人事考課に関する紛争を回避するには

人事労務
山﨑 貴広弁護士

 当社は、従前から人事考課に基づき従業員の賃金等の処遇を決定しているのですが、この度、従業員から処遇決定に対し不満が出ています。今後の紛争リスクを回避するために、当社の人事考課に法的な問題がないかを確認しておきたいのですが、どのような点を確認すべきでしょうか。

 人事考課をめぐる紛争を回避するためには、人事考課が労働基準法3条等の強行規定に違反していないかどうか、人事考課が公正さを備えているかどうかの2点を確認する必要があります。人事考課の公正さの確認においては、下記の点をチェックするべきです。

  1. 公正かつ客観的評価制度の整備・開示が行われているかどうか
  2. それに基づく公正な評価の実施がなされているかどうか
  3. 評価結果の開示・説明がなされているかどうか

解説

人事考課の役割

 人事考課とは、労働者の日常の勤務や実績を通じて、その能力・成果を評価して処遇を決定する制度です。具体的には、使用者は、人事考課に基づき、労働者の昇給額・賞与額の決定や昇格・降格の決定をし、また、人事考課の結果を重要な情報として加味し、役職任用、配置(転勤・異動)、退職金の功労加算等の算定を行います。
 このように、人事考課は、会社の人事全般における判断材料として重要な役割を担っています。

人事考課の基準と法的問題

人事考課基準

 人事考課基準は、一般的に、①成果評価(業績目標達成度、課題目標達成度等)②能力評価(企画・計画力、実行力、改善力等)③情意評価(責任性、積極性、協調性等)の3つの評価項目から構成され、それらがさらに細かく項目化されています。

評価要素 評価項目 評価基準例
成果評価 業績目標達成度 該当等級にふさわしい難易度の目標数値
課題目標達成度 該当等級にふさわしい難易度の課題解決によって達成したい状況
能力評価 企画・計画力 自チーム全体の業務遂行について、チーム全体の作業効率を上げていける計画を立てることができる
実行力 自チームが担当している日常業務全体について、独立で遂行できるとともに、後輩の育成ができる
改善力 自チームが担当している日常業務について、主体的に改善に向けた問題意識を提案できる
情意評価 責任性 担当している業務について困難な事態が発生しても、粘り強く取り組み、それでも困難なことに出くわした場合は、タイミングを外さず、助けを求めている
積極性 自チームの日常業務の遂行にとって有効であれば、未経験の方法でもそれを試そうとしている
協調性 後輩の仕事ぶりを見ていて、大変なようであれば、自ら進んで手助けしている

(出典:高原暢恭『人事評価の教科書』73頁(労務行政、2008年)より一部抜粋)

 従前、多くの裁判例は、使用者の人事評価・考課における査定権者・査定項目の決定、査定の幅・基準とその運用等における企業の裁量権を大幅に認めてきました(安田信託銀行事件(東京地裁昭和60年3月14日判決・労判451号27頁)マナック事件(広島高裁平成13年5月23日判決・労判811号21頁)ヤマト運輸(賞与)事件(仙台地裁平成29年3月30日判決・労判1158号18頁)等)。このうち、光洋精工事件(大阪高裁平成9年11月25日判決・労判729号39頁)では、「人事考課をするに当たり、評価の前提となった事実について誤認があるとか、動機において不当なものがあったとか、重要視すべき事項を殊更に無視し、それほど重要でもない事項を強調するとか等により、評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠くと認められない限り、これを違法とすることはできない」として、濫用なしとされました。

 もっとも、企業の人事考課における裁量も無制約ではなく、以下の2点に実務上留意する必要があります。

法律違反がないこと

 まず、人事考課が、下記の強行規定に反する場合には、人事考課に基づく処遇決定が違法とされます

  • 均等待遇(労働基準法3条)
  • 男女同一賃金(労働基準法4条)
  • 昇進等についての男女差別的取扱い禁止(男女雇用機会均等法6条)
  • 不利益取扱いの禁止(男女雇用機会均等法9条、育児・介護休業法10条等)
  • 不当労働行為(労働組合法7条) 等

