北見工大生協に六花亭も、なぜ「そだねー」の商標登録出願がされたのか? 公共性がある商標を出願する場合の知財戦略上の留意点

知的財産権・エンタメ
杉尾 雄一弁護士

平昌オリンピックで一躍流行語となった「そだねー」。カーリング女子日本代表「ロコ・ソラーレ(LS北見)」の選手らが、競技中に発した北海道方言だ。
そんな「そだねー」について、北見工業大学生活協同組合(北海道北見市)や、六花亭製菓株式会社(北海道帯広市)が、相次いで商標登録の出願を行い話題となっている1
商標登録はどのような制度であるのか、また、今後企業が知財戦略(商標戦略)を考えるにあたってどのような点に気をつけたらよいのだろうか。商標の実務に詳しい弁護士法人内田・鮫島法律事務所の杉尾 雄一弁護士・弁理士に聞いた。

商標登録制度とは

商標とはどのようなものでしょうか。

商標は、商標法上、商品または役務(サービス)に用いる標章(マーク)と定義されており、「創作物」とは定義されていません。言い換えると、商品等に用いるマークであれば何でもよく、他人が考えたマークを商標登録出願することもできます。
商標は当初からそれ自体に価値があるのではなく、長年使用し続け、信用が化体することによって、はじめて価値が出てくるものです。よって、使用する商標は何を選択してもよく、基本的には、所定の登録要件を満たす商標であれば、誰でも出願し登録を受けることができます

商標登録とはどういった制度でしょうか。

商標登録制度は、特許庁に対し、①登録を希望する商標と、②商標を使用する商品または役務を指定した商標登録出願を行い、特許庁での審査を受け、商標の登録要件を満たした場合に、商標登録を受けることができる制度です。商標登録出願後、特許庁が審査に着手するまで6~8か月ほどかかります(「商標審査着手状況(審査未着手案件)」(2018年4月現在))。

商標登録制度の大まかな流れ

今回、「菓子及びパン」の区分で、六花亭製菓株式会社が出願しているようです。仮に、当該出願に基づく商標登録がされた場合、他の企業は「そだねー」の商標の登録を受けるとはできるのでしょうか。

①登録を希望する商標と、②商標を使用する商品または役務のいずれもが同一または類似である場合、先に出願した者のみが商標登録を受けられます(先願主義)。逆に、同一の商標であっても、商標を使用する商品または役務が非類似であれば、商標登録を受けられることとなります。

商品または役務が類似かどうかは、最終的には、諸事情を考慮し、同一または類似の商標を付した場合に出所混同を生ずるか否かといった基準で判断されます。特許庁の審査段階では、迅速かつ画一的な審査をするために、各商品または役務に類似群コードが割り振られており、類似群コードが同じであれば類似と扱い、類似群コードが異なれば非類似と扱うといった運用がされています(「類似商品・役務審査基準」)。

【他企業の「そだねー」の商標登録可否】

商品・役務名 類似群コード 他企業の商標登録可否
菓子及びパン 30A01 ×
ブルーベリー又はヒルベリーを使用した清涼飲料 30A01 ×
調理済のラーメン(例:ラーメンを商品として販売する場合) 32F06
ラーメンの提供(例:ラーメン屋を営む場合) 42B01

今回、「菓子及びパン」の区分で、六花亭製菓株式会社と北見工大生協の出願が競合しているようです。この場合、どのように取り扱われるのでしょう。

この場合、商標、商品いずれも同一となりますので、先に商標登録出願をした者が、商標登録を受けられることとなります。
六花亭製菓株式会社の出願日は2018年3月1日であるのに対し、北見工大生協の出願日は2018年2月27日であることから、北見工大生協の出願がわずか2日早くなされています。したがって、今回は、北見工大生協の出願が登録され、六花亭製菓株式会社の出願は登録されない可能性が高いと考えられます(北見工大生協の出願が取下げ等された場合は、六花亭製菓株式会社の出願が登録される可能性はあります)。

今回、北見工大生協は、第16類「文房具類、紙類、印刷物」、第25類「被服、運動用特殊靴、運動用特殊衣服」、第30類「茶、コーヒー、ココア、菓子、パン」の商品を指定して「そだねー」の商標の商標登録出願をしています。仮に、北見工大生協が商標登録を受けた場合に、たとえば、北見工大生協は「そだねー」の商標を付したTシャツ等のグッズを販売している企業に対し、いかなる法的措置をとることができるのでしょうか。

