ソフトバンクが副業・兼業制度を導入したねらい - 社員が成長し、イノベーションを生み出すために

人事労務

働き方改革に注目が集まる中、今年の1月に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表したこともあり、副業・兼業の導入に取り組む企業が増えています。しかし、導入の目的や運用の方法については手探りだという企業も多いようです。

ソフトバンクでは2017年11月より、働き方改革推進の施策のひとつとして社員の副業を解禁。就業規則上の「副業の原則禁止」を改め、本業に影響のない範囲かつ社員のスキルアップや成長につながる副業を認めています。本稿では同制度の導入の経緯や成果について、ソフトバンクの人事本部で労務厚生企画課 課長を務める石田 恵一氏にお話を伺いました。

イノベーションを生み出すために始まった働き方改革

まずはソフトバンクでの働き方改革の取り組みについて教えてください。

ソフトバンクでは、業務への取り組み方に関するスローガンとして「Smart & Fun!」を掲げ、2017年4月より働き方改革に本格的に取り組んできました。AI(人工知能)やIoT、RPAなどのIT活用により業務を効率化し、スマートに働くことで時間を創出する。そうして創出された時間を、新たな挑戦や自己研鑽などにあて、楽しんで仕事をする——このサイクルを回していくことで、よりイノベーティブでクリエイティブな企業風土の形成を目指していこうというものです。

なぜ働き方改革に取り組もうと考えられたのでしょうか。

ソフトバンクの事業環境が大きく変わってきているという状況が背景にあります。もともとソフトウェアの流通事業からスタートしたソフトバンクグループは、出版業、通信業へと事業を展開してきました。しかしご存知のとおり、ソフトバンクの事業の柱である通信業は、競争環境が激化してきており、新規事業の創出や既存事業の活性化が求められています。

一方で、ソフトバンクの従来の働き方には「ベンチャー精神」「新たに切り開く」「執念でやりきる」といった文化がありました。これらの働き方自体は決して否定されるものではありませんが、こうした社内文化のみではイノベーションを次々と生み出していくような企業に成長できないのではないかという危惧があり、働き方改革を推進することとなりました。

働き方改革の具体的な施策について教えていただけますか。

さまざまな施策がありますが、大きく分けて、時間と場所の有効活用に関わるような施策と、社員自身の自己成長につながるような施策があります。前者の代表例がスーパーフレックスタイム制です。従来のフレックスタイム制からコアタイムを撤廃し、業務状況などに応じて始業時刻・終業時刻を日単位で変更可能としました。また後者の例としては、2年間限定で全正社員に自己成長のための資金を毎月1万円補助する「Smart & Fun!支援金」などがあります。副業・兼業の許可も同様に、社員の自己成長を目的としたものです。

ソフトバンクでの働き方改革の施策内容

ソフトバンクでの働き方改革の施策内容

働き方改革の施策のひとつとして副業・兼業を許可したのはなぜでしょうか。

イノベーションは、既存知と既存知の掛け合わせが起こった際に生まれるといわれています。社内の人間だけでなく、社外のまったく異なる既存知をもつ人とともに活動する副業は、イノベーションを生み出すきっかけになる可能性があるのではないかと考えました。一社員としても、社内ではできない多様な経験を積むことができるという意味では、自己成長につながる施策だと思います。異業種・異文化との人材ネットワークの構築などもできますし、会社と社員双方にメリットのある施策だと考えて取り組んでいます。

イノベーションを生み出すため、副業・兼業を積極的に活用してほしいというお考えですね。

当社としては、副業はあくまで業務時間外活動の選択肢のひとつというスタンスです。業務外の時間の使い方は人それぞれです。家族や育児のために使う人もいれば、自己研鑽のために使う人もいるでしょう。それは本人の選択次第ですし、社内業務のなかでみても、副業よりもまずは本業に力をいれなければならない社員もいれば、違う部署に異動して経験を積むべき社員もいると思います。副業だけを特別に推進するというよりは、社員が活躍できるフィールドの選択肢をなるべく多く用意しておきたいという意図があります。

働き方改革の導入を進めるにあたって、何か参考にしたものはありますか。

働き方改革の導入前は、他社にヒアリングなどを行い、事例を研究しました。導入後は、社員とのコミュニケーションのなかで日々改善しています。たとえば副業にあたっての禁止事項をガイドブックにまとめるなど、分かりづらい部分や懸念点がなるべく少なくなるよう努めています。

