組織再編をした場合の人事制度をどう整理するべきか

人事労務
結城 優弁護士

 当社は現在、当社を存続会社、A社を消滅会社とし、A社を吸収合併することを検討しています。当社とA社では人事制度・労働条件が大きく異なるのですが、吸収合併後の人事制度・労働条件をどのように整理していくべきでしょうか。注意点等について教えてください。

 吸収合併においては、存続会社が消滅会社の権利・義務を全部承継するため、何も対応しなければ、1つの会社内に2つの異なる人事制度が併存することになります。もっとも、人事労務管理上の様々な問題から、通常、人事制度を統一する方向で整理・検討することになります。その場合、労働条件の不利益変更が不可避であり、労働者の個別同意を取るか、変更の合理性が担保されるような形で変更することが必要です。

解説

はじめに

 「組織再編」は、必ずしも一義的な定義はありませんが、一般的には、会社法が組織変更、合併、会社分割、株式交換・株式移転に関する規制を第5編でまとめて規定していることに照らし、合併(吸収合併・新設合併)、会社分割(吸収分割・新設分割)、株式交換、株式移転を指します。また、文献によっては、事業譲渡も含めて「組織再編」と呼ぶこともあります。

「組織再編」のうち、人事制度の統一が問題となりやすいのは、包括承継が生じる合併と会社分割を行う場面です。そこで、以下では、合併と会社分割の場面を中心に論じつつ、最後に事業譲渡についても若干の補足を行います。

人事制度・労働条件の統一

 合併においては、消滅会社の権利義務一切は、存続会社または設立会社に包括的に承継されます(会社法750条1項、754条1項)。また、会社分割においても、分割会社の権利・義務が、分割契約・計画の定めに従って、法律上当然に承継会社・設立会社に承継されるのが原則です(部分的包括承継、会社法759条1項、764条1項)。したがって、合併や会社分割においては、労働契約関係についても、承継されることになります。

 そうすると、合併や会社分割に際して、何ら対応しなければ、1つの会社の中に複数の異なる人事制度や就業規則が併存することになります。もちろん、1つの会社における人事制度が1つでないといけないという決まりはありませんので、複数の人事制度を併存させておくことはできますし、その方が適切であるケースが無いわけではありません。

 もっとも、一般的には、1つの会社内で複数の異なる人事制度が併存することは、人事労務管理を複雑化し、また、従業員間の不公平感にも繋がりやすいことから、望ましくない場合が多いでしょう。そこで、基本的には、人事制度は統一する方向で整理・検討していくことになります。

 人事制度の整理の仕方としては、大きく分けて以下の2つの方法があり得ます。

① いずれかの会社の人事制度に合わせて統一する方法

② 新しい人事制度を策定する方法

 いずれの方法が適切であるかについては、ケースバイケースであり、当該組織再編を行う目的や内容を踏まえ、契約当事者間で協議のうえ、慎重な検討・対応が必要です。

労働条件の不利益変更の問題

 人事制度・労働条件を統一するに際して、労働者にとってすべて有利に、つまり労働条件を引き上げることによって統一する方法が最も理想的ではありますが、総人件費を大きく増加させることになるため、事実上選択することができません。実際には、労働条件を不利益に変更せざるを得ない部分が生じてくるため、いわゆる労働条件の不利益変更の問題が不可避といえます。

 就業規則の不利益変更による労働条件の不利益変更については、裁判例の集積として、労働契約法9条、10条に条文化されています。具体的には、就業規則の不利益変更は、労働者との合意に基づき行うことを原則としつつ(労働契約法9条本文)、合意が得られない場合であっても、変更後の就業規則を労働者に周知させたうえで、以下の諸要素に照らし、変更が合理的であると認められれば、不利益変更が許容されます(労働契約法9条ただし書、10条)

  • 労働者の受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働組合等との交渉の状況
  • その他の就業規則の変更に係る事情

 したがって、労働者の個別同意を取るという方法をまず検討することになります。もっとも、多数の労働者が関わる組織再編の場合、個別に同意を取得する方法は非現実的ということも少なくなりません。そこで、労働契約法10条にあがっている上記諸要素に照らして変更に合理性が認められるか否かの検討が不可欠となります。具体的には、段階的に変更する計画を立てることや、適切な不利益緩和措置を講ずること、労働組合と事前に協議し同意を得ておくこと等が重要です。

 なお、合併に際して退職金規程の不利益変更がなされた事例として、大曲市農業協同組合事件(最高裁昭和63年2月16日判決・民集42巻2号60頁)は実務上参考になります。

事業譲渡における労働条件統一

 事業譲渡は、合併や会社分割と異なり、個々の事業財産あるいはこれに付随する権利義務の承継という取引法上の行為に過ぎません。したがって、事業譲渡における権利義務の承継は、個々の移転について譲渡会社と譲受会社との間の合意が必要となります(特定承継)。

 労働契約も譲渡会社に帰属する1つの契約関係に過ぎないため、事業譲渡において労働契約関係を承継するためには、譲渡会社と譲受会社との間の合意が必要です。それに加えて、対象労働者の同意が必要となります(民法625条1項)。

 なお、労働者を転籍させる方法としては、労働契約の承継による方法(譲渡型)と、譲渡会社との労働契約を終了させて譲受会社と新たに労働契約を締結する方法(再雇用型)の大きく2つがあります。

 事業譲渡に際して譲受会社に労働者が転籍する場合、譲受会社において複数の労働条件が併存する可能性があります。このような事態を避けるためには、譲受会社の労働条件に同意する労働者のみを受け容れるという対応がまず考えられます。ただし、譲渡会社の事業の全部の譲渡を受けたような場合は、譲渡会社と譲受会社との間に労働条件の変更に同意しない労働者を排除する内容の合意がある場合であっても、当該合意が公序良俗に反し無効と判断される場合があることには注意が必要です(勝英自動車学校(大船自動車興業)事件(東京高裁平成17年5月31日判決・労判898号16頁))。

 また、事業譲渡を早期に実現させる緊急性が高い場合には、いったん労働条件を維持したまま転籍させたうえで、転籍後に譲受会社において労働条件の不利益変更を行うというやり方もあり得ます。この場合、前述の労働契約法9条、10条に留意しながら労働条件の変更を行うことになります。

おわりに

 組織再編に伴う人事制度・労働条件の統一は、個別の事案によって適切な対応が大きく異なってきます。人事制度・労働条件の統一にかかる労力や費用を検討した結果、組織再編自体を行わない方が会社にとって利益と判断されるケースも少なくありません。合併や会社分割をはじめとする組織再編を検討するに際しては、人事労務の専門家も交えた事前の十分な準備・検討が必須といえます。

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