定年後再雇用をめぐる判決の動向

人事労務

 平成24年の高年齢者雇用安定法改正により、定年者の再雇用の措置が各企業で整備されていますが、再雇用者の仕事内容、賃金などの処遇についてはまだまだ手探りであり、待遇に不満を持った社員が会社を訴えるケースも散見されます。
 そこで、本稿では定年後再雇用をめぐる判決の動向を整理し、企業がどのような対応をするべきか検討したいと思います。

定年制について

 定年制とは労働者が一定の年齢に達した時に労働契約を終了させる制度です。多くの企業においてかつては55歳定年制が主流でしたが、政府の定年延長政策により1980年代以降は60歳定年制が主流となりました。
 昭和46年に高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年齢者雇用安定法」といいます)が制定され、平成6年に60歳定年制を強行的な基準とする改正、平成16年に65歳までの雇用確保措置を義務付ける改正がそれぞれ行われました。

高年齢者雇用確保措置について

 平成16年改正高年齢者雇用安定法では、定年を定める場合には60歳を下回ることができないとされたうえ、定年を65歳未満と定める場合には以下のいずれかの措置を講じなければならないとされました(高年齢者雇用確保措置)。

① 当該定年の引上げ
② 継続雇用制度の導入
③ 当該定年の定めの廃止

 上記②について、平成16年改正法の下では継続雇用の対象となる高年齢者の基準を労使協定によって定めることができましたが、年金の支給開始年齢引上げを受け、平成24年の高年齢者雇用安定法改正により、希望者全員の継続雇用を義務付ける制度とされました。
 なお、経過措置として、老齢厚生年金(報酬比例部分)が支給される労働者に対しては労使協定で基準を設けて対象者を選定できる制度の維持が認められています(下図参照)。

引用元:厚生労働省「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」の概要

 平成24年改正法では、定年者を雇用していた企業のみならず、その企業と同一グループに属する企業による継続雇用でも「継続雇用制度」に含まれることが明記されました。また、平成16年改正法における継続雇用制度は1年契約の更新によるものや、短時間・隔日勤務などの雇用形態を含むとされ、賃金その他の処遇は労使の協議等に委ねられるとされていて、これらは平成24年改正法のもとでも同様と解されています。

定年後の再雇用について

各企業の近年の取扱い

 改正高年齢者雇用安定法をふまえ、多くの企業が就業規則等で、以下の厚生労働省モデル就業規則に示されたような欠格事由をあげ、これに該当しない定年到達者を嘱託等で再雇用するという取扱いとしています。

(定年等)
第*条 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満65歳までこれを継続雇用する。

契約の成否に関する裁判例(東京大学出版会事件)

 平成24年の高年齢者雇用安定法改正前の事件ですが、定年後再雇用につき、会社と労働者との間に黙示の合意が成立したと判断した裁判例として東京大学出版会事件東京地裁平成22年8月26日判決・労判1013号15頁)があります。
 本件では、出版事業等を扱う財団法人(被告)を定年退職した原告が、定年後再雇用を希望したにもかかわらず不当に拒否されたものとして被告を提訴しました。被告では継続雇用対象者の基準を定める労使協定は締結しておらず、労働組合との交渉を経て、再雇用就業規則において再雇用条件(健康状態が良好で通常勤務の意欲と能力がある者)を定める取扱いとしており、被告は原告について「通常勤務の能力」を欠くと判断していました。
 この訴えに対して、裁判所は以下のとおり判断しました(なお、被告は控訴しています)。

  • 再雇用就業規則所定の再雇用条件を満たす定年退職者に対する再雇用拒否の意思表示は解雇権濫用法理(労働契約法16条)の類推適用によって無効
  • 原告は定年退職まで35年以上一貫して編集業務に携わっており、編集者としての身体的・技術的の能力がないとはいえず、被告主張の事実(編集業務中断・原稿引き渡し拒否等)をもってしても職務上備えるべき能力を減殺するほどの協調性・規律性の欠如は認められず、通常勤務の能力がないとはいえない
  • 被告の再雇用拒否の意思表示は解雇権濫用法理によって無効であり、原告の申込みに基づき定年退職日の翌日付で再雇用契約が成立したものと取り扱うべき

