広告・パンフレットの記載に消費者契約法の不当勧誘規制が適用されるか

取引・契約・債権回収
古川 昌平弁護士 吉村 幸祐弁護士

 当社は、先日、オペラ公演を主催しました。この公演では、オーケストラの指揮者として世界的に有名なX氏を指揮者とすることを目玉にしようと考え、その前提でX氏の所属する劇団と何度か折衝していました。劇団からは指揮者をX氏とするという確答は得ていなかったのですが、目玉と考えていたので、「指揮者はX氏」「国際的に活躍するX氏による、一夜限りのスペシャル講演」と大きく記載した公演パンフレットや広告を作成し、配布しました。

 しかし、公演直前になって、折衝していた劇団から、X氏ではなくY氏を出演させる旨の連絡を受けました。当社としては十分交渉し、やれることはすべてやったのですが、残念ながら拒絶され、実際にはX氏ではなくY氏が出演することになってしまいました。

 その後、X氏の指揮を特に楽しみにしていたお客様の一部から、パンフレットや広告に書いていることと違う、オペラ鑑賞契約の申込みを取り消すので代金を返金してほしいという連絡を受けました。このような公演パンフレットや広告をしたことにより、消費者契約法に基づき契約の申込みを取り消せると判断される可能性はあるのでしょうか。

 消費者契約法は、事業者が、「勧誘をするに際し」、重要事項について事実と異なることを告げたこと等の所定の要件を満たす場合、消費者は、その契約の申込み・承諾を取り消すことができると定めています(消費者契約法4条1項1号)。
 この「勧誘」にパンフレットや広告が含まれるかという点については争いがありましたが、最高裁判所は、不特定多数の者に向けられた働きかけであるということをもって一律に「勧誘」に含まれないとする見解を否定するに至りました(最高裁平成29年1月24日判決・民集71巻1号1頁)。

 したがって、上記最高裁判所は不特定多数に向けた働きかけのうちどういう場合が「勧誘」に含まれるのかについては明らかにはしていないものの、本件の公演パンフレットや広告について、重要事項につき事実と異なることが記載されており、オペラ鑑賞契約の申込みを取り消せると判断されるおそれがあります(消費者契約法4条1項1号)。

解説

はじめに

債務不履行責任を問われる可能性はある

 上記設例では、オペラの指揮者がX氏であることやX氏が国際的に活躍するオペラ指揮者であること等が公演パンフレットや広告により宣伝されており、顧客としてはX氏が指揮をすることを前提にオペラ公演チケットを購入すると考えられます。
 このため、上記設例において、顧客からは、指揮者をX氏としたオペラを上演しなかったことを理由に、債務不履行責任の追及を受ける可能性があると考えられますが、以下では、消費者契約法に基づく契約申込みの取消しの可否について説明します。

不実告知による取消しの要件とは

 消費者契約法は、事業者が「勧誘をするに際し」、「重要事項について事実と異なることを告げ」、消費者が「当該告げられた内容が事実であるとの誤認」をした結果、契約の申込み・承諾の意思表示をしたとき、消費者は、その申込み・承諾を取り消すことができると定めています(消費者契約法4条1項1号。詳細は「消費者契約法による取消しの対象となる、不実告知とは」をご覧ください)。

不実告知による取消しの要件

 上記設例では、そもそも「勧誘をするに際し」という要件を満たすか否かが問題となりますので、後記2で説明します。
 なお、消費者契約法は、不実告知による取消しのほか、断定的判断の提供による取消し(4条1項2号)、不利益事実の不告知による取消し(同条2項)を規定していますが、いずれについても「勧誘をするに際し」という要件を設けており、後記2はそれらの取消しについても当てはまります。

消費者契約法の規定する取消し

(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第4条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 (略)
2 • 3 (略)
4 第1項第1号及び第2項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
二 (略)
5 (略)

「勧誘をするに際し」の要件を満たすか

「勧誘」とは何か

 消費者契約法の「勧誘」について、同法上には定義規定は置かれておらず、一般には、「消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の勧め方をいう」(消費者庁消費者制度課編『逐条解説消費者契約法〔第2版補訂版〕』〔商事法務、2015年〕109頁)とされています。

広告等は「勧誘」に含まれるか

 それでは、上記設例における広告の配布のように不特定多数の者に対する働きかけ(他には、商品の陳列や約款の店頭掲示といったものも考えられます。)は、「勧誘」に含まれるのでしょうか

