営業秘密侵害が疑われる場合の具体的対応

知的財産権・エンタメ

 当社(D社)には、当社製品の設計図や製造上の特殊なノウハウ、得意先名等が分かる顧客情報データといった大切な秘密情報がいくつかありますが、それらの秘密情報が当社を退社した元部長Aにより競業他社C社に漏えいされ、C社が、その設計図や製造上のノウハウを使用して製造委託先の工場F社で新製品の製造を行っているほか、顧客情報データに基づき当社の得意先に対して商談を持ちかけているらしいことが分かりました。なお、元部長Aは現在C社の取締役となっています。
 元部長Aが漏えいしたとされる情報が当社の営業秘密に当たるとして、当社は、具体的にはどのような対応を取るべきでしょうか。

 営業秘密の漏えいは、その性質上、漏えい時から相当期間が経過した後に発覚することが多く、時の経過とともに、事実関係の確認や証拠収集が困難となる一方で、その損害は、拡大していくものです。
 そのため、貴社は、迅速に、①事実関係の確認と証拠収集、②捜査機関への相談・被害申告、③警告書の送付、④民事訴訟の準備、⑤その他の処理を進める必要があります。

解説

本問における各当事者の行為の問題点

元部長Aについて

( 1 ) 元部長Aが営業秘密を不正に取得した場合

 元部長Aが、D社の営業秘密に当たる情報を不正に取得し、競業他社であるC社に漏えいしたのであれば、不正競争防止法(以下「不競法」といいます)2条1項4号の不正競争行為(営業秘密の不正取得・開示)に当たります。

( 2 ) 元部長Aが営業秘密を正当に取得した場合

 元部長Aによる営業秘密の取得自体は正当な場合でも、図利加害目的でC社に開示している点で、不競法2条1項7号の不正競争行為(不正開示)に当たります。

( 3 ) 元部長A自身も営業秘密を使用している場合

 また、元部長AがC社の取締役として、自らもそれらの情報を使用しているのであれば、その使用の点についても、それぞれ不競法2条1項4号、7号の不正競争行為に当たることになります。

( 4 ) 元部長Aとの間で守秘義務、競業避止義務の合意をしている場合

 また、D社が元部長Aとの間で、D社の就業規則や提出を受けた誓約書などで、退社後の守秘義務や競業避止義務についての有効な合意がなされている場合、元部長Aは、D社の秘密情報を競業他社であるC社に漏えいし、同社の取締役となっている点等について、それらの合意に違反している(債務不履行)ことが考えられます。
 さらに、元部長Aの行為が、不法行為(民法709条)と評価される場合もあるものと考えられます。

( 5 ) どのような罪にあたるか

 元部長Aがそれらの情報を取得した際の態様によって、営業秘密侵害罪のうち、不正取得罪(不競法21条1項1号)、不正取得後不正使用・開示罪(同2号)、領得罪(同3号)、領得後不正使用・開示罪(同4号)または退職者不正使用・開示罪(同6号)に当たることになります。

競業他社C社について

( 1 ) C社が悪意重過失の場合

 続いて、競業他社C社が、元部長AからD社の営業秘密である製品の設計図や製造上のノウハウを取得し、これを使用して新製品の製造を行っている場合、C社の問題点について見てみます。
 C社が、D社の営業秘密を取得する際、これらの情報が元部長Aによって不正に取得され、または不正に開示されたものであることにつき悪意重過失であった場合、取得・使用のそれぞれが不競法2条1項5号または8号の不正競争行為(不正取得・使用)にあたります。これは顧客情報データについても同様です。
 また、C社が製造委託先の工場F社に対して、D社製品の設計図や製造上のノウハウを開示しているのであれば、その開示の点についても、それぞれ不競法2条1項5号または8号の不正競争行為に当たることになります。

 他方、C社は、同社の取締役となった元部長Aが、同社の業務に関し、営業秘密侵害罪のうち、不正取得後不正使用・開示罪(不競法21条1項2号)に当たる行為を行っている場合、あるいは同社の代表者、使用人その他の従業者が、同社の業務に関し、営業秘密侵害罪のうち、二次取得者不正使用・開示罪(不競法21条1項7号)に当たる行為を行っている場合、両罰規定の適用を受けることが考えられます(不競法22条1項2号)。

( 2 ) C社が善意無重過失の場合

 以上に対し、C社が、元部長Aから上記情報を取得した際に善意無重過失であった場合、C社がそれらの情報を自ら使用し、あるいはF社に開示する行為は直ちに不正競争行為には当たらず、悪意重過失となった後に初めて、その使用・開示が不正競争行為に当たることになります(不競法2条1項6号または9号)。

