平成30年著作権法改正によって、企業の実務はどう変わるか

知的財産権・エンタメ
鳥居 江美弁護士

はじめに

 平成30年5月18日、著作権法の一部を改正する法律案が国会で成立し、下記改正項目の②を除き1、平成31年1月1日から施行されることとなりました。

 今回の改正は、デジタル・ネットワーク技術の進展により、新たに生まれた著作物の利用ニーズに対応するため、著作権者の許諾を受ける必要がある行為の範囲を見直し、情報関連産業、教育、障害者、美術館等におけるアーカイブの利活用をより円滑に行えるようにすることが目的です。

 改正項目は、以下の4つです。

  1. デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備
  2. 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備
  3. 障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備
  4. アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等

 本稿においては、特にビジネスへの影響が大きい①の項目を中心に、各改正項目の概要をご説明します(以下、改正後の著作権法を「改正著作権法」といいます)。

デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備(改正著作権法30条の4、47条の4および5等)

改正の背景

 本項は、IoT、ビッグデータ、AI等の技術活用を促進するために、柔軟な権利制限規定を整備した、いわゆる「日本版フェアユース」の一つとなる項目であり、今回の改正の中で最もビジネスへの影響が大きい項目です。

 IoT、ビッグデータ、AIなどの活用時には、大量の情報が蓄積・組合せ・解析されますが、その情報の中には著作物も当然に含まれます。しかし、日本の著作権法には、米国著作権法が定めるフェアユースに該当するような一般的な権利制限規定はなく、利用の目的や場面ごとに個別具体的な要件を定めた権利制限規定をおく形式であるため、著作権法の条文上で明記されていない限りは、すでに権利制限規定の対象となり適法とされている利用行為と同じコンセプトの類似行為でも形式的には違法となってしまい、利用の萎縮が生じる、技術革新による新たな著作物の利用ニーズへの対応が困難との批判がありました。

改正の概要

 そこで、今回の改正では、ある程度柔軟性をもった権利制限規定が整備されることとなりました。具体的には、平成29年4月に公表された「文化審議会著作権分科会報告書」を踏まえ、権利者に及び得る不利益の度合いに応じて利用行為を3つの「層」に分類し、そのうち、権利者に及ぼす不利益が少ない「第1層」と「第2層」について、柔軟性のある権利制限規定が設けられています

著作権法の一部を改正する法律案 概要説明資料資料6

出典:著作権法の一部を改正する法律案 概要説明資料 資料6 平成30年3月19日文化庁長官官房著作権課

著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(改正著作権法30条の4)・電子計算機における著作物利用に付随する利用等(改正著作権法47条の4)

 第1層の、権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型に対応する権利制限規定として、現行の著作権法には、30条の4(技術開発・実用化の試験のための利用)や47条の7(電子計算機による情報解析のための複製等)があるものの、前者は、利用目的が「技術開発」等に限定され基礎研究等は対象外となる可能性があり、また後者は、情報解析の方法が「統計的な」解析に限定されているため、AI開発のためのディープラーニングで採用されている「代数的」「幾何学的」な解析は対象外となる可能性があるうえ、利用方法が「複製・翻案」に限定されているため、AI開発用データセットを事業者間で共有するための「公衆送信」等は対象外となる可能性があるという不都合がありました。

 そこで、今回の法改正では、より抽象的な要件を規定し、その要件を満たす行為は包括的に権利制限の対象とする、改正著作権法30条の4が設けられました(これに伴い、現行著作権法30条の4や47条の7は削除されます)。  

改正著作権法30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)の要旨
 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術開発又は実用化のための試験への利用

二 情報解析への利用

三 前二号のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく、電子計算機の情報処理の過程その他の利用に供する場合

 また、電子計算機における著作物利用に付随する利用の権利制限規定として、現行著作権法には、47条の8(電子計算機におけるキャッシュのための複製)、47条の5(送信障害防止等のための複製)、47条の9(ネットワークでの情報提供準備に必要な情報処理のための複製等)、47条の4(複製機器の保守、修理等のための一時的複製)があるものの、目的や利用方法が限定されるため、同様のコンセプトが妥当する利用であっても限定に該当しない場合は権利制限の対象外となってしまうという不都合がありました。