 高年齢者雇用安定法の継続雇用制度について、本判決前の多くのケースでは直接の私法上の効力は否定されていましたが、本判決では高年齢者雇用安定法の趣旨もふまえて、会社側による再雇用拒否について解雇権濫用法理を類推適用し、結論として継続雇用契約の成立を認めました

賃金減額に関する裁判例(長澤運輸事件)

(1)事案の概要

 定年退職後に契約期間1年の嘱託社員として再雇用されたトラック運転手3名が、仕事の内容は同じなのに正社員トラック運転手との賃金格差(約2割減)があり不合理であるということを理由に会社を訴えました。

(2)裁判での争点

 裁判での争点は以下のとおりです。

  1. 正社員と定年後再雇用嘱託社員との賃金格差は労働契約法20条違反か
  2. 労働契約法20条違反の効果

(3)労働契約法20条について

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

(注:太字・下線筆者)

 正社員と定年後再雇用嘱託社員との労働条件の相違が労働契約法20条違反にあたるかどうかは、そもそもその相違が「期間の定めがあること」によるものか、またその相違は職務の内容、職務の内容および配置の変更の範囲その他の事情を考慮して「不合理」かどうかによって決まります(上記争点1)。
 また、労働契約法20条が企業と労働者という私人間の契約に直接的な効力を有するものなのかも問題となります(上記争点2)。

(4)裁判所の判断

 東京地裁平成28年5月13日判決・労判1135号11頁では、原告らの請求が認められ、正社員と定年後再雇用嘱託社員との労働条件の相違は労働契約法20条違反の不合理なものであり、違反部分の契約は無効であって、原告らの賃金は正社員の就業規則に従い決定されると判断されました。
 これに対しては、そもそもこの労働条件の相違は「期間の定めがあること」によるものというべきか、職務内容等が同一であるにせよ定年後再雇用社員に対する賃金切下げに合理性は無いのか、労働契約法20条違反は直律的効力を有するのか、という点について、疑問が持たれていました。
 続く第二審の東京高裁平成28年11月2日判決・労判1144号16頁では、上記地裁判決を覆し、本件相違は労働契約法20条違反にはあたらず、職務内容等の変更なく賃金の切下げを行ったことについて違法性も無いと判断されました。
 高裁判決は、企業の実務感覚に沿う判断と考えられますが、事件は上告および上告受理申立て中であり、確定には至っていません。

