技術情報漏えいの有事に企業が行うべき対応

第3回 技術情報漏えいが生じたときの対応メニュー

知的財産権・エンタメ

 連載の「第1回 技術情報にはどのような権利や法律関係が成立するのか」と「第2回 技術情報を権利化するか秘匿するかはどのように選択するのか」では、技術情報の保護手段の選択について、基本的な考え方を説明してきました。今回は、情報漏えいが発覚したときに採り得る具体的な法的手段のメニューを示します。

漏えい先と漏えい源への対応

漏えい先への対応

 連載の冒頭1で説明したとおり、情報漏えいによって生じる損失は、自身が情報を利用できなくなることではなく、情報を第三者によって利用されることによって生じます。そのため、漏えい発生時における一次的な対応の相手方は情報利用者となる漏えい先となり、また、情報保護の手段も、主に漏えい先を意識したものとなります

漏えい源への対応

 他方、以下の2つの観点から、技術情報を会社から持ち出した漏えい源に対する対応も考慮する必要があります。

① 情報のさらなる流出や不正使用の阻止

 第1は、漏えい源が自ら情報を保有しまたは不正に使用している場合に、さらなる流出や不正使用を阻止することです。なお、漏えい源による不正使用が問題となる場合には、漏えい源が漏えい先でもある状況といえるため、基本的に漏えい先に対する対応がそのままあてはまるといえるでしょう。

② 将来の情報漏えいの予防等を目的とした適切な処分

 第2は、主に事後的ないし将来のための対応で、情報漏えいによって生じた損害について漏えい源に賠償を求め、または、懲戒処分や刑事告訴を行うことが考えられます。一般に漏えい源は個人であり、企業が受けた損害を十分に賠償する能力はないのが通常ですので、これらの対応においては、適切な処分によって将来の情報漏えいの防止や社内のコンプライアンス意識の向上につなげることが最大の目的となります。
 こういった対応をする際には、会社の対応が不適切なものとなると、上記目的との関係で逆効果にもなりかねません。そのため、労働法に配慮した適切な手段を選択する必要があります。

 以上のとおり、漏えい先への対応と、漏えい源への対応とでは、自ずとその目的や手段が異なるものとなることを意識しておくことが重要であるといえます。

法的な対応手段のバリエーション

 技術情報の漏えいが発覚した場合における具体的な法的手段を大きく分類すると、(1)自社の権利を保全するための対応、(2)権利・情報を取り戻し、または使用を停止させるための対応、(3)漏えい先の権利を無効化するための対応、(4)事後処理のための対応に分かれます。

自社の権利を保全するための対応

 技術情報漏えいが生じた場合、真っ先に考えるべきことは、自社が自社の技術を使い続けられる状態を確保することですから、まずは自社の権利を適切に保全する必要があります。そのための対応としては、以下のものが挙げられます。

① 特許出願

 特許化に適する技術の場合、最も有効な権利の保全手段は特許出願です。技術情報が漏えいした場合であっても、その技術情報について特許を取得できれば、損失を相当程度回避できるからです。
 特許出願を考える際には、技術内容が権利化に適したものか、また、一般的には秘匿の対象となるようなものであっても、漏えい先による権利化を防止するために出願をしておくことが適切か、といった観点から検討することが必要です。

② 先使用権の確保

 自社では特許出願をせずに、利用権限を確保する手段としては、特許法上の先使用権があります。
 先使用権とは、第三者が特許を取得した発明であっても、その出願前から発明を利用した事業活動を行い、または事業の準備をしていた場合には継続的な利用を認める制度です。
 自社が特許化に適しないと考える技術であっても、漏えい先が出願する可能性は否定できません。そのような場合に備え、特に出願をしないこととした技術については、先使用権の確保を検討すべきといえます。
 また、出願する予定の技術であっても、自社の出願が漏えい先の出願に遅れる可能性もあるため、保険的に先使用権の確保可能性を検討する価値があるといえるでしょう。

権利・情報を取り戻し、または使用を停止させるための対応

 何度も述べてきましたが、技術情報が漏えいしたことによる損失は、自社が利用できなくなることではなく、他社に利用されることにあります。これを回避するためには、漏えいした技術情報に基づいて漏えい先が取得した権利や、技術情報そのものを取り戻す、あるいは使用させないようにすることが必要になります。それを実現するための具体的な手段としては、以下のものが考えられます。

③ 特許権取戻請求

 漏えい先が漏えいした技術情報に基づいてすでに特許権を取得しているときは、特許法74条1項に基づき、特許権の取戻請求をすることが検討対象となります。

④ 特許を受ける権利の確認請求

 漏えい先が特許出願をしているものの、いまだ特許登録に至っていないときは、特許を受ける権利の確認請求を行い、判決を得たうえで特許庁において出願名義人変更手続をすることで、自らが出願人となることができます。そのため、出願後登録前の段階においては、特許を受ける権利の確認請求訴訟の当否が検討課題となります。

