働き方改革時代に求められる攻めの管理部門 経営層と現場の間に立って企業の課題を解決

人事労務

エンプロイー・エクスペリエンス(Employee Experience)という言葉をご存知でしょうか。エンプロイー・エクスペリエンスとは、従業員が企業や組織の中で体験する経験価値のことを指し、近年、働き方改革が推し進められる中で、注目が高まっている視点です。なぜ注目されているのか、それはエンプロイー・エクスペリエンスが向上することによって、従業員のモチベーションが高まり、ひいては生産性の向上に結びつくと考えられているからです。

このエンプロイー・エクスペリエンスに注目し、従業員の働き方に関するトークイベントが3月7日に開催されました。主催は社食サービスを提供する株式会社おかん。本稿では、「管理部門こそ花形部署へ!これからの企業経営を変えるのは攻めの管理部門!」と題したセッションで語られた内容をお届けします。

管理部門は利益を生まない部署という誤解

管理部門の仕事というと、「利益を生まない仕事」という見られ方がこれまで長く日本には根付いていたように思います。しかし、少子高齢化時代を迎えた日本は、働き方改革が重要なテーマとなり、管理部門に対する捉え方が変化してきました。

本セッションに登壇したのは、元株式会社スクウェア・エニックス 総務部長で現在は一般社団法人 日本ライフシフト協会の理事を務める岡田 大士郎氏、ヤフー株式会社 コーポレートグループコーポレートPD本部働き方改革推進室 室長の古藤 遼氏、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ヒューマン キャピタル ディビジョン シニアマネジャーの田中 公康氏の3名です。

岡田氏はスクウェア・エニックスの米国法人で社長を勤め、帰国後に総務部長となったユニークな経歴の持ち主です。そんな同氏は管理部門について、これまで「価値を生まない部署という誤解があった」と話します。

「管理部門は売上を上げる部署ではありません。でも、売上を上げたり、クリエイティブなものを作ったりする人たちの仕事の価値を高めるための部署です。一概に投資対効果で測れるものではありませんが、管理部門がしっかり従業員のケアをしていかないと、ひいては会社の成長に大きく影響を及ぼす仕事を担っているのです」(岡田氏)

働き方改革を推進していく中で近年、取り上げられるテーマの一つに労働時間の規制があります。従業員の過労死自殺に関する報道が相次ぎ、政府もいよいよ本腰を入れつつあります。企業の管理部門は、違法な労働時間を従業員に強いていないかどうか、見直しやルール作りが始まりました。

こうした世間の動きに対し、企業の人事計画や組織再編、営業改革に関するコンサルタントとして、業務改善のプロジェクトに従事する田中氏は、「労働規制はやって当たり前。本質は、いかに生産性を向上できるか。従業員一人一人の働きやすい環境を考えていくことがこれからの管理部門に問われてきます」と話します。企業の生産性向上に寄与することが、これからの管理部門には求められています。

元株式会社スクウェア・エニックス 総務部長、一般社団法人 日本ライフシフト協会 理事 岡田 大士郎氏

経営層と現場の中間の立場として

では一体、どうやって生産性を向上させればよいのでしょうか。一律に答えの出ない課題に対して、セッションでは「経営層と現場の中間の立場として考えるストーリー作り」がキーワードとして語られました。

「私はアメリカで社長を経験してから総務部長になったことによって、気付かされたことがありました。社長の頃は会社全体のことを把握できていると思っていましたが、日本で総務部長になり大反省。いつの間にか、自分に上がってくる話だけで判断するようになっていました。現場と経営には乖離があるものです。現場がどのような環境だとがんばって仕事をすることができるのか、現場の生の声を聞いたうえで、演出の仕方を考えなければいけません。管理部門は場づくりのプロデューサーなんです」(岡田氏)

岡田氏は、スクウェア・エニックス時代に取り組んだ事例の一つとして、オフィス移転をあげました。同氏がアメリカで勤めていたオフィスはクリエイティブな環境で、そこと比べると日本のオフィスは賃貸的なオフィス。従業員がよりワクワクするような環境にすべく、オフィス移転の話を社長に持ち出したそうです。

「最初は社長に反対をされました。経営者はいかに投資して利益に結びつけるのかということを絶対に求めてきます。そのストーリーをいかに作ることができるかが重要です」(岡田氏)

数年かけてオフィス移転を実現させた結果、スクウェア・エニックスではヒット打率が約10倍に増え、従業員数を増やすこともできたといいます。「従業員の幸福度が高ければ、その先には絶対イノベーションがあると確信しています」と同氏は話しました。

