ストーリーでわかる特許制度の全体像

第3回 世界一わかりやすい!?特許になるまでの道のり

知的財産権・エンタメ

 特許制度の全体像をストーリーで解説する本連載も3回目を迎えました。「第1回 特許制度の神髄とは?」は特許制度の神髄、「第2回 特許として認められる発明とは?」は特許の要件について、それぞれ中世のヨーロッパ、明治時代の日本にタイムスリップし、特許制度が生まれ、成長した過程に触れました。
 今回からは、いよいよ現代日本に舞台を移し、東京は文京区のハイテクベンチャーが特許を活用してビジネス展開を図る様子をお届けします。

出願をすれば特許になる?

 時は2017年、文京区にあるハイテクベンチャー企業のCEOが知的財産コンサルタントを招いて、何やら話をしているようです。その様子を見てみましょう。

CEO:当社は5年前に、CTOである東京大学のA先生の論文をベースとして基本特許を出願しました。内容が高度だったこともあり、当時、修士の学生だった私が特許明細書を作成し、A先生に監修いただき、弁理士を使わずに当社名義でインターネット出願したことを記憶しています。

知財コンサル:で、それは特許になったのですか?

CEO:最近、上場準備に忙しくて把握していませんが、出願からすでに5年も経っていますし、当然、特許化されているという認識です。

知財コンサル:ちなみに、その出願以降も特許事務所を使っていないですよね。特許庁に対する審査請求はしましたか?

CEO:いや…なにしろ、ビジネスで忙しかったので。もし、特許になっていないのであれば、今からでも「審査請求」とやらをしたいのですが…。

知財コンサル:…(天を仰ぐ)

 知財コンサルはなぜ天を仰いだのでしょうか。それは、出願日から3年以内に特許庁に対して出願審査請求(出願した特許出願に対する審査を希望する旨の請求)をしないと、特許出願は取り下げられたものとみなされるからです。
 冒頭の事例では、せっかく苦労して出願した基本特許に審査請求がなされないまま3年間が過ぎ、すでに消滅していることになります。これは技術で勝負をしようとするベンチャー企業にとって死活問題であり、上場の成否にも関わってくる話です。

(後日)
知財コンサル:調べてみたら、基本特許は出願した日からちょうど3年目にあたる日に審査請求されていましたよ。もうすぐ、特許庁から何らかの審査結果が来ることでしょう。

CEO:そういえば、そのころ、東京都の知財総合支援センターで同じようなことを指摘されて慌てて年末に審査請求をしたような気もしてきました。

知財コンサル:結果オーライ、安心ですね。でも、今後も特許出願をされるでしょうから、この機会に特許の審査手続について覚えておきましょう。まずは、特許審査手続の骨子ですが…。

 CEOは特許の申請手順について理解していなかったものの、無事に特許の審査請求をしていたようです。このようなケースは技術に自信のあるベンチャー企業によく見られます。
 ちなみに、この知財コンサルタントは2回目の打ち合わせでクライアント企業の審査請求の状況を確認していますが、通常は対象会社の特許ポートフォリオの状況を調査してからヒアリングにいくべきです。
 それはさておき、特許審査手続がどのような仕組みになっているかを見てみましょう。

特許審査手続の骨子

 特許の審査手続は技術系企業に携わる者にとって知っておくべき知識です。まずは以下の図を参照してください。

(特許審査手続の骨子)

 特許審査手続とは、要するに、出願された発明について、特許要件を具備しているのかどうかを特許庁が判断するためのプロセスであり()、特許出願された発明を特許庁が特許査定()をするのか、拒絶査定()をするのか、を決定する行政処分であるというのが本質です。加えて、出願公開制度や審査請求制度、審判制度など、特許制度の固有のプロセスを含めたものが、特許審査手続の全体像と考えればよいでしょう(出願公開制度、審査請求制度、審判制度の詳細は3章で解説します)。このように整理すると、一見複雑な特許審査手続も意外と簡単に思えてきます。

 特許査定の場合はともかく、不利益な処分である拒絶査定を行う場合は、処分の内容や理由が事前に通知されることになっているので、拒絶査定側のプロセスは複雑になっているように見えます。
 また、特許手続に限らず、すべからく行政が国民に対して不利益な処分を行う場合には、事前にその処分の内容・理由を通知すべきというのが、告知聴聞の原則であり、行政手続の通則となっています。

【告知聴聞の原則】
国民の手続保障を制定した憲法31条に根拠を置く行政手続上の原則。

① 行動の予測可能性を担保するために、事前に明確なルールを告知すること
② 不利益な処分をする者に対して、当該不利益とその法的根拠・理由を告知すること
③ 不利益な処分をする者に弁解と防御の機会を与えること
CEO:なるほど。特許手続も行政処分だから告知聴聞の原則が適用され、拒絶査定という不利益処分がなされる場合は事前に拒絶理由通知()が発せられるのですね。

知財コンサル: だって、何の理由も告げられずにいきなり拒絶査定になったら怒るでしょう?

