ストーリーでわかる特許制度の全体像

第5回 特許は中小企業の経営にも役に立つ

知的財産権・エンタメ

 特許制度の全体像をストーリーで解説する本連載も5回目を迎えました。「第3回 世界一わかりやすい!?特許になるまでの道のり」からは、現代日本、文京区のハイテクベンチャーを舞台に、技術力には自信のあるCEOが知的財産コンサルタントのアドバイスを受けながら特許を活用してビジネス展開を図る様子をお届けしています。
 前回(「第4回 特許をとると、どういう権利を行使できるのか?」)は、特許査定を受領した基本特許が、共同開発を打診してきていた大手企業のF社に流用されている疑いが持たれ、警告に向けて動きはじめました。CEOが調査結果を集め、知財コンサルに相談しています。

基本特許は最強なのか

CEO:あれから先生に言われてF社の特許も調査してみました。彼ら、我々よりもすべて出願日は遅いのですが、当社の関連技術分野で30件程度の特許出願をしていました。

知財コンサル:やはりそうか…ただ、当社が東大の先生の発明に関する基本特許を保有しているということは揺らがないですね。

CEO:それはもちろん。ということは、件数は少なくても当社の特許の方が強いのですから、すぐさま警告すべきですよね…。

知財コンサル:「必須特許ポートフォリオ理論」によれば必ずしもそういうわけにはいかないようなのです。

CEO:「ヒッストッキョ・ポート理論」?なんですか、それは?

 「必須特許」とは、ある製品や技術を製造・実施したりする際に用いなければならない、言い換えれば、回避できない特許のことをいいます。ある製品・技術について複数の者が必須特許を持ち合っている場合、お互いに特許侵害が生じているため、市場独占という特許の本来的効果を享受することはできません。お互いに、市場で共存せざるを得ないということになるのです1

必須特許なくして市場参入なし

CEO:だとすると、この資金繰りが苦しい中、ベンチャーである当社が特許を取った意味はないじゃないですか。

知財コンサル:いや、そんなことはありません。もし、貴社が特許を取っていない状況でF社が30件もの特許を取得したら、貴社は技術のパイオニアでありながら、特許リスクが高まって市場撤退に追い込まれます。「必須特許なくして市場参入なし」というのが「必須特許ポートフォリオ理論」の帰結なのです。
加えて、知財活動を行うことは様々な経営的な効果を有することが報告されています。たとえば、金融機関とのリレーションの向上とか、従業員のモチべーションアップとか、技術力のアピールだとか…。
(と言いつつ「中小企業支援知的財産経営プランニングブック」という表題の書類を取り出す)

CEO:それは何ですか?

知財コンサル:これは特許庁が2011年にまとめた中小企業の知財経営に関する報告書です。知財活動を行うことによる経営的効果や知財コンサルティングに関するバイブルとして位置づけられています。

知財と経営・事業戦略との関係

 このプランニングブックの中では、まず、大きな枠組みとして知財と経営・事業戦略との関係を定義し(知財経営定着理論)、あらゆる知財活動は経営戦略・事業戦略上の目的・位置づけを意識して、これらを解決するために行われるべきとされています。

知的財産経営定義モデル

出典:特許庁「中小企業支援知的財産経営プランニングブック」(平成23年3月)7頁

企業内の内的効果と対外的な効果

 そして、知財活動によって具体的に解決できる経営戦略上の目的・位置づけとして、(1)企業内の内的効果と、(2)対外的な効果とに分類し、それぞれ以下のように列挙しました。

(1)企業内の内的効果

【知的財産を明確化することによる効果】
① 無形資産を‘見える化’する
② 無形資産を‘財産化’する
③ 創意工夫を促進して社内を活性化する

(2)対外的な効果

【知的財産が外部にはたらく力を活かすことによる効果】
④ 競合者間における競争力を強化する
⑤ 取引者間における主導権を確保する
⑥ 顧客の安心を保障する
⑦ 自社の強みを顧客に伝える
⑧ 協力関係をつなぐ

 ここではそれぞれについて詳しい説明を加えることは控えますが、中小企業に対する知財戦略の基本書としてぜひ参照してもらえればと思います。

知財活動の効果

(後日)
CEO:先生にご推薦いただいたプラニングブックを熟読した結果、弊社では「エンジニアのモチベーションアップ」を経営上の目的として、知財活動に積極的に取り組んでみました。そうしたら…

知財コンサル:そうしたら?

CEO:長年、悩んできたエンジニアの転退職がぴったりとなくなったのです。みんな生き生きと、働いてくれています。まさか知財活動でこういう成果が上がるとは…

知財コンサル:業界でも最初は半信半疑だったようですよ。でも、今では多くのものづくり中小企業の経営者が同様のことをおっしゃっています。

CEO:それと…最近になって、例のF社がこの技術について共同コンソ-シアムを形成して、広く普及させようと言い出しまして。もちろん、F社が当社の基本特許のライセンスを受諾することがその前提となっています。

知財コンサル:それも知財活動の効果でしょうね。最近公開された貴社特許出願を見れば、当分野の研究開発で、貴社がF社よりも一歩先を行っていることは誰の目にも明らかですから。

 いかがだったでしょうか。特許というと、法的な側面にイメージが偏り、市場独占という目的が達成できなければ意味がないと考えてしまうかもしれません。
 ですが、経営戦略・事業戦略の達成という目的に対して、特許戦略という手段をどう活用するかイメージを膨らませることで、従業員のモチべーションアップ、技術力のPR、金融機関・取引先とのリレーション強化、経営効率の向上など、いろいろな経営的メリットがあるのです。


  1. 鮫島 正洋、溝田 宗司「特許から考える失敗しない研究開発」(日経ものづくり、2012年4月) ↩︎

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