 そこで、今回の法改正では、より抽象的な要件を規定し、その要件を満たす行為は包括的に権利制限の対象とする、改正著作権法47条の4が設けられました(これに伴い、現行著作権法の前記条文は削除されます)。

改正著作権法47条の4(電子計算機における著作物の利用に付随する利用等)の要旨
 電子計算機における利用に供される著作物は、次に掲げる場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該利用に付随して利用することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一 電子計算機におけるキャッシュのための利用

二 自動公衆送信の遅滞・障害防止のための利用

三 情報提供の準備に必要な情報処理のための利用

2 電子計算機における利用に供される著作物は、次の場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を行うことができる状態を維持し、又は回復することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一 機器の保守・修理のために他の記録媒体に一時的に記録する等の場合

二 機器の交換のために他の記録媒体に一時的に記録する等の場合

三 レンタルサーバー業者等がデータの滅失・毀損に備えバックアップのために記録する場合

新たな知見・情報を創出する電子計算機による情報処理の結果提供に付随する軽微利用等(改正著作権法47条の5)

 次に、第2層に該当する、権利者に及ぶ不利益が軽微な行為類型に対応する権利制限規定として、現行著作権法には、47条の6(インターネット情報検索のための複製等)があるものの、対象となるサービスがインターネット情報検索に限定されているため、アナログ情報も含めた検索サービスや情報解析サービス(書籍の検索サービスや、論文剽窃検証サービス等)は対象外であるという問題がありました。

 そこで、今回の改正法では相当程度柔軟性のある規定を整備するため、社会的意義の認められる利用目的で大くくりに範囲を確定し、権利者の利益への一定の配慮は行いつつ利用方法は限定しないという、改正著作権法47条の5が設けられました(これに伴い現行著作権法47条の6は削除されます)。

改正著作権法47条の5(電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等)の要旨
 電子計算機を用いた情報処理により新たな知見又は情報を創出することによって著作物の利用の促進に資する次の各号に掲げる行為を行う者(政令で定める基準に従うものに限る)は、次の各号に掲げる行為の目的上必要と認められる限度において、当該行為に付随して、いずれの方法によるかを問わず、利用(利用に供させる部分の占める割合、量、表示の精度その他の要素に照らし軽微なものに限る。)を行うことができる。ただし、著作権を侵害するものであることを知りながら当該軽微利用を行う場合その他著作物の種類及び用途並びに当該軽微利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一 検索情報の特定・所在検索サービス

二 情報解析サービス

三 前二号のほか、電子計算機による情報処理により、新たな知見又は情報を創出し、結果を提供する行為であって、国民生活の利便性向上に寄与するものとして政令で定めるもの

2 前項各号の準備を行う者は、準備のために必要と認められる限度において、複製若しくは公衆送信を行い、又は複製物による頒布を行うことができる。ただし、著作物の種類及び用途並びに当該軽微利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

改正が実務に与える影響

 今回の法改正により、AIによる深層学習(ディープラーニング)や機械翻訳の技術開発のためにバックエンドで行われる複製セキュリティ対策のためのソフトウェアの調査解析など、著作物を鑑賞等する目的ではない利用(前記の「第一層」に分類される利用)が広く可能となります。

 また、書籍、映画、音楽、放送番組の検索等の所在検索サービス評判情報分析や論文剽窃検出等の情報解析サービスCPS関連サービスといった利用形態(前記の「第二層」に分類される利用)も、利用される著作物の割合、量、表示の精度等からして「軽微利用」といえる場合には、著作権者の利益を不当に害しない限度において、権利制限の対象であることが明確化されました。これにより、今後ますますこういったサービスが普及、拡大していくことが予想されます。

教育の情報化への対応(改正著作権法35条等関係)

