2016年米国特許重要判例が実務に与える影響 Halo Electronics, Inc. 対 Pulse Electronics, Inc. 最高裁判決後のリスク回避策

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特許権の故意侵害に基づく拡張的損害賠償に関する米国連邦最高裁判所の判決

 2016年6月13日、米国連邦最高裁判所は、特許権の故意侵害に基づく拡張的損害賠償enhanced damages懲罰的賠償または三倍賠償とも呼ばれる)を命ずる基準について、従来、連邦巡回区控訴裁判所が採用していた基準を否定し、より拡張的損害賠償が命じられやすいようになる判決を下した。本稿では、同判決を紹介したうえで、同判決後、リスクが高くなったと言える拡張的損害賠償を回避するための対策を紹介したい。

 拡張的損害賠償は、陪審制に加えて、日本の裁判にはない制度であり、米国における特許侵害の損害賠償額を跳ね上げている要因の1つである。これを命じられてしまうと、会社が倒産しかねないほど莫大な損害賠償を背負ってしまうことにもつながりかねず、米国でビジネスをする日本企業や、自社の部品が米国向け製品に組み込まれることを知って顧客に部品を供給している日本企業にとって、無視できないリスクである。

Halo Electronics, Inc. 対 Pulse Electronics, Inc. 判決の概要

Underwater事件判決

 従前、特許侵害訴訟の被告は、Underwater Devices Inc. 対 Morrison-Knudsen Co.,(1983年)事件判決に従い、弁護士意見書を取得するのが通例であった。Underwater事件判決では、侵害者に対し、警告書を受領した際に非侵害意見書を取得する「積極的な義務」を課していたからである。

Seagate事件判決

 ところが、2007年に連邦巡回区控訴裁判所は、In re Seagate Technology LLC事件判決を出し、その後前記のプラクティスは変更されていた。Seagate事件判決では、故意侵害に基づく拡張的損害賠償には、次の2つの立証が必要であるとされたからである。

① 特許権者はまず、明白かつ説得力のある証拠によって、侵害者が、その時の主観にかかわりなく、その行為が侵害を構成する客観的に高い蓋然性にもかかわらず行為をしたこと(客観的な無謀さ)を示さなければならない。
② 特許権者は次に、明白かつ説得力のある証拠によって、侵害者が侵害の可能性を知っていたか、知っているべきであったほどに侵害の可能性が明白であったことを示さなければならない。

 なお、上記においては、被告は、侵害で訴えられた後に合理的な防御方法を発見した時であっても、「客観的な無謀さ」を回避することができるとされていた。すなわち、侵害訴訟手続中で特許の有効性や非侵害についての実質的な疑問を提示することができれば、侵害者の行為時に合理的な防御方法を発見していなかったことは無関係であるとされており、被告にとっては有利であった。

 また、Seagate事件判決においては、「客観的な無謀さ」は「最初から(de novo)」控訴審が判断するものとし、侵害を知っていたか否かの主観については、実質的な証拠の基準によって判断するものとし、最後に、拡張的損害賠償の命令については、裁量権の濫用の基準により判断するものとした
 すなわち、「客観的な無謀さ」については、控訴審も第一審と同じように一から判断し 1 、主観については、第一審の判断を否定する実質的な証拠があるか否かにより判断し、拡張的損害賠償の命令については、第一審がその裁量権を逸脱していないかを判断するとされた。

Halo事件判決

 Halo事件は、原告のHalo Electronics, Inc.が被告のPulse Electronics, Inc. および Pulse Electronics, Corporationに対し、2度のライセンスオファーを送付したが、被告の方では、内部の技術者がHaloの特許は無効であると判断したために、侵害品の販売を継続したという事案である。陪審員は、被告が故意侵害を犯した可能性が高いと判断したが、地方裁判所は、被告がトライアルにおいて客観的にみて必ずしも根拠がないとは言えない防御方法を提示したため(すなわち、Seagate事件の①の基準を満たさないとして)、拡張的損害賠償を否定した事案である(控訴審は当該判断を肯定した)。

