システム開発のプロジェクトが中途で終了したときの解除と損害賠償請求

IT・情報セキュリティ
尾城 亮輔弁護士

 当社は事業会社(ユーザー)です。当社の情報システムの開発をベンダーに対して委託したのですが、紆余曲折を経て、開発プロジェクトが中途で終了してしまいました。当社としてはプロジェクトの清算をしなければならないと考えていますが、どのような方法があるのでしょうか。また、当社はベンダーに対して損害賠償を請求することができるのでしょうか。

 プロジェクトが中途で終了したときの契約関係の解消の方法として、以下のものがあります。

  1. 債務不履行解除
  2. 請負契約または準委任契約についての民法上の解除権(民法641条、651条1項・2項)による解除
  3. 合意解除

 また、プロジェクトの終了がベンダーの帰責事由によるものである場合には、ユーザーはベンダーに対して損害賠償請求をすることができます。ただし、損害賠償請求が認められるためには、ベンダーの債務不履行と損害との間に相当因果関係が認められる必要があり、損害の項目ごとに請求が認められるか否かを検討する必要があります。

解説

プロジェクトを終了するときの契約解除の方法

 システム開発が様々な理由で継続困難となり、プロジェクトが中途で終了した場合、ベンダーとユーザーとの間の契約関係を解消する必要が生じます。このような場合、契約関係の解消の方法として、以下のいずれかが考えられます。

  1. 債務不履行解除
  2. 請負契約または準委任契約についての民法上の解除権(民法641条、651条1項・2項)による解除
  3. 合意解除

債務不履行解除

 ベンダーがプロジェクトの納期までにシステムを納入することができなかった場合やプロジェクトを継続することが不可能になった場合、ユーザーは、ベンダーの債務不履行(履行遅滞または履行不能)に基づき、システム開発に関する契約の解除および損害賠償請求をすることができます。

 ただし、ユーザーがベンダーに対して債務不履行責任を問うためには、ベンダー側の帰責事由によるものであることが必要です。開発の遅滞または不能がユーザーの協力義務違反に基づくものである場合には、ベンダー側の帰責事由によるものではないとされ、ユーザーは契約の解除や損害賠償請求をすることができず、ユーザーはベンダーに対して報酬支払義務を負うことになります。

 両当事者の帰責事由の存否と債務不履行責任および報酬支払義務の存否について整理すると、以下のようになります(「プロジェクトマネジメント義務と協力義務」参照)。このように、プロジェクトの終了原因によって結論が変わるため、プロジェクトの経緯や資料を精査して、ベンダー側の帰責性が認められるか否かを検討する必要があります。

プロジェクトの遅滞・中断の原因 ベンダーの債務不履行責任(解除の可否、損害賠償請求の可否)(*) ユーザーの報酬支払義務
①ユーザー側の帰責事由による ×
②双方ともに帰責事由なし × ×
③ベンダー側の帰責事由による ×

(*)ベンダーの帰責性が認められない場合には、ユーザーによる債務不履行解除は認められません。また、履行不能となっていることにより、ベンダーに対して追完請求をすることもできなくなります。

請負契約または準委任契約について民法上の解除権の行使

 システム開発に関する契約は、通常、請負契約準委任契約の形式が用いられますが、それぞれの形式の契約について、民法上の解除権が定められています。これらの解除権の行使に理由は必要なく、ベンダーに帰責事由がない場合でも行使することができますが、以下に述べるように、ベンダーに対する損害賠償または報酬の支払いが必要となります。

(1)請負契約の解除権

 請負契約では、注文者(ユーザー)は、請負人(ベンダー)の仕事の完成前は、いつでも損害を賠償して契約を解除することができます(民法641条)。この場合、解除には特に理由は必要ないとされています。

 このときにユーザーが賠償すべき損害の額は、①請負人がすでに支出した費用および②得べかりし利益であると解されています。ただし、解除によって仕事の完成義務を免れたことにより費用の支出を節約できた場合には、その金額を損害額から控除することができると考えられます。たとえば、ユーザーによって契約が解除された時点で仕事の8割が完成していた場合、残りの2割の部分について、別のプロジェクトや仕事に振り分けることができるのであれば、その2割の部分の人件費分については損害額から控除されることになります。