ソフトバンク株式会社 人事本部 労務厚生企画課 課長 石田 恵一氏

ソフトバンク株式会社 人事本部 労務厚生企画課 課長 石田 恵一氏

副業を認める条件は「本業に影響を与えないこと」「本人のスキルアップや成長につながること」

副業・兼業制度の導入はどのように進めていきましたか。

従来の就業規則では副業は「原則禁止」で、特別に認められた場合のみ行えるという書き方をしていました。働き方改革に伴ってこの「原則禁止」を撤廃したというのが、実際の取り組みです。以前から副業の許可を拡大してはどうかという議論があり、その議論をもとに制度を作っていったので、比較的スムーズに導入できたと思います。

副業にあたっての条件などはありますか。

主な条件は「本業に影響を与えないこと」「本人のスキルアップや成長につながること」の2点です。その他詳細な条件は、ガイドブックとしてまとめて社員に案内しています。2017年11月に副業を解禁して、2018年8月時点で300件を超える案件を承認しました。

ソフトバンクの副業・兼業の許可基準
  • 本業に影響を与えないこと
  • 本人のスキルアップや成長につながること
副業・兼業として認められないもの
  • 他社と雇用契約を締結するもの
  • 休養が取れず、本業に支障をきたすもの
  • 社会的信用、秩序を乱すもの
  • 同業他社系のもの
  • 公序良俗違反のもの

誓約事項も設けていますが、基本的には性善説に立って、細かく規定はしていません。

誓約事項 ・会社の通常業務に支障をきたさないこと(業務時間中の活動は一切禁止
・会社の機密情報を流用しないこと
・会社の財産、利益、名誉等を毀損する一切の活動・行為を行わないこと
・その他上記に準ずる行為を行わないこと
・誓約事項違反によって会社に損害を与えたときは、賠償責任を負うほか、社員就業規則等に定めるところによりその責めを負うこと
その他 許可の有効期間は1年間とし、継続する場合は再度更新申請を行うこと

副業はどういった業種が多いですか。

一番多いのは社外研修や大学などの講師ですね。プログラミングやWebサイト制作、知人の企業の支援なども多いです。それぞれ自分の業務スキルを活用して副業に取り組んでいる形です。ヨガインストラクターやボクシングジムのコーチなど、趣味の延長で副業をしている社員もいます。

副業・兼業制度を利用する社員の方に、年齢による傾向などはありますか。

年代によるばらつきはなく、下は20代から上は50代まで、20~30代と40~50代ではほぼ同じくらいの人数の社員が活用しています。

ソフトバンク株式会社 人事本部 労務厚生企画課 課長 石田 恵一氏

副業・兼業解禁は社員がやりがいを持って仕事をしてもらうための施策

制度導入の成果はどのように評価していますか。

副業・兼業制度に特化した評価はしておらず、働き方改革の施策全体に対してKPIを定めています。「業務生産性」「自己成長のための活動度」「イノベーティブ・クリエイティブな取組」「Smart & Fun!体現度」という4つの項目に対し、2017年3月末時点を50と仮定したときに、働き方改革開始後の2017年4月以降に数値がどう変化したか、アンケートで社員に回答してもらうことで評価しています。

ソフトバンクとしては新規事業の創出やイノベーティブな企業風土の形成を働き方改革の目的として考えていますので、このような評価方法を採用しています。

2018年2月時点のアンケート結果。2017年8月の調査時よりも、全体的に向上している

2018年2月時点のアンケート結果。2017年8月の調査時よりも、全体的に向上している

離職やトラブルなど、副業を認めたことでネガティブな結果につながっているケースはありませんか。

現状ではないと思います。退職率も増加していないですし、社内で問題になるようなことはありません。むしろ「副業が認められている会社でよかった」「会社を辞めずにやりたいことができてよかった」などという、退職抑制につながっていると考えられる声を聞くことが多いです。会社としては、副業を制限するよりも、社員がやりがいを持てる仕事をいかに用意できるかという施策に力を入れるほうが本質的であるように思います。

最後に、副業・兼業制度の導入を検討されている企業へメッセージをお願いします。

当社では、もともと限定的に副業を認めていましたが、社員の副業に関するトラブルはまったくありませんでした。過去に問題が起こっていないにも関わらずむやみに副業を禁止してしまうよりは、会社としてメッセージを打ち出してきちんと制度を整えていくほうが、社員にとっても企業にとってもメリットが大きいのではないでしょうか。副業解禁だけが働き方改革のゴールではないと思いますが、副業や兼業を認めることによって、社員の活躍できるチャンスが広がり、そこに会社としてのメリットがありそうであれば、導入を検討してみても良いと思います。

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

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