民法改正が債権譲渡に与える影響

取引・契約・債権回収
矢田 悠弁護士

 平成29年の民法改正によって、債権譲渡にはどのような影響があるのでしょうか。

 主に、譲渡制限特約、債権譲渡と相殺、将来債権の譲渡について取り扱いが変更となっています。

 譲渡制限特約については、改正によって「譲渡制限の意思表示」(譲渡制限特約)に反する債権譲渡も有効であるとされたうえで、債務者は、譲渡制限特約について悪意または重過失の譲受人その他の第三者に対しては、債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務の消滅事由をもって当該第三者に対抗できるとされました。

 債権譲渡と相殺については、債権の譲渡人に対する債務者の反対債権が、①債務者対抗要件具備時より前に債務者が取得した債権、②債務者対抗要件具備時より「前の原因」に基づいて債務者が取得した債権、③譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権のいずれかである場合、債務者は、当該反対債権による相殺を譲受人に対抗できるものとされました。

 将来債権の譲渡については、将来債権の譲渡が有効であることおよび将来債権譲渡についても対抗要件具備が可能であることが改正によって明文化されました。また、将来債権譲渡後の譲渡制限特約の効力についても規定されています。

解説

※本QAの凡例は以下のとおりです。

  • 改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正後の民法
  • 改正前民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正前の民法

譲渡制限特約

改正の概要

 改正前は、債権は原則として譲渡が可能であるとしつつ(改正前民法466条1項本文)、譲渡禁止特約に違反した債権譲渡は、譲受人が特約の存在につき悪意または重過失の場合には、無効と解されていました。

 改正法は、改正前の取扱いを改めて「債権の譲渡を禁止し、または制限する旨の意思表示」(以下「譲渡制限特約」という)に反する債権譲渡も有効であるとしたうえで(改正民法466条2項)、債務者は、譲渡制限特約について悪意または重過失の譲受人その他の第三者に対しては、債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務の消滅事由をもって当該第三者に対抗できるとしました(改正民法466条3項)。

改正法の具体的な影響

(1)債務者と悪意・重過失の譲受人の関係

 上記1-1のとおり、債務者は、譲受人に対して履行を拒むことができますし、拒んだとしても履行遅滞に陥ることもありません。
 ただし、債務者が、譲渡人に対して、「譲受人に対して支払うから、あなた(譲渡人)には支払わない」と発言して履行を拒絶した場合など、履行を拒絶する際の態様によっては、債務者が譲渡制限特約の存在を理由とする履行拒絶権を放棄したと認めることが可能な場合はあり得ます。

 また、債務者は、悪意・重過失の譲受人に対して、履行を拒むことが「でき」るにすぎませんので、悪意・重過失の譲受人であっても、債務者が譲受人に任意に弁済を行う場合にはその弁済を受領することができます。しかし、債務者が任意の弁済を拒絶する場合、悪意・重過失の譲受人は、債務者に対して、直接、譲受人自身への履行を請求することはできません。

 なお、譲受人は、債務者に対して譲渡人への履行を、相当期間を定めて催告することができ、その期間内に履行がない場合には、改めて譲受人が債務者に対して直接、譲受人自身に対する履行を請求することができます(改正民法466条4項)。

(2)譲受人が悪意・重過失の場合の債務者と譲渡人の関係

 改正民法466条3項が「譲渡人に対する弁済」をもって債務者が悪意・重過失の譲受人に対抗できるとしていることの裏返しとして、譲受人が悪意・重過失の場合、譲渡人は、債務者が任意に弁済を行う場合にはその弁済を受領することができると解されます。
 しかし、譲渡人は、すでに債権を譲渡してしまった以上、債務者に対して積極的に譲渡人自身への履行を請求することはできません。

(3)弁済を受けた譲渡人と悪意・重過失の譲受人の関係

 債務者が譲渡人に任意に弁済を行った場合、譲受人は、譲渡人に対して弁済金相当額の引渡しを求めることができます。

(4)まとめ

 以上の点をまとめると、次の図のとおりです。

改正法下の譲渡制限特約付債権の取扱い(悪意・重過失の場合)

預貯金債権の例外

 以上の改正は、預貯金債権については適用されず、改正前同様、譲受人が譲渡禁止特約を知り、または重過失により知らなかった場合、当該譲受人との関係で譲渡は無効になるとされました(改正民法466条の5第1項)。預貯金債権の債務者である金融機関は、多くの顧客に対して迅速に払戻しを行う必要があるため、改正民法の規律を妥当させると円滑な払戻業務に支障を来すと考えられたことから、このような例外的な取扱いが行われたものと考えられます。

債権譲渡と相殺

改正の概要

 改正法は、債権の譲渡人に対する債務者の反対債権が以下のいずれかである場合、債務者は、当該反対債権による相殺を譲受人に対抗できるものとしました(改正民法469条1項、2項)。

  1. 債務者対抗要件具備時より前に債務者が取得した債権
  2. 債務者対抗要件具備時より「前の原因」に基づいて債務者が取得した債権
  3. 譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権

(1)債務者対抗要件具備前に債務者が取得した債権(上記①の債権)

 改正前は、債権が譲渡された場合、債務者は、「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」をもって譲受人に対抗できることとされていました(改正前民法468条2項)。しかし、この「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」の要件の意義は不明確でした。

 そのため、たとえば、AのBに対する債権をCに譲渡した後に、BがAに対して、当該譲渡債権(受働債権)とBのAに対する債権(自働債権)との相殺を主張したという事例で、債務者対抗要件の具備時点で既に相殺適状にある必要があるという見解や、自働債権の弁済期が受働債権の弁済期よりも先に到来する場合に限られるという見解が主張されていました。