請負契約の解除権

(2)準委任契約の解除権

 また、準委任契約では、各当事者はいつでもその契約を解除することができるとされています(民法651条1項)
 ここで、契約解除をした当事者は、相手方に不利な時期に委任を解除したときは、相手方の損害を賠償しなければならないとされていますが(民法651条2項)、有償委任が中途解約されることは、ここでいう「不利な時期」の解除には当たらないと解されています。もっとも、民法648条3項により、すでにした履行の割合に応じて報酬を請求することができるとされているため、ユーザーが民法651条1項による解除をした場合には、結局、ベンダーはすでに行った作業分の報酬相当額を請求できることになります。

合意解除

 契約の当事者は、合意によりいつでも契約を解除することができます。契約の当事者は、解除の合意をする際に、解決金の支払いを伴うか否かなどの解除の条件を定めることができ、柔軟な解決を図ることができます。

 合意解除に向けた交渉を行う際には、ビジネス上の関係なども考慮要素となりますが、裁判になった場合にどのような判断がされるかを考慮しながら合意内容を定めるのが一般的です。したがって、プロジェクトの経緯や資料を参照し、仮に裁判になった場合には、ベンダーの帰責性が認められるか否かを評価し、必要に応じて双方の主張を戦わせながら交渉が進められることになります。

損害賠償の範囲

 ベンダーに対する損害賠償請求が認められる場合、どの範囲で損害が認められるかという点が問題となり、損害の項目ごとに相当因果関係が認められるかという観点から検討をすることになります。相当因果関係が認められるか否かは、事案ごとの個別事情に応じて判断されることになりますが、以下では、システム開発が頓挫した場合によく主張される損害項目について簡単に説明します。

ユーザーが外部に支払った費用

 システム開発に伴いユーザーが別業者に支払った業務委託料、ライセンス料やパソコンやサーバー等のハードウェア購入費用は、それらの成果物やソフトウェア・機器類が他の用途にも転用可能かどうかという点がポイントになり、そのような転用が可能であれば、損害として認められるのは難しいと考えられます。

別ベンダーに再構築を依頼することになったシステムの開発費用

 システム開発が頓挫したあと、ユーザーが別のベンダーにシステム開発を改めて依頼することになった場合、ユーザーは、別ベンダー(新ベンダー)に対して支払う開発費用を(元)ベンダーに損害として請求できるかという問題があります。

 この点、ユーザーが、ベンダーに対して既払いの開発報酬の返還を求めている場合、そのような報酬の返還請求と別ベンダーによる開発費用の支払請求の両方が認められてしまうと、ユーザーは何の費用負担もなくシステム構築ができることになってしまいますので、そのような場合には、ユーザーによる開発費用の請求は認められないと考えられます。

ユーザーの人件費

 システム開発では、ユーザー担当者もプロジェクトの作業に従事することになります。プロジェクトが中途で終了した結果、その担当者の作業が無駄なものになってしまうと、その担当者の人件費はユーザーの損害に含まれるのではないかが問題になります。

 このような人件費は、ユーザーの担当者が正社員である場合には、プロジェクトの有無にかかわらず当該担当者の人件費が発生することから、損害として認められない場合が多いといえます。他方、そのプロジェクトのために特別に雇用した派遣・契約社員等については、損害賠償として認められる可能性があります。なお、正社員の残業代は、基本給よりも損害として認められやすいと考えられますが、残業の発生がそのプロジェクトにより発生したことの立証が必要になるため、立証が困難である場合も少なくありません。

逸失利益

 システム開発により人件費の削減や売上向上の効果を見込んでいたとして、このような削減効果や逸失利益についても損害として認められるべきであるという主張がされることがあります。しかし、人員削減や売上向上の効果は、一般には、情報システムのみによって達成されるものではなく、ユーザーによる業務の刷新や各種の施策を組み合わせることにより実現されるものであり、情報システムの寄与の大きさを算出することは容易ではありません。このような事情から、ベンダーの債務不履行とこれら削減効果や逸失利益との間の相当因果関係を立証するのは困難な場合が多いといえます。

Q&Aでわかる日本版「司法取引」への企業対応 - 新たな協議・合意制度とその対応 -
コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから
  • facebook
  • Twitter

関連する特集