検索結果の削除に最高裁が初の判断 判断のポイントと今後の影響は

IT・情報セキュリティ
日置 巴美弁護士

( Denis Linine / Shutterstock, Inc. )

 1月31日、過去に逮捕歴のある男性が、インターネット検索サイト「グーグル」の検索結果から、検索結果に表示される自分の逮捕歴に関する情報の削除を求めた仮処分命令申立事件において、最高裁は検索結果の削除を認めない決定をした。

 検索結果の削除について最高裁が初の判断を示したことで話題となったが、判断の内容はどのようなもので、今後、企業にはどういった影響があるのだろうか。
 高裁決定に引き続き、内田・鮫島法律事務所の日置 巴美弁護士に聞いた。

【裁判の経緯】

裁判年月日 概要
検索結果の削除について 忘れられる権利について
さいたま地裁決定 平成27年12月22日 検索結果の削除を認める
→更生を妨げられない利益の受忍限度を超えた侵害を認める。

忘れられる権利に言及
→(犯罪の性質にもよるとしつつ)ある程度の期間の経過後は、過去の犯罪を社会から『忘れられる権利』があるとする。
東京高裁決定 平成28年7月12日 検索結果の削除を認めない
→削除を求める者の受ける権利利益と、インターネットの活用によって支えられる表現の自由と知る権利を比較衡量
忘れられる権利は法的に定められたものではない
→権利としての要件・効果が不明確,プライバシー侵害等から独立した判断不要
最高裁判所第三小法廷決定 平成29年1月31日 検索結果の削除を認めない
→プライバシーに属する事実を公表されない法的利益と検索結果を提供する理由等の諸般の事情を比較衡量し、削除を認めず。
忘れられる権利に言及していない

参考:高裁決定の解説「あなたの過去は、一生消されない? 「忘れられる権利」の最新動向を追う

最高裁はどのような判断を示したか

最高裁判決の内容について教えてください。

 最高裁は、インターネットの検索結果(ウェブサイトのURL、表題、抜粋)の削除について初めて判断を示しました
 最高裁決定で注目すべきは、以下の3点になります。

① 検索結果の提供が、検索エンジン運用者の表現行為であると認めたこと
② 表現行為そのものへの制約に加え、インターネット検索エンジンの社会的役割に言及したこと
そのうえで、
③ ある者のプライバシーに属する事実を含むウェブサイトの検索結果を削除が求められるか否かは、この事実を公表されない法的利益とこのウェブサイトの検索結果を提供する理由に関する諸般の事情を比較衡量するとしたこと

 特に、③の判断枠組みが示されたこと自体が重要といえます。

①の「検索結果の提供が、検索エンジン運用者による表現行為であると認めた」判断にはどういう意義があるのでしょうか。

 地裁決定や同種事案でのグーグル等検索エンジン運用者の主張のポイントであった「自らは表現者ではなく、検索結果は自動的かつ機械的に生成されるものであって、表現者が発信する情報を媒介しているに過ぎない」という点が否定されたといえます。
 この判断については、検索エンジン運用者は、単なる情報を媒介する者ではなく、表現者として、プライバシー等を理由とした削除請求を受け得ること、これに対応しなければならないことが明らかとなった点に意義があります。また、表現行為に対する損害賠償請求等についても同様でしょう。

②の「表現行為そのものへの制約」、「インターネット検索エンジンの社会的役割」という点について詳しく教えてください。

 検索結果の表示という表現行為の要保護性について、検索結果の削除が、( ⅰ )検索エンジンが、検索エンジン運営者の方針に沿った結果が表示されるよう情報収集、整理、提供を行っているところ、その方針に沿った一貫性のある表現行為の制約であること、( ⅱ )誰もがインターネット上に情報発信し、また、膨大な情報の中から必要な情報を簡易に入手できるという、インターネット上のインフラとしての検索エンジンの社会的役割に対する制約となること、が指摘されています。
 この点の特色は、( ⅱ )で、表現者の権利利益のみならず、多数の者の権利利益に影響することが示されているところです。新聞、テレビ等のマスメディアと同じく、表現媒体としてのインターネット、検索エンジンの役割が大きいという考えが前提とされており、興味深いです。
 このような考え方が示されたことを受けて、個別事案の削除について、裁判所は厳しい判断に流れやすくなるのではないかという懸念があります。

それでは、重要とされた③の判断の枠組みについて詳しく教えてください。

 検索結果の削除が認められるか否かについて、以下の3類型・6要素が示されています。

類型 要素
(ⅰ) 被侵害利益の重要性 ある者のプライバシーに属する事実の性質及び内容
(ⅱ) 侵害の程度 検索結果が提供されることによってその事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度
(ⅲ) 表現行為の必要性・相当性 その者の社会的地位や影響力
その事実を含むウェブサイト・記事等の目的や意義
その記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化
記事等においてその事実を記載する必要性

 ( ⅰ )、( ⅱ )の類型は、削除を求める者に関するものであって、この者のプライバシー等に属する事実を公表されない法的利益に関する要素が示されています。また、( ⅲ )の類型は、検索エンジン運営者側に関するものであって、検索結果を提供する理由に関する要素が示されています。

