柔軟な働き方の実現へ向けた座談会

第1回 働き方改革の主人公は誰か 副業の解禁には社員の自主性が不可欠

人事労務

平成29年10月から6回にかけて開催された、厚生労働省「柔軟な働き方に関する検討会」は、柔軟な働き方の実現へ向けて、副業・兼業、雇用型テレワーク、自営型(非雇用型)テレワーク、といったトピックについて、その実態や課題の把握、ガイドラインの策定等の検討を行った。

働き方改革が叫ばれる昨今、柔軟な働き方を推進していくために、企業や経営者、そして働く側には、どのような取り組みが求められるのか。

同検討会の委員である、森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士の荒井 太一氏、ロート製薬株式会社 広報・CSV推進部 部長の河崎 保徳氏、株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所 主任研究員・主任アナリストの萩原 牧子氏、一般社団法人クラウドソーシング協会 事務局長 兼 株式会社パソナ 営業総本部New Business Development室 シニアマネージャーの湯田 健一郎氏の4名を迎え、柔軟な働き方の実現へ向けた座談会を開催した。

前半では、萩原氏の進行のもと、同検討会の振り返りや、ロート製薬における副業解禁の取り組みについて、率直な意見が交わされた。

「働き方改革」と「柔軟な働き方に関する検討会」におけるトピックについては、下記をご覧ください。

【連載】「働き方改革」の行方と企業に与える影響
第1回 企業側と働く側から見た「働き方改革」の本質
第2回 柔軟な働き方と副業・兼業の解禁

一社が一人を雇用するのではない社会に向けて

萩原氏
「柔軟な働き方に関する検討会」は、副業・兼業、雇用型テレワーク、自営型(非雇用型)テレワーク、という3つの重要なテーマについて、短期間で並行して議論をして、各ガイドラインをまとめるという、とても難しいものでした。
検討会で議論が盛り上がったところ、効果があったと感じたところはどこですか。

荒井氏
いま、長時間労働問題が盛んに議論されていますが、この議論の前提は、「公」と「私」をしっかり分けて管理する、ということです。これは、あいまいなかたちで労働をさせられている時間をしっかりと「公」と位置付けることで、サービス残業をなくすといった点に主眼があります。

ところが、副業や柔軟な働き方に関して言えば、画一的な働き方では働けない、働きづらい労働者にとって、働きやすい環境をどう作っていくか、という問題です。いわば「公私混同」を認めないとうまく機能しません。まったく逆なのです。そして、これは矛盾ではなく、そもそも想定されている労働者や場面が違うので、これを区別することが大事です。検討会の冒頭には、そんな話をさせていただきました。

各論で言えば、副業・兼業で最も白熱したのは、労働時間通算制の話でした。労働基準法38条には、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」との規定がありますが、労働行政は、この規定は使用者を異にする場合にも適用される、と言っています。

【例】事業主Aのもとで働いていた労働者が、後から事業主Bと労働契約を締結し労働時間を通算した結果、法定時間外労働に該当するに至った場合、事業主Bに法定の割増賃金の支払い義務があります。(後から契約を締結する事業主は、その労働者が他の事業場で労働していることを確認したうえで、契約を締結すべきとの考え方によるものです。)

出典:厚生労働省「「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレット」6頁の図をもとに編集部作成

荒井氏
しかし、この考え方は、理論的にも実務的にも合理的とは言い難いといった観点からの意見がありました。さらに、副業・兼業の促進の観点では、使用者にとってはもちろん、副業を行いたい労働者にとっても弊害が大きく、今回の検討会を機にこの解釈を変更するべきではないか、ということが議論されました。
あと、労使関係団体からのヒアリング 1 を行った際には、なぜ副業・兼業をやるのか?というそもそも論で盛り上がりました。

湯田氏
副業・兼業については、専門家の間で課題となる部分は割と想定できていましたが、今まであまり正面から議論されておらず、社会的に認知されていないものも多くあります。たとえば、ダブルワークをしている方を雇う際に、企業側は労務管理や健康配慮、業務の延長指示など一定の配慮をする必要があります。
関連して、検討会の後半では、一社が一人を雇用しきるのではない新たな社会の仕組みになった時、その会社が責務を負う部分や把握してよい範囲についても話し合われました。たとえば、社員が「副業をやりたい」と申し出た時に、副業先の会社の情報まで提出するのか、副業先に雇用されるとしたら秘密保持契約を結ぶのか、労働者の権利をどう守るのかといった点も、ポイントとなりましたね。

