平成28年の各種基準等の改正を含む下請法強化の流れと企業における対応のポイント

人事労務

下請法運用基準等の改正

 平成28年12月14日、公正取引委員会は、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という)の運用の指針を定めた下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(以下「下請法運用基準」という)を改正した。

参考:公正取引委員会ウェブサイト「(平成28年12月14日)「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正について

 また、同日、経済産業省は、「下請中小企業振興法第3条第1項の規定に基づく振興基準」(以下「振興基準」という)について改正を行うとともに、公正取引委員会と中小企業庁は、連名で、「下請代金の支払手段について」と題する通達(以下「支払手段通達」という)を発出した。

参考:経済産業省ウェブサイト「下請等中小企業の取引条件改善のため、振興基準の改正、通達の見直しを行いました

 この動きは、中小事業者の取引条件の改善を目指す政府による経済対策の一環として、中小企業の収益拡大により中小企業で勤務する従業員の賃金の上昇が図られ、ひいては消費の拡大につながるという「経済の好循環」を実現するためのものとして位置づけられている (詳細は、鎌田明「「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正」NBL1091号5頁に紹介されている)。
 この下請法運用基準の改正、振興基準の改正および支払手段通達は、従前規制対象でなかった行為を新たに規制対象に含めるといった改正ではないが、事業活動に一定の影響はありうるため、その概要と企業における留意点を説明する。

下請法運用基準の改正

 今回の下請法運用基準の改正は、これまでの繰り返し違反として取締の対象となった行為や、事業者が問題ないと誤解しやすい行為等を追加したとされている。
 具体的な改正箇所は、下請法運用基準の「第4 親事業者の禁止行為」の記載に関するものが多いが、改正内容は、実務上下請法の解釈においてよく参照される公正取引委員会・中小企業庁作成の『下請取引適正化推進講習会テキスト平成28年11月』に従前から記載があったものや、それに類似する内容を取り込んだとみられる部分が多い。
 今回の改正で、比較的起こりやすく留意を要する違反行為の類型が21新たに追加され、既存の類型が4つ修正されている。また、違反の背景事情等も記載したうえで、より具体的に問題となる局面が想定しやすくなるように記載された違反行為事例も、これまでの法執行を踏まえて、支払遅延、受領拒否、減額、返品、買いたたき、不当な経済上の利益提供要請を中心に、66事例から141事例へと大幅増加させている(詳細は表1のとおり)。

【表1:下請法運用基準改正での追記等】

違反行為の類型 違反行為事例
追加 修正 追加
受領拒否 6事例
支払遅延 7類型 7事例
下請代金の減額 4類型 2類型 16事例
返品 2類型 2類型 5事例
買いたたき 4類型 17事例
購入・利用強制 5事例
不当な経済上の利益提供要請 4類型 10事例
不当な給付内容の変更及び不当なやり直し 9事例

 受領拒否、減額および返品に関しては、下請事業者に対する不利益が直接的であり、他の行為類型に比べて大きく、従前から取締の重点対象だったと思われることから、注意喚起の趣旨で追記がされたのではないかと推測される。
 また、表1の追記の状況からは、支払遅延、買いたたき、不当な経済上の利益提供要請について追記が多い点が注目される。これらの禁止行為については、表2のように平成26年度以降の公正取引委員会の措置件数が大幅に増加している。親事業者による違反行為自体が、急増することは考えにくいため、「公正取引委員会等がこれらの違反行為類型に対して従前よりも重点的に調査を行うようになった」とみるのが合理的であろう。

【表2:平成23年度~平成27年度における公正取引委員会の違反行為類型別措置件数(抜粋)】

支払遅延 減額 買いたたき 不当な経済上の利益提供要請
平成23年度 1,328件(58.1%) 189件(8.3%) 166件(7.3%) 52件(2.3%)
平成24年度 1,250件(56.4%) 284件(12.8%) 98件(4.4%) 57件(2.6%)
平成25年度 1,488件(66.1%) 228件(10.1%) 86件(3.8%) 29件(1.3%)
平成26年度 2,843件(62.8%) 383件(8.5%) 735件(16.2%) 135件(3.0%)
平成27年度 3,131件(66.7%) 373件(7.9%) 631件(13.4%) 161件(3.4%)
注:括弧内の割合は、実体規定違反に対する措置件数全体に占める割合

