「色彩のみからなる商標」を企業が活用するために知っておきたいポイント

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 特許庁は3月1日、「色彩のみからなる商標」について、初めて登録を認める旨の判断をしたことを発表した。今回登録が認められるのは、トンボ鉛筆の消しゴムで用いられている「青、白、黒」の色彩とセブン-イレブン・ジャパンの看板などに用いられている「白地にオレンジ、緑、赤」の色彩だ。

出願人 出願番号 商標 区分/指定商品・役務
トンボ鉛筆 2015-29914 16類/消しゴム
セブン-イレブン・ジャパン 2015-30037 35類/身の回り品・飲食料品・酒類・台所用品・清掃用具及び洗濯用具・
薬剤及び医療補助品・化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 他
出典:経済産業省「色彩のみからなる商標について初の登録を行います 別紙

 では、「色彩のみからなる商標」とはどのような商標で、どういった場合に登録が認められるのだろうか。潮見坂綜合法律事務所の吉羽真一郎弁護士に聞いた。

「色彩のみからなる商標」とは

「色彩のみからなる商標」とはどのような商標でしょうか。

 「色彩のみからなる商標」とは、その名の通り、色彩だけをその構成要素とする商標です。すなわち、図形と結合しているわけではなく、輪郭もない、単なる「色」だけで構成されている商標をいいます。
 この「色彩のみからなる商標」は、単色でも、複数の色の組み合わせでも、いずれでも成り立ちます。複数の色の組み合わせの場合は、特定の図形や文字を認識させないよう、色彩を直線的かつ平行に組み合わせた方法で表示されている必要があり、また、色彩の組み合わせ方(各色の配置や割合等)も特定する必要があります。

【色彩のみからなる商標と認められる例】

出典:特許庁「商標審査便覧 54.01 色彩のみからなる商標の願書への記載(商標の記載)について」3頁

【色彩のみからなる商標と認められない例】

出典:特許庁「商標審査便覧 54.01 色彩のみからなる商標の願書への記載(商標の記載)について」3頁

 また、「色彩のみからなる商標」には、色彩のみで登録する方法と、色彩および色彩を付する位置を特定して登録する方法の二通りの登録方法があります。後者の例としては、「包丁の柄の部分を赤色とする」といった方法です。

色彩のみからなる商標の背景と現状

「色彩のみからなる商標」はいつから登録できるようになったのでしょうか。また、登録が可能となった理由や、出願・登録状況について教えて下さい。

「色彩のみからなる商標」はいつから登録できるようになったのか

 「色彩のみからなる商標」は、平成27年4月1日に施行された「特許法等の一部を改正する法律(平成26年5月14日法律第36号)」により商標法が改正されて導入され、同日から出願受付が開始されています。

「色彩のみからなる商標」の登録が可能となった理由

 この商標法改正においては、「色彩のみからなる商標」の他、「動き商標」「ホログラム商標」「位置商標」「音商標」という、いわゆる「新しいタイプの商標」と呼ばれる5つの商標の登録が新たに認められました。これは、近年のデジタル技術の発展や商品等の販売戦略の多様化に伴い、商品や役務のブランドとして、従来の文字や図形だけでなく、色彩や音についても商標として用いられてきているという社会的実態が背景にあります。また、諸外国では、すでにこのような「新しいタイプの商標」を保護対象とする国も多く、我が国においても保護ニーズが高まっていたということもあります。

 参考:「初の商標登録 大幸薬品、インテル、BMWに認められた「音楽的要素のみからなる音商標」のポイント

「色彩のみからなる商標」の出願・登録状況

 「色彩のみからなる商標」については、出願受付開始日の平成27年4月1日の時点で190件もの出願があり(特許庁発表)、本原稿作成時点において、434件が出願審査中となっています。このうち、今回の2つの商標の登録を認めることが、平成29年3月1日に特許庁から発表されました。
 
【平成27年4月1日時点の出願数(特許庁発表)】

合計 内訳
動き 位置 ホログラム 色彩
出願件数 481 151 32 103 3 192
出典:経済産業省「新しいタイプの商標について初めての審査結果を公表します