 Halo事件において、最高裁判所は、上記のSeagate事件の判断枠組みを放棄し、次のより柔軟な基準に変更した。
 まず、第一審裁判所は、「不当に硬直化した」Seagate事件の基準に縛られず、各事件の具体的事実を考慮し、その裁量権を行使できるとされた。しかし、そのような「懲罰」は、一般的には、故意の違法行為に代表される「悪質なケース」にのみ適用されるとされた。
 また、拡張的損害賠償の命令の判断に必要な立証の程度が「証拠の優越」に軽減された。そして、控訴審における判断の基準を「裁量権の濫用」の基準に変更した。

Halo事件が特許訴訟プラクティスに与える影響

 Halo事件は連邦巡回区控訴裁判所に差し戻され、連邦巡回区控訴裁判所は同事件を地方裁判所に差し戻した。したがって、最高裁判所のいう「悪質なケース」の外縁をよりよく理解するためにも、Halo事件の基準を適用した下級審裁判所の決定を待つ必要があるだろう。今後、地方裁判所や連邦巡回区控訴裁判所から追加の決定が出され続け、何が「悪質なケース」を構成するかの境界線はこれからより明らかになっていくと思われる。
 しかし、この境界線が明らかになることを待たずとも、Halo事件が特許訴訟プラクティスに与える影響として、最低でも以下にあげた2つの点は明らかと言えるだろう。

地方裁判所は拡張的損害賠償の命令を以前より容易に行うことができる

 まず、Halo事件以降は、地方裁判所は拡張的損害賠償の命令を以前より容易に行うことができるようになる。Seagate事件の基準の下では、被告が「客観的な無謀さ」を事後的に訴訟の場で否定することで、拡張的損害賠償を回避することもできたが、Halo事件の判断枠組みの下ではそのようなことはできないであろう。また、地方裁判所が「悪質なケース」に該当するかの判断に裁量を持っているとされたため、地方裁判所はその裁量権を躊躇なく行使することができるようになるだろう。

控訴審は地方裁判所の判断を覆さない可能性が高くなる

 次に、連邦巡回区控訴裁判所は、地方裁判所が行った損害賠償の増額の判断を否定する可能性が減る。すなわち、Seagate事件の基準の下では、「客観的な無謀さ」の有無を控訴裁判所が最初から判断して地方裁判所の判断を覆すこともできたが、Halo事件の基準の下では、控訴審における判断の基準が「裁量権の濫用」の基準に統一されたため、地方裁判所が裁量権の逸脱にあたるような判断をしていない限り、控訴審は地方裁判所の判断を覆すことができなくなると思われる。

パテントトロールによる濫用の可能性への配慮

 ただし、興味深いことに、連邦最高裁判所は特許権者、特に「パテントトロール」として知られる特許非実施団体により損害賠償の増額のHalo事件の基準が濫用される可能性に配慮しているように見える。

 ブライヤー判事の同意意見は、拡張的損害賠償を命令する地方裁判所の裁量を制限する可能性について指針を与えているし、さらに、連邦巡回区控訴裁判所に対し、地方裁判所の決定を覆すことを正当化する可能性を与えている。たとえば、「拡張的損害賠償の命令は意図的または悪意のある行為を行った者への懲罰的行為とみることができるが、特許権者が侵害に関連するコストや訴訟費用を回収するために使われてはならない」という意見や、「連邦巡回区控訴裁判所は、地方裁判所の決定を判断する際に特許法における同裁判所独自の経験や専門性に依拠することができる」という意見が見られる。