争点 東京地方裁判所 東京高等裁判所
「期間の定めがあること」による相違か 〇/本件契約には期間の定めがあり、正社員と原告らの賃金の定めが異なっているものであるから、本件相違は期間の定めの有無に関連して生じたものである。 〇/本件嘱託社員と正社員の間には地位の区別に基づく定型的な労働条件の相違があり、使用者は「賃金節約や雇用調整の弾力性を図る目的」で本件契約を締結したものであるから、本件相違は期間の定めの有無に関連して生じたものである。
① 職務内容 業務の内容および当該業務に伴う責任の程度に正社員との差異なし。定年前後で職務遂行能力に有意な差が生じているとは考えにくいことなどから①に準ずる事情の相違もない。 左記同様
② 職務内容及び配置の変更の範囲 業務の都合により勤務場所や業務の内容を変更することがある点でも正社員との差異なし。 左記同様
③ その他の事情 本件相違を正当と解すべき特段の事情なし。
・そもそも不合理性の考慮要素は上記①②が特に重要で、①②において正社員との差異がない場合は他に特段の事情がなければ「不合理」。
・我が国の企業一般で上記①②が全く変わらないまま賃金だけを引き下げる慣行が広く受け入れられているとはいえない。
・労組との協議を重ね、労組側の主張・意見を聞いて一定の改善を実施したとしても「特段の事情」にはあたらない。
・原告らは契約締結の前後に労組を通じ雇用条件等には同意できないが契約書を提出しなければ就労できなくなるのでやむなく提出すると述べていたものであり、原告らが契約書に署名押印したことをもって「特段の事情」とすることもできない。
本件相違が「不合理ではない」といい得る事情として以下を列挙。
・控訴人が選択した継続雇用たる有期労働契約は雇用確保措置として広く行われている。
・賃金の引下げは通例行われており、雇用確保措置の義務付け/企業は労働者全体の安定的雇用を実現する必要があること/在職老齢年金制度等の存在/定年後再雇用は従前の雇用関係が消滅した上でなされるものであることに鑑み、引下げを行うこと自体が不合理とはいえない。
・上記①②が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは広く行われている(労働政策研究・研修機構の調査結果)。
・被控訴人らに対する賃金引下げ(約2割)は正社員間の賃金格差を上回るものの、同規模企業の平均減額率を下回るものであり、控訴人が本業において大幅な赤字となっていることも考えるとただちに不合理とはいえない。
・労組との間で一定程度の協議が行われ、控訴人は一定の労働条件の改善を実施した。
など
「不合理」か ×/本件相違は上記①②③に照らして不合理とは言えない。
直律的効力の有無(労働者側の主位的請求) 〇【正社員就規による賃金請求を認容】/労働契約法20条は単なる訓示規定ではなく同法違反の労働条件の定めは無効。
被告の就業規則ではその一部を適用しない者として「嘱託者」をあげ「嘱託社員就業規則」を制定していたが、嘱託社員の労働条件のうち賃金の定めが無効である場合には、原則として全従業員に適用される正社員就業規則が適用されることとなる。
違法性の有無(予備的請求) ×/定年前と同一の職務に従事させながら賃金額を約2割切り下げたことは社会的相当性を欠くとはいえず、労働契約法または公序に反し違法とはいえない。

職種変更に関する裁判例(トヨタ自動車事件)

(1)事案の概要

 被告会社では、高年齢者雇用安定法の平成24年改正に伴い、平成25年3月31日付で労使協定を締結し、定年後再雇用として以下の2つの形態を設けていました。

A スキルドパートナー/労使協定に定める基準を全て満たした者〔1年ごと更新、65歳まで〕
B パートタイマー/労使協定に定める基準のいずれかを満たさない者〔年金支給開始年齢に至るまで(注:原告は平成25年7月1日に60歳定年に達したので、61歳まで)〕


 労使協定で定められた基準は(a)健康基準、(b)職務遂行能力基準、(c)勤務態度基準の3つであり、原告については(b)および(c)を満たさないと判断され、「B パートタイマー」としての再雇用が提示されました。
 被告会社が提示した再雇用の条件は、定年前と比べて半分の労働時間で年収が約87%減、業務内容がデスクワークを主体とする事務職から清掃等に変更となる(所属部は同じ)ものであり、原告はこれを不服として会社を訴えました。

(2)裁判での争点

 裁判での争点は以下のとおりです。

  1. スキルドパートナーとしての再雇用拒否は違法か
    ① 選定基準の相当性
    ② 手続違背
    ③ 選定基準の充足
    ④ 賃金額

  2. パートタイマーとしての再雇用条件の提示は違法か
    ① 安全配慮義務違反か(控訴審では「雇用契約上の債務不履行または不法行為責任あり」との主張に変更)
    ② 損害

