ストーリーでわかる特許制度の全体像

第1回 特許制度の神髄とは?

知的財産権・エンタメ

 特許ってなんだか難しそう、とお考えの方は多いのではないでしょうか。技術の話も多いし、法律も複雑、専門的な用語は読み方すらもわからない・・・。

 そこで、人には聞けない、特許制度の全体像をわかりやすいストーリーで解説する、連載企画がスタートします。

 第1話のテーマは「特許制度の趣旨」です。制度のねらい・趣旨を理解することが、特許の世界を知るスタートラインとなるでしょう。

特許制度ってどういう制度?

 特許制度とは、一言でいうと「発明を公開する代償として独占権を付与する制度」です。

 近代特許制度は、中世ベニスで誕生し、イギリスで発展したといわれています(特許制度の歴史については特許庁のウェブサイトを参照) 。
 この制度に至るまで、中世ヨーロッパでは報償または恩恵の手段として特権を付与することがありましたが、制度としては確立していませんでした。

 では、なぜ特許制度は「発明を公開する代償として独占権を付与する制度」として発展したのでしょうか。

 中世ヨーロッパの王室で行われていたであろう、王様と家臣の会話を見てみましょう。

国王:資源が少ない当国は、技術で他国との競争を制していかねばならん。何かいい考えはないか。

家臣:それならば、何人かの町の発明家にどんどん発明をさせ、公表させましょう。公表された発明に基づいてまた発明が生まれ、技術がどんどん進歩するでしょう。
 当国には天才と呼ばれるベテラン発明家も何人かおりますし。

国王:それはいい考えだ。ただ、問題は、当国のベテラン発明家たちは独善的で偏屈な者が多い。公表をしたら模倣もされるし、自分の発明が皆に使われる。素直に発明を公表するかな。

家臣:発明が公表されるたびに、金一封を与えればよいのです。そのための予算措置をどうかお願いします。

国王:では公表された発明に報奨金を与えるか。

金一封ではうまくいかない? 

 今も昔も、国家の基本的な理念は同じで、どのようにして隣国に対して影響力を駆使するかにつきます。この王様は圧倒的な技術力をもってこれを実現しようとしています。

 そのために、発明家たちに発明を公表させ、技術を加速度的に進歩させる、この考え方自体は誤っていないようにも思われます。

 ところが、どうやらこの制度はうまく行っていないようです。再び、国王と家臣の会話を見てみましょう。

国王:金一封で発明を公表させる制度はうまくいっているか?

家臣:それが、発明家たちが公表してくる発明は素人の私が見ても大したことのないものばかりなのです。特に、腕に覚えのあるベテランの発明が非常に陳腐です。

国王:そんなに大したことのない発明が多いのか、何か抜本的な問題がありそうだな?

家臣:発明家たちは、報奨金が安いと言っているようです

国王:もっと対価を上げろと?とは言っても、我が国の財源も限られているしな…

 この会話で見られるように、何らかの対価(固定)を支払って発明家たちに発明を開示させるという発想は悪くなかったのですが、いざとなると、発明の価値評価という問題に直面しました。

 この制度は、発明家たちに以下のような心理を働かせたのです。

  • 発明家自身が報奨金の額より低い、または同等と判断した発明
    → 制度に則って公表して報奨金をもらう

  • 発明家自身が報奨金の額より高いと判断した発明
    → 報奨金が上がるタイミングや、高く発明を買ってくれる資産家が見つかるまで公表しない

 つまり、発明者が主観的に素晴らしいと考える発明ほど公表されないという問題をはらむものでした。

 自分の発明を公表することは、他人からの模倣・盗用につながります。うまくいけば巨万の富を稼げるチャンスがある発明を、安い報奨金で公表しようとは思わないでしょう。

 これを根本的に解決するためには、発明の価値に応じた報奨金を支払えばいいのですが、21世紀の今となっても、発明が生まれた時点でその価値を正確に評価することは不可能であると言われています。

発明者たちの心理をくすぐれ!

 報奨金制度が機能しなかったことを受け、王子も議論に加わりました。
 発明家たちが公表しない理由が模倣や盗用にある、と考えた王子が別の考えを持ってきたようです。

国王:報奨金の額を上げないで、発明者たちに発明を公表させる方策はないものか?

王子発明を公表した者がその発明を独占できるという「権利」をあげたらどうでしょうか。

国王:それにはどういう意味があるのだ?

王子:公表された発明が優れたものであれば、発明家たちは権利を使って巨万の富を上げることができます。模倣者については国が責任を持って取り締まり、発明者が独占的に権利を実施できるようにするのです。

国王:なるほど。発明者たちは、自分こそ儲かると思ってどんどん公表するだろうというわけか。うまくいくかどうかはともかく、報奨金の額をどんどん上げていくよりは財政との関係では合理的だな。

 実は、これが特許制度の原型です。
 特許制度は、前述したように、発明を自主的に開示(現在の制度では「特許出願」)した者に対して、その開示の代償として、その発明を独占的に実施することができる権利(現在の制度では「特許権」)を付与する制度なのです。

 このような制度だと、自分が素晴らしいと思う発明ほど、発明者たちには公表へのインセンティブが働きます。逆に、いつまでも公表しないと、「アイツ、自分の発明に自信がないのだな」というレッテルを貼られてしまいます。

独占できる権利を与えてみたら

 独占できる権利を与えることとしたこの王国、果たして発明の公表件数は増えたのでしょうか、ベテラン発明家たちは相変わらず陳腐な発明しか公表しないのでしょうか。

 国王はうまく行くかどうか疑心暗鬼だったようですが、一体どうなったのか見てみましょう。

(数ヶ月後)
家臣:王様、新しい制度による発明の公表件数はうなぎ上りです。

王様:よかったな。ベテラン発明家たちはどんな様子かな。

家臣:最初は公表の動きも鈍かったのですが、「公表できないような発明しかできないのだな」と不届きなことをいう若手の発明家が出てからは、本気になってくれました。

王様:相変わらず大したことのない発明ばかり公表してくるのか。

家臣:天才たちは依然として健在です。

 どうやら制度もうまく機能し、ベテラン発明家たちもやる気になったようです。この王国はきっと、技術を生かして栄えていったのでしょうね。

 では、なぜ独占権を与えることが公表件数の増加や質の向上につながったのでしょうか。

 発明を公表して独占権を得た発明者は、それが良い発明であれば発明品がどんどん売れて儲かり、そうでなければほとんど売れないので儲からないことになります。つまり、発明の評価を市場が行うことになるのですから、固定額の報奨金制度で問題となった「発明の価値評価」にも異存が出ようがありません。

 このように、特許制度は発明者の公開に向けたモチベーションを刺激し、発明の評価を市場に委ねることによって、「公開によって生じる模倣などの損に対して得られる利益が少なすぎる」という批判を巧妙にかわす制度であるといえます。

 今では当然の考え方である、出願や特許という制度は、発明者の心理をついたうえで構築されていき、「発明を公開する代償として独占権を与える制度」として発展しました。これが特許制度の神髄なのです。

【特許制度の神髄】
特許制度とは、「発明を世の中に開示する代償として独占権を与える」制度であり、
そのときに付与される独占権が「特許権」である。

(関連条文)
特許法 第68条(特許権の効力)
 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

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