CEO:はっきり言って、「二度と特許制度なんて利用しない!」と思うでしょうね。

拒絶理由通知

 特許出願がされると、特許庁の審査官により、特許要件を具備しているかどうかの審査がなされます()。その結果、特許要件のすべてを具備していれば、特許査定がなされ()、30日以内に特許料を支払うことにより特許権の設定登録がなされます。何らかの特許要件を具備していないと判断されるときでも、ただちに拒絶査定がなされるのではなく、上述のとおり、拒絶理由通知が発行されます)。

 典型的な拒絶理由通知は以下のような論旨となっています。

「本願発明は構成要件A+B+Cから構成されるが、うちA+Bについては本願の出願日の前に公開された先行技術文献(甲)に記載されている。他方、相違点である構成要件Cについては、先行技術文献(甲)に開示されていないが、複数の先行技術文献(乙、丙、丁)に記載されており、本願発明の出願日においては技術常識であった。してみると、本願発明は、先行技術文献(甲)を参照した当業者(その技術分野において平均的な技術水準を有する者)が、適宜、当時の技術常識を斟酌して創作できた発明に過ぎないから、進歩性を欠く」

(関連条文)特許法50条(拒絶理由の通知)

明細書等の補正

 出願人は、拒絶理由を解消するために、原則として60日以内に、(i)意見書の提出、(ii)手続補正のいずれかができます。

(i)意見書の提出

 「意見書の提出」とは審査官の認定の誤りなどを指摘することによって拒絶理由が存在しないことを主張する手続です。上「Cについては、複数の文献を参酌した技術常識である」という認定に対して、

  • 複数の文献は異なる技術分野にかかるものであり、少なくとも本願発明の技術分野における技術常識ではない
  • ゆえに、当業者が先行技術文献(甲)と適宜斟酌して本願発明を構成できるわけではない

などと反論する場合に有効です。

(ii)手続補正

 「手続補正」とは、審査官の指摘において一部を認めつつも、特許出願の内容を修正することによって拒絶理由を解消する手続です。上においては、審査官の指摘を認めつつも、本願発明に新たにDという構成要素を加え、A+B+C+Dとする方法です。
 その上で、「新たに付加された構成要素Dについては指摘されたいずれの先行技術文献にも記載がないから、これらを組み合わせても本願発明を創作することはできない」と意見書で主張していくのです。

(iii)分割出願

 これらの手続きに加えて、場合によっては(iii)分割出願がなされることもあります。(この場合は新たな出願となり、審査は最初からやり直しとなります。分割出願については第4話で解説します)

(関連条文)特許法17条(手続の補正)、17条の2(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正)

拒絶査定不服審判

 上記、(i)意見書の提出、(ii)手続補正によって拒絶理由が解消したかどうかが再度審査されて(①’)、拒絶理由が解消した場合は特許査定()、そうでない場合は拒絶査定()がなされます。拒絶査定に対しては、上級審としての拒絶査定不服審判を請求することができます

(関連条文)特許法121条(拒絶査定不服審判)

出願公開制度、審査請求制度、審判制度

 以上が特許審査手続の骨子ですが、これに、出願公開制度、審査請求制度、審判制度など、日本の特許制度独自の制度が付加されます
 これらを図に加えると、以下のとおりとなります。カラーの部分が新たに加えた部分となります。

出願公開制度

 出願公開制度特許制度が「新規な発明を公開する代償として特許権を与える制度」であることに由来します()。特許出願がされると例外なく、出願日から18か月でその内容が公開されることになります

(関連条文)特許法64条(出願公開)

CEO:ということは、特許出願に製造プロセスやアルゴリズム等を書き込んでしまうと、ノウハウがダダ漏れになってしまうという心配がありますね。

知財コンサル:そのとおりです。そこで、ノウハウをなるべく書かないで特許出願をしたいというのが本音ですが、あまりにも情報を隠しすぎると「当業者が実施できる程度に発明が開示されていない」として特許にしてもらえなくなるのです。

CEO:う~ん。難しいですね。特許化とノウハウプロテクションの狭間ということですね。

出願審査制度

 審査請求制度審査をして欲しいという旨を特許庁に対して請求する制度です()。3年以内に出願審査の請求をしないと、その特許出願は取り下げられたとみなされ、特許化は不可能となることに注意する必要があります(⑦’)。

(関連条文)特許法48条の2(特許出願の審査)、特許法48条の3(出願審査の請求)

CEO:恐ろしい制度ですね。何でこういう制度設計がされているのかわかりませんが、出願と同時に審査請求をすればリスクは減りますね。

知財コンサル:それはそうなのですが、事業戦略やマーケットの状況が出願後に変化することもあるでしょう?なので、3年間状況を見て、本当に特許にしたいものだけを出願審査請求するという趣旨なのですよ。

CEO:なるほど。そういうことは起こりえるし、そういう制度趣旨ならば合理性は感じますね。

知財コンサル:それにしても、3年以内の出願審査請求を怠ると一切救済はないというペナルティは非常に強烈なので、特許管理の際には重々注意が必要です。

審判制度

 審判制度は、拒絶査定不服審判として説明したとおりです。裁判同様、特許審査にも三審制が敷かれ、拒絶査定不服審判の審決に不服な場合は、知財高裁で審決取消訴訟を提起することができます

(関連条文)特許法178条(審決等に対する訴え)

CEO:なるほど。ちなみに、拒絶理由通知がきたら意見書・手続補正書を出せるということですが、これって効果はあるのでしょうか?つまり、特許庁が事前に不利益処分の内容と理由を通知するのは告知聴聞の原則にのっとった単なる形式論で、何を主張しても結局は受け入れてもらえないのではないでしょうか?

知財コンサル:そんなことはないですよ。概ね90%超の特許出願に対して何らかの拒絶理由通知がくるのですが、正しい対応をすれば特許査定を得ることができます。

CEO:90%超ですか…となると、かなり多くの特許出願が拒絶理由通知→特許査定というルートを辿らないといけないということですね。そうでないと、特許制度の利用者がやる気をなくして減ってしまいそうです。

知財コンサル:まさにそのとおり。なので、最終的には全特許出願の半数以上が特許になっているというのが私の感覚です。
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