メンタルヘルスの不調により休職中の従業員が復職可能かどうかの判断

人事労務
坂本 萌弁護士

 当社の就業規則では、休職期間中に休職事由が消滅したときは復職させるものとし、休職期間満了後に復職できないときは退職するとされています。このたび、まもなく休職期間が満了する社員に診断書を提出してもらいました。診断書には「通常勤務が可能」と記載されていますが、復職可能かどうか、どのように判断すればよいでしょうか。

 診断書を作成した労働者の主治医と面談して、提出された診断書にどの程度依拠できるかを検討するほか、必要に応じて、労働者に対して、会社の指定する医師を受診するよう業務命令を発して指定医からの診断書を取得したり、産業医等とも連携したりして、職場で必要とされる業務遂行能力があるといえるまでに回復しているかを判断するという方法が考えられます。

解説

復職の可否の判断の難しさ

 最近、働き方改革の影響もあって、長時間労働に対する目が厳しくなりつつあり、就労環境が改善される傾向も見られます。ただ依然としてメンタルヘルスの不調を抱える労働者は多数存在し、これを原因として休職している労働者を雇用する会社も多いと思われます。

 復職の際には、会社に対し、労働者が診断書を提出するなどして復職可能になったことを示さなければならないとされるのが一般的です。就労することが可能であると判断できるだけの資料を労働者が提出すべきであったのにまったく提出せず、治癒したと判断することができなかった事案において解雇が有効とされた裁判例もあります(大建工業事件・大阪地裁平成15年4月16日決定・労判849号35頁)。

 労働者から診断書の提出等がなされた場合、会社としては、傷病が「治癒」して休職事由が消滅しているかを判断し、復職の可否を決定することになります。
 しかし、特にメンタルヘルスの不調の場合は、見た目で判断することもできないので、「治癒」の判断が難しく、実務上、休職期間満了時の休職事由の有無が問題となる事例が多い状況にあります

診断書の取扱い

 診断書に「通常業務が可能」といった記載があったとしても、当該記載が、その職場において求められる業務への対応が可能かといった具体的な事項までは判断していない可能性もあります。場合によっては、労働者の意向に沿った内容の診断書が作成・提出されている可能性もあります。
 したがって、会社としては、提出された診断書にどの程度依拠できるかを検討する必要があります

 診断書の信用性について、裁判例では、主に下記の判断要素が総合的に考慮されています(東京都教委〔小学校教員分限免職〕事件・東京地裁平成17年10月27日判決・労判908号46頁、カントラ事件・大阪高裁平成14年6月19日判決・労判839号47頁等)。

  1. 診察時間・期間・頻度
  2. 診察の時期・経緯(労働者または使用者の意向を受けたものか)
  3. 診断の根拠となる資料の適切さ
  4. 他の医師による診断結果との整合性
  5. 医師の属性(専門医か、産業医か主治医か)など

 診断書の信用性を検討する際には、上記の判断要素に関して、労働者の主治医からの聴き取りを行うことも有用です。聴き取りを行う場合には通常、当該労働者の同意を求められるので、あらかじめ、復職の可否を判断するための主治医からの聴き取りに協力する義務を就業規則に規定しておくことが望ましいと考えられます。

【就業規則における規定例】

  1. 休職期間中に休職事由が消滅した場合は、休職事由の消滅を証明する主治医の診断書または会社の指定する医師の診断書を添付し、書面で復職を願い出て、会社の承認を得なければならない。
  2. 労働者が前項に規定する主治医の診断書を提出した場合、会社は、当該主治医に対し、診断書の内容に関して聴き取りを行うことができ、労働者は、かかる聴き取りに必要な協力をしなければならない。

 また、労働者の主治医に対して、あらかじめ、その職場において求められる業務遂行能力や勤務制度等について具体的に情報提供した上で、診断書を作成するよう依頼するということも考えられます。

労働者に対する受診命令

 復職の判断に際しては、労働者に対し、会社が指定する医師の受診を求める場合もあります。
 一般に、指定医は、主治医と異なり当該労働者を継続的に診察しているわけではなく、病状に関する情報が不十分な場合が多いので、指定医が作成した診断書の信用性を確保する観点からは、事前に、会社側から、休職前の労働者の①言動、②態度、③勤務状況、④職務内容等について情報提供を行うことが重要です。

 なお、実務上は、指定医の診察を受けるよう業務命令を行うことができるか、また、これに応じない場合に復職不可とする取扱いが可能かといったことが問題になります。合理的な内容の就業規則に基づいて、合理性ないし相当性が認められる受診命令を行うことは適法と考えられています(帯広電報電話局事件・最高裁昭和61年3月13日判決・労判470号6頁)。また、受診命令を拒否され、主治医からの聴き取りもできないような場合には、症状が治癒したか否かについて判断することができないため、休職期間満了により退職として取り扱うことも適法であると考えられます(京セラ(旧サイバネット工業)事件・東京高裁昭和61年11月13日判決・労判487号66頁)。

産業医等との連携

 会社側が、産業医等の専門家から、当該労働者につき当該職場で必要とされる業務遂行能力があるといえるまでに回復しているかどうかについての意見を取得することも重要です。
 産業医は、会社、主治医、労働者、労働者の家族等の関係者から、労働者の状態(治療の状況、病気の回復状況、業務遂行能力、就業に対する労働者の考え等)と職場環境(労働者の適合性、人間関係、業務量、その管理状況、支援準備状況等)等についての情報を集約して、その判断を行うことになります。

 復職可能と判断する場合であっても、産業医において上記のような情報を集約しておくことにより、個々の労働者の状況に応じて段階的な復職プラン(職場復帰支援プラン)を設計して、円滑な職場復帰を実現できるような配慮をすることが望ましいと考えられます。

 産業医が選任されていない50人未満の事業場においては、47都道府県にある産業保健総合支援センターや全国14か所の労災病院に設置されている勤労者メンタルヘルスセンター等の外部機関へ相談したりして、対応を進めていくことも有用です。

おわりに

 メンタルヘルスの不調により休職中の従業員が復職可能かどうかの判断を適切に行うには、医学的なサポートが重要なので、上記のような関係機関とスムーズな連携を図れるよう平時から体制を整えておくことが肝要です。

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