荒井氏
雇用型テレワークについては、平成16年のガイドライン(平成20年に一部改定)策定後、スマートフォンなどが普及し、オフィス外での勤務が広がる中、どうやって現代に適用したらいいのか。そうしたオフィス外のスタッフと連絡が取れる状態であっても、「事業場外みなし」の適用があることについて確認されました。また、非雇用型テレワークでは、フリーランスのような新しい働き方を発展させていく方法や、その過程で保護し整理することの必要性も話題にのぼりました。

萩原氏
各検討委員が「使われないガイドラインを作っても意味がない」というこだわりを持って「そもそも本当に柔軟な働き方を実現するためには何が問題か」との視点からしっかりと意見を交換した、とても濃密な検討会になったと思います。

湯田氏
働き方改革の中で、長時間労働の是正に注目が集まっていますが、それを解決するためには、業務の生産性や効率性にも目を向ける必要があります。加えて、残業上限規制や、ホワイトカラー・エグゼンプションの議論が出てきた時に、相互の課題がどう関連してくるかを広く見ている方々が委員となっているのはバランスが良かったと感じます。

荒井氏
検討委員として入られていた労働法学者の方が「副業・兼業は、従来の使用者に対する責任を担保とする労働法との関係で言うと、本当に大きな問題だと思っています」とおっしゃったことがすごく印象的でした。これまでの労働法が「働かせる使用者、働かされる労働者」という構図を前提にしており、副業のように、労働者のほうが「働きたい」と言うことは前提としていなかったのだと思います。副業・兼業がパラダイムシフトなのだ、と強く意識されました。
時代の変化とともに、「働かされる労働者を保護する」という世界観を維持すべき場面とそうではない場面をしっかり区別していくことが今後の課題です。また、そうした大きなパラダイムシフトの中、従来の規制のアプローチも当然見直すべきでしょう。

働き方改革の主人公は社員

萩原氏
検討会での議論やガイドラインに対する反応はいかがですか。

湯田氏
柔軟な働き方に対するメディアの捉え方がすごく興味深かったです。テレビ局、新聞社ともに、多くの報道ではメインタイトルを「副業・兼業の検討始まる」とし、その後ろに「雇用型テレワーク」、その次に「非雇用型テレワーク」という文脈で書いているメディアが多い。

河崎氏
「働き方」という語の意味が、僕たちのやりたいことと少し違う方向で解釈されている気がします。一番違うところは「主人公は誰か?」という点で、もちろん社員でもあるし企業でもあるけれど、世間にとっては「次の時代に、雇用主が社員にどんな働かせ方をするのか」「企業にとって副業がプラスかマイナスか」というように企業が主人公になっています。検討会が始まる前から、そこには違和感がありました。

ロート製薬では「自分たちが成長するために、会社からどんな支援がいるか?」という問いに対して「副業を解禁してほしい」と社員が答えを出し、副業を始めた経緯があります。主人公を社員と見た結果始まった制度なのです。
「主人公は誰か?誰のためにやるのか?」という議論は、おそらくこれからもずっと続くでしょう。今後我々もできる範囲で情報を発信していかないと、世間の議論は違う方向へ行ってしまうのではないかと懸念しています。

荒井氏
そういう意味で、検討会の真のテーマは、労働者観や、労働に対する考え方だった気がします。

森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士 荒井 太一氏

森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士 荒井 太一氏

働き方改革は自ら手を挙げて行うことがカギ

萩原氏
ロート製薬では、柔軟な働き方をどう実現していますか。取り組みとその成果、実践にあたっての課題を聞かせてください。

河崎氏
ロート製薬は、2016年に副業解禁を発表して「社外チャレンジワーク制度」と「社内ダブルジョブ制度」の2つの制度を始めました 2 。「社外チャレンジワーク制度」では、外へ行って新たなものと出会い、吸収することで、自身の成長につなげる。「社内ダブルジョブ制度」は、社内の知らない部門・仕事、興味のあるものへアプローチし、自らの視野を広げることができます。

