健康経営を成功させるために現場担当者が必要な「巻き込み力」 実践企業はどのように進めているのか?

人事労務

「働き方改革」「健康経営」など、働く環境の整え方や従業員の健康リスクについての対応が求められる昨今、「何から始めればいいのかわからない」「どう効果をみればいいのかわからない」といった課題を持つ企業の担当者は多いだろう。

2017年12月7日に、従業員へ惣菜や食事を提供する法人向けサービス「オフィスおかん」を提供する株式会社おかんは、企業の総務・人事・管理部門の担当者を対象に、「働き方改革」「健康経営」の課題を解消するためのセミナーを開催した。

このセミナーでは、株式会社ディー・エヌ・エーのCHO室 室長代理 平井 孝幸氏と、株式会社ジンズの管理本部総務人事グループ 堀 友和氏から、自社における取り組みが紹介された。モデレーターは、株式会社おかんの代表取締役CEO 沢木 恵太氏である。本稿では、このセミナーの内容をレポートする。

【プロフィール】

株式会社ディー・エヌ・エー CHO室 室長代理 平井 孝幸氏
人体や健康に関する書籍を半年で300冊以上読み、メンタル、食事、運動に関する研究結果をもとに自身のライフスタイルを一新させ、体重を3か月で15kg減らす。それ以外にも健康的なライフスタイルから多くのメリットや気付きを経験したこともあり、「社員全員が健康になれば会社はもっと元気になるだろう」という想いのもと、2016年1月にCHO室を創設。

株式会社ジンズ 管理本部総務人事グループ マネジャー 堀 友和氏
2011年、株式会社ジェイアイエヌ(現 株式会社ジンズ)に入社し、総務人事を中心に担当。プロジェクトリーダーを務めた本社移転では新オフィス「JINSGLOBAL HEAD OFFICE」が第28回日経ニューオフィス賞にて経済産業大臣賞を受賞。現在は、これまでにない世界一集中できるワークスペースとして提供する「Think Lab」プロジェクトを進めている。

着目点は各社各様

沢木氏
まずはお二人が現在取り組まれている活動について教えてください。

平井氏
経済産業省が推進する健康経営とは、社員が健康になることで生産性が上がり、会社の業績向上につながるという考え方です。企業による従業員の健康対策というと福利厚生がイメージされがちですが、従業員への投資という捉え方で推奨されています。

ジョンソン・エンド・ジョンソンが算出したデータによると、従業員へ1ドル投資(人件費、保健指導費、設備費等)すると3ドルの投資リターン(生産性の向上、医療コストの削減、モチベーションの向上、リクルート効果、イメージアップ等)があるとされています(参考:経済産業省「企業による「健康投資」に関する情報開示について」)。

健康状態がどれくらい経済損失に繋がっているかを計測する際に、当社ではプレゼンティズム(presenteeism)という指標を利用しています。プレゼンティズムとは、会社に出勤しているけれども、労働生産性が下がっている状態のことを指します。たとえば、花粉症や腰痛、肩こり、風邪等があげられます。このプレゼンティズムによる経済損失を当社で調べたところ、推計ではありますが、23.6億円となりました。

この損失額は「食事」「睡眠」「メンタル」「運動」の4つの領域における算出額です。2015年12月に、社員へアンケートを行った結果、食事・睡眠については約5割、運動については約7割もの社員が不健康であるという結果が出ました。二日酔いや花粉症など、他の要素も含めれば、23.6億以上の損失があるでしょう。

ディー・エヌ・エーの健康経営の目的は、この結果をいかにゼロに近づけていけるかということです。そのために、腰痛撲滅プロジェクトや鬱撲滅プロジェクト等、個別のプロジェクトを実施し、「会社の経営戦略としての健康経営」という位置付けになるように、発信しています。

堀氏
当社のビジョンは「Magnify Life」、皆様の人生を豊かにするために、眼鏡の小売だけでなく色々な取り組みを行っています。たとえば最近では、「JINS MEME(ミーム)」というサービスを提供しています。これまで、眼鏡は外を見るためのものでしたが、JINS MEMEは自分の中身を見るための眼鏡です。身体のバランスや眠気、集中度合等を眼鏡で計測し、アプリと連動して数値化して見せるというサービスです。どれだけプライベートの時間を充実させられるかといった「ワークライフバランス」が健康経営の主眼に置かれることもありますが、当社では、仕事でどれだけ健康であり、満足することができるかという点に注目しています。

