希望退職や早期退職者優遇措置を導入する場合の留意点

人事労務

 希望退職と早期退職優遇措置に違いはありますか。そして、これらを導入する場合の留意点を教えてください。

 原則は、希望退職は人件費削減のための解雇回避施策で、早期退職者優遇措置は人事ローテーションの円滑化・活性化等のための施策と言われます。しかし、法的構造には大きな差異はなく、最大の留意点は、優秀な人材の散逸への歯止め策の設定です。

解説

人員削減方法としての早期退職者優遇制度の概要

 人員削減策として、退職金支給率の割増、退職金額の上積みなどの優遇をなす希望退職が、独自に行われる場合もあれば、最終的な手段としての整理解雇4要件(要素)中の解雇回避努力義務の一環として行われる場合があります(本問に関する裁判例の紹介は、岩出誠「労働法実務大系」584頁以下(民事法研究会、2015)参照)。

【整理解雇4要件(要素)】

1.人員整理の必要性 人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる会社経営上の十分な必要性に基づいていること
2.解雇回避の努力 配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
3.人選の合理性 整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も適正・公正であること
4.解雇手続きの妥当性 労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために協議や説明を行うこと

 他方、定年前の一定期間に退職した者に対し、退職金等につき同様の優遇をなす早期退職者優遇制度が、人事ローテーションの円滑化・活性化等のため利用されることがあります(以下、「希望退職制度等」という)。しかし、これらの早期退職者優遇措置の実施については、従来から、優秀な人材の流出防止策の可否などの問題があることが指摘されています。裁判例では以下のような処理がなされています。

希望退職制度等をめぐる判例法理

希望退職制度等の法的構造

 まず、希望退職制度等における早期退職者優遇措置の適用について、企業が行った希望退職等の「募集」の法的意味が問題となります。たとえば、一定の年齢層や部署への募集の際に、これに応募すれば当然に優遇措置の適用を受けられるのか、あるいは、企業が必要と認めた人材には優遇措置の適用を拒否できるのかという問題です。
 この点に関して、裁判例は、募集は労働契約合意解約の「申込みの誘引」であって申込みではないとして(ソニー事件・東京地裁平成14年4月9日判決・労判829号56頁等)、企業による募集の撤回を認めたり、あるいは、募集条件の優遇措置の適用には会社の承認を要する旨の条項(いわゆる逆肩叩き条項)が、退職により企業の業務の円滑な遂行に支障が出るような人材の流失を回避しようとするもので公序良俗に反するものではなく有効として、企業の承諾(承認)がない者への適用を排除することを認めています(日本オラクル事件・東京高裁平成16年3月17日判決・労判873号90頁等)。  

希望退職への承認権の権利濫用等の成否

 神奈川信用農業協同組合(割増退職金請求)事件(横浜地裁小田原支部平成15年4月25日判決・労判931号24頁)およびこれを支持した神奈川信用農業協同組合控訴事件(東京高裁平成15年11月27日判決・労判931号23頁)では、組合は、従業員がした選択定年制による退職の申出に対して承認をするかどうかの裁量権を有するが、不承認とすることが従業員の退職の自由に対する制限となることなどからすれば、上記裁量権の行使は、選択定年制の趣旨目的に沿った合理的なものでなければならず、組合が不合理な裁量権の行使により不承認とした場合には、権利濫用や信義則違反として、申出のとおり選択定年制による退職の効果が生ずるとするのが相当であるなどとしました。

 これに対して、最高裁は、神奈川信用農業協同組合(割増退職金請求)上告事件(最高裁平成19年1月18日判決・労判931号5頁)において、次のように判示して、上記2-1の法理を確認したうえで、原審の判断を覆しました。
 すなわち、以下のとおり判示し、かかる権利濫用法理の適用の余地を事実上封じました。

選択定年制による退職は、従業員がする各個の申出に対し、使用者がそれを承認することによって、所定の日限りの雇用契約の終了や割増退職金債権の発生という効果が生ずるものとされており、使用者がその承認をするかどうかに関し、使用者の就業規則及びこれを受けて定められた要項において特段の制限は設けられておらず、元来が、選択定年制による退職に伴う割増退職金は、従業員の申出と使用者の承認とを前提に、「早期の退職の代償として特別の利益を付与するもので…選択定年制による退職の申出に対し承認がされなかったとしても、その申出をした従業員は、上記の特別の利益を付与されることこそないものの、…選択定年制によらない退職を申し出るなどすることは何ら妨げられていないので…退職の自由を制限されるものではない」。したがって、従業員がした選択定年制による退職の申出に対して使用者が承認をしなければ、割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生ずる余地はない。なお、使用者が選択定年制による退職の申出に対し、従業員らがしたものを含め、すべて承認をしないこととしたのは、経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったとの判断の下に、事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐためで、その理由が不十分であるというべきものではなく、選択定年制による退職の申出に対する承認がされなかった従業員らについて、割増退職金支払義務等が生ずるものではない。

希望退職者優遇措置の適用基準・措置内容の差異等設定の自由

優遇措置の一律・平等適用の要否

 希望退職制度等における優遇措置につき、一律・平等な適用が労働者から求められることがありますが、裁判例は、退職加算金は退職勧奨に応じる対価であり、勧奨の度合いによってその時期や所属部署によりその支給額が変わっても、その応諾は労働者の自由な意思によるものであるから、平等原則に違反することはないとして、企業には特定部門の一定の時期に支払った金額と同じ優遇措置を別の部門や異なる時期の退職労働者に適用する義務はないとしています(住友金属事件・大阪地裁平成12年4月19日判決・労判785号38頁)。
 同旨から、富士通事件(東京地裁平成17年10月3日判決・労判907号16頁)は、競業会社に転職する者に対して、会社が、「会社として早期退職優遇制度を適用するのが望ましくないと判断する場合には、適用外」とするとし、転職先が競業会社の場合、競業会社に該当するかどうかは、会社が個別的に適用除外に当たるか判断するとしたことについて、早期退職優遇制度の適用を除外することは適法としています。  

希望退職制度等における優遇措置の遡及適用

 よくあることなのですが、ある労働者の退職届の提出時点では優遇措置の計画がなされていない以上、退職の効果発生以後に公表された優遇措置を過去の退職者に遡及適用する義務はないとされています(日本板硝子事件・東京地裁平成21年8月24日判決・労経速2052号3頁等)。

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