いずれも若い社員からの提案で、「自分の成長のため」という動機を聞き、会社としては、即座に応援し期待に応えたいと思い立ちました。ただ、一番気にしたのは法的な課題です。僕らはその点勉強不足だったので、顧問弁護士に相談したところ、明確な結論ではなかったものの「機密情報の漏えい以外は問題ないのではないか」とアドバイスをいただいたので、僕らは良い方に解釈しました。
ただし、時間外労働に関して、会社がYES・NOを判断する許可制にすると、会社は通算時間の管理をしないといけないし、社員には労働時間の報告を求めないといけないなど一定の責任が発生するだろうと考え、当社では申告制をとりました。

萩原氏
両制度に応募する場合の条件はありますか。

河崎氏
「社外チャレンジワーク制度」については、入社3年目以降を対象にし、まずは時間外を活用するところから始めることを条件にしています。「社内ダブルジョブ制度」では、働き過ぎで大変な社員が「副業したい」と相談した時に、上司が「今はそのタイミングではない」と言ってセーフティーネットの役割をすること。そういう仕掛けでスタートしました。
これまでに約50名が「社外チャレンジワーク制度」でダブルジョブをしていますが、ほとんどの動機がお金のためではありません。故郷の役に立ちたい、幼なじみの会社を助けたい、東日本大震災から復活しようとしている地元の水産業の役に立ちたいなど、動機が志に支えられているから、労働の喜びがあるし、自己の存在価値を確認できます。副業への取り組みがモチベーションの点でものすごくプラスに働いていると感じています。

萩原氏
副業の分野や内容は、幅がありますか。

河崎氏
幅広いです。
たとえば、福島出身の営業の女性は、故郷のために活動しています。風評被害で酒蔵の売上が滞っている中、60の蔵元が推薦する福島のおつまみと地酒をセットで販売する。雑誌とホームページによる通販の仕組みを地元の仲間と立ち上げて、本人も利き酒師の免許を取りながら、地域を支えています。
奈良の製造部門に所属する生産技術の男性は、やりたかった地ビール事業を立ち上げる、ということで会社を設立して活動しています。他のビジネスで得た経験がロート製薬での仕事に活かされています。
あるいは海外駐在経験があって、華道の免状を持つ女性は、外国人駐在員の奥様にお花を通じて、英語で日本文化を伝える活動をしています。英語力の維持、日本文化の発信、各国の文化の吸収ということで、お金をいただいて教えています。

要は自主的であると。働き方改革は、与えられるのではなく自分が手を挙げてすることがカギになります。もちろん、やらない選択・やる選択・途中でやめる選択、どれも社員一人一人が決める。自主性が根にあるから、成果に結びついている気がします。

湯田氏
社員の内発的動機づけをどうしていくかは重要ですよね。

ロート製薬株式会社 広報・CSV推進部 部長 河崎 保徳氏

ロート製薬株式会社 広報・CSV推進部 部長 河崎 保徳氏

社員に裁量を与えると生産性が上がる

河崎氏
大切なのは、仕事には結構無駄があって、生産性を上げるための改善の余地があるということ。生産性の低さは上司の仕事の与え方に問題があると今まで思い込んでいました。

荒井氏
確かに、今までの労働契約の発想からすれば、上司が部下を管理することが当然の前提となっており、上司の仕事の振り方が生産性を高めるというように、社員を管理する発想でした。

河崎氏
しかし、自分が大切にしているもののため、やりたいことを完遂するためという時にこそ、個々人の工夫がたくさん生まれるわけです。やっている人間には「本業の会社、仲間に迷惑をかけたくない」という気持ちがあります。だから、個人の仕事のやり方や、スケジューリングの能力がものすごく成長する。

荒井氏
自主的な改善が起きるということですね。

萩原氏
他の企業でも、社員に副業をさせると、労働時間が短くなる効果があるようです。

河崎氏
それでいてアウトプットは落ちません。実際に当社において、ダブルジョブで自分を高めようという意欲のある社員は、行動的で本業の成績も良いという傾向があります。
たとえば「社内ダブルジョブ制度」を用いて、営業をしながら人事で教育に携わっている社員がいます。