Tシャツは、指定商品の「被服」に含まれますので、北見工大生協以外の者が、「そだねー」の商標が付されたTシャツを販売する行為は、商標権侵害となります。一方、グッズであったとしても、指定商品と同一または類似でない商品またはサービスに商標を使用することは商標権侵害となりません。たとえば、「そだねー」の商標が付されたマグカップを販売する行為は、商標権の侵害ではありません。
商標権の侵害が成立する場合、商標権者は、民事上の措置として、商標権の侵害行為の停止の請求(差止請求)、商標権侵害により発生した損害の賠償の請求(損害賠償請求)等をすることができます。また、故意に商標権を侵害する者に対しては、刑事告訴をすることも可能です。

商標登録のメリットは何ですか。

他社が登録商標を指定商品または役務に使用する行為を禁止することができる他、自社が、登録商標を、指定商品または役務に使用するかぎり、他人の商標権を侵害することはないという安全性が確保されるという点です。

先ほど述べたように、商標法上は、所定の登録要件を満たす商標であれば、誰でもどんな商標でも出願をすることができるのが原則です。そのため、先に使用していた商標であっても、後から第三者により当該商標と同一の商標について商標登録出願をされ、商標権を取得されてしまった場合、当該商標を使用することができなくなる危険性が常に潜んでいます。したがって、リスク管理上、使用する商標は商標登録を受けるということが基本的な考え方となります。

逆にデメリットはありますか。

一つの商標について出願をする場合に、特許庁の印紙代だけでも(他に代理人手数料も必要となります)、出願時に「3,400円+区分数×8,600円」、登録時に「28,200円×区分数」が必要です(「産業財産権関係料金一覧(2016年4月1日時点)」)。このように、費用が、商標ごと、商品または役務の区分ごとに発生することから、複数の商標を使用する場合や、一つの商標を複数の区分で使用する場合、結構なコストがかかることとなります。

「そだねー」の使用を独占することの問題点

「そだねー」のような方言についても、商標登録は認められるのでしょうか。

「そだねー」が方言であるからといって、商標登録を受けられないということは、基本的にありません。商標法では、商標の基本的な機能(自他商品等識別機能)を備えるものであれば、一定の登録排除事由に該当しないかぎり、商標登録要件を満たすものとして登録がされますので、単に方言であるといった理由では登録が排除されないからです。

たとえば、NHKの人気朝ドラ「あまちゃん」で能年玲奈さん演じるアキが多用して話題になった「じぇじぇじぇ」は、驚いたときに用いる岩手県北三陸地方の方言ですが、岩手県のお菓子メーカーが同商標を出願し、商標登録がされています(商標登録第5767702号)。テレビで話題になった表現が、放映直後に出願されたという点で、「そだねー」が出願されたタイミングとも似ていますが、問題なく登録がされています。

ある地方の方言について、一人が使用を独占することに問題はないのでしょうか。

もちろんある地方の方言について、一人に使用を独占させて良いのかという議論は、至極当然であり、今後このような議論が高まれば、商標登録がされなくなるという可能性も否定することはできません。登録排除事由の一つとして、適用のハードルは高いものの公序良俗違反の理由がありますが、方言の場合は特定の人物や特定の祭りの名称ほどの固有性がないことから、公序良俗違反に該当し難いのではないかと思います2

仮に「そだねー」の商標登録が一企業に認められた場合に、企業は自己の保有する登録商標の使用を、第三者へ開放することは可能なのでしょうか。

特許の事例となりますが、2015年1月6日、トヨタ自動車株式会社が、燃料電池車(FCV)の普及に向けた取り組みの一環として、同社が単独保有する約5,680件の特許の実施権を、2020年末まで無償で実施許諾するという措置を採ったことが話題になりました3。同様に、商標でもこのような措置を採ることは可能です。

一方、今回、六花亭製菓株式会社は「そだねー」の商標を出願したことに関し、ホームページ上で説明しています4

今後他社から商標の使用の申し出があった場合に、使用を許諾することを示唆するようにも読めますが、かかる説明文は、「そだねー」とは別の商標につき、既に使用の申出があった一社に使用することを許諾したという、個別の事例について言及しているのみです。あくまでも商標を自由に使ってよいことや、今後使用の申出が個別にあった場合に使用許諾に応じるということは記載されていません。