  3. 代表取締役の任務懈怠の有無
    ① 組織的ないじめおよび代表取締役の任務懈怠の有無
    ② 損害

(3)裁判所の判断

 名古屋地裁岡崎支部平成28年1月7日判決は原告の請求をすべて棄却しましたが、第二審の名古屋高裁平成28年9月28日判決では、パートタイマーとしての再雇用条件のうち業務内容については高年齢者雇用安定法の趣旨に反する違法なものであり、雇用契約上の債務不履行および不法行為に該当すると判断され、控訴人の請求が一部認容されました。双方上告および上告受理申立ては行わず、高裁判決の判断が確定しました。

争点 名古屋地方裁判所 名古屋高等裁判所
1 スキルドパートナーとしての再雇用拒否は違法か ① 選択基準の相当性 健康基準、勤務態度基準は問題無し。勤務態度基準は上記二基準に比べれば具体性・客観性に劣る感はあるが、上記二基準が積極要件、勤務態度基準は消極要件を定めるものという構成も含めて考えれば不相当とはいえない。 地裁に同じ
② 手続違背 面談不実施等の原告主張は採用できず、手続違背によりスキルドパートナーとしての再雇用拒否が無効とはいえない。 地裁に同じ
③ 選択基準の充足 職能考課「E」であり、基準を満たしていないのでスキルドパートナーとしての再雇用拒否が違法とはいえない。 地裁に同じ
④ 賃金額
2 パートタイマーとしての再雇用条件の提示は違法か ① 安全配慮義務違反(控訴審においては債務不履行及び不法行為)の有無 原告は「被告が通常受けられるはずの5年間の再雇用を拒否した」と主張するが、争点1の結論のとおりスキルドパートナーとしての再雇用が「通常受けられるはず」ということは無く、上記主張は前提を欠く。
清掃等の業務の提示は原告の心身の状況からすると安全を欠いたものであると主張するが、そのような事実は認められない。
・事業者の提示した労働条件が無年金・無収入期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり、社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなどの場合は改正高年法の趣旨に反する。
・給与水準については、被控訴人の提示は老齢厚生年金の報酬比例部分の約85%相当であり「到底容認できないような低額の給与水準」とはいえない。
・業務内容について、定年前後の業務が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合、もはや継続雇用の実質を欠き、通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから、従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情が無い限り、そのような業務内容を提示することは許されない。
・被控訴人は事務職全般の適格性を検討したものではないし、清掃業務等以外に提示できる事務職としての業務の有無について十分な検討を行ったとは認めがたく、あえて屈辱感を覚えるような業務を提示して定年退職せざるを得ないよう仕向けたものとの疑いさえ生ずる。
・被控訴人の提示した業務内容は改正高年法の趣旨に反する違法なものであり、一連の被控訴人の対応は債務不履行および不法行為に当たる。
② 損害 パートタイマーとして1年再雇用されていた場合に得られた賃金相当額(127万1500円)を慰謝料として認容。
3 代表取締役の任務懈怠の有無 ① 組織的ないじめ及び代表取締役の任務懈怠の有無
組織的ないじめ無し 地裁に同じ
② 損害

判決を踏まえて企業はどのような対応をとるべきか

再雇用拒否の場面

 前記東京大学出版会事件の判旨からすると、就業規則であげた欠格事由に該当するとして定年後再雇用を拒否した場合再雇用拒否の有効・無効が通常の解雇と同様の法理によって判断され、無効と判断された場合には再雇用契約が成立したと認められるリスクがあるため、欠格事由該当性の判断は慎重に行う必要があります。

再雇用条件提示の場面

(1)賃金について

 前記長澤運輸事件の地裁判決は職務内容等を変えずに賃金を引き下げることは違法であるとしました。高裁判決はこれを覆したものの、判決確定には至っていないこと、このケースでは給与の減少は約2割に留まること、会社が「大幅赤字」であったとの指摘もされていることなどの事情もあり、どんな場合も「職務内容等を変えずに賃金を引き下げてよい」とまで断じることはできません。また引下げ幅がどの程度までであれば違法でないといえるのかの限界も明らかではありません

