
西中 宇紘弁護士

 当社(X社)は、約2年前(平成26年8月1日)に取引先であるY社に対してある当社商品を販売して引き渡したのですが、Y社は資金繰りが苦しいといって支払期日から1年10か月経過した現在(平成28年6月1日)でも一向に代金を支払ってくれません。
 支払期日から2年経過すると売掛金の請求ができなくなると聞いたのですが、どうすればよいでしょうか。

 会社間の商品売買によって生じた売掛代金債権は、2年で消滅時効が完成します(民法173条1号)。そのため、支払期日から2年間が経過した後にY社から消滅時効の援用をされると、当該売掛金債権は消滅し、以降はY社に対して請求できなくなってしまいます。
 このような事態を回避するためには、時効の中断をする必要があり、時効中断事由として民法上、①請求、②差押、仮差押または仮処分、③承認の3種類が規定されています(民法147条各号)。設問においては、Y社の状況や支払意思などの具体的な事実関係に応じていずれかの時効中断事由に該当する措置を執ることになります。

解説

時効の中断とは

 時効の中断とは、時効期間進行中に時効の基礎となる事実状態の継続が破られたことを理由に、それまで進行してきた時効期間を時効完成にとって全く無意味なものにするものです
 時効の中断事由として、民法147条には、①請求、②差押え、仮差押または仮処分、③承認が定められています。
 中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始めることになります(157条1項)。

請求とは何か(民法147条1号)

 民法147条1号に定められている「請求」は、時効の中断事由を抽象的・包括的に示すものにすぎず、「請求」に該当する具体的事由は、149条~153条に挙げられている以下の5つのものです。

請求の具体的事由 根拠
① 裁判上の請求 民法149条
② 支払督促 民法150条
③ 和解および調停の申立て 民法151条
④ 破産手続参加等 民法152条
⑤ 催告 民法153条

裁判上の請求とは(民法149条)

 裁判上の請求とは、民事訴訟における訴えの提起のことです。給付の訴え(ex.金銭の支払いを求める訴え等)の提起が典型例です。この他、確認の訴えの提起反訴の提起債務者からの債務不存在確認訴訟に対する債権者の訴え棄却を求める応訴も、裁判上の請求に該当するとされています。裁判上の請求の時効中断の効果は、訴状を裁判所に提出した時点で生じます。
 なお、裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始めます(157条2項)。

支払督促とは(民法150条)

 支払督促とは、金銭その他の代替物または有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について、簡易裁判所の裁判所書記官に申し立て、裁判所書記官によって発せられるものです民事訴訟法382条以下)。ただし、債権者が仮執行の宣言の申立ができる時から30日以内に申立をしないときは、支払督促の効力は無くなります(民事訴訟法392条)。その場合、時効中断の効果も生じません(民法150条)。

和解および調停の申立てとは(民法151条)

 和解の申立てとは、民事訴訟法275条に規定される訴え提起前の和解の申立てのことです調停の申立てとは、民事調停の申立てまたは家事調停の申立てのことです。ただし、和解および調停の申立ては、相手方が裁判所に出頭しない場合や和解または調停が整わない場合には、1か月以内に訴えを提起しなければ、時効中断の効果は生じません(民法151条)。

破産手続参加等とは(民法152条)

 破産手続参加等とは、破産手続参加・再生手続参加・更正手続参加のことであり、債務者の破産手続・再生手続・更正手続において、債権者がそれぞれ破産債権の届出・再生債権の届出・更正債権の届出を行うことを指します。ただし、債権者が届出を取り下げたり、届出が却下されたりした場合には、時効中断の効果は生じません(民法152条)。

催告とは(民法153条)

 催告とは、権利者が義務者に対して義務の履行を求める意思の通知をいいます。債権者が債務者に対して債務の履行の請求を行うことが典型例です。方式は特に決まっておらず、口頭で行ったとしても催告になります。
 もっとも、後々争いになった場合に催告を行ったことを容易に立証できるようにしておくため、債務の履行を求める書面を配達証明付きの内容証明郵便で送付する形で行うことが一般的です。催告の効果は、意思の通知が相手方に到達した時点で生じます。

催告によって時効中断の効果を生じさせるためには?