実は、当社は3年前に本社を移転し、日経ニューオフィス賞の経済産業大臣賞を受賞しましたが、社員からは「仕事がしづらいオフィス環境」と言われてしまいました。コミュニケーションやコラボレーションを図るには適した環境だけれども、それだけでは仕事ができないということでした。個人が集中して、深く自分を掘り下げる時間と空間がないと、コワーキングの意味はないのです。コミュニケーションやコラボレーションに適した開放的なオフィスにすると「素敵なオフィスですね」と言われますが、それだけだと当社のような失敗に行き着きます。

JINS MEMEを使って、社員の集中度をいくつかの場所で計測したところ、実際にオフィスが一番低く、公園が一番高いという結果となりました。ですが、個人によって集中できる場所や時間は異なり、会社が一律で働く時間と場所を指定しても集中力や生産性は上がらないことがわかってきました。今後は社員が自分で選べるような空間や働き方を考えています。そこで現在、最高の集中体験を提供できる場所としてつくっているのが、「Think Lab」です。

Think Labでは、集中するための環境づくりに力を入れており、緑視率を意識しています。他社の研究結果ですが、見える視野角に15%緑があるとリラックスできるという結果があり、そうするように心がけています。その他にも、生体リズムを整えるために、朝昼晩で光をコントロールするようにしています。

健康経営、効果を測るには?

沢木氏
ディー・エヌ・エーさんで取り入れているプレゼンティズムは何をどのように計測すれば良いのでしょうか。

平井氏
全体を出そうとすると難しいので、たとえば「腰痛」など個別具体的なテーマに絞って、何割くらいの人が生産性が下がっている状態なのかをリサーチすることが重要です。主観評価にはなりますが、損失割合と年収をかけて算出することで、損害額を算出していきます(参考:東京海上日動健康保険組合「「健康経営」の枠組みに基づいた保険者・事業主のコラボヘルスによる健康課題の可視化」14頁)。

沢木氏
なぜ指標としてプレゼンティズムを活用しているのでしょうか。

平井氏
健康は福利厚生の対象ではなく、投資対象であることを伝えるためにプレゼンティズムを指標としています。これがないとやっていけないのではないかと思います。

健康診断の結果も健康度合を見える化する1つの指標となりますが、健康診断の結果が良い人が健康かというと必ずしもそうではありません。会社は病院ではなく、働いているメンバーが成果を出す場所ですから、そのために必要なサポートをどんどんしたいと思っています。会社が投資すべきは社員のパフォーマンスアップ、そこと検診結果はあまり紐づかないので、私はプレゼンティズムを指標としています。

沢木氏
ジンズさんでは、なぜ集中に注目したのでしょうか。

堀氏
半年に1回、社員へ健康に関するアンケートを実施し、労働時間やコミュニケーション、賃金、福利厚生等、どこに主眼があるのかリサーチしながら、問題があれば手を打つようにしているのですが、その中で「働く上で集中できない」という意見がありました。みんなが集中できないような今ある場所ではいけないと思い、働き方を変えるために集中にトピックスを当てました。

管理本部に緑を置いた時、音楽をかけた時、集中度がどう動いたかなど計測していっているので、こうしたデータを増やしていこうと思っています。

沢木氏
集中と因果関係のありそうな指標にはどのようなものがありますか。

堀氏
我々は小売業なのでNPS(Net Promoter Score)という指標を意識しています。NPSとは簡単に言うと、「お客様が誰かに紹介したいくらいジンズを気に入ってくれているか?」というレベルを数値化した指標です。これを我々は従業員に対して、「この会社に大事な人を紹介できるか?」という聞き方をして、確認しています。そこの浮き沈みを定期的に測ることによって、打った施策が響いているのかどうかが見えてきます。

株式会社おかん 代表取締役CEO 沢木 恵太氏、株式会社ジンズ 管理本部総務人事グループ マネジャー 堀 友和氏、株式会社ディー・エヌ・エー CHO室 室長代理 平井 孝幸氏

左から、株式会社おかん 代表取締役CEO 沢木 恵太氏、株式会社ジンズ 管理本部総務人事グループ マネジャー 堀 友和氏、株式会社ディー・エヌ・エー CHO室 室長代理 平井 孝幸氏

施策を成功させるには?

