ブラック企業のリスト公表、弁護士はどう評価するか

人事労務
大澤 武史弁護士 山本 一貴弁護士

 5月10日、厚生労働省は「労働基準関係法令違反に係る公表事案」をホームページ(参考:「長時間労働削減に向けた取組」)に掲載した。2016年10月1日以降に労働基準関係法令違反の疑いで送検、公表された事案などをまとめたものだ。公表された企業数は334社に上り、企業・事業場の名称、事案の概要などが掲載された。昨年12月に違法な時間外労働によって書類送検された電通の名前もある。

 ブラック企業リストの公表と大きく報じられ、法令違反の抑止につながるという前向きな評価の一方で、違反をしている企業の一部に過ぎないという意見も見られる。今回の公表について人事・労務の実務に詳しい弁護士はどのように評価するか、中央総合法律事務所の大澤 武史弁護士、山本 一貴弁護士に聞いた。

ホームページに公表されるの企業の基準

労働基準関係法令違反が厚生労働省のホームぺージ上に公表される基準について教えてください。

 厚生労働省の長時間労働削減推進本部が取りまとめた「「過労死等ゼロ」緊急対策」(平成28年12月26日)において、「労働基準法等の法令に違反し、公表された事案については、ホームページにて、一定期間掲載する」と決定したことを受けた「労働基準関係法令違反に係る公表事案のホームページ掲載について」(平成29年3月30日付け基発0330第11号)にホームページ上に掲載する基準が定められています。

 これによると、以下2つの事案について、厚生労働省および都道府県労働局のホームページに掲載するとしています。

① 労働基準関係法令違反の疑いで送検し、公表した事案(以下「送検事案」といいます)

② 平成29年1月20日付け基発0120第1号「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」に基づき、都道府県労働局長が企業の経営トップに対し指導し、その旨を公表した事案(以下「局長指導事案」といいます)

 ②について言及されている通達を整理すると、局長指導事案は、〔ⅰ〕複数の事業場を有する社会的に影響力の大きい企業(中小企業に該当しない企業)であって、〔ⅱ〕以下のアまたはイのいずれかに該当する企業が対象となります。

本社管轄の労働基準監督署長による指導実施後の全社的監督指導等において、右のいずれかの実態が認められること。 (ア) 監督指導において、1事業場で10人以上または当該事業場の4分の1以上の労働者について、
①1か月あたり80時間を超える時間外・休日労働が認められること、
かつ、
②労働基準法32・40条(労働時間)、35条(休日労働)または37条(割増賃金)の違反(以下「労働時間関係違反」といいます)であるとして是正勧告を受けていること。
(イ) 監督指導において、過労死等に係る労災保険給付の支給決定事案(以下「労災支給決定事案」といいます)の被災労働者について、
①1か月あたり80時間を超える時間外・休日労働が認められ、
かつ、
②労働時間関係違反の是正勧告を受けていること。
概ね1年程度の期間に2箇所以上の事業場で、右の(ア)または(イ)のいずれかに該当する実態が認められ(本社で2回認められる場合も含む)、そのうち、右の(イ)の実態が1箇所以上の事業場で認められること。 (ア) 監督指導において、1事業場で10人以上または当該事業場の4分の1以上の労働者について、
①1か月あたり100時間を超える時間外・休日労働が認められること、
かつ、
②労働時間関係違反であるとして是正勧告を受けていること。
(イ) 監督指導において、過労死に係る労災支給決定事案の被災労働者について、
①1か月あたり80時間を超える時間外・休日労働が認められ、
かつ、
②労働時間関係違反の是正勧告を受けていること。

 なお、掲載期間は、公表日から概ね1年間とされ、公表日から1年が経過し最初に到来する月末にホームページから削除するものとされています。ただし、公表日から概ね1年以内であっても、①送検事案は、ホームページに掲載を続ける必要性がなくなったと認められる場合、②局長指導事案は、是正および改善が確認された場合については、速やかにホームページから削除するものとされています。

法令違反が発覚してから送検されるまでの流れはどのようなものでしょうか。

 労働基準関係法令違反が認められた場合、まずは労働基準監督官によって是正勧告や指導票の交付がなされ、それでも是正をしない場合に送検されるという流れが多いように思います。ただし、被害者等が告訴・告発した場合や重大な事案であったり、いわゆる労災隠しなど違反の悪質さが認められる事案であったりすると、是正するかを問わず、労働基準監督官による送検がなされることもあります。

