特許権侵害訴訟に企業はどう向き合うか

第5回 特許権侵害の主張・立証

知的財産権・エンタメ

特許権の侵害とは

 特許権者は、自己の特許権を侵害する者に対して、その侵害の停止、予防等を請求することができる(特許法100条1項)ほか、侵害行為によって損害を被った場合には、侵害行為者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求することができます。ここで、特許権の侵害とは、第三者が正当な権限なく業として特許発明を実施することをいいますので、特許権侵害訴訟においては、被告が原告の特許発明を実施していることを主張立証する必要があります。

 特許法にいう発明の「実施」とは、①物の発明の場合、その物の生産、使用、譲渡等、輸出もしくは輸入または譲渡等の申出をする行為、②方法の発明の場合は、その方法の使用をする行為、③物を生産する方法の発明の場合は、これらのほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出もしくは輸入または譲渡等の申出をする行為を指します(特許法2条3項)。

 したがって、物の発明の場合、特許権侵害が認められるのは、被告が原告の特許発明に係る物と同一の構成を有する物を生産、使用、譲渡等している場合となります。

【特許法にいう発明の実施】

物の発明 その物の生産、使用、譲渡等、輸出もしくは輸入または譲渡等の申出をする行為
方法の発明 その方法の使用をする行為
物を生産する方法の発明 上記2点のほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出もしくは輸入または譲渡等の申出をする行為

 なお、これとは別に、特許発明に係る物の生産や方法の実施のみに使用されるもの等を生産、譲渡等する行為は特許権侵害であるとみなされます(特許法101条)。これを間接侵害といい、上記のような特許発明の実施を直接侵害ということがあります。

 以下では、「第2回 特許権侵害訴訟の事前準備・交渉の実務」で用いた仮想事例を用いて、B社(被告)製品がA社(原告)の特許権を侵害することを主張立証するプロセスを説明します。

特許権侵害の成立を検討するプロセス

特許権侵害の主張のプロセス

 特許権侵害が成立するためには、被告製品が原告の特許発明の構成をすべて有していることが原則として必要となります。これを文言侵害といいます。もっとも、被告製品が原告の特許発明の構成要素の一部を充足しない場合であっても、原告の特許発明と実質的に均等であると評価され、例外的に特許権侵害が認められる場合があります。これを均等侵害といいます。

 特許権侵害が成立しているかを主張立証するためには、まず、原告の特許発明および被告製品を構成する要素毎に分けたうえで(これを構成要件の「分説」といいます)、各構成要件を対比し、被告製品が原告の特許発明のすべての構成要素を有していることを主張立証する必要があります。

特許権侵害の主張のプロセス

文言侵害の成否の検討

(1)原告特許発明の構成要件の分説

 特許発明を構成要件に分説するとは、当該特許発明を構成する要素に分けることを指します。
 仮想事例における原告の特許発明を構成要件に分説すると以下のようになります。

(分説前)
【請求項1】
 電磁調理器に使用される付きの卵焼き器であって、電磁誘導加熱による加熱調理部が円形に形成されており、その円形調理部の中央に卵焼きのための長方形の部分が設けられると共に、その両側部につけ合わせなどを調理できる部分が設けられていることを特徴とする電磁調理器用卵焼き器。

(分説後)
【請求項1】

A 電磁調理器に使用される付きの卵焼き器であって、

B 電磁誘導加熱による加熱調理部が円形に形成されており、

C その円形調理部の中央に卵焼きのための長方形の部分が設けられると共に、

D その両側部につけ合わせなどを調理できる部分が設けられている

E ことを特徴とする電磁調理器用卵焼き器

A社フライパン

(出典:特許第4260813号の図をもとに作成)

(2)被告製品の構成要件の分説

 次に、取っ手付の2本の仕切りがあるフライパンへの権利行使を検討する場合、まず、この被告製品の構成を分析し、分説します。

(分説前)
 電磁調理器に使用される加熱調理部にフッ素樹脂加工が施された取っ手付きのフライパンであって、電磁誘導加熱による加熱調理部が円形に形成されており、その円形調理部の中央に卵焼きのための平行な2本の直線で仕切られた部分が設けられると共に、その両側部につけ合わせなどを調理できる部分が設けられていることを特徴とするフライパン。

