退職金の扱いについて留意すべきポイント

人事労務
下西 祥平弁護士

 退職金は、退職時に一定の基礎賃金に勤続年数を掛けて支給される形態が多いですが、そもそも退職金は賃金なのでしょうか。また、退職金はいつ発生するのでしょうか。退職金不支給または減額する旨の規定を就業規則に設けることは可能でしょうか。その他、退職金について留意すべき点がありますか。

 退職金は、就業規則等の定めや労使慣行または労使の合意により支給基準が明確となっていれば賃金に該当します。退職金は退職時に初めて権利として発生します。競業避止義務違反の場合や懲戒解雇の場合には、その支給が制限される規定を設けることも可能ですが、具体的な適用場面では、競業避止の内容や懲戒解雇の事由に照らして各規定の適用が制限されることがあります。その他、退職金は賃金よりも時効期間が長いこと(5年)、保全措置を設ける努力義務が課されている点に留意が必要です。

解説

退職金の3つの性格

 退職金とは、労働関係終了時に使用者が労働者に支払う金銭ですが、この退職金には3つの性格があるといわれています。

①「賃金の後払い」的性格

 これは、退職金が、通常、算定基礎賃金に勤続年数別の支給率を乗じて計算されるためです。

②「功労報償」的性格

 これは、勤続年数が増えるにつれて上昇することや、自己都合退職より会社都合退職の方が支給率が高いこと、また後述するように競業避止義務違反の場合に没収・減額がありうること、懲戒解雇の場合に不支給となり得ることがあるためです。

③「生活保障」的性格

 これは退職金が労働者の失業中ないし退職後の生活を保障する側面があるためです。

退職金は「賃金」にあたるのか

 行政解釈では、退職金、結婚手当等であって労働協約、就業規則、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確に定められているもの「賃金」(労働基準法11条)にあたると解されています(昭和22年9月13日発基17号)。
 支給基準が明確に定められていない場合は、賃金と異なり、法的な権利として退職金支払請求権が認められません。ただし、退職金請求権の根拠となる明確な合意や労働協約、就業規則等が存在しない場合でも、労使慣行として、一定の支給基準のもと退職金が計算され支給される実体がある場合には、退職金請求権が認められています宍戸商会事件・東京地裁昭和48年2月27日判決・労判169号5頁日本段ボール研究所事件・東京地裁昭和51年12月22日判決・判時846号109頁等)。

退職金請求権の発生時期

 では、退職金が賃金にあたる場合、退職金請求権はいつ発生するのでしょうか。この点、判例および通説的な見解は、退職金は、退職時に退職事由・勤続年数などの諸条件に照らして初めて確定的に発生すると考えています(たとえば、三晃社事件・最高裁昭和52年8月9日判決・労経速958号25頁参照)。
 したがって、退職時に、没収・減額事由がある場合や懲戒解雇により不支給とされる場合には、賃金全額払いの原則が問題となるのではなく、退職金減額・不支給規定の適用の合理性が退職金の3つの性格に照らして判断されます。
 なお、上記の退職時に退職金が没収・減額される場合と異なり、退職金の支給の有無を経営状況に応じて取締役会で個別決定できるように退職金規定を変更することは就業規則の不利益変更の要件(労働契約法10条)に照らし厳格に制限される点に注意してください(ドラール事件・札幌地裁平成14年2月15日判決労判837号66頁参照)。

退職金減額・不支給規定の合理性

 具体的に退職金減額・不支給が問題となるのは、競業避止義務違反による退職金没収・減額条項の適用場面や懲戒解雇による退職金不支給規定の適用場面です。そもそも、退職金減額・不支給とする労働協約、就業規則等や個別合意もない場合には、原則として退職金を不支給とすることはできません

競業避止義務違反の場合

 まず競業避止義務違反による退職金の没収・減額が問題となる事案においては、裁判所は、退職金の功労報償的性格から、その規定自体を有効と解しつつも、競業避止の規定内容(制限の期間、場所的範囲、競業禁止となる職種、退職金の減額率)を踏まえて合理的な限定を付して、妥当な結論を導こうとする傾向にあります。  
 たとえば、以下のような判例・裁判例が参考となります。

(1)規定の適用が全面的に認められた判例

 就業規則・退職金規則に、同業他社へ就職のときは自己都合退職の2分の1の乗率にて退職金が計算されるとの条項があった事案において、「この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しない」として、規定の合理性を認めたもの(前掲三晃社事件

(2)規定の適用が否定された判例

 同じ広告代理業において、退職後6か月以内に同業他社に就職した場合は退職金を支給しないとの就業規則が存在した事案において、このような規定の適用は「労働の対償を失わせることが相当であると考えられるような…顕著な背信性がある場合に限」り適用が認められるとして、その適用を否定したもの(中部日本広告社事件・名古屋高裁平成2年8月31日判決・労民集41巻4号656頁

懲戒解雇の場合

 懲戒解雇の場合に退職金を不支給とする規定は当然に認められるものではありません。これは懲戒解雇の目的が服務規律、企業秩序違反行為を禁圧することにあり、退職金を不支給とすることではないためです。他方、退職金不支給規定を設けること自体は、退職金の功労報償的性格から有効とされています。
 ただし、懲戒解雇制度の目的、賃金の後払い的性格や生活保障的性格も尊重し、退職金不支給規定は、労働者のそれまでの勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合のみに限定して適用されると解されています(日本高圧瓦斯興業事件・大阪高裁昭和59年11月29日判決・労民集35巻6号641頁旭商会事件・東京地裁平成7年12月12日判決・労判688号33頁)。裁判所は、懲戒解雇に至った原因となる労働者の背信的行為に照らし、退職金の不支給規定を限定解釈して適用し、退職金の一定割合の減額のみ認めることで妥当な結論を図る傾向にあります。

退職金の時効・保全措置

 退職金は、前述のとおり賃金の後払い的性格を有しますが、時効期間は2年ではなく、5年とされている点に注意が必要です(労働基準法115条)。
 なお、使用者が労働者に退職金を支払うことを明らかにした場合には、一定金額を貯蓄金とするなど保全措置を講ずるように努めなければならないとされています(賃金の支払の確保等に関する法律5条)。ただし、退職一時金制度のみ設けている企業の内、支払準備形態が社内準備のみの企業で保全措置を講じている企業割合はわずか16.7%にとどまる状況にあり(厚生労働省「平成25年就労条件総合調査結果の概況:結果の概要(4 退職給付(一時金・年金)制度)」参照)、新たな対策が必要ではないかとの意見もあります。

まとめ

 上記のように、退職金は賃金としての性格を有するものの、その複合的な性格から支給を制限することが一部認められています。しかしながら、退職金の不支給または制限規定はその規定の合理性が争点とされ、紛争に発展する可能性が大きいといえます。したがって、退職金規定を設けるだけで安心はできず、具体的な適用場面においては支給する退職金の金額につき専門家の意見を得るなど慎重に対応すべきといえます。

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