この要素がどのように判断されるのでしょうか。

 個別事案におけるこれらの要素に関する具体的な事情の比較衡量によって、検索結果を表示することが違法であるか否かを判断するとの基準が示されました。そして、比較衡量の結果、公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索結果の削除が認められるとされています。
 今回の決定では、児童買春をしたという被疑事実に基づく逮捕の事実がプライバシーに属するとしつつも、児童に対する性的搾取・虐待という社会的に強い非難の対象となる犯罪の逮捕事実であって今なお公共の利害に関する事項であること、居住県と氏名を条件とした場合の検索結果の一部であってその事実の伝達範囲が限定されていることを重視し、削除が認められる法的利益が優越することが明らかであるといえないとして、削除が認められないとされました。

最高裁で要素が示されたことは大きな意義があると感じます。

 削除が認められるか否かは個別事案ごとに判断されることとなりますが、今回の判断が1つの目安となります。たとえば、著名人でない者の検索では、その者に関係する複数のキーワードを用いなければ、その者のプライバシーに属する事実を含む検索結果は表示されないことが通常だと思います。そうなると、侵害の程度が高いと言われる場面は限られてくるため、判断においては、その他の要素の比重が高まることとなります。

 とはいえ、プライバシーに属する情報は非常に幅広いものですし、また、表現行為の必要性・相当性についても個別事案ごとに相当の幅がありますので、決定で示された基準に当てはめてどのような場合に削除が認められるのかは、なお今後の事例の蓄積を待つ必要があります。

検索結果の削除はできるのか

今後、検索結果の削除は困難になるのでしょうか?

 今回示された判断枠組みは、被侵害利益の重要性、侵害の程度、表現行為の必要性・相当性といった諸事情を比較衡量し、公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に削除が認められるとするものであって、検索結果の削除について決して低くないハードルが設けられたと言えます。これに照らせば、今後の個別事案についても削除は容易ではないと考えています。
 とはいえ、今回の決定を削除に慎重なものと捉えた検索エンジン運営者の反応から、現在の削除対応の運用をただちに変更することはないものと予想されます。その意味で、削除が現状よりも困難になるとは言えないでしょう。

 他方、今回判断枠組みが示されたことによって、個別事案の蓄積を待ちつつ、削除が認められる類型・そうではない類型が明確化されていく中で、削除ルールが確立され、スムーズな削除依頼・対応が実現されることが期待されます。

忘れられる権利の議論はどうなるか

今回の判決では忘れられる権利には触れられませんでしたが、この点はどう考えますか?

 高裁と同様の認識の下、今回の判断枠組みが示されたものと思われます。
 いわゆる忘れられる権利が、パーソナルデータが収集された目的にとって不要となった際にそのデータを完全に消去してもらう権利ともいわれる多義的なものであること、新たな権利を認めることなく従来の枠組みを基礎として判断し得ることから、想定内の判断であったと思います。

 これまで、いわゆる忘れられる権利は多義的であるため、立法によって対応しようとする議論がありました。インターネットの検索結果の削除の可否は、この議論の一端に過ぎないものですが、今回の決定から検索結果削除のハードルが高いという空気が醸成されることによって、法制化の検討のみならず、忘れられる権利の議論全般が影響を受けることは否定できません。

 高裁決定の際に、忘れられる権利の必要性についてもコメントしましたが(参考:「あなたの過去は、一生消されない? 「忘れられる権利」の最新動向を追う」)、インターネットが果たす社会的役割が大きいのであればこそ、インターネットに一度流れた情報のコントロールが困難であるというインターネットの特質、その情報によって不当な取扱いを受けるおそれがあることへの事前対応の要否といった、今回の決定とは別の観点からの議論が求められます。
 忘れられる権利という名前にとらわれることなく、広くインターネットの検索結果やそこに連なる情報の削除について議論されることが必要であり、また、議論された結論の具体化は、法制化に限られるものではなく、自主ルールによることでも良いのです。今回の決定によって、議論自体が収束してしまうことが危惧されます。

企業に求められる対応は

検索エンジンの運営会社は今回の判決を踏まえ、どのような対応が求められるでしょうか? また、SNSの運営会社等も留意する点があれば教えてください。

 前述のとおり、検索エンジン運営者は特に削除対応の運用を変更することはないと考えています。また、個別事案の蓄積を待たずに運用変更する必要があるともいえません。その意味では、喫緊の課題はなく、今回の決定を受けて対応を迫られる状況にないと考えます。

 SNSの運営会社についてですが、SNSがインターネット上で表現の発信の場を提供するものであって、その場の提供と利用者の投稿結果の反映が、同社の表現行為であると言えるか疑問があります。検索エンジンと同様の優位性があるのか慎重な検討が必要です。また、SNSについては、その利用者の表現行為そのものの削除につながることから、プロバイダに対する請求と親和性があるように思います。
 その意味で、今回の決定を踏まえて何らかの対応が必要となるものではないと考えます。

今回の決定を受けて対応する必要性はないとしても、検索エンジン運営者は、検索結果削除の運用をどのように進めていくべきでしょうか。

 検索エンジンの提供は、利用者を企図したサービス事業であり、検索エンジン運営者は、サービス提供企業に他なりません。
 検索エンジン運営者には、より良いサービス提供とその環境を整えるために、今回の決定やその判断枠組みにとらわれることなく、検索エンジンの利用者と対話をするなどしつつ、検索結果の削除について、自主ルールを構築することが期待されているのではないでしょうか。

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