法令違反を防止するには

法令違反を防止するための方策としてはどのような手段がありますか。

 労働基準関係法令について全く違反がない、という状態は正直にいってなかなか稀有な事例ではないかと思います。上場企業などコンプライアンスに特に注意を払っている企業でさえ、意図せず法令違反が生じていることは度々見受けられます。とはいえ、多くの企業が法令に違反しているという社会の実態は、違反を正当化する事由にはなりませんし、当然に法令遵守を意識していかなければなりません。

 厚生労働省や労働局などから公表されている資料は、労働基準関係法令の基本的な留意点が充実していますので、これを参考に自社の労務管理を点検してみることが法令違反の防止策としてまず考えられます(たとえば、厚生労働省が公表する「労働基準法の基礎知識」や、ハンドブック「知って役立つ労働法~働くときに必要な基礎知識~」など)。また、昨年11月に厚生労働省が開設した「スタートアップ労働条件」では、各企業あるいは特定の事業場の労働条件や就労環境を診断することができるWEB診断があり、労働基準関係法令の違反が生じていないかを簡単に点検することができるようになっていますので、これを利用してみるのもいいかもしれません。

 このほか、外部からの点検ということで、企業買収時に行うデューディリジェンスで実施されている法的監査の類を、人事労務を特に取り扱っている弁護士や社会保険労務士などに依頼して自社向けに実施するということも有益な方法の一つかもしれません。

これらの点検作業を実施し、自社のウィークポイントを順次是正することが法令違反を予防する現実的な方策といえるのではないでしょうか。

 これらの予防策を講じたにもかかわらず、長時間労働、残業代未払い、メンタルヘルス不調者の発生、過労死など、何らかの労働関係法令違反の端緒が見受けられた場合にはできる限り迅速に、経営トップが責任をもって対応することが求められます。

法令違反は少なすぎるか

法令違反をしている企業は334社どころではない、という意見も見られますが、公表事案についてどのように評価しますか。

 現に法令違反をしている企業は、今回公表された334社に止まらないことはご指摘のとおりです。実際、長時間の過重労働による過労死等に関する労災請求のあった事業場や、若者の「使い捨て」が疑われる事業場など、労働基準関係法令の違反が疑われる7,014事業場に対して集中的に実施した平成28年度「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果(参考:厚生労働省「平成28年度「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果を公表」)においてでさえ、4,711事業場(全体の67.2%)で労働基準関係法令違反を確認し、そのうち2,773事業場(39.5%)で違法な時間外労働が認められたとのことです。

 上記重点監督の対象となったのは、限られた一部の企業といわざるを得ないため、社会一般で法令違反が生じている企業数はより多数に上るものと思われるところです。

 しかし、法令違反の生じている事業場のすべてが、公表という社会的な制裁に相当する違法の重大性や悪質性を備えているわけではありませんし、あくまでも現時点で企業名公表の対象になりうるのは、社会的影響力の大きい、ある程度以上の規模の企業とされていますので、今回、通達に従って公表された334社という数が少な過ぎるという非難は当たらないように思います。

 法令違反を行った企業として、その企業名が公表されるということは社会の耳目を集めることになり、公表によっていわゆるブラック企業とのレッテルが貼られるリスクがあります。このような社会的評価を受けることは株主などのステークホルダーから厳しい追及を受けることも予想されますし、また、平成28年3月1日からは、ハローワークが一定の労働関係法令違反があった事業所の新卒求人を一定期間受け付けないとされており、企業活動に少なからぬ悪影響を及ぼすことが予想されます(参考:「平成28年3⽉1⽇からハローワークでは労働関係法令違反があった事業所の新卒求人は受け付けません!」)。

 このようにホームページ上での公表によって、公表を受けた企業はもちろんのこと、社会全体に与えるインパクトは大きく、現時点では公表されなかった違反企業、あるいは、現時点では違反が確認されていない企業に対しても、労働基準関係法令の法令遵守意識が高まり、今後の是正への動機付けがなされたことは間違いないように思われます。『その事実を広く社会に情報提供することにより、他の企業における遵法意識を啓発し、法令違反の防止の徹底や自主的な改善を促進させ、もって、同種事案の防止を図るという公益性を確保することを目的』として行われる定期的な公表は、法令違反の抑止につながっていくものと考えられ、評価されるべきものと考えます。

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