(1)最高裁判所による新たな判断

 この点については、従前、「含まれる」という見解と「一律に含まれない」という見解が対立していましたが、最高裁判所は、適格消費者団体(適格消費者団体のイメージは「【連載】施行直前!消費者裁判手続特例法の概要と実務上の注意ポイント第1回 日本版クラスアクションか?制度の全体像を探る」の2-2をご覧ください)による差止請求の対象となる不当な勧誘行為を基礎づける「勧誘をするに際し」(消費者契約法12条1項・2項)の要件について、次のとおり判断しました(最高裁平成29年1月24日判決・民集71巻1号1頁〔以下「本判決」といいます〕)。

  1. 「『勧誘』について法に定義規定は置かれていないところ、例えば、事業者が、その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは、当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得るから、事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を上記各規定にいう「勧誘」に当たらないとしてその適用対象から一律に除外することは、上記の法の趣旨目的に照らし相当とはいい難い。」

  2. 「したがって、事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても、そのことから直ちにその働きかけが法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たらないということはできないというべきである。
    (ただし、差止請求の対象となった被告がチラシ配布を「現に行い又は行うおそれがある」ということはできないことを理由に、差止請求を棄却した高裁判決は維持されました)

 消費者契約法12条1項・2項は、同法4条1項から3項までに規定する不当な勧誘行為の差止請求に関する規定ですので、同法12条1項・2項の「勧誘をするに際し」についての本判決は、4条1項から3項までにおける「勧誘をするに際し」にも妥当すると考えられます。

 なお、本稿執筆時点における消費者庁消費者制度課編の逐条解説では、「不特定多数向けのもの等客観的にみて特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結の意思の形成に直接に影響を与えているとは考えられない場合〔例えば、広告…(略)…パンフレット…(略)〕は『勧誘』に含まれない」と記載されていますが(前掲『逐条解説消費者契約法〔第2版補訂版〕』109頁)、最高裁判所は、これと異なる見解を採用するに至りました。

(2)本判決の射程

 本判決は、「不特定多数の消費者に向けられた」働きかけであることからただちにその働きかけが「勧誘」に当たらないということはできない、という判断をしたものの、不特定多数に向けられた働きかけのうちどういうものが「勧誘」に該当するかは明らかにはしていません。この点は、今後の裁判例の集積が待たれるところです。

 しかし、「例えば、事業者が、その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは、当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得る」という判示部分を踏まえると、事業者としては、本判決が例示している 「消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告」をはじめ、「働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与える」と思われるような広告等については、「勧誘」に該当する可能性があることを踏まえて行動すべきと考えられます。

(3)上記設例においてどう考えるか

 以上のとおり、上記設例について本判決をもってただちに「勧誘をするに際し」に該当するとまではいえませんが、「勧誘をするに際し」に該当しないとは言い切れない状況にあります。
 したがって、不特定多数の者に向けた広告等を用いたことのみをもって消費者契約法によりその契約の申込み・承諾が取り消されることはあり得ない、といった前提に立つことは避けるべきです。

補足:本判決の影響について

 広告等は「勧誘」に一律に含まれないとの見解を否定した本判決が与える影響は、決して小さくないと考えられます。  

(1)広告等の内容を従前に比してより慎重に検討する必要性

① 差止請求が増加する可能性

 まず、少なくとも、「不特定多数の消費者に向けられた」働きかけであることからただちにその働きかけが「勧誘」に当たらないという考え方は明確に否定されましたので、今後、適格消費者団体が、チラシやウェブサイトの商品紹介ページといった広告について、景品表示法の禁止する不当表示に該当するというだけでなく、消費者契約法の不実告知に該当するということを理由に差止請求する事態が増加するものと考えられます。

② 集団訴訟が提起される可能性

 さらに、事業者が広告等に「重要事項について事実と異なること」を記載した場合には、特定適格消費者団体から、多くの消費者がそれによって誤認をして消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたということを理由に、当該意思表示の取消しに伴う既払代金の返還請求を対象とした(「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」に基づく)共通義務確認の訴え提起を受けるリスクを負うことになります(共通義務確認の訴えについての詳細は「【連載】施行直前!消費者裁判手続特例法の概要と実務上の注意ポイント第1回 日本版クラスアクションか?制度の全体像を探る」をご覧ください)。

