働き方改革に成功パターンはない キーワードは企業ごとの「働き方開発」

人事労務

3月16日、Sansan株式会社が主催する「Sansan Innovation Project 働き方2020」が都内で開催されました。本イベントでは、2020年に向けた働き方について様々な企業によるプレゼンテーションがなされ、当日は全部で31に及ぶセッションが開かれました。

本稿では、BUSINESS INSIDER JAPAN 統括編集長の浜田 敬子氏、大阪大学大学院経済学研究科 准教授の安田 洋祐氏、一般社団法人at Will Work 代表理事でありPlug and Play Japanに勤める藤本 あゆみ氏、株式会社リクルートホールディングス 働き方変革推進部 エバンジェリストの林 宏昌氏による、「キーワードは働き方”開発”〜「働き方改革」が必要な理由と、成功のヒント〜」と題したセッションの内容をお届けします。

日本企業が陥りがちな「ブラック均衡」

最初のテーマは「働き方改革は、なぜうまくいかないのか」。本講演でモデレーターを務めた浜田氏による、BUSINESS INSIDERで実施したアンケート結果の内容を皮切りに、セッションはスタートしました。

浜田氏によると、「ミレニアル世代の残業リアルアンケート」で残業理由として最も多かった回答は「仕事量が多い」、次いで多かった回答は「クライアント対応」だったと言います(参考:Business Insider Japan「「終わるわけない仕事量」若手488人が挙げる残業減らない理由トップ5:「上司は仕事以外の人生がない」との声も」)。

残業規制など、働き方改革に通じる制度づくりを進めている企業は増えてきていますが、その実態はまだまだ改革の域に達しているとは言えない状況です。経済学者である安田氏は、働き方改革がうまくいかない理由について、「日本経済全体にも企業内部にも、それぞれにうまくいかない原因がある」と解説しました。

安田氏によると、日本経済全体で見た時の原因は、「バブル崩壊以降、日本が陥っている負のスパイラル」にあると言います。

労働生産性低迷の「負のスパイラル」

「バブル崩壊以降、低賃金化した日本において、企業は設備ではなく安い労働力である人へ投資してきました。設備投資の需要が低迷すると金利は低下し、それだけでなく技術革新が起こらなくなります。そして、資本投資が減少していくと、多くの職場は労働集約型になります」(安田氏)

たとえば、機械がたくさんある工場とほとんどない工場を比べた場合、機械がたくさんある工場で働く労働者の方が一人当たりの生産性は高くなると想像できるでしょう。

「目先の人件費の方が安いからと設備投資を減らすとアウトプットも減ることになります。これを「労働の限界生産性」と言います。そうなると、さらに賃下げが起こり、ますます低賃金となった状態でふりだし(上図のサイクルの一番上)に戻ります」(安田氏)

このサイクルは通常はどこかで歯止めがかかるそうですが、日本は非正規雇用者が増えたこともあり、長らく負のスパイラルに陥っていたと言います。しかし、「最近になってようやく変化の兆しがある」と安田氏は話します。

「正規・非正規に関わらず賃上げの傾向になり、さらには空前の売り手市場。賃金が少しずつ高くなってきたため、すでに人から機械へと投資の対象が移り始めてきています」(安田氏)

以上が日本経済全体の視点での解説でしたが、では企業内部で見た時はどうでしょうか。「なぜ残業がなくならないのか」という問題について、同氏はゲーム理論1を用いて説明しました。

残業問題の原因:「ブラック均衡」

会社の中に2人の社員がいるとして、それぞれ「残業」と「定時退社」という選択肢を組み合わせると、4通りの結果があります。

「社員が2人とも定時退社をすると、満足度が高く、ホワイト均衡が保たれます。気をつけなければいけないのが、どちらも残業する「ブラック均衡」の状態と、さらには片方だけが定時退社した場合はブラック均衡以上に定時退社した社員の満足度が下がるということです」(安田氏)