 現行著作権法35条は、教育機関の授業の過程における著作物の利用は、①対面授業のために複製することや、②対面授業で複製したものを同時中継の遠隔合同授業のために公衆送信することは、許諾なく無償で可能としていますが、それ以外の公衆送信(たとえば、オンデマンド授業での講義映像や資料の送信、対面授業の予習・復習用の資料のメール送信等)は権利者の許諾が必要となっており、教育関係者から、学校等におけるICTを活用した教育において著作物が円滑に利用できないとして、著作権制度等の見直しを求める声がありました。

 そこで今回の改正法では、改正著作権法35条として、教育機関の授業の過程における公衆送信による著作物の利用を広く権利制限の対象とし、これを無許諾で行うことを可能とする規定が設けられました。もっとも、現行著作権法35条により無償とされてきた行為は引き続き無償とされるものの、新たに無許諾で利用が可能となる公衆送信については、補償金の支払いを要するものとされました。補償金の金額については、新設される補償金徴収分配団体が教育関係者からの意見聴取を経て申請し、文化庁長官が文化審議会に諮ったうえで認可することとされています。

障害者の情報アクセス機会の充実化への対応(改正著作権法37条)

 現在著作権法37条は、視覚障害者等のための書籍の音訳や点字化等について権利者の許諾なく行うことが可能としています。しかし、平成28年6月に発効したマラケシュ条約では、発行された書籍等の著作物について、視覚障害者のほか、読字障害や身体障害により書籍の保持することやページをめくることができない人などが利用しやすい形式で利用できるようにするため、著作権法を整備することが求められています。そこで、今回の法改正では、肢体不自由などの身体障害により読字に障害がある人のための録音図書の作成等を、権利者の許諾なく行えることとする改正著作権法37条が設けられました

アーカイブの利活用促進への対応(改正著作権法31条、47条、67条等)

 アーカイブの利活用促進のため、従来から一層の権利制限規定の整備が求められていたところ、国会や知的財産推進計画2においてもかかる検討が求められた(文化審議会著作権分科会報告書 平成29年4月文化審議会著作権分科会(120頁参照))ことを受け、今回の改正法では、新たに以下の3点の権利制限規定が整備されました。

  1. 作品の展示に伴う美術・写真の著作物の利用(改正著作権法47条関係)
    美術館等が作品を展示する際、作品の解説・紹介をするために、タブレット端末等の電子機器に美術・写真の著作物を掲載することを可能とする。また、美術館等が展示する作品の情報をインターネットで紹介する際、美術・写真の著作物のサムネイル画像(小さな画像)を合わせて提供することを可能とする。
  2. 著作権者不明等著作物の裁定制度の見直し(改正著作権法67条等関係)
    著作権者が不明となっている著作物の利用を円滑化するため、権利者と連絡がとれた場合に補償金等の支払を確実に行うことが期待できる国や地方公共団体等については、事前の供託を求めないものとする。
  3. 国立国会図書館による外国の図書館への絶版等資料の送信(改正著作権法31条関係)
    外国における日本研究の発展等に貢献することを目的として、国立国会図書館が外国の図書館にも絶版等資料を送信できるようにする。

おわりに

 今回の法改正の中で特に重要な点は、特にデジタル化・ネットワーク化の進展による新たなニーズに対応するため、これまでの著作権法の個別的な権利制限規定から一歩進んだ、より抽象的な要件を定めた柔軟な権利制限規定が設けられたことです。

 しかし、柔軟な権利制限とはいいつつも、個別の条項の要件を見ると、「必要と認められる限度」「軽微利用」など一義的ではない基準が含まれているため、現実にどの範囲の利用が認められるのかについてはより一層の明確化が必要であり、今後策定が予定されているガイドライン(知的財産推進計画2017(16頁参照))等における整理が期待されています。


  1. 改正項目②の施行期日は、公布日である平成30年5月25日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日、とされている。 ↩︎

  2. 文化審議会著作権分科会報告書 p120参照 ↩︎

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