裁判で解雇が無効と判断された場合の対応

人事労務
髙木 健至弁護士

 当社は、ある従業員をやむなく解雇しましたが、その者から本件解雇は無効であるとして、雇用契約上の地位の確認を求める訴えの提起を受けました。裁判では可能な限り主張・反論をしましたが、当社の主張は認めてもらえず、判決で解雇が無効であると判断されました。当社としては、これからどのような対応が必要となりますか。

 解雇が無効と判断されると雇用契約上の地位が確認される結果となります。
 その結果、主に、①職場復帰、および、解雇以降に就労できなかった期間についての②賃金関係、③社会保険料関係、④税金関係の対応などが必要となる場合があります。

 なお、理論的には、地位確認請求と賃金支払請求とは別個の内容の請求であり、前者のみを審理対象としていた場合には、地位確認請求の認容判決をもって賃金支払効果を発生させるものではありません(事実上の効果はあるとも考えられますが強制執行に必要な債務名義とはなりません)。

解説

原職復帰・就労請求権について

 解雇が無効であると判断された場合、解雇時以降も依然として雇用契約上の地位が残存していることを意味しますので、労働者の職場復帰が認められます

 もっとも、労働者の使用者に対する自己を就労させることを請求する権利(就労請求権)については一般的には否定される傾向にあります(読売新聞社事件・東京高裁昭和33年8月2日決定・労民集9巻5号831頁)。ただし、労働契約等に特別の定めがある場合や、業務の性質上労務提供について労働者が特別の合理的利益を有する場合には、就労請求権が認められた例もあります(レストラン・スイス事件・名古屋地昭和45年9月7日判決・労経速731号7頁)。

賃金関係について

支払う必要のある金額

 解雇が無効であると判断された場合、解雇期間中の賃金として使用者が支払うべき金額は、当該社員が解雇されなければ確実に支払われていたであろう賃金の合計額です。
 その際、解雇当時の基本給等を基礎に算定されますが、各種手当、賞与を含めるか、解雇期間中の中間収入を控除するか、残業代は支払わなければならないのか等が問題となります。

 通勤手当については、通勤に要した費用への補助として支給されるものですので、通勤していない解雇期間中について、負担する必要はありません。
 賞与については、会社における業績に連動して支給金額が定まるような場合において、具体的な支給金額が確定できない場合には、支払う必要が無いと判断されることがあります(クレディ・スイス証券事件・最高裁平成27年3月5日判決・判時2265号120頁)。支給金額が確定できる場合は、賞与についても支払う必要があると判断されることがあります。

 ただし、解雇された社員に解雇期間中の中間収入(他の就労で得た収入)がある場合は、その利益が副業的なものであって解雇がなくても当然取得しうる等特段の事情がない限り、同時期の平均賃金の6割(労働基準法26条)を超える部分についてのみ控除の対象となります(米軍山田部隊事件・最高裁昭和37年7月20日判決・民集16巻8号1656頁)。
 残業代については、時間外・休日・深夜に勤務した結果発生するものですので、通常支払う必要はありません。ただし、定額残業代制度を採用している場合など、一定額の残業代が確実に支給されたと考えられる状況がある場合には、残業代についても支払う必要があると判断される場合もあります。

 また、賃金請求権の消滅時効は請求権発生時から2年間とされており、請求時の2年前より前の賃金支払請求については、時効中断事由が生じていない限り、消滅時効を援用し支払を拒絶することができるということも重要です。

通勤手当 負担する必要なし
賞与 支給金額が確定できない場合:支払う必要が無いと判断されることがある
支給金額が確定できる場合:支払う必要があると判断されることがある
解雇期間中の中間収入 同時期の平均賃金の6割を超える部分についてのみ控除の対象となる場合がある(副業的なものは除く)
残業代 通常支払う必要はない
定額残業代制度を採用している場合などは、残業代についても支払う必要があると判断される場合もある

社会保険料・税金との関係

 概念的には、判決で未払賃金の支払請求が認容された場合には、当該判決で示された金額の支払いを受けることが可能です。
 ただ、これらの未払い賃金についても、事業主としては、賃金から源泉徴収すべき所得税、控除すべき社会保険料については、これらを控除することが可能であると考えられます。

 これらを個別に行った場合には、処理が複雑になり、また、迂遠であることから、判決後に、労働者と事業主間で協議し、合意を形成し、認容された金額から源泉徴収すべき所得税、および、控除すべき社会保険料を控除した金額を支払うという対応を行う場合も考えられるところです。

仮処分に基づき仮払いをしていた場合

 仮処分で賃金相当額の仮払いが命じられ、仮払いをしていたとしても、判決では仮払金を差し引いた金額の支払いとはなりません
 解雇期間中の賃金の支払を命じる判決が確定した場合は、労働者側と連絡を取って、既払の仮払金の充当について調整するとよいでしょう。
 既払い仮払金の充当を承諾しない場合には、仮払い相当額について不当利得返還請求をすることになります。

社会保険関係について

 健康保険については、原則的には、事業主から資格喪失届に基づき被保険者資格喪失手続が進められますが、裁判所が解雇無効の判決を下し、かつ、その効力が生じたときには、当該判決に従い遡及して資格喪失の処理を取り消すことになり、事業主は、労働者の賃金から解雇期間中の保険料を徴収し、また、解雇期間中の保険料の事業主負担分についても納付することになります(昭和25年10月9日保発68号通達)。
 厚生年金についても、上述の健康保険における扱いに準じて取扱いがなされます(昭和25年10月9日保発68号通達)。

税金関係について

 当該労働者が、源泉徴収しない金額での支払を強硬に主張し、源泉徴収額についても強制執行してきた場合は、源泉徴収義務者は、強制執行により支払った給与等につき源泉徴収すべき所得税を納付したうえで、所得税法222条に基づき求償することになります(最高裁平成23年3月22日判決・民集65巻2号735頁)。

その他

 解雇期間中に就労していなかったことを理由に、年次有給休暇権の成立要件を充足していないという判断は認められません(八千代交通事件・最高裁平成25年6月6日判決・民集67巻5号1187頁)。

 また、就労不能は企業側が正当な理由無く労働者の就労を拒絶したと評価されるのであるから、解雇期間中の人事考課について、不当に低い評価をすることは、適当ではありません。

まとめ

 判決において雇用契約上の地位確認請求について認容判決が下され、その内容が確定した場合には、企業側としては、労働者側と復職環境の整備等についてその後の対応を協議し、支払を拒絶することができない部分の解雇期間中の賃金については、源泉徴収、社会保険料を控除した金額の支払いを提案し、紛争の一回的解決に向け合意を形成し、紛争の蒸し返しを防止していくことが重要です。

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