 催告は、これだけでは確定的には時効中断の効果は生じません。時効中断の効果が生じるためには、催告をした後、6か月以内に裁判上の請求、支払督促の申立、民事調停法もしくは家事事件手続法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更正手続参加、差押え、仮差押えまたは仮処分をする必要があります(民法153条)。
 この意味で、催告は、時効完成日を6ヶ月だけ先送りにして時間的猶予を与えるという暫定的な効果しか有していないことになります。

時効中断によっていつまで時効完成日を先送りすることができるか?

 なお、設例において平成28年7月31日に催告を行った場合、時効完成日は平成28年1月31日まで先送りされることになります。この場合において、平成28年1月31日に再度催告を行って更に6か月時効完成日を先送りにすることは認められません(最高裁平成25年6月6日判決・民集67巻5号1208頁)。
 催告による時効完成日の先送りという効果はあくまで 1回限りです。

差押え、仮差押えまたは仮処分とは(民法147条2号)

 差押えとは、強制執行手続の中で、執行機関が債務者の財産の処分を禁止し、その財産を確保する行為のことです民事執行法45条1項等)。
 仮差押え民事保全法20条以下)と仮処分民事保全法23条以下)は、将来の強制執行による債権の実現や、契約取消し後の給付物の返還請求権を保全するために、債務者等の財産の現状を維持すべく、その財産の処分を暫定的に禁じるなどの措置を講じる手続です
 差押え、仮差押えまたは仮処分が、権利者の請求によりまたは法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力は生じません(民法154条)。

承認とは(民法147条3号)

 承認とは、時効の利益を受けるべき者(ex.債務者等)が、時効によって権利を失うべき者(ex.債権者等)に対して、その権利の存在を認識している旨を表示することです。方式は特に決まっておらず、権利が存在することの認識を示す行為は全て承認となります。例えば、利息の支払は元本の承認となりますし、債務の一部弁済は残債務についての承認となります。

設例の場合、時効中断措置は何を選択するべきか

 以上のとおり、時効の中断事由およびそれに対応する時効中断措置には様々なものがあります。そこで、実際に時効中断措置を行う場合には、事実関係に即してこれらの中から選択して行うことになります。

 設例においても、仮にX社が支払意思はあるが資金繰りが苦しく支払が難しいという場合であれば、債務承認書を差し入れてもらったり、一部弁済を受けたりするなどして、「承認」による時効中断を第一に考えることになるでしょう。というのも、 「承認」は債務者の協力を得られる場合、他の時効中断事由に比べて最も簡易で、費用もかからないためです。
 もっとも、Y社の協力を得られない場合や、Y社の代表者が行方不明である場合など、Y社の「承認」を得ることができない場合には、「請求」による時効中断を考えることになります。

請求の一種として催告を行う場合の留意点

 この場合「請求」の一種としての催告には注意が必要です。上述のとおり、催告は履行を求める書面を配達証明付きの内容証明郵便で送付する形で行うことが一般的です。
 もっとも、催告を行ったといえるためには、送付した書面が相手方に到達することが必要です。
 すなわち、設例において、送付した催告書が不在による保管期間満了によって返戻された場合は、原則として催告の効果が生じず、結局、他の時効中断措置を執る必要が生じます。
 特に、時効中断措置を実施するのが時効期間満了のギリギリになった場合に、催告を選択すると、相手方に催告書が到達しなかった場合に、他の時効中断措置を執る前に時効が完成してしまうという事態が起こり得ます。
 したがって、時効期間満了が迫っている場合は、催告以外の時効中断措置(訴訟提起など)を行うことが原則になります

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