誰にでも起こりうる「中だるみ社員」の危険性

第2回 「中だるみ社員」に対して企業がすべきこと

人事労務

昨年5月に『「中だるみ社員」の罠』(日本経済新聞出版社)を上梓した青山学院大学経営学部 兼 大学院経営学研究科の山本寛教授に、前回は「仕事、キャリアの停滞感からの脱し方」についてお話を伺いました。今回は、停滞感を感じている「中だるみ社員」に対して企業はどう向き合えばよいのか、お聞きしました。

上司に必要な、余裕とコミュニケーション

会社としては、「中だるみ社員」を増やさないために、上司が部下に対してできることと、会社の制度としてできることがあると思います。まず、上司は部下に対して何をするとよいですか。

上司が部下に対するコミュニケーションにおいてすべきことは、励ましと教育的指導です。励ます時に重要なことは、本当に部下が必要な時に、必要な範囲ですることです。長期の「中だるみ」状態にいる部下に、ただ「がんばれ」と励ましても、それは絵空事だと思います。とにかく部下の状態に寄り添って、励ますことができる技量を、上司は身につけないといけません。

これはエンゲージメントの話ですが、エンゲージメントを劇的に上げた例として、コマツがあります。コマツではまず、会社が上司に対する教育を行いました。部下がやりがいを持って働くためには、自分の仕事に誇りを持ち、上司を信頼することが1番大事だと。そうなるために何をしたらいいかという研修を行った結果、業績ではなく、エンゲージメントがすごく上がりました。

また、ヤフーでは、「1on1ミーティング」が行われているという話を聞きますが、個別面談は活かしていった方がよいと思います。1週間に30分などと限定はせず、定期的に行うことが重要です。ただ、どうしてもミーティングというと進捗管理が多くなり、上司が「今度1on1やるから」と言うと、部下は「1週間前のあの仕事について聞かれるのか」と、身構えられてしまいます。「中だるみ状態」や「中だるみ社員」とレッテルを貼られる1歩手前になると、部下は自分の状態がわかっていないこともあるので、上司は進捗管理ではなく、もっと、見る目と聞く耳を持つ必要があります。

まずは対話が重要ということですね。

そうです。非常に重要なのは、「中だるみ」に陥らないために何をするのかという上司の判断です。どんな刺激を与えるべきなのかを見極めるためにも、部下から情報を得る必要があります。情報を得るためには、自分のことも話さないと心を開いてくれません。上司にはカウンセリング技術も求められてくるのです。

そうしていくと、劇的に違いが現れるでしょう。特に若い社員だと、「あの上司は私のことを見ていてくれる」と思うようになります。この「見ていてくれる」という言葉がすごく重要だと思います。ただウォッチしているのではなく、自分の状態をわかってくれているという気持ちにさせることが重要なんです。そうして部下に安心感を持ってもらったうえでやっと、教育的指導ができるようになります。全ては、基本的な信頼関係を構築してからです。

課長やマネージャーといった立場で、ここまで部下のことを考えられている人は実際多くないように感じます。

部下とコミュニケーションをとるうえで、上司には余裕が必要です。余裕がないのは、上司がプレイングマネージャーだからです。部署をきちんとハンドリングしていくためには、自分の部署の将来像を描く時間を会社が与えないといけません。

ただ、上司は自分1人で全てのマネジメントをするわけではなく、片腕も、補佐役も、若手社員であればOJTリーダーも置き、各メンバーと連携していくことが必要です。誰でも「中だるみ」になる可能性はありますし、「中だるみ」からの抜け出し方は一人ひとり違います。色々な人を頭の中で有機的に描いて、たとえば「自分の出張中は、彼・彼女に任せよう」「特に今見ていないといけないのは、育休明けの彼女だ」「新入社員のOJTリーダーは、2、3年上の先輩に任せよう」など、色々チョイスしながらマネジメントするだけの余裕が、上司には必要です。

青山学院大学経営学部 兼 大学院経営学研究科 山本寛教授

青山学院大学経営学部 兼 大学院経営学研究科 山本寛教授

企業が考えるべき制度

会社としてすべきことは、まずは上司が余裕を持って部下とコミュニケーションする時間を持てるようにした方がよいということですね。

今、長時間労働抑制のチェックの尻拭いをしているのは中間管理職です。中間管理職に対して余裕を与えると、その部下の目標にもなってきます。上司は部下にとっての将来像ですから、「こういう状態になりたい」というリテンションにもつながるわけです。

また、上司同士の情報交換の場やキャリアコンサルタントなど外部の専門家の援助を得る場をつくることも1案です。

企業の副業解禁が叫ばれていますが、副業は「中だるみ」の解消に有効でしょうか。

副業は可能にした方がよいと思います。もし企業の中で懸念点があるようであれば、「勤続3年以上」「同業他社禁止」など、条件をつけることで払拭することもできるのではないでしょうか。

ロート製薬の取り組みがよい例で、最初にダブルジョブの導入から始めました。職務分掌で定められている内容だと、そのままではどうも副業には向いていかなさそうだということで、まずは社員がもう1つ、サブの仕事を担ってもらうということを実行しました。そうすると、普段とは違う人と仕事し、普段とは使う能力も違うから、「中だるみ」の解消になります。そうして実践した後に、若手を巻き込んで、どういうことを副業として認めたらよいか、意見を言わせていきました。ボトムアップから始めると、失敗しづらいものです。そうやって試行錯誤しながら、いざ副業を解禁したところ、その効果はリテンションに現れたと言います。今以上の仕事をする能力のある人材が、会社にいたまま他の仕事ができるチャンスは、リテンションに非常に役に立ちます。もちろん、「中だるみ」を脱することにもなります。

