SNSでの名誉毀損に対して削除請求や発信者情報開示請求をするための手続

IT・情報セキュリティ
村上 嘉奈子弁護士 劉 セビョク弁護士 鈴木 和生弁護士

 SNS等による書込みで企業が風評被害に合うケースをよく目にします。インターネット上で悪口・批判等を書かれた場合に書込みの削除や、発信者に対して損害賠償等を請求するためにはどのような手続を採ればよいでしょうか。

 書込みの削除をするには、まず SNS等の管理者に対して任意による削除を求めることになります。SNS等の管理者がこれに応じない場合には、「削除請求仮処分」(民事保全手続)の申立てや「削除請求訴訟」の提起を行うことが考えられます。

 発信者を特定し、当該発信者への損害賠償等の請求を行うためには、まず、SNS等の管理者側に対して発信者のIPアドレスの開示を求めることになります。SNS等の管理者がこれに応じない場合は、IPアドレスの開示を求める「発信者情報開示の仮処分」を申し立て、IPアドレスの開示を受けた後は、アクセスプロバイダに対し、「発信者情報消去禁止の仮処分」の申立てや「発信者情報開示請求訴訟」の提起に及ぶことになります。

解説

はじめに

 近時、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やウェブサイト上の掲示板等(以下「SNS等」といいます)が発達し、他者によるSNS等の使用を通じた企業への悪口・批判等によって、企業が風評被害を受け、信頼回復に多くの労力とコストがかかることも少なくありません。企業がSNS等による名誉毀損等への対策を講じておくこと、また、採り得る手段について学習し、備えておくことは、危機管理の観点からも重要です。

 そこで、ここではSNS等でによる違法な書込みに対して採り得る裁判手続について解説します。

違法な書込みに対して採り得る裁判手続

 「SNSでの炎上を防止するために、従業員に対して行うべきこと」で解説するとおり、企業は、従業員がSNS等において違法な書込みを行わないよう十分に留意しなくてはなりません。一方で、企業自身が、自社の従業員を含む第三者によってインターネット上で悪口・批判等を書かれ、風評被害を受けることも少なくありません。

 そのような風評被害を避けるべく、企業の対応としては、当該書込みの削除を請求すること(以下「削除請求」といいます)、あるいは、匿名の書込みであれば、書込みを行った者(以下「発信者」といいます)に対し損害賠償等を請求するために、プロバイダ責任制限法に基づき、当該発信者の情報を開示するようSNS等の管理者やアクセスプロバイダに対し請求を行うこと(以下「発信者情報開示請求」といいます)が考えられます。

 以下では、削除請求や発信者情報開示請求を行う上で採り得る裁判手続について紹介します。

削除請求

 SNS等の管理者(コンテンツプロバイダ)の運用によっては、削除請求フォームを自ら設け、書込み内容によっては任意の削除請求に応じる場合もありますが、「裁判所による公的判断が下されない限り削除請求には応じられない」とのポリシーを採用する管理者も少なくありません。

 SNS等の管理者が任意に削除に応じない場合、削除請求は、裁判手続による必要があり、具体的には、「削除請求訴訟」と、訴訟の前段階として「削除請求訴訟が終了するまでの間、仮で削除しておく」ことを求める手続である「削除請求仮処分」(民事保全手続)の2つが考えられます

(1)削除請求仮処分

 SNS等の管理者は、削除請求を認容する旨の仮処分が下されたことをもって書込みの削除に応じます。上記のとおり、削除請求仮処分は「削除請求訴訟が終了するまでの間、仮で削除しておく」ことを求める手続とされますが、実際には、SNS等の管理者がその後に訴訟での終局的な解決を求めてくる例は稀であり、訴訟よりも短期で裁判所による判断がなされることから、訴訟ではなく仮処分において、当該書込みの削除の可否に関する決着がつくことが多いといえます。

(2)削除請求訴訟

 前述のとおり、裁判上の削除請求には仮処分の利用が一般的ですが、本案訴訟によって削除を求めることも可能です。

 本案訴訟は仮処分よりも長期間を要するとのデメリットがありますが、担保を立てる必要がないことや、抗弁事由の主張立証責任が被告側であることなどがメリットとしてあげられます。

発信者情報開示請求

(1)発信者情報開示仮処分

 SNS等の上の匿名または偽名による書込みの発信者(投稿者)を特定するためには、まず、当該発信者が書込みの際に用いたアクセスプロバイダ(接続プロバイダ)を特定する必要があり、さらには、当該アクセスプロバイダを特定するため、SNS等の管理者側に残る発信者のIPアドレスの開示を管理者(コンテンツプロバイダ)から受ける必要があります

 削除請求と同様、SNS等の管理者によっては、任意のIPアドレスの開示請求に応じる場合もありますが、「裁判所による公的判断が下されない限り開示請求には応じられない」とのポリシーを採用する管理者に対しては、IPアドレスの開示を求める発信者情報開示の仮処分を申し立てることになります。裁判を通じてIPアドレスの開示を受けた場合には、「WHOIS」等のプロバイダ特定サービスを用いて、IPアドレスから、発信者が使用したアクセスプロバイダを割り出します。その後、アクセスプロバイダに対し、発信者情報消去禁止の仮処分の申立て発信者情報開示請求訴訟の提起を行うことになります。