 この点に関し、事業者が景品表示法の禁止する優良誤認表示や有利誤認表示を行った場合には、(「勧誘をするに際し」が満たされるとすると)消費者契約法の不実告知に該当する余地があります。したがって、消費者庁が優良誤認表示や有利誤認表示を理由に措置命令や課徴金納付命令を行った事案については、その後適格消費者団体が上記共通義務確認の訴えを提起する可能性は相応にあると考えられます。

 訴訟の帰趨のみならず、共通義務確認の訴えを提起されたこと自体のレピュテーションリスクも踏まえますと、事業者としては、広告等の内容を従前に比してより慎重に検討する必要があると考えられます。

(2)有事における事後対応として「返金措置」を検討すべき必要性

 また、事後対応にも影響が生じると考えられます。平成28年4月1日から運用が開始されている景品表示法の課徴金制度においては、事業者が所定の手続に沿って同法の定める「返金措置」を実施した場合に課徴金額を減額することとされています(景品表示法10条11条。詳細については「28年4月スタート!景品表示法の課徴金制度」をご覧ください)。
 この「返金措置」における金銭交付の性格は限定されていませんので(原山康彦=古川昌平=染谷隆明『詳説 景品表示法の課徴金制度』〔商事法務、2016年〕91頁)、事業者としては、優良誤認表示や不実告知に該当することを認識した後、消費者契約の申込みや承諾の意思表示が取り消され得ることを視野に入れ、既払代金の返還の趣旨と明示した上で景品表示法所定の手続に沿って「返金措置」を実施し、共通義務確認の訴えが提起されることを回避するとともに課徴金の減額を試みるということも選択肢としては検討すべきものとなると考えられます。

「重要事項について」「事実と異なることを告げること」を満たすか(不実告知)

事例の検証

 「重要事項」や「事実と異なること」の詳細については、「消費者契約法による取消しの対象となる、不実告知とは」をご覧ください)。

 上記設例についてみると、まず、オペラコンサートにおいて誰が指揮をするかは当該コンサートの内容に大きくかかわり、消費者にとってそのオペラを観に行くかの判断にとって通常影響を及ぼし、「重要事項」にあたり得ると考えられます。
 また、実際は、X氏による指揮について確答を得ていなかったのですから、X氏が指揮することが確定的であるかのような記載は、「事実と異なること」にあたります。
 これは消費者が自ら立証する必要があります。通常、消費者が重要事項について「事実と異なること」を立証することは必ずしも容易ではありませんが、上記設例においては、消費者がオペラ劇団に対して照会し、事実を把握することで立証できる可能性はあります。
 したがって、その公演パンフレットや広告をみて消費者が誤認したという場合には(これも消費者が自ら立証する必要があります)、不実告知として、消費者契約法に基づき取り消されるおそれがあります

不実告知に該当しないとした裁判例

 なお、上記設例と類似の事案において、パンフレット等には「出演者、指揮者はやむをえない事情により変更になる可能性(場合)がございます。」との記載があり、指揮者がやむを得ない事情により変更される可能性があることを明示していたこと等を理由に、重要事項について事実と異なることを告げたわけではない、と判断した裁判例があります(東京地裁平成20年7月29日判決・判タ1291号273頁)。
 重要事項について変更可能性があるのであれば、その広告等において、変更可能性がある旨をあらかじめ明示することを検討する必要があると考えられます。

おわりに

 以上のように、上記最高裁判所判決を前提とすると、不特定多数の者に対する広告であっても消費者契約法の不当勧誘規制が適用され得ることになりますので、不当な勧誘行為に該当しないよう工夫することが重要といえます。

 その他、消費者契約法の問題とは別に、上記設例のような公演パンフレットや広告が、適切な打消し表示を伴うものでなく(「打消し表示」については「強調表示で景品表示法違反とならないために注意することは」をご参照ください)、一般消費者が表示と実際が異なることをあらかじめ知っていたら、取引に誘引されることはなかったであろうと認められる程度の誇張・誇大を含む場合、景品表示法の優良誤認表示(景品表示法5条1号)に該当する可能性があることにもご留意ください(「優良誤認表示」については「優良誤認表示として規制されるのはどのような表示か」をご参照ください)。

初版:2016年8月10日(PDF)

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