退職後の競業避止義務の効力

人事労務
結城 優弁護士

 当社の就業規則では、「従業員は在職中及び退職後5年間は、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する」という競業避止義務の規定を置いていますが、このような規定は有効でしょうか。

 在職中の競業避止義務は問題なく認められますが、退職後に関しては、競業避止義務の存続期間が長きに過ぎ、貴社の競業避止義務の規定は無効と判断される可能性が高いと考えられます。

解説

競業避止義務について

在職中の競業避止義務

 労働者は、労働契約の存続中は、信義則(労働契約法3条4項)から生ずるものとして、使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務があると解されており、この点については学説・裁判例とも一致しています。したがって、在職中の競業避止義務については、就業規則の規定があればもちろん、仮にそのような規定がなくとも、信義則上の義務として、肯定されます。そして、在職中に競業避止義務に違反する行為がなされた場合には、懲戒処分や損害賠償請求がなされうることになります。また、場合によっては、解雇理由ともなり得ます。

退職後の競業避止義務

 しかし、競業避止義務が実際上問題となりやすいのは、退職後の場面です。すなわち、労働者が退職後に同業他社に就職したり、同業他社を開業したりするような場合に、退職後の労働者の行為をどこまで制限することが可能かという点については、労働者の職業選択の自由(憲法22条1項)に照らし、慎重に判断されます。

 退職後の競業避止義務については、労働者の職業選択の自由があること等からすれば、原則として自由と考えられます。したがって、かかる自由に対する制限が認められ得るためには、原則として、退職後の競業避止義務に関して、就業規則などで明確に定められていることが必要です。

 この点、久保田製作所事件・東京地裁昭和47年11月1日判決・労判165号61頁においても、契約上の明確な根拠がないことを理由に、退職後の競業避止義務が否定されています。ただし、不正競争防止法にいう営業秘密を「使用し」た競業は、同法の規制によって、契約上の根拠がなくとも制限可能となります。

 なお、経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上に向けて~」(平成28年2月)「参考資料5 競業避止義務契約の有効性について」では、就業規則や誓約書の例が紹介されています。

競業避止義務規定の有効性

 退職後の競業避止義務に関して契約上の根拠はあるとしても、前述のとおり、退職後には労働者に職業選択の自由が保障されていることに照らし、その効力の有無は個別の事情に応じて判断されることになります。

 これまでの裁判例を整理すると、以下の諸点を総合考慮して、合理性がない制限であれば、公序良俗違反として無効とされています(リーディングケースとして、フォセコ・ジャパン・リミテッド事件・奈良地裁昭和45年10月23日・判時624号78頁参照)。

  1. 競業制限目的の正当性(使用者固有の知識・秘密の保護を目的としているか)
  2. 労働者の地位(使用者の正当な利益を尊重しなければならない職務・地位にあったか)
  3. 競業制限範囲の妥当性(競業制限の期間、地域、職業の範囲が妥当か)
  4. 代償の有無

 これまでの裁判例も全体が整合性をもっているとはいえない状況を呈しているものの、前掲・「秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上に向けて~」(平成28年2月)「参考資料5 競業避止義務契約の有効性について」において、一応の整理がなされており、実務上、参考とすべきです。たとえば、競業避止義務の存続期間に関しては、1年以内の期間が設定されている場合には有効と評価される傾向にある一方、5年以上の長期間の場合には有効とされる可能性は低く、2年程度の期間は裁判例の中でも肯定的なものと否定的なもので分かれていること等が読み取れます。

競業避止義務違反を理由とする退職金の不支給・減額

 競業避止義務そのものの効力ではありませんが、会社によっては、競業避止義務違反の場合に退職金の不支給や減額を就業規則等で定めていることがあります。たとえば、退職後同業他社へ就職する場合に自己都合による退職金の半額を支給するという退職金規定について、裁判所は、「制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきである」として、このような退職金規定も合理性のない措置であるとはいえないとしていることに留意すべきです(三晃社事件・最高裁昭和52年8月9日判決・労経速958号25頁)。

おわりに

 以上みてきたとおり、退職後の競業避止義務に関しては裁判所の判断基準が必ずしも明確にはなっていない状況です。もっとも、会社としては、退職後の労働者に競業避止義務を課す場合には、就業規則への規定化や個別に誓約書をとる等の方法により、契約上の根拠を明確にしておくことが第一に重要です。これは、単に競業避止義務を有効に課すという意味だけでなく、労働者に対する事実上の牽制効果も狙ったものでもあります。なお、誓約書は、退職段階では取得が困難な場合もあるので、できる限り入社時に取得しておくべきでしょう。

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