同一労働同一賃金の動向を踏まえた制度設計の考え方

人事労務
織田 康嗣弁護士

 働き方改革の一環として同一労働同一賃金の導入が予定されていますが、具体的にどのような法改正がなされるのでしょうか。また、社内ではどのような対応が必要となるのでしょうか。

 有期雇用契約者に関する労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の三法が改正される見通しです。不合理な処遇格差を解消するための規定の整備、労働者に対する待遇に関する説明義務の強化、行政による履行確保措置、裁判外紛争手続(ADR)の整備等が盛り込まれることとなっています。

 不合理な処遇格差に関しては、現状の規定ではその判断枠組みについて不明確な部分も多いですが、近時の裁判例や同一労働同一賃金ガイドライン案、特に、2018年6月に労働契約法20条に関して最高裁から示される予定の判決を参考に、個々の非正規社員の待遇をみて、それが正規社員と不合理な格差が生じていないか確認することが望ましいといえます。

解説

同一労働同一賃金をめぐる動向

 働き方改革の一環として、非正規社員(有期雇用労働者、パート労働者、派遣労働者)と正規社員(無期雇用フルタイム労働者)との間の均等・均衡待遇の確保を図ろうとする同一労働同一賃金の改革が進められています。2016年12月20日、「同一労働同一賃金ガイドライン案」が策定され、2017年9月15日には、労働契約法、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)、労働者派遣法等の改正を含む、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」の答申がなされました。

 同一労働同一賃金政策に関しては、すでに具体的な条文の策定が進んでいますが、この問題については近時注目すべき裁判例も蓄積されており、本稿ではその動向についても検討していきます。

現在(2018年3月)の同一労働同一賃金に関する法制度

差別禁止規制、いわゆる「均等」待遇

 パートタイム労働法9条によれば、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について差別的取扱いをしてはならないと定められています。

 パートタイム労働法は2014年に改正がなされましたが、従前の規定では無期契約で雇用されている短時間労働者であることが要件とされていたところ、労働契約法20条で有期契約労働者の待遇改善が定められたことを踏まえて、これが撤廃されました。

 したがって、現行法では、以下に該当する短時間労働者について、通常の労働者との差別的取扱いが禁止されています。

  1. 通常の労働者と職務内容が同一
  2. 雇用関係が終了するまでの全期間において、職務の内容および配置の変更の範囲が通常の労働者と同一と見込まれる

同一労働同一賃金に関する法制度

不合理な格差禁止、いわゆる「均衡」待遇

 正規社員と非正規社員(パート労働者・有期契約労働者)の間の賃金差など処遇格差に関しては、2014年に改正されたパートタイム労働法8条や労働契約法20条にて、不合理な処遇差が禁止されています(パートタイム労働法8条は、文言上、労働契約法20条をパート労働者に書き換えた内容となっています)。

 具体的には、以下の考慮要素を検討して、不合理な処遇差が禁止される定めとなっています。

  1. 職務内容(業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)
  2. 当該職務の内容および配置の変更の範囲
  3. その他の事情

 同条によれば、職務内容が正規社員と非正規社員との間で異なっている場合、処遇格差があったとしても、その格差が不合理なものでなければ違法となりません。

 しかし、このような不合理な格差禁止の定めについて、その内容が不明であり、解釈が定まっていないという指摘もあり、後述する裁判例でも判断が分かれている状況にあります。

近時の裁判例の動向

差別禁止規制に関する裁判例

(1)ニヤクコーポレーション事件

 前述のパートタイム労働法9条(当時8条1項)の適用が問題となった裁判例として、ニヤクコーポレーション事件(大分地裁平成25年12月10日判決・労判1090号44頁)があります。

 この事件では、正社員と職務内容が同一で、1日の所定労働時間が正社員より1時間短い準社員について、賞与額、週休日の日数、退職金の支給の有無が正社員と異なる点は、短時間労働者であることを理由とした差別的取扱いに当たると判断されました。  

(2)京都市立浴場運営財団ほか事件

 京都市立浴場運営財団ほか事件(京都地裁平成29年9月20日判決・労判1167号34頁)では、嘱託社員の退職金規程を定めていなかったことが旧パート法8条1項に違反する差別的取扱いに当たらないか問題となりました。

 旧パート法には、労働基準法13条のような補充的効果を定めた条文は見当たらず、旧パート法8条1項違反によって、規程に基づく退職金請求権がただちに発生するとは認めがたいが、同違反は不法行為に該当し損害賠償請求をなし得るとしたうえで、嘱託職員の基本給は正規職員のそれより低く抑えられていたこと、退職金が基本給に勤続年数に応じた係数をかけて機械的に算出されるものであることに鑑みれば、規程に基づき算出された退職金相当額が嘱託職員らの損害と認められるとされました。

不合理な格差禁止に関する裁判例

 近時、労働契約法20条に関する注目すべき裁判例が相次いでいます。

(1)長澤運輸事件

 長澤運輸事件東京高裁平成28年11月2日判決労判1144号16頁東京地裁平成28年5月13日判決・労判1135号11頁)では、定年後再雇用のトラック運転手について、職務内容等が正社員(定年前の無期契約労働者)と同一であるにもかかわらず、賃金が減額されたことが問題となりました。

