スタートアップが知っておきたい知財の話(前編) 弁護士と一緒に考える知的財産権と事業戦略

知的財産権・エンタメ

起業を志している方や起業したばかりの方を対象にした、日本弁護士連合会が主催するセミナー「スタートアップが知っておきたい知財の話 〜弁護士と一緒に考える知的財産権と事業戦略〜」が、1月23日、Startup Hub Tokyo(東京都千代田区)にて開催された。

事業のスタートアップやその後の事業展開に、特許・実用新案・意匠・商標・著作権・営業秘密などの知的財産権1を活かす戦略について、スタートアップに関わる方々と専門家が一緒に考える機会となった。

モデレーターに日弁連中小企業法律支援センター事務局次長の八掛 順子弁護士、パネリストにStartup Hub Tokyo運営事務局運営統括マネージャーの小野 修氏、日弁連知的財産センター委員の市毛 由美子弁護士、星 大介弁護士を迎えて行われたディスカッションの様子を2回に分けてお届けする。
前半では、実際に寄せられた相談をベースに、ブランディング、デザイン、ソフトウェアと知財の関係、自社の発明を活かした起業などの疑問に答えた。

知財で顧客吸引力を高めてブランド価値を育てる

八掛氏
創業支援施設であるStartup Hub Tokyoでは、起業家から相談を受け付けているそうですが、知財の分野ではどういった内容のものがありますか。

小野氏
Startup Hub Tokyo(略称:SHT)2で行っている「コンシェルジュ相談」や「専門家無料相談DAY!」では、これまでに約1,800件の相談に応じています。相談者の約6割がこれから起業する方で、知財分野の質問・相談では何か揉めているというよりも、「起業するにあたって、何を保護しておくべきか?」「漠然と知ってはいるけれど、詳しいことが分からない」といった相談が多いです。

八掛氏
商標については「自分のブランドを保持しておくために商標登録をしたい」と考える方もいると思いますが、スタートアップ段階で、ブランドの確立やその保護は重要ですか。

小野氏
起業を考えるにあたって自分のビジネスモデルやデザイン、商標などがオリジナル性の高いものだと思っても、似たようなことを他の誰かが同じタイミングで考えている場合が結構あります。 なので、スタートアップ段階のブランディングでは、商標・意匠などでの差別化にも注意し、妥協せずにキチンと作ってもらいたいです。

星氏
ブランドには色々な意味がありますが、ざっくり言うと「会社のイメージ」のようなもので、会社のすべてのリソースを使って作り上げていくものです。ブランドを保護する法律として代表的なものは、著作権法や不正競争防止法ですが、自社ブランドでデザインを作るのであれば、意匠法も関係してきます。
商標は誰にも知られていないものでも取れるほか、取得後、他の人が不正に商標を使用していれば「使わないでください」と主張できます。

市毛氏
特に、商標には、自他識別機能、出所表示機能、品質保証機能が備わっていますから、自分と他人の商品・サービスの違いを明確化し、その出所を表示することを積み重ねていけば、「このブランドなら、良い商品・サービスが受けられる」と消費者に良い印象づけができます。このように、良いブランドを育てるためには、ブランド・商標と、商品やサービスの品質の結び付きが大事になります。
よって、自社商標と類似する商標を、他人が粗悪な商品・サービスで使っているのを放置しないことが重要です。「やめてください」と言わないと、ブランド価値を棄損してしまうことになります。

星氏
商標を出願せず、他社に取られた後に気づくといったこともありますから、ビジネスを始めて少し経ってからというよりも、開始時に取るのがよいでしょう。たとえば「ゆうメール」事件(東京地裁平成24年1月12日判決)のように、他の会社から商標の使用差止めを求めて訴えられ、商標を買い取らざるを得なかったという事例もあります。