安田氏によると、他の社員が残業している中で自分だけ定時退社をすると、「人事評価などで不利益を被るかもしれない」という強迫観念が芽生え、結果としてブラック均衡、つまり全員が残業する環境に安定化してしまうということです。

「定時退社を勧める制度は多くの企業が実施していますが、それだけだとブラック均衡からは抜けられません。制度を入れるのはあくまで始まり。ホワイト均衡へジャンプできるような環境を上の立場の人間は考えなければいけません」(安田氏)

組織単位でのトライアンドエラーを

「ブラック均衡」という環境もそうですが、日本企業が陥りやすい問題は他にもあります。自身がパラレルキャリアを実践する藤本氏と、従業員の働き方改革を推進する林氏は、企業の「あるある」な問題として、「仕事の選択」を指摘しました。

「これまで仕事としてやってきたことは基本的に全てやるものとして認識してしまっているのではないでしょうか。しなければいけない仕事とそうではない仕事の選別ができていないように思います」(藤本氏)

「「働き方改革」と呼ばれる中には、ダイバーシティ推進や生産性向上、労働時間の削減など様々な要素がありますが、目的によってやる施策は異なります。まずは何をすべきか優先順位をつけて取り組むこと。また、方針を決めても業務プロセスを変えないと、残業をなくすことはできません。方法論がなく、方針だけ設定している企業が多く見受けられます」(林氏)

安田氏は「従業員に対して属人的な捉え方をせずに、どういった状況だと従業員のパフォーマンスが上がり、良い結果が出るのか、その仕組みづくりが重要」だと指摘します。しかし、この仕組みづくりは成功パターンが決まっているわけではありません。だからこそ、働き方改革のキーワードとして「働き方開発が重要」となってくるのです。

「あるやり方で成功したとしても、それはその会社だから成功したこと。自分の会社で成功するかどうかはわかりません」(藤本氏)

「人事制度というと一律感がありますが、全従業員に横断で働き方を強制しても、フィットする組織もあればそうでない組織も出てくるでしょう。だから、まずは小さな組織単位でトライアンドエラーをいかにはやくまわしていけるかが重要です。やってみないと結果は出ません。働き方改革は新規事業開発とほとんど一緒。数年後よりも明日の幸せを目指して、考えていきましょう」(林氏)

企業の存続に関わる働き方改革

最後に、パネラーの3名から企業の働き方改革担当者に向けて、次のようなメッセージが送られ、セッションは締めくくられました。

「ブラックな体質の飲食チェーン店が一斉に淘汰されたことは記憶にあるでしょう。アルバイトが集まらず、人手不足に陥っています。現在、労働者は売り手市場、企業は人を雇うのが大変な時代です。つまり、ホワイト均衡に変えられないような企業は、遅かれ早かれ事業規模が縮小し、マーケットから排除されていくはずです。もはや、企業として働き方改革を進めて当たり前という時代なのです」(安田氏)

「企業は怖がらずに従業員に、「働き方を改革した結果、どんな成果を上げてくれるのか」と聞いてもらいたいです。企業のミッションは売上を上げて社会に貢献すること。それを従業員も忘れないよう、お互いに話し合ってみることが重要だと思います」(藤本氏)

「働き方改革によって企業は儲けないといけません。言い換えれば、儲けるために働き方を変えようということなんです。会社の利益と従業員の幸せの両立をどう考えていくかが大事です。また、「うちの会社は〜」とか「うちの業界は〜」という話を聞きますが、変わるか変わらないかは企業ではなく人なんです。誰かのせいにせず、小さくてもいいので、何かを始めてみないと何も変わりません」(林氏)

左から、BUSINESS INSIDER JAPAN 統括編集長 浜田 敬子氏、大阪大学大学院経済学研究科 准教授 安田 洋祐氏、一般社団法人at Will Work 代表理事/Plug and Play Japan 藤本 あゆみ氏、株式会社リクルートホールディングス 働き方変革推進部 エバンジェリスト 林 宏昌氏

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)


  1. 複数主体が関わる意思決定の問題や行動の相互関係を研究する学問。 ↩︎

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