年俸制に賃金制度を変更する場合に注意すべきポイント

人事労務
下西 祥平弁護士

 当社は、現在、年齢給および職能給を組み合わせた給与体系のもと賃金規程を制定していますが、仕事の成果や能力を重視した賃金体系を導入したいと考えています。その一案として賃金規程を改訂して年俸制を導入したいと考えていますが、留意すべき点はありますか。

 年俸制とは、賃金の全部または相当部分を労働者の業績等に関する目標の達成度を評価して年単位に設定する制度を指します。従来の賃金制度を変更して年俸制を導入する場合は、労働契約法10条に定める就業規則の不利益変更の要件を満たす必要があり、年俸制においては、変更の合理性判断において、評価の基準・手続が明確で恣意的な運用とされないか、また賃金額が減少する程度に応じ、適切な経過措置が講じられているかが重要な判断要素となります。

解説

年俸制とは

 年俸制とは、法令上の定義はありませんが、概括的にいえば、賃金の全部または相当部分を労働者の業績等に関する目標の達成度を評価して年単位に設定することを意味し、これを骨子として各企業においてさまざまなバリエーションで運用されています。年俸制は、成果主義型賃金制度の典型例といわれています。
 年俸制では1年間の支給総額が決定されますが、賃金は毎月1回以上支払わなければならないという原則(労働基準法24条2項)に従い、12分されて支給するほか、賞与を組み込んで年俸額を設定し、毎月支給される分のほかに夏季および冬季に追加で支給する制度とすることもあります。

年俸制への変更手続

 企業において、既存の年功序列型賃金制度から成果主義型賃金制度に変更する場合には、賃金額が人により増減額する可能性があります。裁判例は賃金減額の「可能性」がある労働者が存在する限り、就業規則や賃金規程を変更して新しい賃金制度を設けることは、就業規則の不利益変更にあたると考えています(大阪地裁平成12年2月28日判決・労判781号43頁東京高裁平成18年6月22日判決・労判920号5頁)。
 したがって、年俸制への変更を行う場合には、以下3に掲げる労働契約法10条に定める就業規則の不利益変更の要件を満たさなければなりません。さらに、年俸制に伴う就業規則の変更については、以下4に定める内容をとくに考慮しなければなりません。

就業規則の不利益変更の要件

 まず、使用者は、労働者と合意なく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することは原則できません(労働契約法9条本文)。しかしながら、労働契約法10条に掲げる要件を満たす場合に限り、例外が認められています。
 労働契約法10条の要件を整理すると、以下のようになります。

  1. 変更後の就業規則を労働者に周知すること
  2. 就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであること
  3. 労働者と使用者が当該労働条件について就業規則の変更によって変更できない旨の特別の合意をしていないこと

就業規則の不利益変更の要件

年俸制導入に伴う就業規則の変更について特に留意すべき点

 裁判例は、上記の就業規則の不利益変更の要件を検討するにあたり、賃金制度の変更について経営上の高度の必要性が認められ、生じる増減額の幅、評価の基準・手続、経過措置等において相当な内容と認められ、労働組合との実質的な交渉を経ているか否かを慎重に吟味しています。
 とくに、年俸制は評価によって1年間の賃金額が決定されるので恣意的な運用とならないように、実績の評価が適正になされるものか否かが最も重要な事実と考えられています。
 したがって、年俸制を導入するにあたり肝要となるのは、 評価の手続および基準をできる限り明確に定め、労働者が納得または理解できるように努力することといえます。また、変更前後で賃金支払原資の総額は変わらない場合や賃金支払原資が増額される場合は、合理性が認められやすいといえますし、逆に賃金支払原資が減少しても、賃金額が減少する労働者が経済的に著しい不利益を被らないように適切な経過措置を設けることで合理性を認められやすいといえます。また、当然ながら労使間で双方十分に議論を重ねることも必要です。

まとめ

 以上のとおり、年俸制を導入して成果主義型の賃金体系に変更するためには、就業規則の不利益変更の要件を満たす必要があり、さらに年俸制への変更にあたっては、評価の基準・手続を明確にしておくことや、適切な経過措置を設ける必要があります。上記の点にご留意いただければ賃金規程の変更も有効であると判断されやすくなると思料します。

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