Halo事件判決に照らし、日本企業がとるべきアクション

弁護士からの意見書の取得

 Halo事件判決後、米国特許侵害で訴えられた日本企業にとって、拡張的損害賠償の命令の可能性を減らすために積極的な行動を取ることがより重要となった。日本企業が不誠実に行動しなかった、すなわち、「悪質なケース」に該当しない、との記録を残すために、米国弁護士から非侵害および特許無効の意見書を取得することについて真摯に検討しなければならない。意見書を取得するタイミングも重要であり、特許侵害の可能性に気付いた時にすぐに取得するべきである。たとえば、警告書を受け取った時や、開発の一環として特許サーチを行った際に特許侵害の請求を受ける可能性を知った時などである。

 ただし、Halo事件の判決の後であっても、被告が弁護士の意見書やアドバイスをもらわなかったからといって、その事実のみでは被告が故意侵害を犯したことにはならない(ブライヤー判事の同意意見参照)という法理は維持されていることは注目に値する。とはいっても、故意侵害の認定のリスクを下げるためには、やはり意見書を取得すべきであろう。もちろんそれには費用がかかってしまうが、故意侵害の認定を回避できるとすれば、その効果は絶大であるから、費用を惜しむべきではない。

どのような専門家に依頼をするか

 その他、日本企業が考慮すべきこととして特許非侵害および特許無効の意見を求める際に、内部の専門家(社内弁理士等)に意見を求めるか、外部の専門家に意見を求めるかという点、および、意見書を依頼する弁護士と訴訟を依頼する弁護士を別々にするかという点がある。
 前者については、一般的に、外部の専門家に依頼すべきである。その方がより客観的な意見と評価されるからである。また、後者については、一般的に、訴訟弁護士と意見書を依頼する弁護士は別々にすべきである。一緒にしてしまった場合、意見書を証拠として提出すると、当該弁護士との間の秘匿特権が破られてしまい、当該弁護士との間の訴訟に関する戦術的なやりとりまでディスカバリーの対象となってしまうから、意見書が提出できないという事態にもなりかねない。複数の米国特許訴訟弁護士を選任するあてがないのであれば、米国特許訴訟弁護士の候補者をたくさん知っている日本弁護士に紹介を依頼すればよい 2

特許サーチ

 さらに、特許サーチも日本企業が不誠実に行動していなかったとの記録を残す方法のひとつである。製品開発の途中や、米国市場に製品を展開する前に、米国特許について特許サーチを行っておくことを検討すべきである。そのような特許サーチの事実は、不当または無謀な行為との主張を回避するために重要となるかもしれない。

誠実な文書準備と文書管理

 最後に、故意侵害に対する防御の重要な要素として、誠実な文書準備と文書管理をあげることができる。日本企業は、製品を一から開発したこと、あるいは、特許を回避するために設計変更したことを示す文書をきちんと記録に残し、管理しておくことを検討すべきである。また逆に、特許侵害や有効性を過去に認めていたと後の訴訟において誤解されかねないような文書(たとえば、特許サーチのレポートに「クレームに該当」と記載してしまう等)は作成しないようにしなければならない。

おわりに

 以上のように、Halo事件判決は日本企業にとっても影響の大きいものである。今後の下級審の動向に気を付けつつ、故意侵害による拡張的損害賠償のリスクを下げる努力をしていくべきであろう。

 本稿を執筆するにあたり、Spence PC法律事務所のWilliam Cory Spence弁護士の助言を受けた。この場を借りて同弁護士に感謝したい。


  1. ただし、米国の控訴審では新たな証拠調べはしない。第一審で出ている証拠に基づいて一から判断するということである。 ↩︎

  2. 米国特許訴訟において日本人弁護士のアドバイスを受けることは、米国人弁護士の紹介や英語によるコミュニケーションギャップを埋めるだけではなく、様々な場面で有効である。たとえば、米国人弁護士が些末なところに力を入れてしまって無駄に弁護士費用がかからないように案件全体の力配分をコントロールしたり、米国では当たり前であまり説明されないことに気付いて日本企業向けにきちんと補足説明できたりという利点がある。 ↩︎

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