残業代を支払わなくてよい管理職の判断基準は

人事労務

 当社は東京に本社のあるカフェチェーン店であり、全国に複数の店舗を設けています。各店舗の店長は当社の正社員が務めているのですが、勤務時間については裁量が与えられており、アルバイトの採用権限を有しているほか、管理職手当も支払われています。当社は、これまで店長に残業代を支払ってきませんでしたが、残業代を支払わなければならないのでしょうか。

 労働基準法上、「監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理監督者」といいます)等については、時間外労働や休日労働に対する割増賃金の支払いの対象から除外することができますが、店長であっても管理監督者に該当しない場合には、その時間外労働や休日労働に対して割増賃金を支払う必要があります。したがって、店長が管理監督者に該当しない可能性がある場合には、①店長を名実ともに管理監督者として扱えるようにするため、その職務内容、責任、権限、勤務態様、待遇等を見直すか、②それが困難であるならば、(ア)店長を管理監督者に該当しないものとして扱い、時間外労働や休日労働に対する割増賃金を支払うこととするか、または、(イ)上記(ア)とともに、後述する制度を併せて導入することを検討すべきでしょう。

解説

はじめに

 小売チェーン店や飲食チェーン店の店長など、世間で「管理職」と呼ばれる労働者に対して残業代を支払っていない企業は多いのではないでしょうか。労働基準法41条2号では、管理監督者については、同法の労働時間、休憩および休日に関する規定を適用しないこととしているため、管理監督者が労働基準法32条の労働時間を超えて勤務し、または労働基準法35条の休日に勤務したとしても、企業は、これに対して割増賃金を支払う必要はありません(ただし、深夜労働に対する割増賃金については、支払う必要があります)。

 しかし、世間で言われる管理職が全て「管理監督者」に当たるのかといえば、必ずしもそうではありません。それでは、どのような労働者が管理監督者に当たるのでしょうか。

管理監督者の範囲

管理監督者性の判断要素

 まず、労働基準法上の労働時間や休日に関する規定が管理監督者に適用されないのは、管理監督者が、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働時間の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と権限を有しており、現実の勤務態様も、労働時間等の規定になじまないような立場にあって、賃金等の待遇においても、他の一般労働者に比べて優遇措置が採られていることから、労働時間規制等の適用から除外しても、その保護に欠けるところがないからだとされています。

 そのため、過去の裁判例(日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年1月28日判決)等)および行政解釈(昭和22年発基17号、昭和63年基発150号等)では、概ね、 ①職務内容、責任と権限、②勤務態様、③賃金等の待遇という要素に照らして、労働者が管理監督者に当たるか否かが判断されています。

厚生労働省のチェックリスト

 特に、小売業や飲食業等において、チェーン店の形態により相当数の店舗を展開して事業活動を行う企業における比較的小規模の店舗の店長が管理監督者に当たるか否かについては、厚生労働省が公表している下表のチェックリスト(以下「本チェックリスト」といいます)が参考になります(平成20年基発第0909001号)。

基本的要素 具体的判断要素 チェック欄
①「職務内容、責任と権限」についての判断要素 (ア)採用 店舗に所属するアルバイト・パート等の採用に関する責任と権限が実質的にない場合。
(イ)解雇 店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合。
(ウ)人事考課 人事考課の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合。
(エ)労働時間の管理 店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合。
②「勤務態様」についての判断要素 (ア)遅刻、早退等に関する取扱い 遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合。
(イ)労働時間に関する裁量 営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合。
(ウ)部下の勤務態様との相違 管理監督者としての職務も行うが、会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合。
③「賃金等の待遇」についての判断要素 (ア)基本給、役職手当等の優遇措置 基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められる場合。
(イ)支払われた賃金の総額 一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合。
(ウ)時間単価 実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合。特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。

※1 太字で記載した要素は、これに該当する場合には、管理監督者性が否定される可能性が特に大きいと考えられている要素です。
※2 上記の要素に該当しないからといって、ただちに管理監督者として認められるわけではありません。

設問の検討

 本チェックリストに照らして考えると、設問のカフェチェーン店の店長は、管理監督者に該当するのでしょうか。

本チェックリスト①の要素について

 まず、店長は、アルバイトの採用権限を有しているということですから、その採用に関しては、一定の権限を有しているということができそうです(本チェックリスト①(ア))。

 しかしながら、店長が管理監督者に相応しい重要な職務内容、責任と権限を有しているといえるためには、アルバイトを含め店舗の従業員の解雇、人事考課、労働時間の管理等について、どのような職務内容、責任または権限を有しているかについても検討する必要があります(本チェックリスト①(イ)~(エ))。

本チェックリスト②の要素について

 また、店長は、勤務時間については裁量が与えられているとのことですが、これについても、店長の勤務実態に照らして具体的に判断する必要があります。

 本チェックリスト②(イ)においても示されているように、店長が営業時間中は店舗に常駐しなければならない場合や、アルバイト等の人員が不足する際に、それらの者の業務に自ら従事しなければならない場合など、勤務時間についての裁量が形式的に与えられていたとしても、実際には店長が長時間の労働を強いられていて、その裁量を行使する余地がないに等しい場合には、実質的にみて勤務時間についての裁量が与えられているとは言い難いでしょう。

 加えて、店長が遅刻し、早退し、または営業時間中に私用で外出した場合に、その時間分の賃金が減額され、人事考課においてマイナス評価を受けるなどの不利益を受けていないかどうかについても検討する必要があります(本チェックリスト②(ア))。

本チェックリスト③の要素について

 さらに、店長には、管理職手当も支払われているということですが、単に管理職手当が支払われていれば足りるということではなく、管理職手当を含めた店長の賃金額が、その労働時間を考慮しても、割増賃金の支払いを受ける他の従業員の賃金額を相当程度上回っているか等について、具体的に検討する必要があります(本チェックリスト③)。

おわりに

 以上に見てきたように、カフェチェーン店の店長が管理監督者に該当するか否かは、その職務内容、責任、権限、勤務態様、待遇等に照らして具体的に判断されますので、アルバイトの採用権限や勤務時間についての裁量が与えられ、管理職手当が支給されているという事情があったとしても、管理監督者に該当しないと判断される可能性は十分にあります

 店長が実際には労働基準法上の管理監督者に該当しないにもかかわらず、企業が店長を管理監督者として扱い、その時間外労働や休日労働に対する割増賃金を支払っていない場合には、①店長から過去2年分の割増賃金の支払いを請求される可能性 (労働基準法37条、115条)(なお、裁判所に訴えが提起された場合には、その割増賃金と同額の付加金の請求がなされる可能性もあります(労働基準法114条))、②労働基準監督署から是正勧告等を受ける可能性、③企業およびその代表者等が刑事罰の対象となる可能性(労働基準法119条1号、121条)があります。

 そのため、店長が管理監督者に該当するか否かについては、慎重に検討を行い、管理監督者に該当しない可能性が高いのであれば、その状態を漫然と放置するのではなく、 ①店長を名実ともに管理監督者として扱えるようにするため、その職務内容、責任、権限、勤務態様、待遇等を見直すか、②それが困難であるならば、(ア)店長を管理監督者に該当しないものとして扱い、時間外労働や休日労働に対する割増賃金を支払うこととするか、または、(イ)上記(ア)とともに、法令上必要な手続(労働契約法9条、10条等)を取って、いわゆる固定残業代(定額残業代)制度、裁量労働制(労働基準法38条の3)等の制度を併せて導入することを検討すべきでしょう。

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