人事制度を見直す場合のポイント

人事労務
織田 康嗣弁護士

 当社では、長きにわたって年功序列型の賃金制度を運用してきました。しかし、従業員の能力や成果に見合った賃金を支払うために、他社にならって成果主義型の賃金制度を導入しようと考えています。一般に、人事制度を改定する際には、どのような点に留意すればよいのでしょうか。

 人事制度を見直す際には、何をねらいとして人事制度を改定するのか明確にしなければなりません。その上で、自社の業種や経営環境、社風を考慮して、自社の実態に即した人事制度を導入する必要があります。

 特に、年功序列型の賃金制度から成果主義型の賃金制度への移行については、不利益変更の合理性や従業員の真に自由な意思による同意がない場合には制度変更が拘束力を持たない場合があり得ますので、注意しましょう。

解説

はじめに

 旧来の人事制度が会社の実態に合わなくなった、会社再編がなされたなどの理由で人事制度の見直しを迫られることがあります。人事制度を見直す際には、現状制度の分析や課題分析をまずはしっかりと行い、人事制度改定の目的を明確にしておくことが必要です。これらを入念に行わなければ、会社の真の課題解決につながらない人事制度を構築してしまう危険性があります。

人事制度の変更方法

 賃金規程など、人事制度の改定をした結果、労働者にとって労働条件が不利益に変更される場合があります。一般に、労働条件の変更をするには、①労働者の個別合意、②就業規則の変更、③労働協約の締結の3つの方法がありますが、以下の点に留意すべきです。

就業規則の不利益変更

 労働契約法によれば、就業規則を不利益に変更するには、原則として、労働者との合意を得ることとされています(労働契約法9条)

 しかし、最近の判例(山梨県民信用組合事件(最高裁平成28年2月19日判決・民集70巻2号123頁)は、「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきもの」と厳格な判断をされる傾向があります。

 したがって、不利益変更に対する労働者の自由な意思に基づいて、労働者の同意がなされたものと認めるに足りる客観的合理的理由を説明できる態勢が必須です。実際には、その内容は、下記労働契約法10条の合理性と重なってきています。

 労働者の同意がなくても、変更後の就業規則を「周知」させ、その変更に「合理性」があるのであれば、就業規則による労働条件の不利益変更も可能となります。そして、その合理性については、下記の要件に照らして、判断されることになります(労働契約法10条)。

  1. 労働者の受ける不利益の程度
  2. 労働条件の変更の必要性
  3. 変更後の就業規則の内容の相当性
  4. 労働組合等との交渉の状況
  5. その他の就業規則に係る事情

 労働契約法10条には明示されていませんが、労働者の不利益に対する緩和措置(代償措置)についても、考慮すべき事情といえるでしょう。

労働協約による不利益変更

 労働協約とは、労働組合と使用者またはその団体との間の労働条件その他に関する協定であって、書面に作成され、両当事者が署名または記名押印したものです(労働組合法14条)。

 一般に、労働協約によって、労働条件を不利益に変更することができると解されていますが、判例上、不利益の程度、変更の必要性や、特定または一部の組合員をことさら不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど、労働組合の目的を逸脱して協約を締結することは許されませんし朝日火災海上保険事件(最高裁平成9年3月27日判決・労判713号27頁))、組合内での民主的意思形成手続きの遂行による協約締結権の授権が必要です中根製作所事件(東京高裁平成12年7月26日判決・労判789号6頁))。

 なお、労働協約を解約したり、期間の定めのある労働協約が期間(3年が上限、労働組合法15条1項)満了になったりする場合は、労働協約が終了することがありますが、この場合も労働協約の内容が契約内容から当然に消滅することにはならないことに注意が必要です。

 この点、労働契約当事者の合理的意思解釈によって、協約内容が補充されることがあります(労働協約の余後効の問題)。音楽之友社事件(東京地裁平成25年1月17日判決・労判1070号104頁)では、労働協約の規範的効力は、解約によって、失効したと解すべきであるが、組合と会社間の労働条件は、労働協約を含む確認書等により、長年にわたって規律されており、解約時点において、組合所属の組合員らと会社との間で、労働契約の内容とされていたと認めるのが相当で、労働協約が失効した後も、効力停止中の昇給条項を除く労働協約規定に基づく労働条件は、新たな労働協約の成立や就業規則の合理的改訂・制定が行われない限り、組合員らと会社との間の労働契約を規律するものとして存続するとしています。
 したがって、労働協約を締結する際には、慎重な対応が必要といえます。