八掛氏
自分の商品・サービスのブランド価値を育てるための経営戦略を考えるうえで、心がけることはありますか。

市毛氏
「このブランドなら、価格が高くても買う」というような顧客吸引力の高いものは、商標としての価値が高く、ライセンスする時に高いライセンス料を得ることができます。
その際、単純にライセンス料が入ればよいのではなく、ライセンサーは、「自分が決めたブランドのステータスに見合った価値を、ライセンシーが提供しているか?」という視点で、クオリティコントロールを徹底してブランド価値を維持することが非常に大切です。よって、ライセンス契約上、ライセンサーの品質管理条項が重要な意味を持ちます。

ウェブデザインは知財で保護できるとは限らない

小野氏
最近のスタートアップでは、ウェブを使わないビジネスはなく、出所表示も含めたウェブ上のビジュアルは極めて重要です。
自分でウェブデザインをする場合、技術を使ってフレームの切り方や見せ方などを変えられるので、起業家からは「自分のアイデアやデザインを意匠権で保護できないか?」「著作権でどこまで自分の権利だと主張できるか?」という相談を受けることが多いですね。

八掛氏
デザインを保護する知的財産権には、どのようなものがありますか。

星氏
代表的なのは意匠権で、場合によっては商標もデザイン保護に使われます。また、著作権は、創作的な表現全般を保護できますし、不正競争防止法による商品等表示でも、ある程度他の人の利用を禁止することができるかと思います。
残念ながら、ウェブデザイン自体は、意匠権では保護できないことになっています。考えられるのは、著作権や不正競争防止法の適用ですが、その機能を発揮するために必要なデザインは、表現として保護されない可能性があります。

八掛氏
スタートアップにとって、ウェブ上のビジュアルは重要とのことですが、良いデザインを作るためのポイントを教えてください。

小野氏
ユーザー目線で見ると、表現方法があまりかっこよくない、センスがないものは、信用できないという印象を受けますから、使いやすいデザインであること、サービス提供者側の意思が正確に伝わること、そのうえで独自性のある表現を作り込んでいくことが、非常に有効なナレッジになってくるのではないでしょうか。

Startup Hub Tokyo運営事務局 運営統括マネージャー 小野 修氏

Startup Hub Tokyo運営事務局 運営統括マネージャー 小野 修氏

ソフトウェアで著作物性が認められるのは難しい

八掛氏
ソフトウェア関係で起業を考えられている方も多いですか。

小野氏
SHTで実施したアンケートによると、情報通信が最多の約30%、次がマッチングサービスを含めたサービス業です。全体の半分以上がウェブ上にプログラムを組み、ソフトウェアとしてサービスとして提供するビジネスですね。

八掛氏
ソフトウェアは、特許や著作権などの知的財産権でどのように守っていけばよいでしょうか。

星氏
ソフトウェアに関しては、特許は必ずしも万能ではありません。ただ、取れるなら必ず取っておいた方がよい、というのは間違いないです。

市毛氏
特許は、新規性や進歩性などの特許要件を認めるかどうかを特許庁で審査し、認められて登録されることにより、初めて権利となります。
また、著作権に関しては、過去に、著作権法上にコンピュータ・プログラムが著作物として明記されるという法改正があった際、「コンピュータ・ソフトウェアなら、何でも著作権で保護される」と誤解されていたところがありました。著作権の保護の対象は、アイデアではなく、あくまでも思想感情の創作的な表現です。
極端な話コンピュータ・ソフトウェアにおいて、「一定の機能を果たすのに、機械に対してこの指令を出す」というソースコードが1種類しか書きようのないときは、選択の余地がないので創作性が認められず、著作権の対象になりません。この趣旨の判例がいくつかあります。

八掛氏
ソフトウェアの著作物性は、ソフトウェアを使って実現することに創作性があるかどうかではない、ということですね。ソフトウェアで著作物性が認められるのは、なかなかハードルが高いのですか。

