退職金制度を変更・廃止するには

人事労務
結城 優弁護士

 当社の退職金制度は高度経済成長期に定めて以降、そのまま現在まで運用してきましたが、現行の退職金制度に基づく退職金支払が当社の経営を圧迫していることから、変更もしくは廃止を検討しています。従業員に対して、これからどのような対応が必要になりますか。

 退職金の支給水準を下げる変更や、退職金制度自体の廃止は、既存従業員との関係では、いわゆる不利益変更となります。したがって、変更・廃止の必要性等に関する十分な説明や、不利益緩和措置の検討を行い、まずは既存従業員から自由な意思に基づく同意の取得を試みるべきです。新規採用者との関係では、就業規則(退職金規程)を変更したうえで、変更後の退職金制度あるいは退職金制度が無いことを明示しておくことが必要です。

解説

退職金制度の変更・廃止

 もともと、現代の退職金制度は、高度経済成長期に各企業が取り入れたものであり、近年の経済変動のなかで経営が悪化したとして、退職金制度を変更・廃止する企業も少なくありません。また、従来の年功に応じた算定方式ではなく、成果に応じた算定方式への転換を図る企業も出てきています。

就業規則の不利益変更

 退職金制度は、通常、就業規則やその一部をなす退職金規程に定められており、退職金の支給水準を引き下げる変更や退職金制度自体の廃止は、労働条件の不利益な変更に他ならず、就業規則の合理的変更法理(労働契約法9条、10条)に従って、その有効性は判断されることになります。

 まず、労働契約法9条には、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。」と規定されています。したがって、同条本文を反対解釈すれば、労働者との合意があれば不利益な変更も可能であることが導かれます。ただし、合意は労働者の自由な意思に基づくものでなければならず、その認定は慎重になされます。

 次に、常に労働者との合意が得られるとも限りません。労働契約法10条は、①変更後の就業規則を労働者に周知させること、②変更が合理的なものであること、という2つの要件を満たす場合には、労働契約法8条および9条の合意による労働条件変更の原則の例外として、就業規則の合理的変更により契約内容が規律されることを定めています。

 変更の合理性の判断要素についても労働契約法10条に列挙されており、以下の要素に照らして判断されることになります。

  • 労働者の受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情

近時の重要判例

 就業規則の不利益変更に関して、近時の重要判例として、山梨県民信用組合事件・最高裁平成28年2月19日判決・民集70巻2号123頁に実務上留意すべきです。

 同判決は、不利益変更に対する労働者の同意の有無に関して、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為(同事件においては同意書への署名押印行為)をもってただちに同意があったとみるのは相当ではなく、慎重に判断されるべきとしています。そして、具体的な考慮要素として、「当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべき」と判示しています。

 上記判例の考え方を前提とすれば、労働契約法9条の合意の認定において考慮される事情は、結局のところ、労働契約法10条の合理性判断において考慮される事情と相当程度重複してくることになると考えられます。

まとめ

 以上を踏まえ、退職金制度の変更・廃止を行う場合に、企業としては、説明会を実施する等して労働者に対して十分な説明と情報提供を尽くすことや、説明会当日の労働者からの質問への丁寧な対応、問い合わせ窓口の設置等を行ったうえで、できる限り労働者との合意を取得するように努めるべきです。また、その前提として、労働契約法10条の合理性が認められるであろうレベルまで、変更の必要性や変更内容の相当性等について、事前に十分に検討しておくことが重要になると考えられます。

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