 この点に関し、判例(最高裁昭和50年12月8日判決・民集29巻11号1864頁)は、債権譲渡の債務者対抗要件が具備される時までに債務者が自働債権を取得している場合、自働債権と受働債権の弁済期の先後を問わず相殺を対抗することができるという、いわゆる無制限説を採用したといわれていましたが、学説の批判も強いところでした。

 改正法は、債務者対抗要件の具備前に債務者が取得した債権(上記①の債権)を自働債権とする場合、権利行使要件の具備時に相殺適状にあることや、自働債権の弁済期が受働債権の弁済期よりも先に到来することを要件とすることなく、当該反対債権による相殺を譲受人に対抗できるものとし(改正民法469条1項)、債権譲渡と相殺の関係一般について無制限説の立場を採用することを改めて明確にしました。

(2)債務者対抗要件具備時より「前の原因」に基づいて債務者が取得した債権(上記②の債権)

 また、改正法は、旧法から一歩進んで、債務者対抗要件具備後に債務者が取得した債権であっても、債務者対抗要件具備時より「前の原因」に基づいて取得した債権(上記②の債権)を自働債権とする場合、当該反対債権による相殺を譲受人に対抗できるものとしました(改正民法469条2項1号)。

(3)譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権(上記③の債権)

 さらに、将来債権の譲渡が広く行われるようになっている実態を踏まえ、将来債権の債務者の相殺の期待を保護する必要性が高いという考慮に基づき、債務者対抗要件具備後に債務者が取得した債権であっても、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権(上記③の債権)を自働債権とする場合、当該反対債権による相殺を譲受人に対抗できるものとしました(改正民法469条2項2号)。

 なお、改正民法は、債権者の債権を第三者が差し押えた場合について、債務者に、上記①の債権や上記②の債権に相当する反対債権による相殺を認めていますが、上記③の債権による相殺までは認めていません(改正民法511条1項、2項)。債権者が第三者から差押えを受ける場面では、債権者は事業停止などの窮境にあることも多いものと思われますが、債権者(譲渡人)が債権を譲渡する場面では、そのようにはいえず、債権譲渡後も債権者(譲渡人)と債務者との間で取引が継続することが想定されるため、差押えと相殺の場合よりも債務者の相殺の期待を広く保護する必要性が高いと考えられたため、このような差異が設けられています。

(4)例外

 もっとも、債務者が債務者対抗要件の具備時より後に他人の債権を取得したことで反対債権を有するに至った場合には、そのような債務者の相殺に対する期待は法的保護に値しないため、当該他人の債権が債務者対抗要件具備時より「前の原因」に基づいて生じたものであっても、また、「譲受人の取得した債権の発生原因である契約」に基づいて生じたものであっても、当該他人から取得した債権を自働債権として相殺を対抗することはできません(改正民法469条2項ただし書)。

改正法の具体的な影響

 どのような債権が、債務者対抗要件具備時より「前の原因」に基づいて債務者が取得した債権(上記②)や、「譲受人の取得した債権の発生原因である契約」に基づいて生じた債権(上記③)に該当するかは、解釈に委ねられていますが若干の例をあげれば以下のとおりです

 賃貸人から将来の賃料債権の譲渡を受けた譲受人は、対抗要件具備後に賃借人が賃貸人に対して有することとなった必要費償還請求権による相殺を対抗されるものと考えられます。これは必要費償還請求権が譲受人の債務者対抗要件具備時より「前の原因」である賃貸借契約に基づいて賃借人が取得した債権であるためであり、改正民法469条2項1号の適用場面ということになります。

 他には、譲受人の債務者対抗要件具備時より前の不法行為により対抗要件具備時後に損害が発生することで債務者が取得する譲渡人に対する損害賠償請求権や、譲受人の債務者対抗要件具備時より前に締結された保証契約に基づき対抗要件具備時後に保証債務を履行することにより債務者が取得する譲渡人に対する求償請求権なども改正民法469条2項1号に該当すると考えられます。

 賃料債権の(担保)価値を評価するにあたり、改正前は、通常、賃借人が有する既発生の反対債権による相殺の可能性のみを考慮すれば足りていたと思われますが、改正法により、上記②および③の各債権による相殺の可能性についても考慮する必要が生じた点に留意が必要です。具体的な対策としては、上記②および③の各債権の不存在を表明保証条項の対象とすること等があげられます。

 また、将来の売買代金債権の譲渡に対して、その後に締結した個別の売買契約の目的物に瑕疵があったことに基づく損害賠償請求権の相殺が主張される場合、この損害賠償請求権は、「譲受人の取得した債権の発生原因である契約」に基づいて生じた債権なので、改正民法469条2項2号に基づき相殺を対抗することができるものと考えられます。

将来債権の譲渡

 改正前は、将来債権の譲渡に関する規定はありませんでしたが、判例(最高裁平成11年1月29日判決・民集53巻1号151頁最高裁平成19年2月15日判決・民集61巻1号243頁)は、将来債権の譲渡の有効性を認めていました。そこで、改正法は、将来債権の譲渡が有効であることおよび将来債権譲渡についても対抗要件具備が可能であることを明文化しました(改正民法466条の6第1項、第2項、467条1項)。

 また、改正前は、将来債権譲渡後の譲渡制限特約の効力について見解が分かれていましたが、改正法は、対抗要件具備時までに譲渡制限特約がなされた場合、譲受人は当該特約について悪意であったとみなされ、債務者は債務の履行を拒むこと等ができるとしました(改正民法466条の6第3項)。

コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから
  • facebook
  • Twitter

関連する特集