【平成29年2月20日時点の出願件数及び登録件数】

合計 内訳
動き 位置 ホログラム 色彩
出願件数 1,494 517 123 345 17 492
登録件数 207 110 65 23 9 0
出典:経済産業省「色彩のみからなる商標について初の登録を行います 別紙

「色彩のみからなる商標」の商標登録が認められる場合

「色彩のみからなる商標」の商標登録が認められるのはどのような場合でしょうか。

 「色彩のみからなる商標」についても、他の商標と同様に、登録要件(商標法3条)や不登録事由(同法4条)の該当性が審査されますが、以下では、特に特徴的な要件について解説します。

登録要件

 その商品や役務に慣用されている商標は、登録できません(商標法3条1項2号、商標審査基準[改訂第12版](以下「審査基準」といいます)第1四)。たとえば、役務「葬儀の執行」について、「黒色及び白色の組合せの色彩」の商標や、役務「婚礼の執行」について、「赤色及び白色の組合せの色彩」の商標がこれにあたります(審査基準第1四-1)。
 また、商品が通常有する色彩についても、原則として登録できません(商標法3条1項3号、審査基準第1五-7)。この「通常有する色彩」の例としては、商品の性質上、自然発生的な色彩(商品「木炭」について「黒色」など)、商品の機能を確保するために通常使用される又は不可欠な色彩(商品「自動車用タイヤ」について「黒色」など)、その市場において商品の魅力の向上に通常使用される色彩(商品「携帯電話機」について「シルバー」など)、などがあげられています(審査基準第1五-7)。
 さらに、これらに該当しないとしても、「色彩のみからなる商標」は、原則として識別力を欠くため(商標法3条1項6号)、商標登録できないとされています(第1八-10)。よって、「色彩のみからなる商標」の登録が認められるためにはその色彩が使用された結果、誰の商品・役務であるか認識できるようになっていること、いわゆる「使用による識別力」が獲得されていなければなりません(商標法3条2項)。

不登録要件

 他の商標と同様、「色彩のみからなる商標」も、先願の他の登録商標と類似する場合は、登録できません(商標法4条1項11号)。
 そこで、類否の判断基準が問題となりますが、特許庁の登録審査では、「商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察」して判断するとされており(審査基準第3十-1)、また、「商標が使用される商品又は役務の主たる需用者層(中略)その他商品又は役務の取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断」するものとされています(審査基準第3十-2)。さらに、「色彩のみからなる商標」については、色合い、色の鮮やかさ、色の明るさを総合して、商標全体として考察されます(審査基準第3十-16(1))。
 「色彩のみからなる商標」の類否判断の中で特徴的なものとしては、以下のようなものがあります。

ア 色彩を組み合わせてなる商標と、単色の商標は、原則として類似しないとされています(審査基準第3十-16(3))。

出典:特許庁「商標審査基準[改訂第12版]」69頁

イ 「単色の商標」と「文字商標」は、原則として類似しないものとされています(審査基準第3十-16(5))。

出典:特許庁「商標審査基準[改訂第12版]」69頁

ウ 「図形と色彩の結合商標」と、「色彩を組み合わせてなる商標」は、図形の有無が異なるものの、色彩の配置や割合等が同一または類似であれば、原則として類似するとされています(審査基準第3十-16(6))。

出典:特許庁「商標審査基準[改訂第12版]」69頁

「色彩のみからなる商標」の登録が認められた理由

今回、これらの「色彩のみからなる商標」の登録が認められたのはなぜでしょうか。

 前述のとおり、「色彩のみからなる商標」は、原則として識別力を欠くものとして登録できず、「使用による識別性」が獲得されたもののみが登録の対象となります。今回、これらの商標の登録が認められたのは、これらの商標が「使用による識別性」を獲得していることを、出願人が立証できたからといえます。
 これらの商標の審査過程を見ますと、いずれの商標もやはり識別力が無いという理由で、一旦は拒絶理由通知書が出されており、これに対して、多くの資料を提出することで識別力を立証して、その結果商標登録が認められています。これらの商標が、いずれも非常に有名な色合いであることは、多くの人が認めるものであると思われますが、それでもまだ、登録にあたっては識別力の立証が必要であるというところに、この「色彩のみからなる商標」の難しさがあるといえます。「色彩のみからなる商標」は、原則として識別力を欠くという特殊性故に、その登録のためには、識別力をどのように立証するかがポイントとなるでしょう。

