任天堂がマリカーに損害賠償などを求める訴訟、著作権侵害は認められるか? 「見て見ぬふり」だったコスプレ一般に影響する可能性も

知的財産権・エンタメ

(Jirat Teparaksa / Shutterstock.com)

 任天堂株式会社は2月24日、株式会社マリカーに対して、不正競争行為および著作権侵害行為の差止と、損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した。任天堂は、同社が製造販売するレースゲームシリーズ「マリオカート」の略称である「マリカー」という標章を会社名として用いていること、さらに、「マリオ」などのキャラクターのコスチュームを貸与し、そのコスチュームが写った画像や映像を許諾なしに宣伝・営業に利用するなどしていることに対して、不正競争行為と著作権侵害行為であると主張している。この騒動に対し、3月8日には、マリカーが商標取得していた「マリカー」の登録取り消しを求めて任天堂が特許庁に異議を申し立てるも却下されたという報道があった。

 任天堂は特許庁へ商標無効審判の請求を検討しているといった報道もあり、最終的にどのような判断がなされるのか、注目の裁判となるだろう。今回は、この事件の問題点と今後の予測について、知的財産にくわしい福井健策弁護士に見解を伺った。

任天堂が問題視しているポイントは?

任天堂はマリカーに対して、不正競争行為および著作権侵害行為として訴訟を提起していますが、どのような点を問題視していると見られますか。

 第一には、「マリカー」という社名使用でしょう。これは任天堂ゲーム「マリオカート」の略称で、マリカー側のサービス形態からしてもマリオカートを想定していることは明らかでしょうから、不正競争防止法違反(周知表示混同惹起など)の可能性があります。ただ、この関連では任天堂側に不利な決定を、特許庁が1月に行ったことが明らかになっています。
 第二に、マリオなどのコスプレ衣裳の貸出で、著作権侵害(貸与権など)が問題となります。
 最後に、その衣装で走行する姿などを宣伝・営業に使った点が挙げられており、これは著作権侵害(公衆送信権など)・不正競争防止法違反、双方の可能性があります。

コスチュームを貸与して運転させることについて、どのような点が問題となるのでしょうか。

 マリオや仲間のデザインは任天堂の著作物でしょうから、その複製物などを一般のお客さんに貸し出せば著作権(貸与権)の侵害となります。ポイントは、例えばピカチューの着ぐるみならば著作物がそのまま複製されていると言いやすいのですが、今回の場合、Mのマークのある帽子、赤いセーター・青のオーバーオール・白手袋だけで、果たしてマリオのデザインを複製・翻案したと言えるかですね。確かにマリオなのは一目瞭然で、偶然の一致なんて言いようもないですが、実は比較的ありふれた表現を真似たり、単に特定作品を連想させるだけでは著作権侵害は成立しません。侵害の成立には、法的にその表現が禁止されざるを得ないほどオリジナルの「特徴的表現」を真似ていることが必要で、今回はかなり微妙な判断になりそうです。

マリカーのサイトを見ると、「Happiness Delivery」という安い料金プランがあり、利用者に体験をシェアしてもらうことを約束して、料金を引き下げているようです。Facebookでなどでマリオのコスチュームを着た写真が拡散されたとしても、この行為自体は問題ないのでしょうか。

 著作権侵害の関連では、衣装だけの貸与より論点は少し進みます。衣装だけでなく、それを実際に着た姿がマリオなどの複製・翻案と言えるレベルなら、ネットでの拡散は公衆送信などで違法となりそうです。果たしてそこまで似ているか。似ているなら、Facebookでの画像シェアも規模によっては著作権上の「公衆送信」でしょう。
 他方、不正競争防止法違反では、あのコスプレ衣裳とカートがマリカー側のトレードマークのように使われているかとか、人々が「マリオの会社がやってるサービスだ」といった混同をする恐れがあるかが問われます。これも、コスプレ衣裳とカートだけだとちょっと微妙に思えます。
 最後の論点として、「直接拡散するのが利用者の場合にマリカーが責任を負うか」が問われます。

今後はコスプレ一般にも影響する可能性が

今後どのような点が裁判の争点になると思われますか。

 不正競争の点は、社名の「マリカー」をどう評価するかでしょう。実はマリカーは自社の名称を商標登録しており、任天堂は特許庁に異議を申し立てていましたが、1月に退けられたことが明らかになっています。その際、特許庁は、「マリカー」が任天堂のゲームの略称としてはそこまで広く知られてはいないことを決め手にしました。これは不正競争の認定にも共通する要素ですから、いわばいったんは任天堂に不利な判断が出たことになります。ただ終局判断ではありませんし、裁判では「マリオカート」感が満載の画像のソーシャル拡散を働きかけたなど、マリカー側に不利な材料も考慮されるでしょうから、ゆくえは微妙に思えます。
 他方、コスプレ衣裳・コスプレ姿の著作権については、「明らかにマリオとわかるが、服装としては比較的あり得る要素」を裁判所がどう評価するかでしょう。

今回の事件について、福井先生の見解を教えてください。

 コスプレの点は、特に社会的影響がありそうです。世の中にあるタイプの服の組み合わせを、Mのマークも付けたとはいえ「既存のキャラの複製・翻案」と認めると、現在の自前コスプレはかなりの確率で著作権侵害となりそうだからです。人前に出る行為自身は、例えば個人が無償で行えば「非営利の上演」(38条)として現行法上許される余地はあります。しかし、そもそもの衣装制作自体が人前に出るための、つまり「私的ではない複製・翻案」となってしまい、著作権侵害とされる可能性が高まります。
 マリカーは大規模な営業行為ですが、世間一般のコスプレ文化への影響をどう考えるか。コミケ(コミックマーケット)の同人誌のように「見て見ぬふり」で成立する部分に期待して、特に気にしないのか。裁判所としては難しい判断を迫られることになりそうです。

  • facebook
  • Twitter

関連する特集

知的財産権・エンタメの人気特集

  1. 任天堂がマリカーに損害賠償などを求める訴訟、著作権侵害は認められるか?
  2. AI、IoTに関連したビジネスにおける特許戦略 第2回 IoTビジネスと特許戦略
  3. AI、IoTに関連したビジネスにおける特許戦略 第1回 AIビジネスと特許戦略
  4. 「侵害コンテンツへのリンクは著作権侵害」とのEU判決