(分説後)

a 電磁調理器に使用される加熱調理部にフッ素樹脂加工が施された取っ手付きのフライパンであって、

b 電磁誘導加熱による加熱調理部が円形に形成されており、

c その円形調理部の中央に卵焼きのための平行な2本の直線で仕切られた部分が設けられると共に、

d その両側部につけ合わせなどを調理できる部分が設けられている

e ことを特徴とする電磁調理器用フライパン

B社フライパン

出典:「第2回 特許権侵害訴訟の事前準備・交渉の実務

(3)特許発明と被告製品の構成要件の対比

 特許発明の構成要件Aと相手方製品の構成要件a、同じくBとb、Cとcという形で対比していきます。

請求項1 被告製品

A 電磁調理器に使用される柄付きの卵焼き器であって、

a 電磁調理器に使用される加熱調理部にフッ素樹脂加工が施された取っ手付きのフライパンであって、

B 電磁誘導加熱による加熱調理部が円形に形成されており、

b 電磁誘導加熱による加熱調理部が円形に形成されており、

C その円形調理部の中央に卵焼きのための長方形の部分が設けられると共に、

c その円形調理部の中央に卵焼きのための平行な2本の直線で仕切られた部分が設けられると共に、

D その両側部につけ合わせなどを調理できる部分が設けられている

d その両側部につけ合わせなどを調理できる部分が設けられている

E ことを特徴とする電磁調理器用卵焼き器

e ことを特徴とするフライパン

 特許発明の構成要件B、DおよびEは相手方製品の構成要件b、dおよびeと同じなので、相手方製品は、特許発明の構成要件B、DおよびEを充足します。
 他方で、構成要件Aと構成要件aは、①「柄」と「取っ手」、②被告製品にはフッ素樹脂加工が施されている点および③特許発明は「卵焼き器」であるのに対し、被告製品は「フライパン」である点において異なっており、また、構成要件Dと構成要件dは、「長方形の部分」と「平行な2本の直線で仕切られた部分」が相違することになります。

 そこで、原告において文言侵害の主張をするためには、被告製品が構成要件Aおよび構成要件Dを充足するという解釈をすることができるのかを検討する必要があります。

(4)特許発明の技術的範囲の確定および対比

 構成要件の対比にあたっては、原告の特許発明の構成要素(たとえば、「柄」や「長方形の部分」)がいかなる物を指すのか、すなわち、特許発明の技術的範囲を解釈により画する必要があります。これを「クレーム解釈」といいます。クレーム解釈は、特許請求の範囲の記載を基礎としつつ、明細書の記載および図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとされています(特許法70条1項、2項)が、ここでは、出願経過、出願時における公知技術が参酌されます。

①発明による解決課題に基づくクレーム解釈

 上記のとおり、クレーム解釈は明細書の記載および図面を考慮して行われるものであるところ、ここで最も重要なのは、当該発明がどのような技術的課題を解決するものであるのかを読み解いたうえで、その技術的意義に基づき特許発明の範囲を画するという考え方です。

 たとえば原告の特許発明の構成要件Cにおける「長方形の部分」の技術的意義を検討すると、請求項における「卵焼き器」や「卵焼きのための長方形の部分」という記載からは、この部分は卵焼きを成形するための部分であり、中心に長方形部分を設けることにより卵焼きを綺麗に成形できる点に技術的意義があるものと読むことがあります。
 他方、仮に、明細書の記載等から、「長方形の部分」で卵焼き以外の物を調理することも意図していると解釈される場合、「長方形の部分」の技術的意義は、卵焼きに限らず、より広く2つ以上の食材を1つの熱源で同時に調理することを可能にする点にあると理解することも可能です。

 そして、後者のような解釈と採った場合、「長方形の部分」の形状は長方形である必然性はなく、フライパン中央部分が他の食材と混ざらないように区画されていれば足りることになるため、文言上「長方形」とされてはいるものの、四隅が直角の完全な長方形だけでなく、これに準じた「実質的な長方形」も含まれると解し得ます。このような解釈を採った場合、被告製品の構成cにおける「平行な2本の直線で仕切られた部分」も特許発明の構成要件Cに含まれるということになります。

 もっとも、本件では、先行文献において中央部分を並行な2本の線で仕切った電磁調理器用の調理器具が開示されているため(「第2回 特許権侵害訴訟の事前準備・交渉の実務」2-2(2)参照)、構成要件Cについて上記のようなクレーム解釈をした場合、被告から、原告の特許は新規性ないし進歩性を欠き無効である旨の主張をされる可能性があります。したがって、原告においては、こうした主張が出てくることも念頭において戦略を立てておく必要があります。

出典:米国特許第3007595号公報
②出願経過および公知技術を参酌したクレーム解釈

 他方、「長方形の部分」は卵焼きの調理という目的のための部分であるという解釈を採った場合、「長方形の部分」は卵焼きを見栄え良く成形するために用いられた形状であって、「長方形の部分」は卵焼き用のフライパンのように四隅が直角の長方形である必要があると理解されることになります。