 また、そもそも、一方的な解約や更新拒絶が不当労働行為との非難を受ける危険があります(駿河銀行事件(東京高裁平成2年12月26日判決・労判583号25頁)等。岩出誠「労働法実務大系」〔民事法研究会・平成27年〕740頁参照)。

人事制度見直しの視点

 では、具体的な人事制度見直しの際の視点について検討していきます。

経営理念の反映

 会社の経営理念を従業員と共有することは、組織としての結合を高め、従業員の職務遂行を当該理念に従ったものに規律することができます。

 そこで、就業規則の服務規律に関する規程に会社の理念と適合する行為規範を定めたり、人事考課の評価基準を会社の理念に沿ったものにしたりすること等が考えられるでしょう。

参照:「人事考課に関する紛争を回避するには

等級制度・評価制度・報酬(賃金)制度の見直し

 等級制度・評価制度・報酬(賃金)制度は、人事制度の重要な部分を占めるものであり、労働者の労働への動機付けにもなるものです。等級段階を労働者の成長段階に合うものとし、適切な賃金制度を構築することは、労働者のモチベーション向上にも繋がります。

 特に、設例のように、賃金制度を年功序列型から成果主義型に変更した場合、従業員によっては従前の賃金制度よりも賃金額が低下することになり、労働条件の不利益変更の問題が生じます

 成果主義的賃金制度を導入した就業規則への変更を合理的なものと判断した例として、ノイズ研究所事件(東京高裁平成18年6月22日判決・労判920号5頁)があります。同事件では、新賃金制度で支給される賃金額が、旧賃金制度のそれより減少する可能性があったものの、

  1. 競争が激化した経営状況の中で労働生産性を上げる必要性があったこと
  2. 新賃金制度は従業員に支給する賃金原資総額を減少させるものでなく、その配分を合理的にするものであり、どの従業員にも自己研鑽による昇給の機会が平等にあったこと
  3. 労使間の合意により制度を変更できるよう労使間の交渉がなされていたこと
  4. 緩和措置として経過措置が採られたこと

等から、新賃金制度も合理的なものだとされました。ただし、同事件では、現実にとられた経過措置が2年間に限って賃金減額分の一部を補填するにとどまるもので、いささか性急で柔軟性に欠けるきらいがないとはいえないと指摘されており、リスク回避の観点からは、もう少し余裕が必要ではないかと考えます。

 賃金は、労働者にとって重要な権利であるので、その変更の必要性は高度なものであるとともに、変更内容もその必要性に見合った相当なものである必要があるのです。

処遇格差の是正

 近時では、働き方改革が提唱され、同一労働同一賃金への動きが見られます。非正規労働者と正社員との間では、その処遇に格差があるにもかかわらず、同様の職務を担っているケースも少なくありません。また、高齢者の定年再雇用者との処遇格差も問題となりやすいところです。

 労働契約法の平成24年改正により、有期労働契約者について、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違が禁止され(労働契約法20条)、定年再雇用者について、同条が適用されるとした長澤運輸事件(東京高裁平成28年11月2日判決・労判1144号16頁)など、注目すべき裁判例も存在します。結論は不合理とは言えないとされてはいますが、本件は上告されており、今後の最高裁での判断を注視すべきです。

 また、平成27年4月に施行されたパートタイム労働法9条(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)では、有期か無期かに関係なく、①職務の内容(業務の内容と責任の程度)が正社員と同一で、②人材活用の仕組みや運用など(人事異動等の有無や範囲)が正社員と同一である短時間労働者については、正社員との差別的取扱いが禁止されることになりました。
 人事制度見直しにあたっては、正社員との間で、不合理な処遇格差が生じていないか確認することが必要です。

参照:「継続雇用を行う場合の留意点

柔軟な就業場所や労働時間の設定

 労働人口が減少し、人材が不足する時代においては、多様な人材が働きやすい環境を整えておくことが必要です。

 変形労働時間制(労働基準法32条の2、32条の4、32条の5)や、フレックスタイム制(労働基準法32条の3)はもちろんですが、在宅勤務制度など就業場所の柔軟化なども必要があれば検討すべきでしょう。

【人事制度を見直す視点】

人事制度を見直す視点

出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「人事制度を見直すポイントは何か

おわりに

 一定の目的の下で人事制度を見直して、新たな制度を設計したとしても、その運用が不適切であれば、人事制度の目的は達成されません。制度設計とその運用はどちらも欠くことのできない密接な関係にあり、見直した人事制度が忠実に実行されているのか、人事制度改定の目的がどの程度実現できているのか、常にチェックすることが必要です。

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