職場におけるマタニティハラスメントとは

人事労務

 育休開けで戻ってきた営業部の女性社員が、短時間勤務で残業もしないうえ、突然早退したり休んだりすることが多いので、その度フォローさせられる周りの社員から不満の声があがっています。営業の仕事を続けることは無理だと思うので事務職に異動させてもよいでしょうか。

 一方的な異動は問題が生じ得ます。ことに、降格や給与減などの不利益を伴うような場合や、もともと営業職に限定した採用である場合、問題性が大きいところです。その社員とよく話し合い、納得を得て進めることが必要です。また、周りの社員の接し方に問題はないか、その社員の側にも「権利だから当然」というような態度はないかも確認し、良好な職場関係のための意識向上に努めることも必要です。

解説

※本QAの凡例は以下のとおりです。

  • 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律:男女雇用機会均等法
  • 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律:育児・介護休業法

職場におけるマタニティハラスメントとは

 職場におけるマタニティハラスメントとは、従業員が、妊娠・出産したこと、育児のための制度を利用したこと等を理由として不利益取扱いを受けたり、精神的に苦痛を感じる言動をされたりすることです。
 このような不利益取扱い」をすることは、法律で禁止されています(男女雇用機会均等法9条3項、育児・介護休業法10条)。
 「不利益取扱い」の具体例としては、解雇、雇止め、契約の更新上限回数の引下げ、退職強要、正社員を非正規社員とするような契約変更の強要、不利益な自宅待機命令、降格、減給、人事考課における不利益な評価、不利益な配置変更、就業環境を害すること、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務提供を拒むこと、が、「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平成18年厚生労働省告示第614号)などにあげられています(例示であり、これ以外についても個別具体的な事情によっては不利益取扱いに該当する場合があるとされています)。

雇用均等室への相談・是正指導

 平成27年度に都道府県労働局雇用均等室(以下「雇用均等室」)に労働者から寄せられた相談(参考:厚生労働省「平成27年度 都道府県労働局雇用均等室での法施行状況」)のうち、男女雇用機会均等法の関係では、最も多いセクシュアルハラスメントに関する相談(6,827件)に次いで、婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いに関する相談(2,650件)、母性健康管理に関する相談(1,364件)が多く寄せられています。
 育児・介護休業法の関係(育児)では、育児休業に係る不利益取扱いに関する相談が最も多く(1,619件)、全体の3割程度を占めています。そのうち約3.8%は男性からの相談です。
 雇用均等室が実態把握を行った7,000~7,500弱の事業所中、男女雇用機会均等法については77.9%、育児・介護休業法については97.5%と極めて高い確率で何らかの法違反が確認され、男女雇用機会均等法違反については1万3,000件弱、育児・介護休業法違反については2万7,000件強の是正指導が実施されています。

事業主が講ずべき措置について

 このように多くの相談が寄せられ、多数の是正指導が行われる中、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法が改正され、平成29年1月1日より、事業主には以下のことが義務付けられることとなりました(詳しくは、「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成28年厚生労働省告示312号)参照)。

  1. 会社としての方針の明確化および周知・啓発
  2. 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  3. 職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  4. 職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置

 上記の措置は、業種や規模に関わらずすべての事業主に義務付けられるため、注意が必要です。

設問について

 前述のとおり、育児・介護休業法によって認められる休暇や所定時間の短縮措置などの制度利用を理由として、降格、減給、不利益な配置変更などを行うことは禁じられていますので、社員の納得がないままに営業職から事務職へ異動させた場合、問題が生じ得ます。ことに、降格や、営業手当が不支給となるなど給与の減少を伴うような場合や、もともと営業職としての採用であった場合などには問題性が大きいと解されます。
 また、周りの社員が露骨に嫌な顔をしたり、「あなたが早く帰るせいで、まわりは迷惑している」と言う等の行為をしている場合、そのこと自体がハラスメントに該当する可能性があり、このような状態を会社が放置した場合は就業環境を害する不利益取扱いに該当し得ることとなります。
 会社としては、当該女性社員とよく話し合い、納得のうえで現状に合った無理のない職場に異動させる、周りの社員に対しても「マタニティハラスメント」についての啓発を行い、良好な就業環境作りに努めるなどの対応をすることが必要です。

良好な職場環境を目指すために

 妊娠・出産、育児のための制度を利用することは法律上の権利であり、不当に妨げられることがあってはなりません。しかし、その一方で、現実の会社の業務としては、上司や同僚の仕事に影響が生じることはあり、制度を利用する社員の側も、法律上の権利なのだから「当然」ということではなく、フォローしてもらうことへの感謝を示し、良好な関係を築くことが望ましいところです。日ごろから自分の状況を具体的に伝え、上司や同僚とのコミュニケーションを密にしておくことも望まれます。会社としては、このようなことも含めて社員の啓発に努め、全体として良好な職場環境を目指すことが重要です。

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