そのため、本ケースでは、特に「そだねー」の商標が一般に開放されている訳ではありませんので、商標を使用したい者は、六花亭製菓株式会社と個別に交渉をして、商標の使用許諾契約を締結する必要があります。

BUSINESS LAWYERSの取材によると、北見工大生協の白岩研治専務理事は「『そだねー』は方言なので、その利用自体を制限しようとは思っていない。現在は商標出願中の状態なので、利用に関する具体的な内容は周囲と相談して決めたい。商業利用か個人利用かを問わず、商標をどんな目的で利用するかが一番大事。個人的にはカーリングの普及で利用していただけたらよいと思っている。商標を取得したら、それを利用したい企業と一社一社協議していくことになるだろうが、商用の場合は寄付金などの形でご協力をお願いしたいと考えている」と述べています。

こちらも、「そだねー」の商標を一般に開放するという趣旨ではなく、「一社一社協議」をし、個別に商標の使用許諾契約を締結した者にかぎり、商標を使用させるというスタンスと考えられます。

第三者による勝手な商標登録出願を防ぐには

今回の「そだねー」の事例では、他の業者の商標登録によりトラブルになることを防ぐために出願したという意図もあるかと思います。

悪意で出願した場合などで問題になったものとして、記憶に新しいのは、シンガーソングライター・ピコ太郎さんの楽曲「PPAP」が、ピコ太郎さんや所属レコード会社とはまったく関係ない企業に商標登録出願をされたケースです。
この事例で「PPAP」の商標を出願していた者は、商標トロールや商標ブローカー等と呼ばれる者でした。商標トロールは、自らは使用しないが、他人が使用する、または使用しそうな商標につき登録を受け、商標権を高額で買い取らせることを画策する事業者です。商標トロールは、日々商標登録出願をしており、現在日本の商標登録出願の約1割が、特定の商標トロールによる出願となっています。

今回、北見工大生協や六花亭製菓株式会社が、「そだねー」の商標を出願したことには、両社とも積極的に「そだねー」の使用を独占しようとしている様子が伺えないことから、商標トロールが「そだねー」の出願をし、「そだねー」が使用できなくなることをおそれ、防衛的な意図をもって出願をしたことが主目的であると推察されます。

企業の会社名や商品名について、第三者が勝手に商標出願をする行為にはどのような問題がありますか。

商標は選択物ですので、商標法の建前上は、第三者に自らが使用した商標を出願されてしまった場合、別の商標を選択すればよいということが原則となります。しかし、第三者が他社の会社名や商品名について、商標登録出願をすることや、これに基づき取得した商標権を行使することは、例外的に、商標法上、問題になる場合があります。

たとえば、剽窃的な態様での商標登録出願は、公序良俗違反として不登録事由となります。また、登録商標の取得経過や取得意図、商標権行使の態様等によっては、商標権の行使が、客観的に公正な競争秩序を乱すものとして権利の濫用にあたり許されない場合があります(GEROVITAL事件・東京地裁平成17年10月11日判決)。

しかし、公序良俗違反や権利の濫用といった一般条項が適用される場面は、非常に稀ですし、今回の「そだねー」は、特定の会社の会社名や商品名とはいえず、地方の方言であり、個別性もありませんので、ここで述べた、剽窃的な商標登録出願や、商標権の行使の濫用には該当しないと思われます。したがって、仮に、六花亭製菓株式会社が、「そだねー」の商標権を取得できた場合に、北海道内の他のお菓子メーカーが、「そだねー」の商標をお菓子に使用したときは、六花亭製菓株式会社は、お菓子の販売の差止めや、損害賠償を請求できるという立場になると考えられます。

商標トロールによる出願に対し、企業はどんな対応を採ればよいのでしょうか。

自らが使用する商標または使用しようとする商標に関し、直近の新聞やテレビ等で取り上げられたキャッチーな言葉を用いる場合、新規製品・サービスのプレスリリースがされた場合、法人の商号の設立や変更の公示等がされた場合、これらの媒体での発表等を契機に商標トロールが常に商標を出願するリスクがあります。ですから、使用する商標は、各種媒体での発表等の前または発表等の後ただちに商標登録出願をするということが非常に重要です。