2016年10月に大規模な移転を行ったヤフーで従業員6,000人の働き方改革を推進する古藤氏も、オフィス移転について次のように語りました。

「6,000人の移動を単なる横移動にしては意味がありません。従業員にとって満足度が高いものになり、会社の戦略とどうすり合わせていくかを考えていかなければいけません。そのため、経営層と毎週のように会議を行い、方針を固めていきました。次に大事なことは、きちんと現場へ説明していくことです。従業員に改革してもらわないといけませんから、そうなるともう、6,000人行脚状態。説明会やワークショップ、場合によってはトップからのメッセージの発信など、丁寧なコミュニケーションには時間がかかります」(古藤氏)

ここで田中氏は、経営層と現場へのコミュニケーションにおいて、次のようにアドバイスしました。

「経営者は必ずその時の悩みや課題を持っています。そこに対してきちんとストーリーを提示し、課題解決につながる提案ができるかどうかが全てです。当たり前ですが興味関心のないことを提案しても、聞いてはもらえません。一方で、経営層の意識が高すぎると、ついていけなくなる現場メンバーが出てきます。このメンバーをケアしていかないと、組織がバラバラになってしまう恐れがあります。そこを管理部門がしっかりリードしないといけません」(田中氏)

ヤフー株式会社 コーポレートグループコーポレートPD本部働き方改革推進室 室長 古藤 遼氏

組織はファイナルファンタジーのように

話題は組織のあり方へと移っていきます。これまでの日本企業は階層型の組織構造でしたが、その体制に田中氏は一石を投じました。

「これまでのようにラインで統制していくよりも、アメーバのようにその時々で適した小さな組織を作り、ミッションを達成したら解散するといったあり方の方が柔軟な対応ができるのではないでしょうか。そう、まさにファイナルファンタジーのパーティのように(笑)」(田中氏)

岡田氏もこの考えに同調し、近年ソフトウェア開発の現場で採用されているアジャイル開発という手法を例にあげました。

「アジャイル開発では上下の関係がなく、皆フラットにアイディアを出し合いながら新しいものを作っていこうという体制です。同じように組織も必要な時に必要な人が集まって、チームを作っていくような体制がこれから求められてくるのではないでしょうか。また、それは社内に限った話ではありません。コワーキングという考え方が今後ますます浸透してくると、従来のような競合企業とは交わってはいけないという固定概念が変わり、オープンソサエティが実現されていくと思いますよ」(岡田氏)

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ヒューマン キャピタル ディビジョン シニアマネジャー 田中 公康氏

会社の中のムダを削減

生産性向上のためにやるべきことの一つに、業務のムダの削減が考えられます。3名が「削減すべきムダ」としてあげたのが、「曖昧な指示」と「会議」でした。「曖昧な指示」に関する問題について、岡田氏はクリエイターの職人芸を具体例に話をしました。

「ゲームのクリエイターはこだわりが強く、職人気質です。たとえば先輩が「こういうもの作ってよ」と後輩に依頼すると、後輩は徹夜して100案作ってきます。それを見て先輩は「そうじゃなくて、もっとこういう感じのもの」と返し、また後輩は徹夜するというサイクルが往々にしてありました。そこで、手戻りがないよう明確に指示を伝えるようにしてもらった結果、時間あたりの生産性が大きく向上しました」(岡田氏)

古藤氏も、同様の例をあげました。

「当社ではチャット文化が根付いていた時期があり、隣にいるのにチャットでコミュニケーションしているような時期がありました。それを辞め、画面を見ながら話し合うようにした結果、時間の削減につながったという結果があります」(古藤氏)

また、ヤフーでは会議についても、「やらない会議」を決め、従業員の拘束時間を解放することも検討しているそうです。会議の削減については田中氏も賛同し、「5人で1時間の会議をすると全体で5時間分のリソースがかかり、8人で1時間の会議をすると全体で8時間分のリソースがかかります。本当にその人数で集まってやる必要があるのか、見直す会議は多くある」と断言しました。

まずはやってみることから

働き方を改革するうえで、施策を考える際にあわせて指標も検討することになるでしょう。なかなか前例がない中で、どう指標を作り評価していくのか、難しいところです。しかし、そうして考えている時間に対して、田中氏は「さっさと決めればいい」と主張しました。

「考えても結論は出ません。また全社一斉に導入しようとなると、時間がかかりますし、リスクも生じます。部分的にトライアルのような形で、とにかく実施して、たくさん結果を出し、振り返ることが重要です」(田中氏)

これに対し、古藤氏も賛同します。

「パフォーマンスは測れるもので測るしかありません。当社でもまず100人のトライアルから始めて、データを取って、やっと状況が見えてきたという経験があります。実施しない限りは、机上の空論なのです」(古藤氏)

最後に岡田氏は、サントリーの創業者である鳥井 信治郎氏の「やってみなはれ」という言葉をあげて、締めくくりました。

「日本はある時期から、設定した目標の達成に向けた働き方が求められるようになってしまいました。昔の日本は「やってみなはれ」という言葉の通り、おもしろければ何をやってもいいという時代があり、そうやってものづくりに挑戦してきました。当時の働き方を振り返ることも必要だと思いますよ」(岡田氏)

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

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