 また、前述のとおり、クレーム解釈においては出願経過や公知技術も参酌されるところ、たとえば、原告が出願時に「長方形」を4つの内角がすべて直角である四辺形に限定するような意見を述べて特許を得ていたような場合には、そのような限定をするクレーム解釈をすることとなりますし、出願時において上記のような先行文献が存在していることから、先行文献に開示されている構成を回避したような構成であると限定して考えると、やはり「長方形」には中央部分を並行な2本の線で仕切った形状は含まれないと解釈することになります。

 そうすると、被告製品のような長方形でない部分が中心に設けられている構造は原告の特許発明の技術的範囲には含まれないということになります。したがって、被告としては、このように「長方形の部分」を限定解釈することで、構成要件の充足性を否定する主張を展開することが考えられるでしょう。

③付加的要素について

 構成要件Aに関して、被告製品では特許発明にはないフッ素樹脂加工がされているので、構成要件を充足しないのではないかが問題となりますが、このような付加的要素がある場合であっても、当該付加的要素を除外した場合に構成要件を充足するのであれば、付加によって充足性を否定することはできません。したがって、被告製品にフッ素樹脂加工が施されていることは構成要件Aの充足性を妨げるものではありません。

均等侵害の成否の検討

(1)均等侵害の成立要件

 上記のとおり、特許権侵害の成立が認められるためには、被告製品が原告の製品の構成要件をすべて充足する必要があることが必要です。しかし、重要でない一部分の構成を変えるだけで容易に特許権侵害を免れることができるとすることは妥当ではないことから、文言侵害が成立しない場合であっても、被告製品が一定の要件を満たす場合には例外的に特許発明と均等と評価され、特許権侵害が成立する場合があると解されています。これを均等侵害といいます。そこで、構成要件の一部に相違が認められるために文言侵害が成立しない場合、その相違点の内容によっては、均等侵害の成否を検討のうえ、主張していく場合があります。

 均等侵害が成立するための要件は、以下の5要件が最高裁判決(ボールズプライン事件、最高裁平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁)によって示されています。

  1. 特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品または用いる方法と異なる部分が存する場合であっても、異なる部分が特許発明の本質的部分ではないこと
  2. 上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するものであること
  3. 上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有するもの(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであること
  4. 対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一または当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではないこと
  5. 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものにあたるなどの特段の事情がないこと

(2)均等侵害の成否の検討

 本件では、原告の特許発明と被告製品との間には、上記のとおり「柄」と「取っ手」の違い、および、「長方形の部分」と「平行な2本の直線で仕切られた部分」の違いという2つの相違点があるため、これらの各相違点につき、上記5要件が満たされると認められて初めて均等侵害が成立することになります。

 先ほども例にあげた「長方形の部分」と「平行な2本の直線で仕切られた部分」の相違点について検討すると、まず、①「長方形の部分」が特許発明の本質的部分ではないといえる必要があります。
 ここで、「特許発明の本質的部分」とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解されていますので、この要件の検討にあたっては、先行技術を考慮したうえで、「長方形の部分」が特有の技術的思想を構成するといえるかを検討することになります。たとえば、仕切りがあり、複数の食材を同時に調理できるフライパンが開示されていたとしても、仕切られた部分で卵焼きを綺麗に成形できるという思想が開示されていないとすれば、原告の特許発明で「長方形の部分」を有することは発明の本質的部分であるという方向に解釈されます。

 次に、②「長方形の部分」を「平行な2本の直線で仕切られた部分」に置き換えても特許発明の目的を達成することができるといえるかは、特許発明が意図する作用効果との関係で決せられるものですので、請求項の記載のほか、明細書の記載や従来技術を考慮したうえで、特許発明の作用効果を導き出す必要があります。ここにおいても、「長方形の部分」がいかなる目的で設けられているのかを解釈により認定することがポイントとなります。

 ③の置き換えの容易想到性は、侵害行為時を基準として、当業者が「長方形の部分」を「平行な2本の直線で仕切られた部分」に置き換えることが容易であるか否かを判断します。
 他方、④は、特許出願時を基準として、被告製品の構成を当業者が公知技術から容易に推考することができたかどうかが決せられます。

 上記⑤については、たとえば、原告の特許出願の経緯において被告製品のような「平行な2本の直線で仕切られた」構成を除外する内容の補正をしていたような場合には、そのような構成に特許権が及ばないことを意図していたといえますので、ここでいう意識的な除外が認められると考えられます。

 均等侵害の成否の検討にあたっては、特許発明の本質的部分がどこにあり、また、どの部分は重要ではないのかを、請求項や明細書に表れている技術思想から導き出す必要があります。

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