公正さを備えていること

 次に、近時、人事考課が公正さを備えていることが要求されています。

 成果主義人事制度の導入以降、人事考課の役割・性格が大きく変容し、労働法の学説において、人事考課の公正さが求められるようになりました。このような流れの中で、日本システム開発研究所事件(東京高裁平成20年4月9日判決・労判959号6頁)が明確に人事考課の公正さを要求した点に実務上留意すべきです。

 同判決は、年俸制の事案ではありますが、公正な評価の内容として、下記の3つの基準を要求しています。

  1. 公正かつ客観的評価制度の整備・開示
  2. それに基づく公正な評価の実施
  3. 評価結果開示・説明義務

 一方で、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター事件(東京地裁平成28年2月22日判決・労判1141号56頁)においては、一般に人事評価の結果の公表にメリットとデメリットとが想起されることを理由に、人事評価の公表等の実施が公平かつ適正な人事評価の不可欠の前提になるとまではいえないと判断しました。

 確かに、従前の裁判例においては、評価結果開示の制度がなくとも人事考課がただちに違法とはならないとする立場が一般的であったとはいえますが、評価結果開示制度の完備は公正さの判断にプラス要素となる以上、会社はそうした制度を完備すべきといえるでしょう。

人事考課の適用

 人事考課制度そのものがいかに整備されていたとしても、その適用いかんによっては、人事考課に基づく処遇決定が裁量権の逸脱濫用として違法と判断されてしまう点にも注意が必要です。

 人事考課を違法として損害賠償請求を認めた裁判例としては、昇格・賞与査定にあたって就業規則に定められた評定期間外の事由を査定の対象とした前掲マナック事件、育児休業期間が含まれる年度の成果報酬を合理的に査定する代替的な方法を検討することなく機械的にゼロと査定したコナミデジタルエンタテインメント事件(東京高裁平成23年12月27日判決・労判1042号15頁)、所定の考課要素以外の要素(婚姻の有無)に基づいて一律に評価をした住友生命保険事件(大阪地裁平成13年6月27日判決・労判809号5頁)等が参考になります。 

おわりに

 以上みてきたとおり、人事考課に関する紛争においては、前掲国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター事件がそうであるように、人事考課制度そのもののレベルとその適用のレベルとに分けて判断を行う裁判例が近時多く見られます。裁判所は、いまだ人事考課制度そのものの適法性を否定することには消極的であるといえますが、今後は、前掲日本システム開発研究所事件の判断を踏まえた係争の増加が予想されますので、会社としては、紛争リスクを少しでも軽減するために、人事考課制度が法律の諸規定に違反していないかどうか、公正さを備えているかどうかの2点を確認することが必要です。そして、公正さを備えているかどうかの確認に際しては、上記3つの基準から検討すべきでしょう。

 特に、人事考課の結果、降給・降格等の不利益な措置を取る場合には、司法審査が厳しく行われる傾向にあることに留意することが必要です。

 この点、マッキャンエリクソン事件(東京高裁平成19年2月22日判決・労判937号175頁)では、「会社は人事評価の結果に即して降級の内規を定めて運用を行っている……が、人事評価の結果当該内規に該当したからといって直ちに就業規則である新賃金規程の定める降級の基準に該当するものということはできないのであり、具体的事実による根拠に基づき、本人の顕在能力と業績が、本人の属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができることを要するものというべきで、……降級処分が有効であるというためには、会社は、根拠となる具体的事実を挙げて、本人の顕在能力と業績が、本人が属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていることを主張立証することを要する」として、大幅とはいえない1等級のみの人事考課による降級が人事考課基準の適用上、降給基準を満たす証明なしとして違法としています。

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