⑤ 不正競争防止法に基づく差止等請求

 漏えい先が秘密情報を不正使用している場合には、不正競争防止法に基づき、その差止や損害賠償の請求をすることができるかが検討対象となります。

漏えい先の権利を無効化するための対応

 漏えいした技術情報に基づいて漏えい先が特許を取得した場合、その技術を自社が自由に利用できる状態を確保するためには、漏えい先の特許を無効化することも選択肢となります。特許権の取戻請求が可能になった現在、特許の無効化の必要性は低下していますが、権利を取得するまでの必要もない場合には選択肢となることもあるでしょう。特許を無効化する手段として、具体的には、以下の手続が存在します。

⑥ 特許無効審判請求

 冒認出願や共同出願違反によって得られた特許について、特許を受ける権利を有する者は、特許庁において、特許無効審判を請求し、特許を無効にすることができます
 冒認出願とは、特許を受ける権利を有しない者が出願すること、要するに、他人の発明を盗んで出願することをいいます。また、共同出願違反とは、発明が共同でされた場合に、その共同発明者の一部が、他の共同発明者に無断で特許出願することをいいます。いずれも、正当な権利者の権利を損なって出願する場合という点で共通しています。

 なお、一般に、特許無効審判は利害関係人であれば請求することができますが、冒認出願または共同出願違反を理由とする場合には、特許を受ける権利を有する者でなければ請求できません。

事後処理のための対応

 事後処理は、技術情報漏えいによって生じてしまった損害の賠償請求と、漏えい源に対する処分等が中心となります。前述のとおり、社内処分においては、労働法上の制約を意識するとともに、さらなる漏えいの防止や、社内のコンプライアンス意識向上を考慮する必要があります。

⑦ 損害賠償請求

 情報漏えいによって生じた損害については、漏えい先と漏えい源の双方に対して賠償を求めることが可能です。一般に技術情報漏えいによって生じた損害の立証には困難を伴うことも多いと考えられますが、技術情報が営業秘密に該当する場合には、その不正利用による損害について不正競争防止法上の推定規定を利用できる可能性があります。
 また、漏えい先と漏えい源との間には共同不法行為が成立する場合も多いと考えられるため、両者を共同被告として損害の賠償を請求することも考えられるでしょう。

⑧ 漏えい源に対する懲戒・刑事告訴等

 社内のコンプライアンス意識を向上させ、将来の情報漏えいを防止するためには、情報保護のための制度を整備するとともに、違反行為に対しては、適切な処分をすることが必要といえます。
 その対象は、漏えい源が社内にとどまっている場合には懲戒処分となることもあるでしょうし、場合によっては刑事告訴などの手段も必要となると考えられます。ここでは、労働法の観点や、他の従業者への影響等も考慮して、違反行為の悪質性や損害の大きさ等に比例した適切な手段を選択することが必要になります。

⑨ 漏えい原因の除去と予防

 情報漏えいには、多くの場合、何らかの原因があります。具体的には、適切な監督・監視システムを欠いた職場環境や、従業者が不満を持ちやすい状況など、様々なものがあり得ます。こういった原因を特定して、将来の情報漏えいの予防策を講じることも重要な事後対応といえるでしょう。

対応の種類 内容
自社の権利を保全するための対応 特許出願 特許化に適する技術の場合、最も有効な権利の保全手段
先使用権の確保 自社では特許出願をせずに、利用権限を確保する手段
権利・情報を取り戻し、または使用を停止させるための対応 特許権取戻請求 漏えい先が漏えいした技術情報に基づいてすでに特許権を取得しているとき
特許を受ける権利の確認請求 漏えい先が特許出願をしているものの、いまだ特許登録に至っていないとき
不正競争防止法に基づく差止等請求 漏えい先が秘密情報を不正使用している場合
漏えい先の権利を無効化するための対応 特許無効審判請求 漏えいした技術情報に基づいて漏えい先が特許を取得した場合、その技術を自社が自由に利用できる状態を確保するための選択肢
事後処理のための対応 損害賠償請求 情報漏えいによって生じた損害については、漏えい先と漏えい源の双方に対して賠償を求めることが可能
漏えい源に対する懲戒・刑事告訴等 情報保護のための制度を整備するとともに、違反行為に対しては、適切な処分をする
漏えい原因の除去と予防
原因を特定して、将来の情報漏えいの予防策を講じる

 連載の3回目までは、情報漏えい時の対応に必要な前提知識を整理してきました。次回からは、これまで解説した考え方を仮想事例にあてはめ、より実践的なケーススタディをしたいと思います。

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