「AIはただのコンピュータ」と技術者 人工知能の法務への影響を考えるシンポ

IT・情報セキュリティ

人工知能が法務を変える?」と題したシンポジウムが、11月29日都内で開かれた。
パネルディスカッションでは、大手ソフトウェア会社の技術者や法律関連のITビジネス企業の担当者、弁護士らが、「AI(人工知能)」を活用した法務ビジネスが広がっていく将来の見通しを語った。AIによる仕事の代替性がささやかれる中、「AIという言葉を聞いたら、コンピュータと置き換えて」と、AIの限界を理解したうえで、冷静に向き合うよう呼びかける場面もあった。

「AIは人が置き換わる対象でない」

 シンポは、日弁連法務研究財団と第一東京弁護士会総合法律研究所IT法務研究部会の共催。「AI」は「artificial intelligence(人工知能)」の略称として、近年広く認知されている。パネルディスカッションの参加者からは、「AI」という言葉の使われ方などに対して、違和感を指摘する声が相次いだ。

 マイクロソフトのエンジニアである畠山 大有氏が指摘したのは、AIという言葉への過剰な期待感。畠山氏は、「“知能”という言葉の印象が大きいようで、万能なものだと思われている。企業の担当者と話していると、『ドラえもん』を作ってくれるようなイメージを持っているが、実態はそうではない」とした。畠山氏がAIの弱点としてあげたのは、課題の設定。「AIは課題が明確でないものには、答えを出すことができない」と指摘。「『人工知能』という言葉を『コンピュータ』に置き換えて、何をさせるかを考えれば、(今までと変わらず)自分たちでやれることが見えてくるのではないか」とした。

 外資系企業で、企業内弁護士を務める斎藤 綾氏は「AIや人工知能という言葉が不安をあおるように使われている中で、マインドセットをかえるのが重要だ」と指摘。斎藤氏は「AIはなにか1つのツールであり、自分が置き換わる対象でなく、使いこなして共存していくのが重要だとおもう」と述べた。さらに、「(法律関連で)良いサービスを提供するには、弁護士が関わるしかないと思うので、弁護士が関係していない企業がツールを作るのを待つのではなく、(弁護士が)積極的に関わるようになれば」と話した。

 証拠開示やレビューの支援システムを開発する日本カタリストのトレイシー・グリーンウッド氏も、現在話題になっているAIについて、「artificialという言葉は偽物、食品でいうと加工食品のイメージがある。(近年のAIの進展を表す表現としては、人間の学習能力を機械上での実現を目指す)『機械学習』のほうが正しいのではないか」と発言した。

 レクシスネクシス・ジャパンのヤスジ・メテ氏は、「AIはマーケティングスローガンや(定義があいまいな)バズワードになっていて、わざと消費者に間違ったメッセージを伝えているような企業もあるのではないかと心配になる」と話した。

特許は米中韓で8割以上を占める

 AIを伴う技術発展の中で、日本固有の問題点を指摘する声もあった。畠山氏が指摘したのは、日本のデータ状況。AIは大量の情報を分析することで、機械学習が進む。「日本はデジタル化して公開されているデータが少ない。(現在のままでは)英語圏で得られる恩恵が、日本語を母体とするゆえに受けられない可能性があり、悩ましい」とした。

 自身で離婚相談向けのチャットボットを開発した経験のある高橋 郁夫弁護士はビジネスの観点から、日本の状況を紹介した。世界銀行が、各国におけるビジネスのしやすさの指標として毎年発表している「DOING BUSINESS」の「契約執行(裁判所手続)」の項目で、日本はOECD(経済協力開発機構)加盟国35か国中23位となっている点を紹介。「内閣府が裁判手続きのIT化推進方針について、2017年度中に結論をえる方向性を示しているのは、ポジティブニュース」として、期待を示した。

 メテ氏は、世界におけるリーガルテックの特許の申請件数について、2016年の時点で、米国・中国・韓国の3か国で8割以上占めている点を指摘したうえで、「日本がランキングに入っていない。啓蒙も大事で、日本でもデータがオープンになり、自然言語解析になどに取り組むベンチャー企業に資金が集まるようになれば」と期待を込めた。

「技術が進むほど弁護士の仕事は増える」

 参加者が弁護士業務への影響について語る場面もあった。カタリストでは、ドキュメントレビューにおいて関連性のあるドキュメントを探し出し、レビューの優先度を提示するシステムなどを開発している。グリーンウッド氏は、「技術が進み、データが増えるほど、弁護士の仕事は多くなる。もぐらたたきのようなイメージで、(将来的に)技術を活かせる弁護士が一番強いのではないか」と見通した。

 弁護士の斎藤氏は、弁護士の仕事の質の転換について言及。AIが普及する中では一般的に、ルーチンワークを機械に任せて、戦略的でバリューの高い仕事への発展可能性が指摘されている点に言及したでうえで、「弁護士は、AIを作る仕事や監修・検証する仕事に携わってもよいのではないか」と期待をこめた。

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