 この点、各企業の実務の実情はどうでしょうか。平成24年改正高年齢者雇用安定法が平成25年4月に施行された直後の同年7月から8月にかけて独立行政法人労働政策研究・研修機構が調査を行い、同年11月に発表した結果(対象;常用労働者50人以上を雇用している全国の民間企業2万社/以下「平成25年調査結果」といいます)によれば、継続雇用者の給与は全体の平均で定年到達時の約7割の水準であり、仕事内容についてもっとも多いケースは「定年到達時点と同じ仕事内容」であるとの回答が8割を超えていました(下図参照)。

<定年到達時点の仕事内容(平成25年調査結果)>

参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢社員や有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査」結果

 その後、独立行政法人労働政策研究・研修機構が平成27年7月に行った調査の結果でも、仕事内容について「定年前(60歳頃)とまったく同じ仕事」が39.5%、「定年前(60歳頃)と同じ仕事であるが、責任の重さが変わる」が40.5%と、平成25年調査結果とほぼ同様、8割の企業で定年後も仕事内容は同じという結果でした(下図参照)。

<定年到達時点の仕事内容(平成27年調査結果)>

参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「60代後半層の雇用確保には、健康確保の取組みが必要」(高年齢者の雇用に関する調査(企業調査))

 賃金についても、60歳直前の給与水準を100とした場合の平均値は73.5と、平成25年調査結果とほぼ同様の結果でした。「定年後でも仕事が同じなら原則、賃金は下げるべきではない」との見解について、肯定的な回答(「そう思う」、「ややそう思う」との回答)が約3割に留まり、多数意見は否定的という結果も示されています(もっとも、「会社は雇用確保のために再雇用するのだから、賃金が低下しても構わない」との見解に対しても肯定的な回答は3割弱程度であり、肯定的回答が最も多数を占めたのは「定年後の高年齢者も、評価制度に基づき賃金を決めるのが望ましい」との見解でした)。
 すなわち、多くの企業においては、定年到達時点と同じ仕事をさせながら賃金の引下げを行っており、これが企業の実情なのです。
 長澤運輸事件の今後の動きも注視する必要はありますが、上記の実情からも、「仕事を変えなければ賃金の引下げはできない」という前提で対処する必要はないように考えられます。
 また引下げ幅については上記の調査結果で示された、平均で定年到達時の約7割という実態とともに、トヨタ自動車事件の高裁判決が、定年前給与からみれば年収ベースで約87%減となるものの、「老齢厚生年金の報酬比例部分の約85%相当額」であることから「到底容認できないような低額の給与水準とはいえない」と判断したことが参考となります。

(2)職務内容について

 長澤運輸事件の地裁判決を受け、賃金減額をするなら職務内容を変更しなければならないのか、と思われたところ、今度はトヨタ自動車事件の高裁判決が出され、「職務内容を変え過ぎてもいけない」という判断が示されました。
 企業とすれば一体どうすればよいのか、というところですが、トヨタ自動車事件高裁判決では、被控訴人が「我が国有数の巨大企業であって事務職としての業務には多種多様なものがあると考えられること」が指摘されており、いかなる企業でも同様の判断がされることはないと考えたいものです。

求められる企業の対応は

 いわゆる「団塊の世代」の方々の60歳、65歳到達を経て(それぞれ「2007年問題」、「2012年問題」といわれ、労働力の大幅減少や技術やノウハウの継承がなされず失われていくのではないかということが問題視されました)、企業にとっては、人手の確保や、技術・ノウハウの若手への継承も重要な経営課題です。
 トヨタ自動車事件高裁判決が規範として述べた、「無年金・無収入期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準」や「社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容」を提示した場合は高年齢者雇用安定法の趣旨に反するものとして違法となる、という点は念頭に置いて頂くとして、裁判所の結論自体については過度にとらわれることなく、各企業の実情に応じ、労働力の有効活用のため労使の協議による前向きな制度設計を行っていくことが望ましいものと思われます。

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