市毛氏
ハードルが高い場合もありますが、多数の表現上の選択の余地のある中から指令やその組み合わせを独自に選んで作成したコードでソフトができている場合は、創作性が認められることもあります。場合によりますが、必ずしもソフトウェアは著作権で保護されるとは限らない、ということだけ覚えておいていただきたいです。
ソフトウェアが特許でも著作権でも保護されない場合は、開発者からユーザーへソースコードを提供する時に、秘密保持契約や使用許諾契約という形で縛りをかけて、コピーされないような契約条項を盛り込むことが大事です。

勤めていた会社で開発した発明は退職後使えない

小野氏
起業家から「システム会社に勤めているが、自分が業務として開発したプログラムの作業を、会社の方針でストップすることになった。関連するビジネスを、独立して自分でやりたいが、契約や自らの著作権はどうなるのか?」という相談が寄せられることもあります。

八掛氏
勤めていた会社で自分が開発した発明や著作物を、独立後に「自分が作ったものだ」として使うことはできるのでしょうか。

市毛氏
所属していた会社の業務として給料をもらいながらやった仕事の成果については、ほとんどの場合従業員個人は知的財産権を持っていないと考えてよいと思います。
著作権の場合、著作権法上、職務著作という規定があります。当該著作物の作成について、法人等の発意に基づき業務に従事する者が職務上作成し、法人等が自己の著作の名義のもとに公表するものは、契約や勤務規則等に別段の定めがない限り、使用者である法人等に原始的に帰属するという規定です。なお、プログラムの著作物の場合は、公表名義の要件がはずれ、名義のいかんにかかわらず、法人等に原始的に帰属します。

一方で特許法上の職務発明については、特許を受ける権利は発明者つまり個人に帰属し、特許を受けた場合には使用者等に通常実施権が認められていますが、契約、勤務規則その他の定めにより「従業者等から使用者等に特許を受ける権利等が承継等される」と規定されている場合は、勤務先に権利が帰属し、かかる承継にあたり、従業員等は「相当の金銭その他の利益」を受けることになります。

会社を辞めた後に自分が開発した発明や著作物を利用したいのであれば、権利を譲り受けるかライセンスを受けるための交渉が必要になります。何らかの事情で会社側がもう実施しないとか、事業の資金繰りが難しくて実施できない場合は、交渉に応じてくれる場合もあるかもしれません。

八掛氏
特許の場合、明らかにもう登録されているとか、会社に権利があるというのはわかりやすいですね。たとえば、退職前の会社が持っているノウハウやアイデアが、もともと自分が考えたものだという場合、流用することは可能ですか。

市毛氏
ノウハウやアイデアの種類にもよりますが、あえて出願せず、営業秘密として社内管理するケースもあり得ます。この場合でも、特許を受ける権利自体が、会社に承継され、営業秘密として保護されているので、勝手に利用すると権利侵害になる可能性があります。

八掛氏
特許化されていないから大丈夫、というわけではないのですね。その他にソフトウェアのビジネスを行ううえで、知的財産権上注意することはありますか。

星氏
オープンソースのソフトウェアを使って作るとき、たとえば利用規約の中で、ソースコードを開示することになっている場合もあります。利用規約にもバリエーションがあるので、その都度確認しましょう。

日弁連 知的財産センター委員 星 大介弁護士

日弁連 知的財産センター委員 星 大介弁護士
オープン&クローズ戦略やライセンスの方法、紛争予防として気軽に相談できる弁護士を探すには、などのトピックが取り上げられた後半は「こちら」をご覧ください。

  1. 発明・考案、ソフトウェア、企業や商品のブランドなど無形の財産に関する権利。特許権、著作権、商標権、実用新案権、意匠権などの総称。 ↩︎

  2. 東京・丸の内にある「TOKYO創業ステーション」1階にあり、起業に興味がある人や具体的なプランを持っている人、起業準備に入っている人などが自由に立ち寄れる創業支援施設。 ↩︎

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