改正労働基準法で新たに義務化が見込まれる有給休暇の強制取得とは

人事労務
大澤 武史弁護士

 現在、労働基準法の改正案が国会で審議され、有給休暇の強制付与あるいは強制取得が予定されていると聞いたことがあります。そもそも、年次有給休暇は労働者の権利であると聞きますが、どのような改正が予定されているのでしょうか。

 客観的な要件を充足する労働者には年休権が発生し、労働者が原則として自由にこれを行使することが法律上認められていますが、今回の改正案は、発生した年休権が10日以上の場合、そのうちの5日について、毎年、会社が労働者に対し時季を指定して与えなければならないというものです。ただし、すでに労働者が5日以上の有給休暇を取得していた場合、または、5日以上の年休の計画的付与を行っている場合には、会社が時季を指定して付与することを要しないとされています。

解説

年次有給休暇の強制付与(強制取得)の流れ

 「2020年までに有給休暇取得率70%とする」との政府の数値目標が掲げられています(常用労働者数が30人以上の民営企業における、全取得日数/全付与日数(繰越日数を含まない))。
 また、改正が予定される労働基準法においては、使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、そのうちの5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないという内容が規定される見込みとなっています。
 そこで、今回は、この年次有給休暇の強制付与(強制取得)について説明したいと思います。なお、以下では、第189回国会で提出された内閣提出法律案(「労働基準法の一部を改正する法律案」(議案番号69))を基にしており、今後の審議状況によって内容が変更される可能性があることにご留意ください。

年次有給休暇の強制付与(強制取得)とは

年次有給休暇の取得に関する問題点

 年休権は、① 6か月の継続勤務と② 全労働日の8割以上出勤によって、週所定労働日数および勤続年数に応じて、法律上当然に発生し、原則として自由に労働者が請求する時季に有給休暇が成立することとなります(年次有給休暇についての基本的な説明は、「年次有給休暇に関する基本的な留意点」を参照ください)。
 年休権は法律上当然に発生するものの、具体的な有給休暇は、労働者による時季指定(権利行使)を待って、初めて成立することとなります。しかしながら、あくまで労働者の権利行使を必要とするものであることから、結局は、労働者を取り巻く企業風土や業務状況等によっては、有給休暇が取得されないという弊害が指摘されてきました。

年次有給休暇の取得状況

 厚生労働省の公表している「平成27年就労条件総合調査結果の概要」の「労働者1人平均年次有給休暇の取得状況」では、平成26年1年間に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数を除く。)は、労働者1人あたりの平均は18.4日で、そのうち労働者による取得日数の平均は8.8日となっています。企業規模・産業別に見ても5日未満の取得となっている労働者数は多くはないように見えます。
 しかしながら、その一方で、平成28年に公表された「平成28年版過労死等防止対策白書」の中で指摘されるように、独立行政法人労働政策研究・研修機構「年次有給休暇の取得に関する調査」(平成23年)によれば、いわゆる正社員の約16%が年次有給休暇を1日も取得しておらず、週労働時間が60時間以上の労働者では27.7%が年次有給休暇を1日も取得していないといわれています。また、同調査において、年次有給休暇の取得が5日以下となっている正社員の割合は、45.7%にも及んでいます。

改正法案提出の背景と概要

 こうした状況から、長時間労働を抑制するとともに、労働者がその健康を確保しつつ、創造的な能力を発揮しながら効率的に働くことができる環境を整備するという視点から、最低限の日数以上はすべての労働者に確実に年次有給休暇を取得させる、という趣旨で改正法案が提出されたといえます。

第189回閣第69号労働基準法等の一部を改正する法律案(抜粋)

(労働基準法の一部改正)第39条第6項の次に次の2項を加える。
 使用者は、第1項から第3項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が10労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち5日については、基準日(継続勤務した期間を6箇月経過日から1年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。ただし、第1項から第3項までの規定による有給休暇を当該有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。

 前項の規定にかかわらず、第5項又は第6項の規定により第1項から第3項までの規定による有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が5日を超える場合には、5日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。

 具体的には、年10日以上の年休権が発生する労働者下記表網掛け部分参照)について、そのうち、5日については年休権が発生した日(基準日)から1年以内に、労働者ごとに、使用者が時季を定めて有給休暇を付与しなければならない、とするものです。

表1 年休の法定付与日数(一般の労働者および週所定労働時間が30時間以上の労働者〔労働基準法施行規則24条の3第1項〕)

勤続年数 年次有給休暇付与日数
6ヵ月 10日
1年6ヵ月 11日
2年6ヵ月 12日
3年6ヵ月 14日
4年6ヵ月 16日
5年6ヵ月 18日
6年6ヵ月以上 20日

表2 年休の法定付与日数(週所定労働時間が30時間未満の労働者)

年次有給休暇付与日数
週所定労働日数 4日 3日 2日 1日
1年間の所定労働日数 169~216日 121~168日 73~120日 48~72日
勤続年数 6ヵ月 7日 5日 3日 1日
1年6ヵ月 8日 6日 4日 2日
2年6ヵ月 9日 6日 4日 2日
3年6ヵ月 10日 8日 5日 2日
4年6ヵ月 12日 9日 6日 3日
5年6ヵ月 13日 10日 6日 3日
6年6ヵ月以上 15日 11日 7日 3日

有給休暇の日数を増やさなければいけないのか

 あくまで、労働者の請求により使用者が有給休暇を付与している場合、あるいは、計画年休によって有給休暇を付与している場合などには、各人に発生した年休権に加えて、更に5日の有給休暇を付与しなければならないことまで求めるものではない、ということがポイントです。
 改正法案による強制付与(強制取得)は、発生した年休権の取得率を向上させるための方策に過ぎず、有給休暇日数の増加という(会社側にとって)新たな負担を生じさせるものではないといえます。
 したがって、すでに労働者の請求あるいは計画年休によって有給休暇を取得した日については、上記の強制付与(強制取得)しなければならない日数から控除されるものとされており、5日未満の有給休暇しか取得させなかった場合に、初めて義務が生じ、5日に達するまで時季を定めて付与しなければならないこととなります。

おわりに

 正社員あるいは週労働時間が60時間以上の労働者で、年次有給休暇を1日も取得していない、もしくは5日未満の取得となっている労働者が一定数存在していることは文中に指摘したとおりです。
 まずは、年次有給休暇が労働者の心身の疲労回復を目的とする規定であることを再度認識し、改正法で義務付けられることとなる最低限5日の取得に止まらず、より高い取得率の向上を目指し、労働者の健康に配慮した運用を図っていくことが、より良い労使関係を築くために一層重要となってくると考えられます。
 加えて、現在、時間外労働の上限規制など、労働基準法を含めた労働法分野での重要な改正議論が進められており、年次有給休暇の取得以外でも従来の人事労務管理を見直していく必要に迫られることが予想されます。会社の担当者においては時勢に後れることのない適切な人事労務管理を意識しておくことが肝要です。

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