萩原氏
兼務ということでしょうか。

河崎氏
そうです、「人事部門に兼務を命ずる」という辞令が出ます。
こういう話をすると「何%の割合で、人事部門の業務をさせているのか?」という質問が社外の方からよくあるのですが、当社はダブルジョブの割合を何%にするという規程は設けていないので、これには回答がありません。
営業向けの教育アイデアを実現したいという強い意志があって、人事部門の部長が承諾したら「このプログラムをやってみるか?」「どんなことを考えているか議論しよう」となる。そこの割合を決めてどうするのかと(笑)。

萩原氏
社外のダブルジョブは就業時間外、社内のダブルジョブは就業時間内で行うのですか。

河崎氏
そのとおりです。
当社の場合は、兼業の人が来ているからといって、その分人員を減らすことはありません。
だから、仕事の割合等は会社や上司が決めるのではなく、社員自身が努力してコントロールします。必要であればある週は兼業先の業務に20~30%割くし、本業が忙しければ0%というような具合で、自主的に調整し、本人のできる範囲内でダブルジョブを任せています。

荒井氏
仕事をやるか否か、どうやるか、いつやるかも含めて、かなり大胆に社員に裁量が委ねられているのですね。

湯田氏
与えられた時間が限られている中で工夫して仕事を効率化し、個人が興味を持てる業務や、会社のビジョンに共感出来る仕事へいかにメンバーを配置するか、人事施策への意識も強めていく必要がありますね。組織の枠を作って人を当てはめるのではなく、人をどうやって活かすのか。今後の社会において、「働くこと」のとらえ方をより柔軟に多角的に考えられる環境をつくっていきたいですね。

プロフィール

荒井 太一(あらい・たいち)
森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士
2002年慶應義塾大学法学部卒業。2003年弁護士登録。2009年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2010年ニューヨーク州弁護士登録。2009年~2011年米国三井物産株式会社および三井物産株式会社出向。2015年~2016年厚生労働省労働基準局勤務。2017年厚生労働省「柔軟な働き方に関する検討会」委員就任。労働関係法規の理論と実務に豊富な知見を有する。著作『労働訴訟』(共著) (中央経済社、2017)ほか。

河崎 保徳(かわさき・やすのり)
ロート製薬株式会社 広報・CSV推進部 部長
日本生命保険相互会社を経て、1986年ロート製薬入社。営業、マーケティング畑を歩み、米国NY子会社駐在後、商品企画部長、営業企画部長を歴任。3.11東日本震災後は復興支援室長として東北で被災地の復興支援に尽力。震災遺児の進学を後押しする公益財団「みちのく未来基金」創設を行う。2015年から現職に。2017年厚生労働省の「柔軟な働き方に関する検討会」委員就任。2018年~神戸大学大学院非常勤講師も務める。

萩原 牧子(はぎはら・まきこ)
株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所 主任研究員、主任アナリスト
大阪大学大学院博士課程(国際公共政策博士)修了。株式会社リクルートに入社後、企業の人材採用・育成、組織活性の営業に従事。2006年4月より現職。個人を対象にした調査設計を担当し、就業選択や多様な働き方について、データに基づいた分析、検証を行う。公共経済学・労働経済学専攻。専門社会調査士。2017年厚生労働省「柔軟な働き方に関する検討会」委員就任。

湯田 健一郎(ゆだ・けんいちろう)
一般社団法人クラウドソーシング協会 事務局長
株式会社パソナ 営業総本部 New Business Development室 シニアマネージャー
組織戦略・BPO・CRMのコンサルティングに携わり、特にICTを活用した事業プロセス最適化の視点から、幅広い業界・企業を担当。株式会社パソナにおいてリンクワークスタイルの推進統括を行いつつ、一般社団法人クラウドソーシング協会の事務局長職など、自身でもパラレルワークを実践。政府の働き方改革推進に関連する経済産業省の「雇用関係によらない働き方に関する研究会」や厚生労働省の「柔軟な働き方に関する研究会」「雇用類似の働き方に関する検討会」委員等も務める。

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