 地裁判決によれば、定年後再雇用の場合でも、前述の職務内容および職務内容・配置の変更の範囲が同一であるという2要素を重視し、これが満たされれば、労働条件の相違を正当と解すべき特段の事情が認められない限り、労働契約法20条違反で当該労働条件に関する定め等は無効と判断されました。

 しかしながら、同高裁判決では、労働契約法20条の文理に沿って、「その他の事情」を総合考慮することによって、2要素が満たされていても、賃金の相違が不合理とは言えないと判断しています。

(2)ハマキョウレックス(差戻審)事件

 ハマキョウレックス(差戻審)事件(大阪高裁平成28年7月26日判決・労判1143号5頁)は、運送ドライバーと正社員との間で業務内容は同じであるにもかかわらず、手当支給等に格差があることが問題になった事件です。

 同裁判例では、労働契約法20条の不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容および配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるべきものであるとしたうえで、各種手当の支給目的に照らして、正社員にのみ支給して契約社員には支給しないとするのは、不合理であると判断しました。

(3)その他の裁判例

 その他の裁判例として、以下の例もあります。

事件名 裁判年月日等 判断の概要
メトロコマース事件 東京地裁平成29年3月23日判決労判1154号5頁 正社員と契約社員との間の基本給、資格手当、賞与、退職金、褒章の相違については不合理とはいえないが、早出残業手当の割増率の相違については、労働契約法20条に違反し、その限りで不法行為に基づく損害賠償請求を認めた。
日本郵便事件 東京地裁平成29年9月14日判決・労判1164号5頁 正社員と時給制契約社員の手当の格差に関して、外務業務手当、祝日給などの相違は不合理でないとした一方で、年末年始勤務手当、住居手当、夏期冬期休暇および病気休暇についての相違は、労働契約法20条に違反し、各手当の不支給は不法行為を構成する。
日本郵便事件 大阪地裁平成30年2月21日判決 時給制契約社員または月給制契約社員である原告らと、被告の正社員との労働条件の相違のうち、年末年始勤務手当、住居手当(平成26年4月以降に限る。)および扶養手当に関する相違は不合理であり労働契約法20条に違反するが、夏期年末手当等に関する相違については不合理なものであるとまで認められないとして、原告らの損害賠償請求が一部認容された。

 これらは、同一労働同一賃金ガイドライン案より、不合理性の適用される手当の対象を拡大しており留意すべきです。
 このように、裁判例の判断は様々ですが、長澤運輸事件やハマキョウレックス事件について、上告がなされ、最高裁が弁論を開くことを2018年3月に決定しました。2018年6月には最高裁が処遇格差の不合理性に関する判断枠組みの解釈を示すと予想されており、実務上極めて重要な判決となると思われます。

同一労働同一賃金に関する法改正の概要

 同一労働同一賃金に関する改革として、有期雇用契約者に関する労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の三法が改正される見通しです。

 具体的な内容は以下のとおりです。

  • 有期雇用労働者について不合理な労働条件を禁止した現行の労働契約法20条を削除する
  • パートタイム労働法の題名を「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に改めて、パートタイム労働者と有期雇用労働者とを同法の規制の下に置く
  • 派遣労働者については、労働者派遣法を改正し、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律と原則として同じ規制に置く

 法律案要綱によれば、①不合理な処遇格差を解消するための規定の整備、②労働者に対する待遇に関する説明義務の強化、③行政による履行確保措置、裁判外紛争手続(ADR)の整備等が盛り込まれることとなりました。

 特に、①については、不合理な処遇格差に関して、個々の待遇ごとにその不合理性の有無を「個別に」判断することとされています。現行の法制度では、正社員と非正規社員との処遇差について、包括的に判断するのか、個別的に判断するのか明確ではありませんでしたが、法律要綱案では、処遇を全体的に見て、不合理性の有無を包括的に判断しないことが明確になっています。

 また、その正社員と非正規社員の処遇差について、同一労働同一賃金ガイドライン案においては、主観的・抽象的説明では足りず、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはならないとしています。これは、非正規社員は将来に向けた役割や期待が違うために賃金制度を別にしているなどという使用者の主観的・抽象的説明では足りないとするものであって、実際に人事異動の有無や範囲が異なるといった客観的・具体的な実態の違いがあるか否かで判断されることを示すものです(水町勇一郎「同一労働同一賃金の全て」〔有斐閣、2018〕70頁参照)。

 したがって、使用者としても処遇差の客観的な理由を説明できる体勢を整えておくことが必要です。

おわりに

 正規社員と非正規社員について、均等・均衡待遇を図ろうとする同一賃金同一労働の改革は、労働の現場にも大きなインパクトを与えるものです。ガイドライン案や法律案要綱の公表によって、その動向も見えてきたところではありますが、前記長澤運輸事件やハマキョウレックス事件上告審など、今後注目すべき判決も待たれるところです。

 使用者としては、こうした判決の動向にも注視しながら、正規社員と非正規社員との間に不合理な処遇差が生じていないか、現状はガイドライン案等を参考に見直すことが必要です。

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