商標登録出願に関する知財戦略は企業の信用に関わる

六花亭製菓株式会社や北見工大生協は、なぜ、「そだねー」を、いち早く商標登録出願を行ったのでしょうか。

今回、六花亭製菓株式会社や北見工大生協が「そだねー」の商標登録出願を行った背景は、将来使用する可能性がある商標について、先願権を確保するためであると考えられます。

その背景には、商標トロールや他の事業者に商標登録をされることにより、自らが商標を使用できなくことを防ぐための防衛的な意図をもって出願を行ったほか、自らが商標登録を受けることにより、他社の使用を抑制し、商標を独占的に使用しようとする意図も含まれていたものと考えられます。六花亭製菓株式会社や北見工大生協の対応は、自己が使用する可能性がある商標を他社に先駆けて出願するという点では、商標戦略として正しいといえます。

先願権の確保以外に、考慮しておくべき点はありますか。

一方、商標戦略としては、近年、先願主義といった法的観点以外の要素として、ビジネス的観点から、一般消費者のレピュテーションの要素も含めて考える必要が出てきています。すなわち、公共性がある文言や一定の知名度がある文言等について出願をすることは、フリーライドを嫌う日本人の国民気質上、評判を落とす可能性があるという点も加味して商標登録出願をすべきだと考えられます。特に、商標登録出願の主目的が、商標トロール等からの防衛目的であったとしても、商標権の独占排他性から、結果的に独占することに繋がりますので、外形的には、独占目的であると取られてしまうケースがほとんどであると思います。

冒頭でも説明をしたとおり、商標は選択物ですから、その商標しか使えないといった事情は基本的に少なく、他の商標を使っても構わないのです。したがって、公共性がある文言や一定の知名度がある文言等について商標登録出願をする場合、出願に係る商標と自らの商品またはサービスとの関係性を合理的に説明できなければ、フリーライドの意図があると取られてもやむを得ません。

レピュテーションの観点からは、今回の事例はどう捉えることができるでしょうか。

レピュテーションの要素から六花亭製菓株式会社の出願についてみてみますと、六花亭製菓株式会社は、本社が北海道帯広市にあり、「そだねー」とゆかりがある北海道北見市とは、相当な距離もあることから、「そだねー」が取り上げられるきっかけとなったカーリングとの関連性も見出すことはできません。そうすると、北海道という点での関連性があったとしても、商標権を取得してまで、「そだねー」を使用する合理性は見出し難いように思います。したがって、六花亭製菓株式会社は、レピュテーションが下がるリスクが相当程度ある中でも、先願権の確保を優先したという戦略を採ったものと考えられます。

一方、北見工大生協の出願についてみてみますと、北見市に所在する他、カーリングの普及・振興の目的で出願をした旨を表明しており、「そだねー」を北見市とカーリングを応援する目的で出願をしたとの説明をすることができますので、フリーライドをしているとの印象が強くなく、レピュテーションが下がるリスクは高くないように思います。しかし、それでもなお、大学の生協が商標登録を受けることの合理性や、カーリング以外に用いることを制限することの合理性等の問題は残るでしょう。

以上を踏まえますと、公共性がある文言や一定の知名度がある文言等について商標登録出願をすることの合理性を見出すことは、相当程度のハードルがあります。これらの商標登録出願をする場合、レピュテーションを落とすリスクをおかしてまで、本当にその商標を使用する必要があるのかということを慎重に検討した上で、商標登録出願をすることが、商標戦略上重要であるといえます。


  1. 北見工大生協の商標登録出願は、当初、個人の名義で出願がされたものであったことから、公開商標公報では、当該個人の名義の商標登録出願となっていますが、2018年3月26日付で出願人名義変更届がなされ、2018年3月27日時点では「北見工業大学生活協同組合」の名義の商標登録出願とされています。 ↩︎

  2. 歴史上の人物名(たとえば、「坂本龍馬」の登録性が否定(平成18年2月1日審決:不服2003-18931)や、地域の祭りの名称(たとえば、石川県の「母衣旗まつり」と同じ「母衣旗」の登録性が否定(東京高裁平成11年11月29日判決))は、社会公共の利益に反するとして、公序良俗違反にあたるとされています。 ↩︎

  3. 参考:「トヨタ自動車、燃料電池関連の特許実施権を無償で提供」 ↩︎

  4. 参考:「「そだねー」商標登録申請について」 ↩︎

関連する特集

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

90秒で登録完了

無料で会員登録する