沢木氏
社員アンケートの結果からどうブレイクダウンして、効果に結び付けているのでしょうか。

平井氏
アンケート結果から個別に社員へヒアリングし、どういう課題があって、それによって生産性が下がっているのかどうかを見ていき、会社としてどういう職種の人にどういう働き方をしてもらいたいかを考えます。たとえばエンジニアだとしたら、エンジニアの課題として人数で見ると腰痛があげられ、これを解消するために歪みをなくすためのセミナーや研修を行ったりしています。ただ、セミナーや研修となると、意識の高い人、腰痛をどうにかしたい人は参加しますが、そうでない人は参加しません。腰痛を諦めている人をどうにかすることも考える必要があり、たとえば椅子に座りながらできるストレッチの方法を伝えるなど、取り組むハードルを下げるような方法を提案しています。

一方で、腰痛のプレゼンティズムを大幅に下げるために、腰痛撲滅プロジェクトも実施しています。このプロジェクトでは、健康器具メーカーやカイロの先生と組んで、1か月間のプログラムをつくり、それに取り組んでくれる人だけを集め、取り組んでくれる人には無料でメーカーの器材を提供しています。これによりどれくらいの成果が出ているかというと、1か月間で85%くらいの人が解決しています。

課題をひたすら解決するために、腰痛等どこかに特化して、きちんと取り組んでくれる人を見つけて横展開していくようにしています。

沢木氏
かなり実践されている印象ですが、外部アドバイザー等がいるのでしょうか。

平井氏
プロジェクトごとに、専門の先生に協力してもらっています。ただ、健康経営に取り組む際に、専門家に丸投げすると、専門家は実践家ではないので、うまくいきません。いかに専門家の知識を活用していくかを考えていかないと、お金だけかさんで社員の満足度は上がらない施策になってしまいますので、注意が必要です。

沢木氏
施策を進めるにあたって、経営陣に対してどうコミットしているのでしょうか。

平井氏
できるだけお金を使わないようにしています。そうしないと、福利厚生と見られてしまいがちです。そうなると、会社の業績によってはやめようと判断されてしまうかもしれません。どう存在感を伝え、どう成果を出していくかを日々考えています。

沢木氏
施策をやって失敗したケースはありますか。

平井氏
最初の頃は失敗ばかりです。健康研修を100回以上行いましたが、健康意識の高い人しか来ず、一番どうにかしないといけない健康意識の低い人たちに対してアプローチできませんでした。

堀氏
施策は成功することの方が少ないと思います。社内施策で悩んでいた時に、成功している企業の方の話を聞いたら、「会社で何かやろうとすると白黒言う人がいる。黒の人を白にすることは大変だけれども、グレーの人は白にすることができる。だから白の人を巻き込んで施策を打っていくことが中小企業だと進めやすい」と言われ、なるほどと思いました。また、声の大きい人を巻き込むと浸透度が速いので、本当にやりたいことについてはそういった動き方が必要になってきます。

健康経営を成功させる2つのポイント

セミナーの最後に沢木氏は、健康経営成功のポイントについて次のように述べた。

「色々な会社の取り組みを客観的に聞いていると、うまくいっている企業とそうでない企業の差はわかりやすい。うまくいっている企業には大きく2つのポイントがある。1つは、意識が高い人を巻き込むこと。推進者1人でなんとかしようとせず、役職に関わらず、社員を巻き込んでチームで推進していこうとしているような動きの企業は、パワーがあってアクションにつながっている印象。特に会社の規模が大きいと、なおさら1人で進めるのは難しい。2つめは、トップとのコミット。トップに対して一生懸命口説き落として納得してもらい、一言でも発信してもらうと、会社として注力していくことが社内外に伝わる。それをトップに強いることができるか、あるいはトップ自身ができているかどうかが大きい。この2つのポイントがそろっている企業は、特殊なアクションをしているところが多い」

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

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