「色彩のみからなる商標」はどのような保護を受けるか

「色彩のみからなる商標」が登録できた場合、どのような保護を受けることが出来るのでしょうか。侵害の判断基準についても教えてください。

登録商標の保護

 商標が登録できた場合、商標権者は、その登録した商品または役務(「指定商品」「指定役務」といいます)について、登録商標の使用をする権利を専有します(商標法25条)。これにより、商標権者は、自己の登録商標と同一または類似の商標を、指定商品または指定役務と同一または類似の商品・役務に使用する者に対して、その使用の差止等を請求することができます(商標法36条、37条参照)。

判例の考え方

 商標登録時における特許庁の商標の類否判断の基準は前述3-2のとおりですが、商標権侵害時における裁判所の商標の類否判断の基準も、基本的には特許庁の審査基準を踏まえて判断されています。
 商標の類否判断のリーディングケースである氷山印事件(最高裁昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁)では、「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」「商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従つて、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によつて、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。」と判示しており、以後の裁判所における類否判断ではこの基準が踏襲されているといえます。

【商標の類否の判断基準】

「色彩のみからなる商標」の類否の判断はどうなるか

 「色彩のみからなる商標」の類否の判断も、基本的にはこれまで通りの判断基準に沿ったものになると解されますが、現時点では、未だ2件が登録されることになっただけであり、裁判所が商標権侵害の際に実際にどのような判断をするかはまだわかりません。特に、「色彩のみからなる商標」においては、出願時にその「色」をプロセスカラー(印刷物で基本となる4色の組み合わせによって色を表現すること)などで厳密に特定する必要があるところ、このような場合にどの範囲までを類似の「色」というべきかは、これまでにない新たな問題となります。
 また、通常の基準では、称呼や観念が一致する商標は類似するという判断になりますが、「色彩のみからなる商標」では、前述のとおり、「赤」い色と「赤」という文字という、称呼や観念が一致しているものであっても原則として類似しないとされているなど、特殊性があります。このように、これまでと異なった判断が必要な部分もあり得るため、このあたり、裁判実務上どのような判断になっていくかは、事例の蓄積を待つしかありません。

「色彩のみからなる商標」は広まるか

今後、「色彩のみからなる商標」は広く利用されることになるのでしょうか。

 前述のとおり、すでに400件以上の「色彩のみからなる商標」が出願されていることからも、「色彩のみからなる商標」についての関心の高さが窺えます。
 しかし他方、前述のとおり、原則として識別力が無いため、登録されるためには、識別力の立証が必須となります。しかしこれが大変困難な作業であることが予想され、現に、今回登録された2件についても、自社商標が皆に認識されていることを示すアンケートを実施してその結果を提出したり、過去に宣伝広告を全国的に行っていたことを示す大量の資料を提出するなど、審査を通るためにかなりの労力を費やしたであろうことが窺われます。
 また、400件以上の出願があるとはいえ、現在出願中のものを見ると、実際に識別力があるものはかなり限定されるように思われます。登録商標に関する特許庁のウェブサイト(J-PlatPatサービス)で「色彩のみからなる商標」を検索してその一覧を見ますと、「色彩」だけを見てどの会社の出願なのかを当てられるものが意外に少ないことがわかるのではないでしょうか。
 さらに、実際の取引実務上は、商品や役務の表示として色彩だけを用いていることは稀であり、色彩とロゴがセットで使用されていることが多く、その場合、色彩だけで識別力を獲得しているわけでは無い、と判断される可能性も大いにあります。
 「色彩のみからなる商標」は、もし登録できれば強い権利になることが期待されている一方、このように登録のハードルが高いということもあって、今後広く利用されるかどうかは、今後の登録状況や侵害訴訟の状況次第といえるでしょう。

<追記>
2017年10月30日(月):2-3「色彩のみからなる商標」の出願・登録状況で、【平成27年4月1日時点の出願数(特許庁発表)】の出願件数と出典につきまして修正いたしました。
2017年11月1日(水):2-2「「色彩のみからなる商標」の登録が可能となった理由」に、関連記事のリンクを追加いたしました。
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