無期転換ルールへの対応を取らなかった場合の使用者のリスク

人事労務

 無期転換ルールを意識せず、使用者が何も対応を取らなかった場合、使用者にはどのような事態が生じるでしょうか。使用者がとるべき対応について教えてください。

 労働契約の更新時期に更新拒絶をすればよいと考えていた有期契約労働者が、当該契約期間の満了後に無期契約労働者になってしまうというリスクがあります。また、現状は、有期契約労働者が、無期転換申込権を行使することがなかったとしても、経営状況の悪化や事業の縮小等により、有期契約労働者の雇止めをしなければならない状況となったときに、無期転換申込権を行使されるという事態も想定されます。

 これらのリスクを回避するためにとるべき使用者側の対応としては、大きくわけて

  1. 有期労働契約の更新年限や更新回数を制限して雇止めをする
  2. 労働者と期間の定めのない契約を締結する

という2つの方法が考えられます。

解説

使用者が対応しない場合のリスク

 使用者が何ら無期転換ルールを意識せず、従前どおり、漫然と有期契約労働者と有期労働契約を更新していた場合、無期転換申込権が発生した有期契約労働者から、突如として、無期転換申込権を行使されるという事態が想定されます。有期契約労働者が無期転換申込権を行使した場合、使用者はその申込みを承諾したものとみなされますので、使用者は、有期契約労働者からの無期労働契約に転換することの申込みを拒絶することはできません。

 したがって、使用者としては、労働契約の更新時期に更新拒絶をすればよいと考えていた有期契約労働者が、当該契約期間の満了後に無期契約労働者になってしまうというリスクがあります(無期転換ルールの概要については「無期転換ルールの仕組み」も参照ください)。

 特に使用者として気を付けなければならないのは、現状では、有期契約労働者との関係が良好で、仮に無期転換申込権が発生した有期契約労働者が、権利行使することはあまり想定されないような関係であったとしても、経営状況の悪化や事業の縮小等により、有期契約労働者の雇止めをしなければならない状況となったときに、無期転換申込権を行使されるという事態が想定されます。これは、在職中は未払残業代の請求を行わなかった従業員が、退職後に突如として未払残業代の請求を行うのと同様に、従業員との関係が悪化した後にリスクが顕在化するという構図です。

使用者側がとるべき対応

 前述のリスクを回避するためにとるべき使用者側の対応としては、まずは、有期契約労働者から無期労働契約を締結することの意向についてのヒアリングを行う等して、リスクの程度を見積もった上で、有期契約労働者に無期転換申込権が発生しないようにすることです。

 大きくわけると、①有期労働契約の更新年限や更新回数を制限して雇止めをする、または、②労働者と期間の定めのない契約を締結する、という2つの方法があります。

雇止め

 無期転換ルールを認識した使用者としては、まず、無期転換申込権が発生しないように通算期間が5年を超える前に雇止めを行えばよいと考えるのではないでしょうか。

 しかし、雇止めについては、雇止め制限法理(労働契約法19条)により無効とされる場合があります。有期労働契約が過去に反復して更新されていて、雇止めが期間の定めのない契約を終了させることと同視できる場合や、労働者が、有期労働契約が更新されると期待することに合理的な理由があると認められる場合には、使用者が合理的な理由なく更新を拒絶したとしても、法律上有期労働契約が更新されたものとして扱われます。

 したがって、無期転換ルールを回避することを目的として雇止めをすることは無効とされるリスクがあり、その場合、有期労働契約の連続更新期間が5年を超えた時点で無期転換申込権が発生するため、慎重な対応が必要です。すなわち、無期転換申込権の発生間際での駆け込み的な雇止めは無効とされるリスクがあるため、なるべく回避する方が安全です。

 このような雇止めが無効とされるリスクを回避する方法としては、有期労働契約締結の際に、契約更新回数を制限する、更新による契約通算期間の上限を5年以下とする等の合意をする(ただし、無期転換申込権の発生間際にこのような制限の合意をした場合、同様に当該合意が無効とされるリスクがあります)、このような合意による契約更新のルールを厳格に運用し、無期転換申込権行使による無期転換の前例を作らないといったものが考えられます。

 なお、有期労働契約の雇止めに関しては、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平成15年厚生労働省告示第357号)が策定されており、次の3点が定められています。

  1. 3回以上更新したかまたは1年を超えて継続している有期労働契約については、これを更新しない場合には、満了前の少なくとも30日前に予告をすべきこと
  2. 有期労働契約が更新されなかった場合において、労働者が更新されなかった理由につき証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付すべきこと
  3. ①の有期労働契約の更新においては、契約期間をできる限り長くするように努めるべきこと

 また、「クーリング期間」を利用し、有期労働契約を再度締結するまでの間に一定期間(6か月)の無契約期間を必要とする運用を一部の大手自動車メーカーが行っているという調査結果が厚生労働省から公表されていますが(「いわゆる『期間従業員』の無期転換に関する調査」結果(平成29年12月))、厚生労働省のウェブページにおいて、「各企業等において、例えば、労働者を長期に雇用することを前提としているにもかかわらず、無期転換ルールの適用を意図的に避ける目的でクーリング期間の前に雇止めをしている場合などは、個々の事案によって雇止めの有効性等が最終的に司法において判断されることになります」とされています。

労働契約法
(有期労働契約の更新等)
第19条
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

無期労働契約の締結

 無期転換申込権の行使によらずに有期契約労働者の無期転換を行うには、有期労働契約者との間で無期労働契約を締結する方法があります。この場合、有期労働契約から労働条件を変更しない場合と変更する場合の2つの方向があります。

