男性社員の育児休暇取得に伴う待遇変更の問題点

人事労務

 男性正社員が1年間の育児休業から復帰する予定です。休業取得前からの待遇変更について留意すべき点はありますか。

 育児・介護休業法で禁止されている不利益取扱いに該当する待遇変更は違法・無効となります。一律の運用はリスクがあり、裁判例や行政解釈を手がかりに、個別具体的な検討が必要となります。

解説

不利益取扱いの禁止

 育児・介護休業法では、労働者が育児休業の申出をし、または育児休業をしたことを理由として当該労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁じています(育児・介護休業法10条)。禁止の内容を細分化しますと、「不利益取扱いであること」と、「その取扱いが育児休業の申出をし、または育児休業をしたことを理由とすること」の2点に分けられます。

「不利益取扱いであること」の内容

 「子の養育又は家族介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成21年厚生労働省告示509号。以下「指針」といいます)は、不利益取扱いの例として、

  1. 降格すること
  2. 減給をし、または賞与等において不利益な算定を行うこと
  3. 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
  4. 不利益な配置の変更を行うこと
  5. 就業環境を害すること

をあげています(指針第2-11(2))。なお、上記に掲げたものは指針での列挙の一部です。

減給・賞与不利益算定

 ②〔減給・賞与不利益算定〕について、指針は、育児休業期間中について賃金を支払わないこと、退職金や賞与の算定に当たり現に勤務した日数を考慮する場合において休業した期間を算定対象期間から控除することなど、もっぱら育児休業により労務を提供しなかった期間は働かなかったものとして取り扱うことは、不利益算定には当たらないものとしています。一方、これを超えた取扱いについては不利益算定に該当するものとします(指針第2-11(3)ニ)。

 この点に関し、賞与支給対象者を出勤率90%以上の者と定めたうえで、従業員の産後休業および育児時短勤務を出勤率の計算上欠勤扱いして賞与を支給しなかったという事案において、賞与の年間収入額に占める比重などの事情も考慮のうえ、このような措置は、法が権利を保障した趣旨を実質的に失わせることとなるため公序に反し無効であるとした最高裁判例があります(学校法人桐朋学園事件・最高裁平成15年12月4日判決・労判862号14頁)。

昇進・昇格不利益評価

 ③〔昇進・昇格不利益評価〕について、指針は、育児休業期間を超える一定期間昇進・昇格の選考対象としない人事評価制度とすることは、これに該当するものとします(指針第2-11(3)ホ)。

 この点に関し、3か月以上の育児休業を取得した場合にはその翌年度の職能給の昇給を行わないという取扱いについて違法な不利益取扱いに該当すると判断した裁判例があります(医療法人稲門会事件・大阪高裁平成26年7月18日判決・労判1104号71頁)。

不利益配置変更

 ④〔不利益配置変更〕について、指針は、諸般の事情(配置変更前後の賃金その他の労働条件、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響など)を総合的に検討し判断すべきものとしていますが、たとえば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務または就業場所の変更を行うことにより当該労働者に相当程度経済的または精神的な不利益を生じさせることはこれに該当するものとします(指針第2-11(3)ヘ)。

 また、事業主は、配転に際し、子の養育が困難にならないように配慮しなければならないものとされており(育児・介護休業法26条)、配慮の有無や程度は、配転命令権の行使が権利の濫用となるかどうかの判断に影響を与えるといえます。

 参照:「家族を介護中の従業員に転勤を命じてもよいか

就業環境

 ⑤〔就業環境〕について、指針は、もっぱら雑務に従事させるなどの行為はこれに当たるものとします(指針第2-11(3)ト)。

「その取扱いが育児休業の申出をし、または育児休業をしたことを理由とすること」の内容

 厚生労働省による「育児・介護休業法解釈通達」(以下「解釈通達」といいます)および「妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A」(以下「Q&A」といいます)では、育児休業を「契機として」不利益取扱いが行われた場合には、原則として育児休業を「理由として」不利益取扱いがなされたと解されるものとしています。さらに、育児休業という事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は、原則として、「契機として」いると判断するものとしています(Q&A問1)。

例外的に違法とならない場合

 解釈通達およびQ&Aでは、育児休業を「契機として」の不利益取扱いであっても、以下の二つのいずれかに該当する場合には、法違反とはならないものとされています。

  1. 業務上の必要性から不利益取扱いをせざるを得ず、かつ、業務上の必要性が、当該不利益取扱いにより受ける影響を上回ると認められる特段の事情があるとき
  2. 労働者が当該取扱いに同意している場合において、当該取扱いにより受ける有利な影響が不利な影響を上回り、当該取扱いについて事業主から適切に説明がなされるなど、一般的な労働者であれば同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき

 これらの例外は、いわゆるマタハラ判決として有名となった最高裁判決(広島中央保健生協(C生協病院)事件・最高裁平成26年10月23日判決・労判1100号5頁)をもとに厚生労働省が策定した基準と考えられます。もっとも、同最高裁判決は、男女雇用機会均等法上の不利益取扱いの禁止について判断したものであり、育児・介護休業法10条の不利益取扱いについて直接判断したものではありません。

 また、基準の内容についても、解釈通達およびQ&Aの基準は、最高裁が示した基準よりも法違反となる範囲がやや広くなっている側面があり、必ずしも最高裁の基準と一致しているわけではない点は、一応留意しておくべきと思われます。もっとも実務上の対応としては、育児休業取得に伴う待遇変更についても、まずは解釈通達およびQ&Aの基準に沿った検討をすることとなると考えます。

おわりに

 育児休業取得に伴う待遇変更には、上記のとおり総合的な判断を必要とする面があり、少なくとも、一律に固定的なルールを適用するという対応は違法の可能性が高まります(ただ、上記のとおり、ノーワーク・ノーペイの範囲に収まる取扱いであれば問題はありません)。事業主には、個別具体的なケースに応じた柔軟な対応が求められているといえます。

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