ジョブローテーションも「中だるみ」の対策としては有効ですね。

ジョブローテーションは技能の単なる拡散につながらないよう注意しながら、ある程度やった方がいいです。全く関係ないところに行くと、それまでの技能が使えなくなることもありますが、リフレッシュして、能力が広がる可能性があります。ニトリでは、「人は、2、3年異動しないと化石になる」と言って、どんなに業績を上げていても2、3年で必ず異動させるそうです。

面接や会社広報で「当社は、10年で3か所異動させます」と言っている会社はよくありますが、実際には「全員は異動していない」という声をよく聞きます。最初の数年間は教育期間であり、1つの専門分野に能力を収斂する必要がないのであれば、他の仕事を経験させることを積極的にやっていく必要があります。専門性を深めることはいったん置いて、まずは停滞から脱することです。そうしていくうちに、キャリア上の母港ができてくると思います。鮭のように、いずれその母港へ帰ってきます。たとえば、「自分は営業で1番業績を上げたし、評価も高かったし、営業がやりたい」と選ぶ時が訪れるでしょう。

人手不足で異動させられない会社も多いと思いますが、そこは思い切って人を動かして、活性化させる必要があると。

はい。そのためには、社内人材公募制度がいいですね。応募はイントラネットで受け付けると思いますが、絶対に上司経由にせず、公募部署で直接受けるようにします。面接はすぐに実施し、1週間以内に決めるようにします。そうした社内転職が可能になると、優秀でない上司からは部下がどんどん逃げていくので、そこで優勝劣敗につながるでしょう。

コミュニケーションの活性化という点ではどうでしょうか。

ある会社ではコミュニケーション費用として、月に1回鍋パーティやコンパ代を出しているそうです。そういう会を開くことによって、新入社員が入った時に先輩社員とすぐに交流できる機会となります。あと、メンタリングはぜひ導入した方がいいです。上司は評価者なので、上司をメンターにするのではなく、違う部署の先輩社員が適しているでしょう。

研修も有効な手段でしょうか。

研修も「中だるみ」を脱する効果がありますが、上司が研修に行く部下を送る時に、「がんばって勉強してきて」「戻ってきたら、君の仕事のここに活かして」という言葉で送り出すことが重要です。そして、部下が研修から戻ってきたら、周りにいる先輩は「どんなことを身につけてきた?」と聞き、「その仕事は、この間の失敗に活かせるんじゃない?」と助言をします。皆が関心を持って、その人の能力開発、つまり変わるきっかけを、本人にきちんと意識させ、尊重していくわけです。こういう機会はすごく重要だと思います。

そのほかには、「留職」という面白い制度もあります。留「学」の代わりに留「職」。これは、あるNPO法人が取り組んでいる活動で、企業単位で申し込み、社員が発展途上国へ行って、そこで自分のスキルを使った仕事をする、というプランです。単に利益のため、自分のためではなく、自分が社会のためになっていることを知ることによって、「中だるみ状態」から脱することもあります。誰かの役に立っていると意識できるようになるには、副業もそうですが、ボランティアも役立ちます。それが広がったものが「パラレルキャリア」です。複数のキャリアを並行して磨いていくという意味の「パラレルキャリア」は、副業で儲けるというより、社会的な仕事をするということですから、これもまた「中だるみ」を脱却する有効な手段です。

会社の中に「中だるみ社員」が多いと感じた場合、まず何から始めればよいのでしょうか。

次から次へ、ありとあらゆることをやった方がいいと思います。人間は、新しい刺激は刺激と感じても、数年経つと飽きてしまいます。だから、飽きさせないように、「うちの会社は忙しくて大変だけど、こんな新しいことができる」「同業他社と違うことができる」と、社員に対して刺激を感じさせ続けていくことが非常に重要ですね。

また、その中でも上司への教育が1番重要です。「中だるみ社員」が多いということは、上司も中だるんでいます。中だるんでいる上司の典型が、失敗しない上司です。特に大企業の管理職は、自社のやり方を知っていて、たとえば1.5倍の営業目標が課せられた場合、多少リスクを冒してその達成にチャレンジするより、「1.1倍で十分」と長年の経験からわかっていると、1.1倍で逃れようとします。そういう上司が集まっていると、イノベーションは生まれません。

逆に、失敗したことを語れる場があっていいと思います。失敗のレベルもありますが、上司が自分の失敗談を、いつ、誰に、どう言うかは重要です。信頼関係を築いた後に、「こういう失敗をしてもいい。自分の時は条件が整っていなかったけど、今はITもあるから新しいことがどんどんできる」「やった方が会社は評価する」など、上司が部下に話す場があってもいいと思います。

上司が変われば、「中だるみ」体質は変わると思います。でもこれは、リーダーシップ研修を1回受けただけ、ロールプレイをやっただけ、ではおそらく変わりません。会社は上司となる立場の人間に対して、教育的指導と余裕を持たせることが大切です。

コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから
  • facebook
  • Twitter

関連する特集