(1)労働条件の変更なく無期労働契約を締結する場合

 従前の有期労働契約から契約期間のみを変更するものです。職務や処遇は有期労働契約時と同様です。労使間で何ら合意をしない場合、無期転換申込権が発生した有期契約労働者が無期転換申込権を行使すると、労働条件の変更なく無期労働契約を締結した場合と同じ効果になります(ただし、後述の就業規則との関係は注意が必要です)。労務管理のコストの増加にはつながらず、また、労働の負担増加を望まない従業員に適しています。
 なお、定年制を定めることは認められます。

(2)労働条件を変更して無期労働契約を締結する場合

 業務内容については従前の有期労働契約から変更しないものの、契約期間に加えて、給与などの条件を変更するものです。高度の専門性などを持っているがゆえに、いわゆる「有期プレミアム」として正社員よりも良い労働条件の有期契約労働者がいる場合には、当該労働者の同意を得て、無期労働契約とすることにより、逆に労働条件を低下させることも考えられます1

① 無期労働契約を締結して限定正社員とする場合

 いわゆる「正社員(契約期間の定めがなく、勤務地、職務、勤務時間等が限定されていない社員)」と比較し、勤務地や労働時間などの労働条件に制約を設けた正社員への転換です。職務内容などは「正社員」と同等でありながら、子育てや介護の家庭の事情等から、勤務地や労働時間に制約があるような従業員に適しています。ただし、従前、限定正社員の制度を設けていない場合には、新たに設けることにより労務管理のコストが増大するおそれがあります。

② 無期労働契約を締結して正社員とする場合

 業務内容に制約がない、定年に達するまで勤務することを想定した社員への転換です。転換時の職位(既存の職務等級のどこに位置づけるか)等を検討する必要があります。

 無期転換ルールは、労使間で別段の定めのない限り、労働条件は有期労働契約時の労働条件と同一とする(①の方法)とされているように、転換に際して正社員との労働条件の違いを解消させることまでは意図していません。実際に転換を行う場合には、各有期契約労働者が行っている職務などを考慮し、どの転換方法が望ましいかを考慮して社内制度を整備する必要があります。複数の転換方法を組み合わせて社内制度を構築することもでき、そのような場合には、転換の要件(必要な能力や試験の実施の有無など)も考える必要があります。

 ①以外の転換方法を導入する際には、その転換について、労働協約、就業規則、個別労働契約のいずれかによって定めを置く必要があります。

 なお、有期契約労働者を正社員、限定正社員にした場合や基本給を増額した場合で、一定の要件を満たせば、キャリアアップ助成金が支給されます(参照:厚生労働省「キャリアアップ助成金」)。

無期転換後の労働条件についての対応

 有期労働契約の無期転換について、就業規則上の整備を何もしていない場合には、無期転換後の労働条件は契約期間を除く有期労働契約中の労働条件がそのまま承継されます。承継される労働条件としては、従前の給与、労働時間、休日・休暇、服務規律、福利厚生などが考えられます。

 しかし、無期転換後の労働条件について就業規則上の整備が格別なされていない場合でも、通常は無期労働契約の正社員に適用される就業規則が存在し、当該就業規則中に、たとえば、定年制や退職金制度のように無期契約労働者であれば適用があると考えられるような労働条件が規定されている場合がありえます。その場合、当該就業規則の適用対象の趣旨によりますが(たとえば、無期契約労働者か有期契約労働者かで適用される就業規則を区別しているのか、正社員か非正社員かで適用される就業規則を区別しているのか等)、当該就業規則上の規定が、「別段の定め」(労働契約法18条1項第2文)であるとして、有期労働契約から無期転換した労働者に適用される可能性があります。

 逆に、定年制を規定した就業規則が存在しないような場合には、無期転換後の労働契約について定年がないという事態にもなりかねません。

 したがって、無期転換された後の雇用形態について、就業規則が整備されていない場合、新しく就業規則を作成しておく必要があります。

 また、無期転換後の就業規則(限定正社員の就業規則など)がすでにある場合でも、無期転換の仕組みを新たに作る必要があるか、対象となる従業員を誰にするのかなどを検討する必要があります。無期転換労働者用の就業規則を作成した場合には、これらの規定の対象となる従業員を他の就業規則の対象から除外する必要があるので、正社員の就業規則などの見直しの検討も必要です。

 なお、無期転換労働者用の就業規則を作成する際には、有期契約労働者と無期転換労働者の間の労働条件の違いが不合理なものであってはならないこと(たとえば、有期契約労働者と無期転換労働者とで、従事する業務内容が同じであるのに、期間の定めの有無のみを理由として賃金に差を設けることは禁止される。)に注意が必要です(労働契約法20条)。

労働契約法
(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第20条
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

まとめ

 以上のとおり、無期転換ルールを意識せず、従前どおり、漫然と有期契約労働者と有期労働契約を更新していた場合、これまで述べたようなリスクが顕在化する可能性があります。したがって、労務管理の方針を決定した上で、就業規則や雇用契約書を作成していくことが重要です。
 具体的な制度構築や就業規則の作成などについては、個別具体的な事情によるところが大きく、これらの労務管理の手間を惜しむと高額な簿外債務の発生につながりやすいため、専門家に相談することをお勧めします。


  1. 厚生労働省労働基準局長平成24年8月10日基発0810第2号も、労働条件の低下があり得ることを想定しています。ただ、「職務の内容などが変更されないにもかかわらず労働条件を低下させることは望ましくない」としています。 ↩︎

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