退職金規程作成のポイント

人事労務

 退職金制度を設ける義務があるのでしょうか。また、退職金制度を設ける場合の退職金規程作成のポイントにはどんな点があるでしょうか。

 退職金制度を設けるか否かは企業の自由な判断に任されています。
 退職金規程作成のポイントは多岐に亘りますが、最低、労働基準法等では、退職金の定めをする場合は、退職金の計算方法などに関する事項を労働契約の締結の際に明示し、就業規則に規定しておかなければならないとされています。

解説

退職金制度の要否 

 今日多くの会社では退職金規程などにより、退職金が制度化されています。しかし、法的には、退職金制度を設けるか否かは企業の経営判断に任されています。規模に拘わらずベンチャー系の企業や中小零細の企業では、退職金制度がない企業は少なくありません。

 また、退職金規程などがなく、支給するかどうか、支給する場合の基準もすべて社長の裁量(腹の内)次第というような退職金もあります。このような退職金の性質は労働基準法11条にいう賃金ではなく、任意的恩恵給付などと言われています(逆に、退職金規程の法的性質につき、断定的な規定の仕方をしていることに照らすと、単なる恩恵的給付ではなく、退職金給付を受ける権利を有することを定めたものと解するのが相当であるとされたルックジャパンほか事件・東京地裁平成19年12月21日判決・労判957号16頁参照)。

 裁判所も、退職金請求権は使用者がその支給の条件を明確にして支払いを約束した場合にはじめて法的な権利として発生するものであって、就業規則に退職金の定めがなく、退職金を支払った事例もない場合には、口頭で「労に報いる」と言っても退職金請求権は発生しないとしています(北一興業事件・東京地裁昭和59年2月28日判決・労経速1184号21頁)。

退職金制度を設ける場合の最低条件

 上記の経営判断で、人材獲得や定着化へのツールとして、退職金制度を設ける場合には、最低条件として、労働基準法15条1項、89条1項3号の2(労働基準法施行規則5条1項4号の2)により、退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払の方法ならびに退職手当の支払の時期に関する事項を労働契約の締結の際に明示し、就業規則に規定しておかなければならないとされています。別段、退職金規程という別規程化することが求められてはいませんが、就業規則の性格を持つ、就業規則本則か賃金規程の中などに、上記の法定記載事項を何らかの規程に明記する必要があります。

退職規程に定める事項での留意点

退職金の支払時期

 労働基準法施行規則で定めるべき退職金の支払時期につき定めがなければ退職後の請求後7日以内に支払う義務がありますが(労働基準法23条1項。退職金の支払時期を同条により、退職金請求後7日以内と明示された例としてPSD事件・東京地裁平成20年3月28日判決・労判965号43頁)、就業規則等に支払方法、期限等の定めがあれば、長期分割や退職後数か月先の支払いも認められていますので、必ず明記すべきです。

不正行為の事後的発覚への対応策

 懲戒解雇事由が退職後に発覚したような場合に、後述4のように問題点はあるものの、退職金の不支給や減額支給をしやすいように、退職金の支払時期は不正調査の時間を得るべく、6か月以内など、長めに取っておくことをお勧めします。さらに、支給後に発覚した場合の退職金返還規定も設けるべきです。

死亡退職金受給者の確定

 死亡退職金受給者については、特別の定めが無い場合は法定相続人となります。しかし、この場合、相続人間の相続争いの混乱を生じることがあり、企業では、受給者を、労働基準法施行規則42条~44条の遺族補償受給権者と同じにする例が多いようです。

 ただし、この場合の例外的なリスクとして、重婚的内縁関係下での配偶者の確定の問題があります。行政解釈は、現在でも、法律婚を重視し、「内縁の妻を含むとは、民法にいう配偶者のいない場合にかかる者をも受給権者として認めるもので」、重婚的内縁関係の場合の「受給権者は法律上の配偶者すなわち離別中の妻である」(昭和23年5月14日基収1642号)としていますので留意願います(詳細は、岩出誠「労働法実務大系」〔民事法研究会・平成27年〕200頁参照)。

 退職金の事案ではありませんが、日本私立学校振興・共済事業団事件(最高裁平成17年4月21日判決・判時1895号50頁)は、私立学校教職員共済法に基づく私立学校教職員共済制度の加入者で同法に基づく退職共済年金の受給権者が重婚的内縁関係にあった場合に、遺族共済年金の支給を受けるべき配偶者にあたるのは内縁の妻であるとしています(労働基準法に関しても、中央労基署長事件・東京地裁平成10年5月27日判決・労判739号65頁)が、日本私立学校振興・共済事業団事件判決(前掲)と同旨を判示しています)。

懲戒解雇または同該当事由ある場合の退職金の不支給ないし減額 

 なお、近時、従前は、就業規則のうえでは一般的だった懲戒解雇の場合の退職金の全額没収につき、退職金の功労報償的性格以上に賃金の後払い的性格を強調して、退職金規程での一部支給規定の存否にかかわらず、「永年の勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為」の存否を論じ、その全額ないし一部支給を認める例が増えています(退職金規程に一部支給の規定がある事案の小田急電鉄会社(退職金請求)控訴事件・東京高裁平成15年12月11日判決・労判867号5頁、ヤマト運輸(懲戒解雇)事件・東京地裁平成19年8月27日判決・労判945号92頁、詳細は、岩出・前掲大系206頁参照等)。

 実務でも、これらの裁判例を受け、懲戒解雇、諭旨解雇等についても、段階的に、退職金の不支給ないし減額を定める例が増えています。企業としては、一部支給を置かない方が有利との判断もあり得ますが、結論的には、全額没収が認められる例は減っていることに留意すべきです。

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