振興基準の改正と支払手段通達の発出

振興基準とは

 振興基準は、親事業者と下請事業者が信頼関係に根ざした長期的な共存共栄関係を築くことができるような両者の努力・協力のあり方、望ましい取引のあり方を示すものであり、下請中小企業振興法により主務大臣(下請事業者、親事業者の事業を所管する大臣)が事業者に指導・助言を行う際の基準である。そして、振興基準に反するような行為については行政処分や刑事罰等の対象になることはなく、その意味で、事業者に対して法的な拘束力を有するものではない。

振興基準の改正点

(1)下請法運用基準の改正点と同趣旨のもの

 振興基準の改正点としては、まず、買いたたきに関連して、親事業者に対して原価低減要請での経済合理性や十分な協議の確保について努力すること、下請事業者から労務費上昇分に踏まえて対価見直しの要請があった場合における十分な協議の実施に関する追記がなされた。
 また、不当な経済上の利益提供要請に関連して金型・木型等の保管・管理の適正化についての追記がされている。これらは、下請法運用基準の改正点と同趣旨のものである。

(2)下請法運用基準の変更では追記がなかった点

 このほか、下請法運用基準の変更では追記がなかった点として、支払方法の改善に関する記載があげられる。過去の振興基準でも、下請代金の支払いは可能な限り現金で支払うべきとされていたが、今回の改正で、(a)手形や一括決済方式等による場合に割引料等のコストを下請事業者に負担させることがないようにすること、(b)手形サイトは120日(繊維業においては90日)を超えてはならないことは当然として、将来的に60日以内とするよう努める、という2点が明示された。支払手段通達でも、これらと同内容が記載されている。
 現在、公正取引委員会・中小企業庁は、手形サイトが120日(繊維業においては90日)を超える場合、割引困難な手形の交付の禁止(下請法4条2項2号)に違反するおそれがあるものとして取り扱って上記期間内に改善するよう指導している(『下請取引適正化推進講習会テキスト平成28年11月』64頁)。

 今回の支払手段通達等は、この期間を変更するという趣旨ではなく、将来的に60日以内に短縮する努力を要請するものであって、現時点で、手形サイトが60日超の場合にただちに割引困難手形として指導対象とはならないとされている。
 なお、「将来的に」の期間については、現在のところ5~6年程度を想定しているとされている(中小企業庁ウェブサイト FAQ「下請代金の支払手段について」Q6)。

企業はどのような点に注意するべきか

 今回の改正等により、手形サイトについて現状は60日を超えていても下請法違反にはならないものの、5~6年後には通達がさらに厳格に変更されて60日以内とすることが義務付けられる可能性も十分あり、また、手形だけでなく、一括決済方式、電子記録債権を利用する場合の期日設定も60日以内に変更される可能性があるので、数年後を見据えて対応の方向性やスケジュールを検討していくべきであろう。
 また、今後、公正取引委員会・中小企業庁は、支払遅延、買いたたき(一方的なコストダウン要請、コスト上昇時の単価見直し要請の無視等)、不当な経済上の利益提供要請(金型・木型等の保管・管理コストの押しつけ)等について、重点的に調査を行うようになると思われる。これらの行為についても、この機会に再度、下請法の研修や監査を実施する等して、社内で注意喚起をすべきであろう。下請取引における留意点については、中小企業庁ウェブサイト「中小企業・小規模事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック」が親事業者における留意点の整理においても参考になる(特に15~26頁)。

 なお、企業対応の詳細については、拙稿「下請法の運用強化の動きと企業における留意点~下請法運用基準改正等を受けて~」ビジネス法務2017年5月号掲載予定も参考とされたい。

  • facebook
  • Twitter

関連する特集

人事労務の人気特集

  1. 平成28年の各種基準等の改正を含む下請法強化の流れと企業における対応のポイント
  2. 定年後再雇用をめぐる判決の動向
  3. 社長の辞任にまで及んだ電通の過労自殺事件が示唆すること
  4. 東芝事件から見える従業員のうつ病と労務管理の問題点