(2)発信者情報消去禁止仮処分

 発信者情報開示請求訴訟は少なくとも数か月の時間を要するところ、各プロバイダによって差異はあるものの、多くのアクセスプロバイダにおいては、投稿から約3か月間しか当該投稿に関する記録(アクセスログ)を保管していないのが通常です。

 そのため、何らの策も講じなければ、訴訟を提起したとしても、判決を下されるまでの間に当該ログが消去されてしまうおそれがあります。

 このような事態を防ぐため、発信者がどのアクセスプロバイダを利用したかが判明した後は、アクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起する前に、当該アクセスプロバイダを相手方として、「訴訟終結までログを消去しない」よう求める発信者情報消去禁止の仮処分の申立てを行い、「訴訟終結までログを消去してはならない」旨の仮処分決定を得ておくか、またはアクセスプロバイダから「訴訟終結までログを消去しない」旨の同意書を取得しておく必要があります。

(3)発信者情報開示請求訴訟

 アクセスプロバイダによる任意の対応または発信者情報消去禁止仮処分決定を得てアクセスログを保存したら、次はアクセスプロバイダを相手方とする発信者情報開示請求訴訟を提起します。

 アクセスプロバイダに開示を求める情報は、発信者の①氏名または名称、②住所、③電子メールアドレスです。

 各アクセスプロバイダは、原則として発信者の同意がない限り、上記発信者情報の開示に任意に応じませんので、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求は訴訟によって行うこととなります1

 裁判管轄は被告となるアクセスプロバイダの住所地を管轄する地方裁判所です。

発信者情報開示請求の流れ

発信者情報開示請求訴訟を提起した後の対応

訴訟の進行とアクセスプロバイダの対応

 発信者情報開示請求訴訟における主な争点は、対象投稿等の記載が、開示請求者(原告)の権利を侵害するものであることが明白であるか否かという点であり、多くのケースにおいて2、3回の口頭弁論期日で終結され、判決期日が指定されます。

 また、アクセスプロバイダが発信者に対して行った意見照会において発信者が情報開示に同意した場合には、判決を待たずに任意に発信者情報が開示される場合もあります。

 一方で、発信者がアクセスプロバイダによる意見照会において開示に同意しない旨の回答をした場合には、アクセスプロバイダにおいて訴訟で争うこととなりますが、発信者が具体的な理由や根拠資料を明らかにしない限り、発信者の回答による判決への影響はあまり想定されません。

 開示請求者においては、適切に証拠を提出して反対方向の立証を行うことにより勝訴判決の獲得を目指すこととなります。

勝訴判決後

 開示請求者の主張が認められ勝訴判決が下された場合にアクセスプロバイダ側が控訴することは稀であり、勝訴判決後には、原則として任意に発信者情報を開示してくれます。

 多くの場合2はこの時点において、発信者(当該通信が行われたインターネット回線契約者)の氏名、住所等が開示され、発信者の特定が可能となります。

発信者情報の開示後

 上記勝訴判決によって発信者情報(氏名、住所等)が開示され、発信者の特定に至った場合は、発信者に対する損害賠償請求等を検討することとなります。発信者に対して民事上の損害賠償を求めることは、再発防止の観点から有効です。

 また、インターネット上の匿名の情報発信による権利侵害行為について、発信者情報開示請求の手続きに要した弁護士費用等について発信者特定のための「調査費用」として、相当額を発信者に対して請求できる旨の判断を示す裁判例3も多くあります。

発信者が自社の社員等の内部者であった場合

 発信者情報開示請求を行った結果、会社に損害を与える情報をインターネット上で発信した者が自社の従業員等と判明したとき、加えて検討すべきは懲戒処分が可能かどうかという点です。

 勤務時間中に職場のパソコンを使用して会社の悪口を投稿するような問題社員のケースでは、会社設備の目的外使用、職務専念義務違反、忠実義務違反などを捉えて懲戒処分の対象とすることが考えられます。

 インターネット上での情報発信が、職場を離れた私生活上の行為として行われていた場合に、本来私的領域における表現行為については懲戒処分の対象とし得ないのが原則ではありますが、従業員は労働契約に付随する義務として会社に不当な損害を与えないように注意する忠実義務を負っていることからすれば、名誉毀損や営業秘密の漏えいなど会社に損害を与える行為については、私的領域におけるインターネット上の情報発信行為であっても懲戒処分の対象とすることが可能であると考えられます。


  1. 氏名等の発信者情報の開示は発信者個人の特定につながることや、アクセスログの保存後は時間的制約に配慮する必要がなくなることから、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求は、仮処分手続ではなく通常訴訟によって審理されます。 ↩︎

  2. アクセスプロバイダから発信者情報の開示を受けたとしても、未だ発信者の特定に至らないケースもあります。たとえば、IPアドレス等匿名化技術の利用等がなされている場合には、契約者情報として開示された者に対する更なる発信者情報開示請求を検討することとなります。また、インターネットカフェからの情報発信などであった場合、アクセスプロバイダから開示されるのは、アクセスプロバイダとインターネット通信サービスを契約していたインターネットカフェの情報となりますが、会員情報として利用者の住所・氏名を把握している店舗や発信者の特定に協力的な店舗もありますので、発信者の特定が可能か否かを該当店舗に確認することが考えられます。 ↩︎

  3. 東京地裁平成24年12月20日判決、東京地裁平成25年12月2日判決、東京地裁平成26年7月17日判決、仙台地裁平成26年11月11日判決ほか。 ↩︎

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