製造委託先の工場F社について

 製造委託先の工場F社が、C社からD社の営業秘密である製品の設計図や製造上のノウハウの開示を受けて、取得したそれらの情報を使用してC社の新製品の製造を行っているとしても、F社はそれらの情報がD社の営業秘密であり、元部長Aによる不正取得行為や元部長AあるいはC社による不正開示行為が介在したことについては善意無重過失である可能性が高いものと思います。
 そのため、F社の製造行為は、直ちに不正競争行為には当たらず、悪意重過失となった後に初めて、その使用・開示が不正競争行為に当たることになります(不競法2条1項6号または9号)。もっとも、その場合でも、適用除外規定(不競法19条1項6号)により、F社はC社との取引上取得した権原の範囲内で、D社の営業秘密を使用し続けることができることは、「営業秘密の民事的保護(1)‐差止請求権」の解説のとおりです。

取るべき対応策

事実関係の確認と証拠収集

 上記のとおり、元部長A、C社およびF社は、いずれも不正競争行為を現に行っている可能性があるわけですが、どのような対応策を取るにせよ、まずは社内調査による事実関係の確認と証拠収集がすべての出発点となります。事実関係の確認と証拠収集にあたっては、将来の民事訴訟の提起や民事訴訟における立証責任を意識したポイントを押さえたものとする必要があります。

 具体的には、以下のような点がポイントとなると考えられます。

① 漏えいした可能性のある設計図、製造上のノウハウ、顧客情報データの特定
② ①の情報の元部長Aによる取得時期、取得方法の特定と当時の管理状況の確認
③ ②の証拠収集と保存
④ 元部長Aの取得権限の有無(アクセス制限等の社内ルール)の確認
⑤ 元部長A、C社、F社が現に使用している情報(①の情報に相当するもの)の特定
⑥ ⑤の情報と①の情報の同一性・類似性の検討
⑦ C社の新製品の特定と解析
⑧ D社の損害額(将来的、潜在的なものを含み、概算でよい)の算定
⑨ 関係者からの事情聴取など、関連事実の調査と証拠収集・保存
⑩ その他

捜査機関への相談・被害申告

 営業秘密の漏えいは、その性質上、秘密裡に行われることから、2-1のような社内調査による事実確認と証拠取集を行っても、十分な事実関係の解明には至らず、捜査機関の捜査に委ねざるを得ない場合が少なくありません。いずれにせよ、元部長AやC社の行為は営業秘密侵害罪という犯罪に該当する可能性がある行為ですので、2-1の社内調査の結果を踏まえて、あるいはこれと並行する形で、捜査機関への(事前)相談や被害申告(被害届の提出)を検討する必要があります。
 なお、経済産業省の公表した「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」参考資料3に、営業秘密の漏えいが疑われる場合に相談先となり得る窓口一覧が紹介されていますので、ご参照ください。

警告書の送付

 1-2や1-3の解説のとおり、C社やF社によってD社の営業秘密が現に使用・開示されているとしても、それらの営業秘密が不正取得または不正開示されたものであることにつき善意無重過失であれば、直ちに不正競争行為は成立せず、悪意重過失となった後に初めて、その使用・開示が不正競争行為に当たることになります(不競法2条1項6号または9号)。
 そのため、D社は、両社を悪意重過失とするべく、自社の営業秘密を侵害している可能性があることを伝え、C社には新製品の販売停止を、F社には新製品の製造停止を求める警告書の送付を検討することになります。

 この場合、C社に対する警告書の送付には特段の問題はありませんが、F社に対する警告書の送付に際しては、後日、C社による不正競争の事実が認められなかった場合、注意が必要です。
 F社に対する警告書の送付が、C社に対して「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」(営業誹謗行為、不競法2条1項15号)に当たるとして、かえって損害賠償請求の対象とされる可能性があるからです。また、得意先に対して同様の事実を告知する場合には、より一層細心の注意を払う必要があることは言うまでもありません。

 なお、元部長Aが自分自身でもD社の営業秘密の使用を継続していると判断される場合には、同じく使用停止を求める警告書を送付することになります。

民事訴訟の準備

 警告書を送付し、その後の交渉によって示談解決が図られない場合、D社は、やむを得ず、元部長AとC社、あるいはF社を相手取って、C社の新製品の製造・販売の停止、製品や製造ラインの廃棄、貴社の顧客情報データの使用停止および損害賠償を求める民事訴訟の提起を検討することになります。
 なお、このような場合、通常の民事訴訟(本案訴訟)に先立って、あるいはこれと同時に、差止請求について仮の処分を求める申立て(民事保全)を行う場合も少なくありません。  

その他の処理

 再発防止策の実施や責任者の処分といった事柄が考えられますが、特に後者については、将来の民事訴訟に悪影響を及ぼさないよう配慮が必要です。

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